ヒュープロ代表取締役の山本玲奈氏
ヒュープロ代表取締役の山本玲奈氏
  • 弁護士を目指す道から、起業の道へ
  • “シングルマザー”からの言葉で提供価値が明確に
  • 今後はダイレクトリクルーティング機能も開発

エントリーから面接まで最短5時間、登録から内定まで最短1日──“最速転職”をうたう、士業・管理部門特化の転職支援サービス「最速転職 HUPRO」運営元のヒュープロが好調のようだ。2018年4月のサービス開始から約4年半で、ユーザー数が2万人を超えたほか、5500社が利用、求人数は9300件以上(2022年11月時点)の規模に成長している。

さらなる成長に向け、同社は11月9日にサイバーエージェント(藤田ファンド)からシリーズBラウンドで約3億円の資金調達を実施したことを発表した。

弁護士を目指す道から、起業の道へ

ヒュープロの設立は2015年11月。もともと、代表の山本玲奈氏は弁護士になることを目指しており、大学3年生まではロースクールで司法試験の受験勉強をしていた。「受験の資金を稼ぐために、いろんなビジネスコンテストに出場していた」(山本氏)といい、結果的にビジネスコンテストに出場した経験が、自身で会社を立ち上げるきっかけとなった。

「ビジネスコンテストで縁ができた上場企業の子会社を立ち上げるプロジェクトに参加しており、『社内起業家となるか、弁護士になるか、それとも自分で会社を立ち上げるか』、この3つの選択肢の中から、最終的には弁護士になるのではなく、自分で会社を立ち上げることにしました。社内起業家の選択肢も考えましたが、大きい企業の中で自分がやりたいことをやるのは難しそうと感じ、起業に行き着きました」(山本氏)

山本氏は弁護士を目指していたこともあり、これまで培ってきた経験や知識を生かすかたちで、事業は自然と士業・管理部門の領域に決まった。

当時、士業・管理部門の求人情報の少なさに課題を感じていた山本氏は、士業・管理部門に特化した人材サービスを展開しようと考えたが、求人を掲載してくれる企業や事務所とのネットワークもなければ、サービスを開発するための資金もない。そこで、まずは営業代行などを展開していた。

約1年が経ったタイミングで、当時コロプラが運営していた学生起業家向けのファンド「コロプラネクスト」から出資を受け、自社サービスの開発を進めていき、まずは弁護士事務所にアルバイトに行けるサービス「ヒュープロアシスタント」を立ち上げた。

「当時の私にとって出資していただいた金額は大きかったこともあり、これだけのお金があれば何でもできると思ったんです。それで『まずはとにかく人が必要だ』と思い、人を採用しまくったんです。今思えば恥ずかしいのですが、そのときは『採用ができている会社=うまくいっている会社』というイメージを持っていたので、事業のことよりも採用のことだけを考えていました。当たり前ですが、それでうまくいくはずがありません」(山本氏)

インターン生を含めて15人ほどを一気に採用したが、サービスのマネタイズの仕組みなどはできあがっていない。人だけは増えていくが、収益が上がらない状態に陥り、すぐさま組織は空中分解していった。

「あっという間に組織は私だけになりました。当時、インキュベーション施設に入居していたのですが、周りの目が恥ずかしくて3カ月は何もせずに過ごしていました」(山本氏)

“シングルマザー”からの言葉で提供価値が明確に

ヒュープロアシスタントは立ち上げ当初苦労したが、山本氏は士業の採用ニーズは感じ取っていた。知り合いの弁護士事務所や税理士事務所から「採用を手伝ってよ」と言われることもよくあったという。そうした声に応えるかたちで、手元に残っていた資金を使って現在の「最速転職 HUPRO」を立ち上げた。

