
- ビッグ4が牽引、フィンテック中心も2022年には多角化が進む
- ファンダメンタルの強い企業に注目、スタートアップ間のM&Aも加速
日本の投資家や大手企業が「アフリカのスタートアップ市場」に注目し始めている。
2022年におけるアフリカのスタートアップの資金調達額は約6500億円(約50億ドル)。欧米を筆頭にスタートアップの調達総額が減少する中で、アフリカは前年と同水準を維持。今後も人口が増加することからさらなる成長への期待も大きく、グローバルの投資家も目を光らせている状況だ。
日本のケップルアフリカベンチャーズは2018年の設立以降、アフリカ内の11カ国103社への投資を実行してきた。2022年にはナイジェリアのPEファンドとの合弁企業を通じて、アフリカのスタートアップを投資対象とするファンド・Verod-Kepple Africa Ventures(VKAV)を発足。同ファンドの投資家(LP)には日本の団体や上場企業も名を連ねる。
VKAVによると独立行政法人国際協力機構(JICA)、三井住友信託銀行、SBIホールディングス、豊田通商らが新たな投資家として参画。ファンドサイズは日本円で約60億円規模(4300万万米ドル)になったという。
VKAVのパートナーを務める山脇遼介氏によると、特色の1つは「LPと投資先スタートアップとの橋渡し」の役割を担っていることだ。日本企業においてもアフリカ進出の意欲が高まってきている中で、ファンドへの出資を足掛かりにアフリカ進出を強化したいと考えるLPも存在する。VKAVがその窓口となり、日本企業と現地のスタートアップとの連携を後押しする。
またナイジェリアのPEファンドと手を組むことで「出資後の成長支援」にも取り組む。「ガバナンスなどの概念が十分ではないまま市場が広がり、バリュエーションだけが上がった企業も増えた」(VKAVパートナーの品田諭志氏)側面がある中で、PEファンドの知見を活かしながら適切な成長やエコシステムの健全化を目指すという。
ビッグ4が牽引、フィンテック中心も2022年には多角化が進む
近年、アフリカのスタートアップ市場の成長を牽引してきたのが“ビッグ4”と呼ばれる、ナイジェリア 、エジプト、ケニア、南アフリカの4カ国だ。他国に比べてレイターステージの企業が多いこともあり、この4カ国の調達額が全体の70〜75%程度を占める。
特にフィンテック領域を中心に大型の資金調達を実施するプレーヤーも増えてきた。
ナイジェリアの決済スタートアップ・Flutterwaveは2022年2月に約30億ドルの評価額で2億5000万ドルを調達。同国で金融サービスを展開するユニコーン企業のOPayにはソフトバンク・ビジョン・ファンドなどが投資をしている。直近ではエジプトでデジタルバンクを手がけるMNT-Halanがユニコーンの仲間入りを果たしたことを複数のメディアが報じた。
Stripeがナイジェリアの決済スタートアップ・Paystackを買収したように、まだ数は少ないものの大手企業によるM&Aの事例も生まれている。
アフリカは「(銀行口座などの)インフラとなる既存サービスの浸透率が低いため、代替手段が必要となり、結果的に新たなサービスが生まれやすい」(山脇氏)。事業拡大にあたって物理的な工場なども必要なくスタートアップ的な成長モデルを描きやすいほか、対象となるユーザーが多く裾野が広いこともあり、大型のフィンテック企業が生まれているというのが山脇氏の見立てだ。
一方で2022年に関してはフィンテック一辺倒ではなく、コマースや農業、交通、エネルギーなど他の領域からも有望なスタートアップが出てきている。エリアについても調達額では依然としてビッグ4が中心だが、調達案件別では地域の幅が広がり「(直近1年でも)マーケットが広がっている」と品田氏は話す。
投資家の顔ぶれについても同様だ。2020年から2021年ごろにかけてソフトバンク・ビジョン・ファンドやSequoia Capital、Andreessen Horowitなどグローバル投資家の進出が加速したが、直近は景気悪化などに伴ってその動きが減速。結果としてレイターステージにおいては「(アメリカほどではないものの)ファンドレイズが難しくなった1年だった」(品田氏)
かたやシードやアーリーステージにおいては1000万ドル以下のファンドがアフリカ内で続々と誕生。「かなりコンペティティブな(競争が激しい)状態」になりつつあるという。
ファンダメンタルの強い企業に注目、スタートアップ間のM&Aも加速
従来はフィンテック領域を中心に、海外で先行する企業のモデルを模倣したスタートアップが国内外の投資家から高い評価を受けることも多かったが、市況が変化する中で「調達に苦しむ企業も多い」(品田氏)。
一方で「ファンダメンタルの強い企業」に資金が集まるような状況が生まれており、それが事業領域の多様化にもつながっているという。一例をあげると、VKAVの投資先の1社であるShuttlersはバスのデジタル化に取り組んでいる。
現地では既存の交通インフラが未成熟のため“野良バス”のようなバスが主流となっていたが、メンテナンスが悪かったり、社内が混雑したりと課題が多かった。Shuttlersではその体験をアップデートし、アプリからバスの位置やルートがわかり、オンラインで予約と決済ができる仕組みを作っている。言わば「Suicaを使って快適にバスに乗れる体験」(山脇氏)を作ることによって事業を成長させてきた。
「アフリカは公共インフラなど社会に必要な仕組みが十分に整っていない部分も多い。そこにスタートアップがデジタルを組み合わせ、経済性を持たせながらサービスとして提供している例がいくつもあります。(先進国と比べて)経済水準の観点などからマネタイズは簡単ではありませんが、その一方で人々の暮らしを根本的に変えるような事業を生み出せるのがアフリカの特徴です。スケーラビリティやインパクトの大きさは、アフリカ投資の面白さだと感じています」(山脇氏)
高い評価を受ける企業が少しずつ増えてきた中で「同業のスタートアップ同士のM&A」が増えてきたことも近年の大きな変化だ。
アフリカのある国で成長したスタートアップが、アフリカ全土への展開を視野に他国へのマーケットに効果的にアクセスするべく、現地の同業者を株式交換で買収する。そのような例が顕著に増えているという。VKAVが出資しているChariはモロッコ発のB2Bコマースのスタートアップだが、すでにモロッコ内に加えてチュニジアやコートジボワールなど複数カ国のプレーヤーを買収し、事業規模を拡大している。