
- コンサルなしでもコスト削減を実現
- コンサル時代に直面した市場の課題と現場の苦悩
- 1年で数十社が利用、億単位のコスト削減効果も
- コロナ禍で高まるコスト削減ニーズに対応へ
企業が利益を拡大するには売り上げを増やすか、不要なコストを減らすしかない。“アフターコロナ”の時代には従来ほどの売り上げ成長が見込めない企業も少なくないからこそ、今後はコスト削減への注目度が一層高まっていく可能性がある。その文脈で事業を拡大しているのがテクノロジーを活用したコスト削減サービスを展開するLeaner Technologiesだ。同社は今月6月1日にベンチャーキャピタルから約3億円の資金調達を実施するとともに、サービスの機能拡充を発表。より多くの企業が自力でコスト削減できる仕組みを広げるべく事業を加速させる計画だ。(ライター 大崎真澄)
コンサルなしでもコスト削減を実現
会計データをアップロードするだけで自社のコスト体質を分析し、どこに削減余地があるのかをわかりやすく『見える化』してくれる――。Leaner Technologiesが開発する「Leaner(リーナー)」の特徴を簡単に紹介するとそんなところだろうか。このサービスが実現するのは、コピー費や電気代、携帯料金、各種支払い手数料などを始めとした「間接費」と呼ばれるコストの改善だ。間接費は多くの企業で売上高の10%ほどを占めるとされていて、やり方次第で大幅に削減できる余地もある。
間接費を減らすアプローチは大きく2つで、「コスト削減を得意とするコンサルティングファームに依頼する」か、「Excelなどを駆使して自力で分析する」かだった。だがコンサルに依頼する場合は数千万円半ばあたりからのオーダーになることが多く、その選択ができるのは一定規模以上の大企業に限られる。つまり大半の企業は経営企画や財務部の担当者が人力で膨大なデータを集計し、地道に改善策を考えるしかなかった。
Leanerはそういった企業にとって新たな選択肢となりうるだろう。担当者が最初にやることは会計データ(3年分のデータがあると望ましい)を用意してアップロードするだけ。そのデータを用いてLeanerが自動で費目ごとにコストを分類し、削減余地や難易度を分析する。

提供:Leaner Technologies (拡大画像)
さらに契約書や請求書のデータなどを追加すればベンチマークとなる他社と比較した上で「どの費目をどのぐらい削減すればいいのか」、「どのサプライヤーから購入すれば安くなるのか」までが提示される。現在サプライヤーの紹介についてはLeanerの担当者がその都度行なっているが、ゆくゆくは企業とサプライヤ-が自由にマッチングできるマーケットプレイス化の構想もある。
利用料金は月額5万円から。ローンチから約1年で社員数100名〜3000名程度の企業数十社が有料で利用している状況だ。
コンサル時代に直面した市場の課題と現場の苦悩
Leaner Technologiesは、大手コンサルティング会社・A.T.カーニー出身の大平裕介氏が2019年2月に立ち上げたスタートアップだ。自身が前職時代にさまざまな企業のコスト改革に伴走する中で、マーケットの不透明さや経営者の悩みを痛感。培ってきた知見とテクノロジーを組み合わせれば「間接費市場を抜本的に変革し、より多くの経営者が新たなチャレンジをするための原資を生み出すサポートができるのではないか」と考え、Leanerを開発した。
大平氏によると、企業が自力で間接費の見直しを進めるにあたって、「業務量が多く非効率」であることと、「そもそも自社単独ではすぐに限界を迎えてしまう」ことがネックになっていたという。
「明確なソリューションやノウハウがないため、いわば仮説がない状態で無作為にExcelと格闘せざるをえない企業も少なくありません。いろいろな情報を集計すればもしかしたら何か見つかるかも、くらいの感覚なので非効率な上に成功率も低い。結果的にものすごい大変だったのに成果に繋がらなかったということもあります」
「またコストや調達量が適正かどうかを判断する際に“何を基準に考えるか”がすごく重要で、そこに自社だけでやる場合の限界があります。要は過去と比べて安い・高いは比較できても、相場と比べてどうなのかがわからない。ベンチマークとなる複数社に自ら話を聞きに行ってデータを集計するというのは現実的ではなく、基本的にコンサルに依頼しない限りは実現できませんでした」(大平氏)
これらの課題をコンサル流のナレッジとテクノロジーで徹底的に効率化し、解決してしまおうというのがLeanerのアプローチだ。Leanerではコスト削減の原則を「THE MODEL」として、以下の4つの工程に分類。
1.(優先度を決めて)契約を網羅的に見直す
2.(契約を見直す際に)ベンチマーク並みの契約条件を獲得する
3. 獲得した契約条件、契約先での調達を社内で徹底する
4. 使いすぎるといったことがないよう、調達量を適正化する
その中でもっともニーズがあると考えた「ベンチマーク並みの契約条件を獲得する」ことにフォーカスする形で、昨年5月にサービス化した。
1年で数十社が利用、億単位のコスト削減効果も
ローンチから約1年間の実績は前述した通りで、すでに数十社が有料でLeanerを活用している。
