テラーノベルが運営するスマホ発の小説投稿サービス「テラーノベル」。現在アプリのダウンロード数は600万件を超える
テラーノベルが運営するスマホ発の小説投稿サービス「テラーノベル」。アプリのダウンロード数は600万件を超える
  • ウェブトゥーンの原作としてのウェブ小説
  • スマホに最適化したウェブ小説サービスとして拡大
  • 日本発のグローバルIP企業へ、6.5億円を調達

縦スクロール型で展開される、スマートフォンでの閲覧に最適化したウェブ漫画のフォーマット「ウェブトゥーン(Webtoon)」。その発祥の地でもある韓国では『梨泰院クラス』や『Sweet Home ー俺と世界の絶望ー』を始め、ウェブトゥーンを元にしたドラマがNetflix上で話題になるなど、“映像コンテンツの原作”としても注目を集める。

日本でも大手出版社や複数のIT企業が参入し始めているウェブトゥーンの市場はグローバルでも急速に拡大。QYResearchの調査では2030年に約7.4兆円規模の市場になると予想されており、今後もさらなる成長が見込まれている。

そんなウェブトゥーンと深く関わっているのが「ウェブ小説」だ。スマホ発の小説投稿プラットフォームを手がけるテラーノベル代表取締役の蜂谷宣人氏によると、ウェブトゥーン作品の多くは小説を元にしたもの。同社の調べによると、2022年1月時点で漫画アプリ「ピッコマ」のランキングでは、上位98%のウェブトゥーン作品が小説を原作にした「Noveltoon(ノベルトゥーン)」だという。

日本国内においても“ウェブトゥーンの原作”としてウェブ小説の引き合いが増えている。実際にテラーノベルでは集英社やKADOKAWAなど複数の大手出版社とタッグを組み、40以上のタイトルでウェブトゥーンやコミカライズの制作を進めている状況だ。

テラーノベルは2014年の創業。もともとはピックアップという社名で写真保存アプリなどを運営しており、2017年1月にDMM.comの子会社となった。同年より「テラーノベル(旧 TELLER)」を提供してきた中で、2022年1月にMBOを実施。6月には社名とサービス名を現在のテラーノベルへと変更している。

ウェブトゥーンの原作としてのウェブ小説

テラーノベル代表取締役の蜂谷宣人氏
テラーノベルの代表取締役を務める蜂谷宣人氏。2017年に入社後、COOを経て2020年に代表取締役に就任した

なぜウェブトゥーンの原作としてウェブ小説への期待が高まっているのか。そこには「漫画の作り方や売り方の変化」が大きく影響している。

近年漫画アプリなどで広がっているのが、1話ごとに販売をする「話売り」だ。

「最初の数話など一部を無料で公開し、それ以外は有料で販売する」「1日に数話を無料で公開し、それを超えた分については課金する」といったように具体的な販売方法はアプリや作品によってさまざまだが、複数話を収録した単行本(巻売り)ではなく、1話ごとに切り分けて販売する方法が目立つ。

そのため漫画の作り方も、「クリフハンガー(あえて物語を細かく分けて、1話ごとに続きが気になるようなシーンで終わる構成手法のこと)」などが採用されることが多い。

そしてこのような漫画のフォーマットと相性が良いのが、テラーノベルなどスマホを軸とした小説プラットフォームに投稿されている“スマホでの閲覧に最適化した小説”だという。

テラーノベル上のコンテンツにはLINEのチャットのような形式で物語が進む「チャットノベル」と縦スクロール型の「ノベル」の2種類が存在するが、共通するのは「スマホで読むことを前提として作られていること」(蜂谷氏)。1話あたりは1分〜2分程度で読めるものが中心だ。

「出版社の方々が言うのは、『スマホで売ることを前提とした漫画原作がなかなか見つからない』ということです。(スマホで売ることに)最適化されていない小説を原作とする場合、漫画制作側が毎回盛り上がりどころを作らなければならない。そこに難しさがあるんです」

「一方で自分たちのようなサービスはスマホで読むことを前提としており、(投稿されている作品も)続きが気になるようなフォーマットを意識して作られています。結果としてその作品を原作として漫画を話売りで展開するとなると、原作の構成を活かしたまま読者を惹きつける作品が作りやすい。(出版社の担当者からも)そのように言っていただけることが多いです」(蜂谷氏)

