
- コロナで苦しむ飲食店向けの新機能
- コロナで進む企業のD2C化
- Shopifyの強みは他プラットフォームとの連携
カナダ発のECサイト構築プラットフォーム「Shopify(ショッピファイ)」は、アマゾン以外の販路を求める中小企業に支持されていることから「アマゾンキラー」とも呼ばれている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、同社を利用しECサイトを立ち上げる事業者は世界的に急増。昨年、利用企業数100万突破を発表した同社は、飲食店や伝統企業など、新たな層に利用され始めている。(ダイヤモンド編集部 菊池大介)
コロナで苦しむ飲食店向けの新機能
カナダ発ECプラットフォームShopifyの企業理念は「Make commerce better for everyone(すべての人々の商取引をよりよくする )」。新型コロナの感染拡大による外出自粛で小売や飲食業のネット通販への対応が急がれるなか、店舗のEC化を推進するShopifyの意義は増している。
ShopifyのCEO・Tobi Lütke(トビー・リュトケ)氏は5月21日(日本時間)にオンラインで開催された出店事業者向けの戦略発表会「Reunite(リユナイト)」で、「前例のない時代が訪れている。現在、私たちはできるだけ多くの中小企業がこの困難を乗り切るための支援に専念している」と述べた。コロナ禍によりオンライン開催となったReunite。発表された新機能や既存サービスのアップデートは、外出自粛による売上減に悩む小売業者や飲食店がすぐに活用できるものが目立った。
例えば、近隣住民に限定して商品を販売することが可能な「ローカルデリバリー」機能は、デリバリーで料理を提供したい飲食店に向けたものだ。店舗からの距離や郵便番号でエリアを制限し、配送料や最低注文価格を設定することができる。「店舗受取機能」では店舗、もしくは指定した場所で顧客に商品を渡すことが可能だ。また、ショップのテンプレートとして利用できる新しいページテーマ「Express」は飲食業向けにデザインされており、写真やメニューなど最低限の素材で、手軽にECサイトを構築できる。
Shopifyは約175カ国で100万以上の企業・事業者に利用されているが、飲食店利用者をはじめとした新たな層による利用拡大を見込んでいる。外出自粛やロックダウンが原因で、消費者の近郊エリアでの買い物が増加したからだ。4月24日までの6週間を直前の6週間と比較すると、近郊エリアでの注文が176%増加したという。
コロナで進む企業のD2C化
コロナの影響による営業自粛や閉鎖でShopifyを使いECサイトを立ち上げる企業は、世界的に急増した。3月13日〜4月24日の期間で新たに立ち上がったECサイトの数は、直前の6週間と比較し62%増加。Shopify Japan代表のマーク・ワング氏は、「日本でShopifyを使う事業者は4月、前月比で50%増え、Shopifyで作られたECサイトで初めて買い物をした消費者は77%増加した」と言う。アクションフィギュアやぬいぐるみの売り上げは特に急増しており、4月は前月比で5000%伸びたそうだ。
ワング氏は世界的に見れば「コロナの影響によるECの盛り上がりは多少、減少していく」と話す。だが、EC化が遅れている日本においては、「より多様なチャネルで販売を行う必要がある」と危機感を覚えた事業者のオンライン化が今後も進む見通しだと説明する。
具体的には、これまではB2Bに特化して事業を展開していた伝統企業や製造業者などの事業者が、Shopifyを活用し、ECサイトを介して直接消費者に商品を販売するD2C事業を開始するという傾向があるそうだ。
例えば、クラフトビールを製造する京都醸造の売上の大部分は卸業で成り立っていたが、卸先となるレストランなどの相次ぐ休業で打撃を受け、Shopifyを使いECサイトを立ち上げ、消費者への商品の直接販売を開始した。
「さまざまな事業が生き残り成功するには、この(D2Cへの)シフトは必須だと言え、今後も続くと考えている」(ワング氏)
Shopifyの強みは他プラットフォームとの連携
日本にはBASEやSTORESを含むさまざまな競合ECプラットフォームが存在するが、Shopifyの強みは事業者が規模拡大に伴いECサイトを段階的に拡充できる機能のほか、楽天市場やFacebook、Instagramなど他のプラットフォームとの連携にある。
5月19日にはFacebookとの連携で小規模事業者向けにECサービス「Facebook Shops」を開始することを発表し話題となったが、日本においては、4月7日に発表された楽天市場との連携により、Shopifyの利用者は楽天市場に手軽に出品できるようになった。
ワング氏は、日本ではFacebookやInstagramを通じた販売に加え、Google Shoppingにも対応していたが、マーケットプレイスが欠けていたと話す。
Shopifyは1月に日本でも店舗を開いた人気のスニーカーブランドのAllbirdsなどが利用しているが、楽天市場との連携は、海外のD2Cブランドが日本市場に参入する際に、知名度を向上し顧客を獲得するには有用だとワング氏は説明する。
「(海外のブランドは)日本市場に参入する際に、言語の壁に直面するほか、顧客を獲得するのに苦労をする。だが、ショッピファイを利用している企業は、今まで通りECサイトを運営しながら、楽天市場にも出店でき、販売網を広げられる」(ワング氏)
楽天市場との連携は海外事業者の越境に役立っている一方で、日本の事業者には現在、あまり使われていないそうだ。だが、ワング氏はShopifyと比較し楽天市場は日本での知名度が高いため、今後、伝統企業を取り込む上では大きな力になると考えている。