「『事務所納品費』など大まかなくくりでは把握できていても、費目別に細かく分析するまではできていなかったという企業は多いです。Leanerでは部署ごとの家計簿がオープンになるのでベンチマーク企業と比べた時の状況だけでなく、第一営業部と第二営業部を比べた時の状況もわかります。Leanerを入れてみて初めて自分たちの部署がコストをかけすぎていたことが発覚することもあるし、データをもとに議論ができるようにもなる。また数字ベースでコストが可視化されると、従来は利益を上げるにはとにかく売り上げのトップラインを伸ばせばいいという考え方だった企業でも『流石にこれだけコストをかけているのは馬鹿らしいよね』と変わります」(大平氏)
通常間接費の10〜20%ほどは削減の余地があると考えられているが、今のところLeaerの導入企業でも平均で同程度のコスト削減に繋がっている。顧客の事業規模にもよるが社員数100人規模で400〜500万程度、5000人規模になると億単位の削減効果が生まれているという。
加えてLeaerを活用することで外部企業に依存せずとも社内で課題発見・解決できる仕組みの土台が整ってきたり、従来は評価されにくかった担当者の成果を評価しやすくなったりといった効果も出ているそうだ。
そういったポジティブな反応が見られる一方、今までのLeaerではカバーしきれないニーズも見つかった。それがコスト削減のTHE MODELにおける「ベンチマーク並みの契約条件を獲得する」以外の部分に関わるものだ。
「間接費のコスト削減のプロが社内にいないからこそ、『契約条件の見直しに限らずコスト削減の悩みはLeaerさえ入れておけば解決できるようにしてほしい』という要望を多くいただきました。たとえば現場では、家賃や業務委託費など金額が大きい契約にばかり目が行きがちです。本来は長年見直されていなくて、調達量が多いものが最もコスト削減余地が大きいですが、そこに気づかないことも多いです。また条件の良いサプライヤーが見つかったけど結局それが現場に浸透していなかったり、調達価格は適正化されても調達量が必要以上に多かったりといった別の問題も浮かび上がってきました」(大平氏)

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6月1日に実施したサービスの大幅アップデートではそれらの課題を解決するための新機能が搭載された。
新バージョンでは間接費を管理する上で欠かせない重要指標が1カ所にまとまったダッシュボードや、自社のコスト管理水準が自動で数値化されるスコアリング機能を搭載。見直されずに放置されている費目を通知してくれる仕組みや、コストを組織別・取引先別に細かく分析した上でレポーティングする仕組みも加わった。
また同日にはインキュベイトファンドとCoral Capitalから3億円の資金調達を実施したことも発表。コスト削減に必要な全工程をサポートする「オールインワンプロダクト」への進化と事業拡大を見据えて、さらに投資をしていく計画だ。
コロナ禍で高まるコスト削減ニーズに対応へ
企業にとってコスト削減のニーズは一過性ではなく常に存在するものだ。とはいえ新型コロナウイルスの影響で売り上げ拡大が厳しくなり、足元でコスト削減の必要性が高まっている企業は少なくないだろう。
実際、Leaerのウェブサイト経由の問い合わせ件数も直近2カ月は毎月1.5倍のペースで増加している状況だ。6月に入ってからこのペースはさらに加速していて、従来に比べて3倍以上まで増えている。
「特に2つの観点でニーズが高まってきていると考えています。1つは会社が大きな打撃を受けているので、大幅なコスト削減が急務であるケース。この場合は従来の延長では難しく『そもそもこの費用自体を一切なくそう』などゼロベースで考えなければなりません。その際にコンサルやLeanerの力を借りたいというニーズです」
「そしてもう1つは足元が苦しいわけではないものの、コロナの影響で社内の体制や働き方が変わり、お金の使い方自体も大きく変わったケースです。たとえばリモート環境で働きやすいようにチャットツールやオンライン会議サービスなどを導入する企業も増えていますが、その一方で使わなくなったツールや見直すべきサービスも出てきているはず。それを同時並行でやらなければ純粋にコストが増えてしまうことになるし、実際に顧客からも『同じような企業ではどんなコストが減っているのか、傾向を教えてほしい』という声をよく聞きます」(大平氏)
新バージョンのLeanerでは、企業が自分たちだけでは気づけなかったコスト削減余地を自動的に発掘し、大幅なコスト削減をサポートする。他社や相場と見比べた上で自社の改善点を炙り出すだけでなく、それを社内に徹底させる機能を追加することによって企業の体質を変える手助けもできるようになった。
グローバルに目を向ければ支出・コスト管理を効率化するシステムがどんどん広がっている。SAPグループの「SAP Ariba」や「Coupa」(Coupa Software)がその代表格で、Coupaの時価総額は日本円で1兆円を超える。国内でもコスト削減の重要性や緊急性はが高まるのはもはや明白だ。そこにLeanerが貢献できる価値は少なくない。