スマホに最適化したウェブ小説サービスとして拡大

作品画面のイメージ。左側がチャットノベル型、右側が通常のノベル型。
作品画面のイメージ。左側がチャットノベル型、右側が通常のノベル型。

テラーノベルはスマホアプリを軸とした小説投稿サービスとして、2017年にスタートした。

現在アプリのダウンロード数は600万件を突破。登録作家数は58万人、作品数は552万点を超えた。ウェブ版も展開してはいるもののほとんどがスマホでの利用者で、読者と作家ともに9割以上を占める。ユーザー層は大学生〜20代が中心で、7割程度が女性だ。

現在は話売りはしておらず、サブスクリプションモデルのみを採用。月額980円のVIPモデルに登録するとすべての作品が読み放題になる仕組みだ。

「スマホで読むのに適した縦スクロール型の小説に可能性を感じています。漫画アプリを読むのと同じようなテンポで楽しめる小説であり、話売りでの展開もしやすい。ウェブトゥーンを産んだ韓国などと比較しても、日本にはそのような小説が少なく、まだまだチャンスがあると考えています」(蜂谷氏)

もともと日本の小説市場では「紙」のフォーマットが根強い人気を誇ってきた反面、ケータイ小説などはあったものの、「ウェブで気軽に小説を読みたい」と考える若い世代のニーズに応えるような場所が足りなかったというのが蜂谷氏の考えだ。小説投稿サービス自体も以前から存在はしていたが、PCでの利用を想定したものが中心だった。

そこに最初からスマホを前提として体験を作り込んできたことが、新たなユーザー層の獲得にも繋がったという。

たとえば人気のフォーマットになっているチャットノベルは、キャラクターのアイコンを設定して会話を起点に物語を進められるため「物語を作ってみたいけれど文章にはあまり自信がないユーザー」が執筆に挑戦しやすい。

投稿画面のイメージ
投稿画面のイメージ

新規の作家にもスポットライトが当たりやすいように、TikTokと合同でレコメンドエンジンの研究開発にも取り組む。「(すでに一定の規模に成長しているサイトだと)大御所のような人気作家や、ランキングなど評価される軸がある程度決まってしまっており、新しいクリエイターがなかなか定着しづらい」という従来の小説投稿サービスが直面してきた課題を解決するための仕組みの1つだ。

ユーザーの流入経路もPC発のものが検索エンジン経由が軸になっていることに対し、テラーノベルの作品はアプリ内に加えてTikTok上でシェアされて話題を呼ぶことが多いのも特徴となっている。

これまでスマホ発のユーザー投稿型の小説サービスとしてユーザーを集めてきたが、一方で改善が必要な部分もある。昨夏には一部の作家ユーザーが小説のサムネイルに用いる画像を無断で転載しているという指摘がTwitter上などで相次いだ。

テラーノベルとしては予防のためのガイドラインの強化や注意喚起の徹底に加え、権利侵害の削除請求に対する対応部門の構築などを進めながら24時間365日体制でのパトロールを実施しており、無断転載画像の件数も減少しているという。

また人的な対応に加えAIによる監視機能の研究開発にも取り組んでおり、現在はアルファ版を運用しながら改良版の準備を進めている状況。そもそも作家ユーザーが画像をアップロードしなくとも多様なサムネイルが作成できるような機能の開発も進めている。

日本発のグローバルIP企業へ、6.5億円を調達

冒頭でも触れた通り、韓国ではウェブトゥーンの市場が盛り上がる中で「ウェブノベルを原作としてウェブトゥーンが作られ、さらにその作品がドラマ化されてヒットする」といったようなコンテンツ制作のパイプラインができつつある。

そのような変化の中で「(IPの源泉として)ノベルの重要性が今後さらに高まるのではないか」というのが蜂谷氏の考え。テラーノベルとしては日本発のグローバルIP企業への成長を目指し、グロービス・キャピタル・パートナーズやSIG Asia Investmentなどを引受先とした第三者割当増資により約6.5億円を調達した。

「創作人口の比率では日本は世界の中でも高く、強い創作文化がある国だと考えています。特に小説の場合は自分1人で作品を書き、ユーザーからフィードバックをもらいながら改良していくというループを回しやすい。この土壌を活かして、世界的なIPが生まれるようなプラットフォームを目指していきます」(蜂谷氏)