
フィットネスクラブをはじめとしたウェルネス産業向けに、SaaS型の基幹システム「hacomono」を提供するhacomono。同社では入会や予約、決済といった店舗運営におけるアナログな手続きをデジタル化することにより、顧客の“店舗DX”を後押ししながら事業を広げてきた。
サービス開始当初はフィットネス企業が顧客の大部分を占めていたが、近年は公共運動施設やスポーツスクールの領域にも拡大。導入店舗数も2022年1月末から2023年4月までの1年強で3倍近くまで増加し、3000店舗を超えた。
今後hacomonoでは既存サービスの改良に加えて、新事業として金融サービスの拡充に力を入れていく計画。それに向けた資金として、シリーズCラウンドで複数の投資家を引受先とした第三者割当増資により30億円を調達した。
今回のラウンドでは楽天グループ(楽天ベンチャーズ)、Cygames Capital、GMO VenturePartnersが新たな株主として参画。既存投資家のCoral Capital、ALL STAR SAAS FUND、シニフィアンとみずほキャピタルが共同で運営するTHE FUNDも出資をした。
hacomonoは複数の金融機関からデットファイナンスでも8.5億円を調達しており、第三者割当増資と合わせた調達額は38.5億円となる。

フィットネスクラブやスポーツクラブなど、主に月額制の店舗の課題解決に特化した“オールインワン型”の基幹システム──。hacomonoで代表取締役を務める蓮田健一氏は同社が手がけるサービスの特徴をそのように説明する。
hacomonoのメインターゲットでもあるウェルネス産業の店舗においては、今でも店頭で紙を用いて入会手続きをしているところも珍しくない。予約や振替は電話で対応し、月謝が振り込まれていなければ電話で連絡をする。会員管理や請求管理など一部の領域については既存のシステムを組み合わせて使っている店舗も存在はするが、データ連携や使い勝手の面では課題が残る。
こうした課題を1つのシステムで解決しようというのがhacomonoの挑戦だ。同サービスであれば店舗の入会や予約、決済などの手続きはエンドユーザーが保有する端末上で完結する。毎月の月謝は自動で引き落とされ、未納があれば催促や再徴収もシステムが自動で行うため手間がかからない。
コロナ禍で需要が急増したオンラインレッスン機能に加えて、店舗の経営に役立つアンケート機能やデジタルクーポン機能などを搭載。ユーザーがQRコードを用いてスムーズに入退館ができるようにハードウェアの開発も手がけ、施設内で販売する商品の販売管理に最適なPOSレジも提供する。
例えば総合スポーツジムでは「入会手続きに平均で1時間以上の時間がかかっていると言われている」(蓮田氏)が、hacomonoを活用すれば手続き自体を“ユーザー主導”で進められるのがポイントだ。
ユーザーは自身の端末から手続きができるため、従来に比べて手間がかからない。店舗のスタッフも事務作業の時間が削減され、浮いた時間を顧客とのコミュニケーションやサポートに使えるようになる。
手続きの効率化や自動化は、単純な業務負荷の削減だけでなく“事業のスピード”を加速する上でも役に立つ。
コロナ禍にオープンしたある24時間ジムでは、最初の1カ月で2000名以上の入会者を獲得した。これはスタッフの数が限られる中で、hacomonoを用いて入会手続きを中心にジムの運営をDXできたことが大きいという。
1年ほどで400店舗以上を出店した大手ジムの場合も、日時での締め処理など店舗運営における事務作業の工数が大幅に削減されたことが、急ピッチでの多店舗展開につながった。
これまでhacomonoでは蓮田氏が「ボーリングピン戦略」と呼ぶ戦い方を実践しながら、事業を拡大してきた。
「最初は(特定の領域における)少ない顧客のニーズにしっかりと刺さるものを作ることから始めます。それをクリアしたら、今度はその領域を代表するような顧客へとアプローチして、さらに深く刺さったプロダクトへと磨き上げていく。そこまでいったら隣の業界へ行くという戦略で、少しずつ対象を広げてきました」(蓮田氏)
最初はフィットネスジムの中でも、ヨガや暗闇フィットネスなどスタジオレッスン型の店舗に注力するかたちで展開した。入会手続きが紙ベースで行われていた店舗が多く、会員情報を効果的に管理できておらず属人化してしまっているという課題もある。まずは煩雑な手続きをデジタル化し、共通の会員情報を基に接客ができる仕組みを整えた。
次に取り組んだのが、近年増えている24時間ジムのサポートだ。スタッフがいない時間帯でも入会手続きができる機能を作り、スマホを会員証として入り口のドアを解錠できるように、ソフトウェアだけでなくハードウェアも提供をした。
領域を少しずつ広げながら、顧客の課題解決につながる機能を拡充していくことで、hacomonoで提供できるサービスも増加。結果としてさまざまな顧客のニーズに1プロダクトで応えられるような基盤が整い始めている。
特に総合フィットネスクラブを手がける電鉄系や不動産系の企業の中には、スポーツスクールやレジャー施設など複数の業界で店舗を展開しているところも多い。そのようなケースでは1つの企業内においてもhacomonoの利用シーンがどんどん広がっていっているのだという。
今後もhacomonoではプロダクトの機能拡充や横展開を進めていくが、新しい軸として「Fintech」領域のサービス開発にも力を入れる。
蓮田氏の話では2023年内の提供を予定しているEC機能を皮切りに、これから数年でマルチペイメントやトランザクションレンディング(少額の融資)、ファクタリング、業務委託スタッフへの支払プラットフォームなど金融サービスを広げる計画だ。

hacomonoに蓄積されている店舗の日々の売上データなどは、与信にも活用できる。融資に関しては今回株主として参画しているGMOグループとも連携しながら、サービスを提供していく方針だという。
「1つのベンチマークにしているのが、レストラン向けのSaaSを展開している『Toast』です。同社ではオンラインオーダーから在庫管理、顧客ロイヤリティ管理、支払いに至るまで幅広いサービスを提供していて、Toast Capitalという金融事業も手がけています。我々がイメージしているのは、そのウェルネス業界版のようなものです。垂直統合型で(対象としている)業界の企業の経営をあらゆる観点からアップデートするという事業者は日本だとあまり例がなかったので、この領域において日本を代表するような企業を目指していきます」(蓮田氏)