求人へのエントリー数は多くなかったが、とある“シングルマザー”からの言葉がヒュープロにとって大きな転機となった。

「求人にエントリーしてくれたシングルマザーの方は、働きながら子育てもしなければならず、エージェントに会う時間もなかったんです。私たちも一度、『お会いしましょう』と言ったのですがお会いすることは叶わず、代わりにメールのみでのやりとりを実施したところ、2週間で転職が決まりました」

「その後、その方から『一般のエージェントは会えない人には求人を紹介できないと言われ、相手にしてもらえない中、ヒュープロさんのおかげで転職することができました』と言ってもらえたんです。その言葉を聞いて、私たちが提供すべき価値は、会うなどの手間を省き、とにかく手間なく早く転職できるようにすることだと思いました」(山本氏)

士業の事務所などは転職サイトに求人を掲載するという文化もないため、どういった情報を求人票に載せればいいかわからない。そこで山本氏を中心にヒュープロのメンバーがコンサルティングのようなかたちで、求人情報の作成などを手伝っていった。

こうして“最速転職”というコンセプトのもと、「求職者とオンラインで情報のやり取りをし、すぐに求人を紹介して転職につなげる」という、従来の“対面でのコミュニケーション”を前提とした転職エージェントにはなかった価値を提供。転職したい求職者と採用したい士業の事務所の双方から喜びの声をもらうようになったという。

「士業は専門領域のため、企業としても求職者に求めるスキルが明確であるという特徴があります。そのような情報は求人票に明確に記載されていますが、求職者は事務所や管理部門の組織図など、求人票に記載されている以上の情報を求めています。そこに特化した情報を提供することでスピード感を持って求職者と事務所をマッチングできるようにしました。その結果、いち早く転職と採用が実現でき、喜んでくれたんです」(山本氏)

今後はダイレクトリクルーティング機能も開発

数字が伸びてきたこともあり、2019年1月にXTech VenturesからプレシリーズAラウンドで6000万円の資金調達を実施。その資金をもとに成長を図っていこうとしたが、再び「組織崩壊」という壁にぶつかる。山本氏は「経営者として未熟だった」と振り返る。

当時、6000万円の半分をオフィス移転に使用し、さらには当時の利益と同額を広告費として投じることを決めた。「当時は少額の広告費投資で、まとまった利益が出ていたので、さらに広告費を投じれば利益を増やせると思った」(山本氏)そうだが、結果的には組織が崩壊する原因となった。

「広告費を増やしたことでエントリー数は増やせたものの、社内のオペレーションの仕組みが整っていなかったため、お客様の要望に対応しきれず社内が疲弊していってしまったんです。また、全員がオペレーションに対応しており、バックオフィス業務を担当する人がいなかったため、請求書業務をやる人がおらず、取引先からの入金がない状態になってしまいました。法人口座の残高は底をつき、銀行から『給与の引き落としができません』と電話がかかってくるなど、組織が壊滅的な状況になり、人が離れていきました」(山本氏)

十数名いた社員も半分以上が退職し、残ったのは新人の6人のみ。そこから改めて社内体制を整えた。また、サービスの機能を磨き込み、経営者として何を目指すのかを発信していくようにした結果、組織も持ち直していった。コロナ禍でオフラインを軸とした従来のエージェントが苦戦する一方、オンラインを軸としたヒュープロにはこれが追い風となり、事業も成長。1年で売上を10倍にも伸ばした。そうした実績も評価され、今回藤田ファンドからの出資につながったという。

当初、税理士や経理の求人からスタートした「最速転職 HUPRO」だが、現在ではCFOの転職支援を手がけるなど、求人の対応範囲も広げている。「CFOの採用に苦戦しているスタートアップは多く、引き合いも増えている」と山本氏は語る。

今回の調達資金をもとに今後、ヒュープロは「最速転職 HUPRO」内に蓄積されている2万件以上のデータベースを活用し、企業が求職者に直接アプローチできる「ダイレクトリクルーティング機能」を開発し、さらに転職を“ラク”なものにすることを目指すという。