カケハシ代表取締役CEOの中川貴史氏
カケハシ代表取締役CEOの中川貴史氏

テクノロジーの活用によって“薬局”体験の変革に取り組むヘルスケアスタートアップのカケハシ。同社が新たにシリーズCラウンドで約76億円の資金調達を実施した。

今回カケハシではAxiom Asia Private CapitalやあおぞらHYBRID1号投資事業有限責任組合など複数の新規投資家に加えて、既存株主のグロービス・キャピタル・パートナーズ、DNX Ventures、ジャパン・コインベスト、Salesforce Venturesなどから出資を受けた。カケハシによると累計の調達額は約131億円になる。

カケハシが2017年8月から展開している「Musubi」は電子薬歴と服薬指導機能を軸とした薬局向けのSaaSだ。タブレット端末を患者と一緒に見ながら服薬指導を実施していけば、画面をタッチするだけで薬歴のドラフトも自動で作成されていく機能を搭載。円滑な服薬指導のサポートに加え、時間のかかっていた薬歴作成の効率化を同時に実現するのが特徴だ。

Musubiのイメージ

この機能を軸として、Musubi上に蓄積されたデータを基に薬局経営を後押しする「Musubi Insight」やLINEを用いて既存患者との関係性構築を支援する「Pocket Musubi」、医薬品の在庫管理を効率化する「Musubi AI在庫管理」といった関連サービスを展開。セキュリティ面も含めた機能面の拡充やサポート体制の強化などの効果もあり、近年は大規模事業者への導入も広がっている。

現在Musubiは7000店舗以上の薬局で採択されており、市場シェアは10%を超えた。店舗数はシリーズBの資金調達を実施した2019年秋と比べて約10倍、直近1年でも2.7倍に増加しているという。

特に大規模な事業者からは店舗で働く薬剤師1人1人の業務状況の見える化やガバナンスの強化などを含めた「薬局のデジタルトランスフォーメーションを支えるパートナー」として選ばれるケースが増えている。単なる業務効率化の支援だけでなく、データを用いながら既存患者のフォローアップを効果的に実施するための“CRM(顧客管理)ツール”としての引き合いも多い。

Musubi Insight

薬局領域では2015年に厚生労働省が策定した「患者のための薬局ビジョン」や近年の薬機法改正など政策面でもアップデートが進む。薬局の役割や価値も再定義される中で、既存患者との関係性強化につながるCRMのニーズが増えている側面もあるようだ。

今後カケハシとしては既存機能の強化に加え、新サービスや新機能の提供を通じて「薬局SaaSから医薬品産業や医療産業を支えるプラットフォーマーへの進化」を目指していく計画。Musubiを通じて培ったユーザー基盤やデータを活かした新サービスのほか、すでに展開しているAIを用いた需要予測や在庫管理など医薬品の流通に関する取り組みも加速する計画だという。