IVRy代表取締役CEOの奥西亮賀氏
電話DXサービス「IVRy(アイブリー)」を運営するIVRy代表取締役CEOの奥西亮賀氏。ボルダリングスペースを備えた自社オフィスで撮影されたもの

店舗にかかってくる営業や問い合わせの電話。この対応を自動化することで、業務効率化や顧客の満足度向上につなげる“電話DX”サービスの「IVRy(アイブリー)」が利用企業を拡大している。

同サービスでは電話の内容に合わせて応答方法を細かく設計できる。頻繁に発生する問い合わせや回答が決まっている内容に関しては、SMSの自動返信や音声ガイダンスを用いて自動化することで、電話にまつわる業務工数を減らせるのが特徴だ。

月額数千円から使えるため中小企業やスモールビジネスの利用者が多いものの、直近ではビジネスホテルの東横インが304店舗で導入するなど、大企業での活用事例も増えてきた。サービスローンチから約2年半で累計の利用企業数は数千社。50以上の業界で使われるなど利用シーンも幅広い。

開発元のIVRyではさらなる事業拡大に向けて、以下の投資家よりシリーズBラウンドで13.1億円を調達した。集めた資金を用いてプロダクトの機能拡充や組織体制の強化を進めていく計画だ。

  • フェムトパートナーズ
  • Headline Asia
  • SMBCベンチャーキャピタル
  • 三菱UFJキャピタル
  • みずほキャピタル
  • BRICKS FUND TOKYO
IVRyのサービス画面のイメージ
IVRyのサービス画面のイメージ。システム上から自動応答の分岐を細かく設定でき、電話業務を効率化できるのが特徴だ

IVRyでは「商品に関する問い合わせは1を、店舗の場所に関するお問い合わせは2を......」といったかたちで、顧客の要望に合わせて着信のフローを柔軟に設計できる。

たとえば店舗の場所に関する電話であれば、地図が載っているURLや具体的な道順を説明したテキストをSMSで送る。よく聞かれる質問についてはあらかじめ音声ガイダンスを用意しておくことで、スムーズに対応する──。

このように「必ずしも人の対応が必要ではない内容」を自動化することで、ユーザーは電話対応の時間を減らし、接客や重要な業務により多くの時間を使えるようになる。

利用料金は​​月額3300円のシステム利用料に、550円の電話番号維持代や通話代などが加算される仕組みだ。

冒頭でも触れた通り2020年11月のローンチから約2年半で導入企業数を広げており、2022年7月の時点でARR(年間経常収益)は1億円を突破。2022年12月時点でのMRR(月次経常収益)は昨年比で6倍に成長している。

もともとIVRyは中小企業やスモールビジネス向けに開発された。電話自動応答システム(IVR)を開発会社などに依頼して作ると、数百万円から数千万円の資金が必要になることもある。多くの中業企業やスモールビジネスでは利用が難しいため、そのようなユーザーでも手軽に使える仕組みを目指した。

IVRy代表取締役CEOの奥西亮賀氏によると、ユーザーの中には地方の飲食店やクリニックを始め少人数で運営している企業も多く「オーナーが電話対応を兼任している」場合も珍しくない。IVRyであれば本当に重要な電話だけを人力で対応すれば済むので、その点が重宝されるのだという。

このような課題は、人手不足や人件費の高騰などで現場のDXのニーズが高まっている大手企業においても同様だ。中には東横インやなの花薬局など100店舗以上で活用される例も出てきている。

実際に複数店舗でIVRyを活用するある飲食店では、平均で50%以上の電話対応を自動化。1回あたりの通話時間を3分で換算した場合、1カ月あたりで30時間以上の電話業務の削減を実現した店舗も生まれた。

また従来は対応できていなかった“営業時間外の電話”にSMSなどを用いて自動で対応することで、「(売上の)機会損失を防ぐ」ことにつなげている企業もある。

「チェーン店などであれば、今まで取れていなかった電話のデータを活用できるようになるという側面もあります。例えばあるホテルでは平日の午前中に電話が集中していて、電話を取れていないケースがありました。調べてみると、その時間帯には(ホテル内の)レストランのランチの予約の電話が多く、機会損失が発生している可能性があることがわかったんです。電話のデータを細かく分析することで売上拡大のチャンスや、オペレーションのエラーをいち早く発見できることもある。複数店舗を展開する顧客にはその点にも価値を感じていただけています」(奥西氏)

ChatGPTを活用した通話音声要約機能の提供も試験的にスタートしている
ChatGPTを活用した通話音声要約機能の提供も試験的に始めた

直近では新たな取り組みとして、AIを用いた音声認識機能やChatGPTを活用した通話音声要約機能の提供も試験的に始めている。

音声認識機能では、実際の音声を認識した上で自動対応する仕組みを取り入れる。「営業時間を教えて欲しい」「予約をしたい」といった音声を認識した上で、SMS返信なども駆使しながら適切な返答をするイメージだ。

音声要約機能ではChatGPTを活用して通話内容や録音内容を要約して表示する。この機能によって導入企業は音声を確認せずとも、すぐに内容を確認できるようになる。

「SMBや中小企業は業務改善にかけられる予算が限られてしまうことが多く、その点に課題を感じています。IVRyは地方のお茶メーカーや離島のクリニックなどにも活用いただいているのですが、そういった方々に自然なかたちで(ChatGPTのような)最新の技術を届けていくことは、自分たちだからこそできることだと思うんです。世の中のアップデートの速度を上げられる可能性があると考えているので、そのような取り組みに力を入れていきます」(奥西氏)

IVRyのオフィスの様子
IVRyのオフィスの様子