Faciloで代表取締役を務める市川紘氏(左)と共同創業者で取締役CTOを務める梅林泰孝氏
Faciloで代表取締役を務める市川紘氏(左)と共同創業者で取締役CTOを務める梅林泰孝氏(右)

不動産市場における課題をテクノロジーを用いて解決する「不動産テック(Prop Tech)」。日本でもこの分野の事業者が増えてきているが、未解決の課題も多い。

2021年創業のFacilo(ファシロ)が取り組んでいるのは「仲介会社の担当者と顧客の間で発生するコミュニケーションをなめらかにすること」だ。

物件の提案や内見の日程調整、書類の手配といった双方のコミュニケーションの手段としては、現在でもメールが中心。さまざまなトピックが飛び交う中で情報が埋もれてしまうこともある。Faciloが2月22日にリリースした「Facilo」では、このような不動産取引にまつわる情報をクラウド上に集約。顧客が自分専用のページを開くだけで、必要な情報へ簡単にアクセスできる仕組みを開発した。

「世の中のコミュニケーションの手段はどんどん洗練されてきています。一方で不動産は複雑な商材にも関わらず、コミュニケーション方法が10年以上にわたって進化していない。それが不動産(の取引)が難しいというイメージを持たれやすい原因にもなっていると思うんです」

Faciloで代表取締役を務める市川紘氏は、不動産取引におけるコミュニケーションの現状についてそのように話す。

顧客画面のイメージ。従来はメールやLINEでバラバラになっていた情報がマイページ上に集約される
Faciloの顧客画面のイメージ。従来はメールやLINEでバラバラになっていた情報がマイページ上に集約される

市川氏はリクルートで「SUUMO」事業に携わった後、米国で不動産ポータルなどを手がける不動産テック企業・Movotoに参画。同社ではCFOを務め、M&Aによるイグジットにも貢献した経験を持つ。

リクルート時代を含めると不動産テック領域でのキャリアは15年以上。新たな挑戦として日本の不動産領域の課題を解決するべく、SmartNewsアメリカ版のエンジニアチームの立ち上げメンバーだった梅林泰孝氏(Facilo取締役CTO)とともに会社を設立した。

サービス開発のきっかけとなったのは、仲介会社と顧客におけるやりとりの中で頻出していたフレーズだ。仲介会社の協力を得て約2万件のデータを分析したところ「五月雨式になってしまい申し訳ございません」という言葉が頻繁に使われていたことに気づいたという。

「物件情報のPDFが大量に連投されている、内見のスケジュール調整は伝言ゲームのようにやりとりが続いている、書類の手配においては必要な書類が箇条書きで大量に送られてくる。そのようなことが実際に起こっていました。1つひとつの情報は重要なのですが、メールやLINEの形式とスレッドで情報が行ったり来たりしてしまったり、流れていってしまったりする。後から情報を見返したいと思っても、なかなかたどり着けないことも多いです」(市川氏)

五月雨式のやりとりのイメージ
五月雨式のやりとりのイメージ

Faciloは仲介会社と顧客の間のコミュニケーションを円滑にするための機能と、仲介会社の業務効率化を支援する機能を合わせ持ったプロダクトだ。

物件検索サイトで営業担当や顧客ごとの条件を登録しておけば、次回以降は自動入力する仕組みを搭載。新規物件や価格改定の情報が一目でわかるような機能などと合わせて、物件検索の効率化を後押しする。PowerPointなどを用いて手動で作業する場合には時間のかかっていた「帯替え(物件情報の帯に記載される情報を自社の情報へ変更する作業)」もサービス内で自動化した。

従来はメールで“五月雨式”になっていた物件提案は、顧客専用のクラウドに情報をアップロードすれば一箇所にまとまる。顧客は自分専用のリンクを開けばマイページ上で手軽に物件情報にアクセスでき、内見の日程もシステム上で調整可能だ。顧客が「いつ」「どんな」物件に興味を示したのかは可視化されるため、担当者は顧客に合わせた提案がしやすい。

帯替え作業の自動化など仲介会社の担当者の業務を効率化する機能も提供している
帯替え作業の自動化など仲介会社の担当者の業務を効率化する機能も提供している

Faciloでは2022年の春から野村不動産ソリューションズや三菱地所ハウスネットなど一部の企業に先行して試験版を提供してきた。

実際に約50店舗以上で運用してもらう中で「物件提案までの時間が従来の半分ほどに削減できた」「1人の担当者が丁寧にフォローできる顧客の数が1.5倍〜2倍ほどに増えた」「成約率が1.5倍に上がった」といった成果も生まれ始めているという。

日本よりも米国の方が市場規模が大きいこともあり、不動産テックに関しても米国が先を行く。ただ市川氏の話では「不動産コミュニケーションクラウドというコンセプトで同じような機能を提供しているサービスは、米国でもほとんどない」という。

「米国の場合は各業務のスペシャリストが5人程度のチームを組んで対応していることが多いです。一方で日本の場合は中古市場が成熟しておらず、そこまで人員を増やすことが難しい状況もあって、1人が孤軍奮闘しているような状況で負担が大きい。Faciloのようなサービスは人手が足りない日本だからこそ、先に実現できると考えています」(市川氏)

創業当初は不動産領域におけるAIチャットボットのようなサービスを考えていたが、ヒアリングを進めている内に「(仲介会社と顧客の間で)バラバラにやりとりされてあふれかえっているような情報を整えること」が最優先だと感じ、現在のサービスの方向性へと舵を切った。約1年間にわたって現場にも足を運びながらサービスの改善を進めてきた中で、具体的な成果にも結びついてきたことから、今回のタイミングで正式ローンチを決めたという。

Faciloではサービスの本格展開に向けて、シードラウンドでCoral CapitalとDNX Venturesから2億円を調達した。調達資金を用いて機能強化や導入企業の拡大に取り組む。