
- 「偽造品流通の根絶」目指すトレカのフリマ「magi」
- 1枚10億円の値がつくトレカも
- 468万円のカードが売れたコレクター向けトレカEC「Clove」
国内市場は1000億円規模とも言われるトレーディングカード(トレカ)の世界。メーカーが販売するパックは数百円程度だが、その希少性から二次流通では10億円ほどの値段がついたカードも存在する。最近ではカードの売買が店舗からネットに移行しつつある。しかしネット、特に個人間の取引では、偽物の売買でトラブルになるケースも少なくない。そこで登場したのが真贋鑑定をセットで提供する“トレカ版メルカリ”とも言えるサービスだ。そんなサービスの代表格である「magi」と「Clove」は、EC化が遅れるカードショップに出店を促し、市場の活性化を目指している。(ダイヤモンド編集部 菊池大介)
「偽造品流通の根絶」目指すトレカのフリマ「magi」
メルカリやラクマなどのフリマアプリの台頭により、誰でも簡単にネットでモノを売買できるようになった。だが、個人間取引では、買った商品が本物なのか、判断しづらいのが現状だ。特に高額の商品を買う際には不安になる人は多いだろう。
特に偽物が多いのがスニーカーだ。プレミアもののスニーカーでは定価の数倍から数十倍の価格になることも多いため、偽物を見分けるのにもひと苦労なのだ。そのため、米国発のスニーカー個人売買サイト「StockX」は真贋鑑定を実施し、本物だけを売買すると謳い知名度を上げている。同様の仕組みを導入し、トレーディングカードの売買の場を提供しているのが、トレカ特化のフリマアプリ、「magi」だ。
magiを提供するジラフの代表取締役社長兼CEO・麻生輝明氏は、「偽物がかなり出回っており、詐欺にあっている人が増えている」と話す。2020年1月には、商標権を侵害したとして、3500枚以上の偽造カードを製造・販売した男が逮捕されたと報じられている。そこでジラフが目指すのは、「偽造品流通の根絶」だ。
1枚10億円の値がつくトレカも
2019年4月にローンチしたmagiは、「遊戯王」や「ポケモンカード」、「マジック:ザ・ギャザリング」など、人気のトレカを扱うフリマアプリだ。100万円ほどの高額なカードも売買され、「高いカードほどすぐに売れる傾向にある」(麻生氏)という。
マニアにとって喉から手が出るほど欲しいカードは、発行枚数が少なくレアなため、高額であることが多い。ジラフいわく、世界に1枚しか存在しない遊戯王カード、通称「カオスソルジャーステンレス」は、9億9800万円という破格の値段でネットオークションに出品されていたという。
プレイヤー、コレクターともに高額なカードを買い求めるが、コレクターもただカードを集め続けるだけでなく、所有するカードを売却し、「ウェブサービスのPDCAのように、コレクションをアップデートしていく」(麻生氏)ことから、カードの二次流通は今後もさらに活性化していく見通しだ。
magiのインストール数は累計で約30万件。最高値では月間の出品数は11万件、取引回数は7.2万件。月間の流通総額は約1億円規模。
magiが成長していく上では取引回数を増やしていくことが重要だが、そこで要となるのが、売買されているカードが本物だという安心感だ。そのため、magiではカードショップと提携し、経験が豊富な店員がカードの真贋鑑定を行う「あんしん取引」機能の提供を開始した。
「(カードに)保証をつけて売買するような仕組みがあるのは『当たり前』と思えるかもしれないが、業界には一切、存在していなかった。 その『当たり前』を実現することを、スタートアップらしく行っている。 (保証がついていれば)売れる。売れるとなると、『また出品しよう』となる。 買う側にも、『ここだったら安心して買える』と感じてもらえれば、リピートに繋がる」(麻生氏)
magiの利用者はコレクターよりプレイヤーのほうが圧倒的に多い。そのため、競技人口の拡大に貢献するためにも利用者の拡大も目指す。これまでもYouTubeやTwitterでの情報発信を積極的に行ってきたが、コロナ禍では多くのカードショップが営業の自粛を余儀なくされたため、チャットツール「Discord」を使ったオンライン対戦の場を利用者に提供した。
また、カードショップもコロナによる外出自粛で大ダメージを受けた業態だ。麻生氏いわく、ショップの売り上げは約8割減。通販サービスを提供しているショップは難を逃れたが、多くのショップのEC化は進んでいない。そこでmagiでは、ショップに向けてはトレカ特化の「フリマ」ではなく「マーケットプレイス」と謳い、出店を促している。通販を始めても集客に悩む小さなショップは少なからず存在するが、magiは多くの利用者をすでに囲っている、と麻生氏は説明する。
「通販をやっているところも、並行してmagiに出店することはデメリットにならない。 ショップを巻き込んでいく。 共存していくという考え方だ」(麻生氏)
468万円のカードが売れたコレクター向けトレカEC「Clove」
ローンチから1年以上が経過したmagiの後を追うのは、2019年5月に設立されたTrustHubが提供する「Clove」だ。TrustHubは日本生命グループでスタートアップ投資行うニッセイ・キャピタルのアクセラレータープログラム、「50M」の第2期採択企業。2020年1月に開催された同プログラムのデモデイで、同社は最優秀賞を獲得した。
2020年3月にベータ版が公開されたCloveは、遊戯王カードの売買に特化したECだ。Cloveのミッションは「偽物の販売や傷があるカードが美品として販売される例をなくすこと」、そして「市場の適正価格での取引を可能にすること」。TrustHub共同創業者・CEOの大懸剛貴氏はそう説明する。
「ミッションは、テクノロジーの力でコレクターグッズ市場を変えること。コレクターグッズ市場は、真贋鑑定や相場の決定などが属人的に行われている非常にアナログな市場で、テクノロジーによって解決できる課題がたくさんある。(今後は)鑑定のプロセスにAI技術を取り入れたり、流動性の低いコレクターグッズでも適切な相場を提示できたりする仕組みをつくるなど、コレクターグッズ業界の課題をテクノロジーの力で解決していきたい」(大懸氏)
現在、遊戯王カードショップでの勤務経験のある社員複数名が鑑定チームとして真贋鑑定を提供していることをウリにしている点は、magiと似ている。だが、Cloveはコレクター向けに特化したサービスだ。遊戯王に特化しているのは、特に高額なコレクター向けカードが多く、安心してカードを取引できることがもっとも強く求められている領域だからだと大懸氏は言う。
高額なカードを揃えるにあたり、他店舗よりも高額の買取価格を提示することで、コレクターからカードを買い取っている。これまでには1枚468万円のカード、「エビルナイト・ドラゴン ウルトラレア」を販売し、発売後1週間で完売。これは125枚限定で配布されたカードだという。
Cloveでレアカードが適正価格で買えるならば、カードショップの価値は薄れてしまうのではないか。そんな疑問に大懸氏は、「オフラインコミュニティ」としてのショップの価値は残る、そしてショップと協力して業界全体を盛り上げていきたい、と答えた。
「カードショップがClove上で全国の顧客に商品を販売したりすることができるようにしていきたい。協力して業界全体のDX化を進めていければと考えている」(大懸氏)
TrustHubでは数カ月以内にCloveを正式ローンチする予定だ。現在は、AIを使い鑑定プロセスの一部を自動化するものを試験運用中だという。今後はコレクターズアイテム領域での横展開を目指す。
「まずはトレーディングカード領域全体に展開しようと考えている。その先については、検討中の段階だ」(大懸氏)
大懸氏いわく、Cloveの鑑定結果の精度は今のところ100%。これまでに偽物を間違えて販売した例はない。取引回数の増加に伴い起こり得る精度の低下を、AI活用でどの程度食い止められるのかは見ものだ。