• 実在しそうな山や盆地、川などの地形を再現した広大な箱庭がプレイフィールド
  • 「もしかして、コレもできる?」ができる世界
  • 失敗し、試行錯誤することすら楽しい
  • 確定したと言っても過言ではない「ゲームオブザイヤー2023」

世界のゲーム好きが信用するゲームレビューサイト「metacritic」をご存知だろうか。ここでは、世界中のゲーム雑誌やウェブサイトに掲載されたレビューの点数などを数値化し、サイトの重要度に応じて加重平均をかけて100点満点にした評価「メタスコア」が掲載される。当サイトの過去記事「フロム・ソフトウェアの『ELDEN RING』がゲーム史上、稀に見る高評価を得たワケ」でも、『ELDEN RING』が96点という高得点を得たことを取り上げたことがあるが、ゲーム業界では知らない人はいない指標の1つとなっている。

メタスコアの史上最高得点は99点を記録したNINTENDO64の『ゼルダの伝説 時のオカリナ』(1998年)だが、Nintendo Switchの『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(ゼルダBotW)』(2017年)も97点と、歴代6位タイの高評価を得ている。

そんな世界的人気タイトルであるゼルダBotWの続編・『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム(ゼルダTotK)』が5月12日、Nintendo Switch向けに発売された。公開直後のメタスコアは97点。しかし英Gfinityのレビューが「今作は前作と(ゲーム性が)変わっていない」として60点(10段階評価で「6」)を付けたことなどが影響し、現在は96点へとスコアを落としている。それでも、ELDEN RINGと同じく、歴代まれに見る超高得点だ。

任天堂の発表によると、ゼルダTotKの世界累計販売本数は発売から3日間で1000万本(うち国内販売本数224万本)を突破したという。これは2022年11月18日に発売した『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』に並ぶ、任天堂が過去に発売した全ゲームソフトの最高記録となる。そのほか、2023年5月18日の雑誌「週刊ファミ通 2023年6月1日号 No.1798」(KADOKAWA刊)に掲載されたクロスレビューでも、久々に満点評価を得たソフトとなった。シリーズ最新作となるゼルダTotKはなぜ世界中のゲーマーからこれほどまでに支持されるのか。

実在しそうな山や盆地、川などの地形を再現した広大な箱庭がプレイフィールド

前述のとおり、ゼルダTotKは6年前に発売されたゼルダBotWの続編だ。ゲーム内の時系列的にも、前作のエンディング直後からスタートするほか、基本システムはおろか、地上マップまで前作のデータを流用している。最新作を理解するために、まずは前作であるゼルダBotWの特徴から説明しよう。

ゼルダBotWは、過去の開発者インタビューで「フィールドのサイズは実際の京都市のマップと同等」と回答されていることから、約827.8平方キロメートルの面積(参考:東京都23区部の面積は622平方キロメートル)があると推察できる。プレーヤーは、この広大な“箱庭”の中に放り込まれた主人公リンクを動かし、さまざまな体験ができるのが最大の特徴だ。筆者にとってその感覚は、かつて水陸両用のラジコンカーを公園の池に持ち込んで遊んだ感覚に近い。

馬にまたがって大地を駆け抜け、ロッククライミングのように切り立った崖を登り、空中を滑空する。泳いで渡りきれないような大きな湖は、イカダを水に浮かべて風力を与えて渡る──リンクは自然の中に多数用意された仕掛けを使って、さまざまに動き回る。実際の公園とは違ってフィールドを1人で独占できるし、ラジコンと違って操作ミスにより高所から落下しても壊れる心配もないし、バッテリー切れによる中断もない(操作ミスでライフが尽きればセーブ地点まで戻ることになるが)。

そんなフィールドをくまなく歩き回りたいと思わせるために用意された、謎解きの「ほこら」。プレーヤーは魔物とのバトルに備えてリンクの体力を増やしたくなるため、1つでも多くのほこらをクリアし、体力の源であるハートの数を増やしていく。この要素が、広大なフィールドを探索したくなるモチベーションになる。しかもほこらの謎を解くことも、魔物を倒すこともゲームの必須事項ではない。プレーヤーに提示されるのは、まさに「自由」そのものと言える。

自分だけが独占できる広大な空間を提供され、「冒険でも、散歩でも、どうぞ、ご自由に遊んで下さい。もちろんゲームとして戦闘やストーリーを楽しむこともできるので、なかなか飽きませんよ」と言われているかのようなゲーム。それがゼルダBotWだったのだ。

「もしかして、コレもできる?」ができる世界

ゼルダBotWの「すごさ」は、これだけに留まらない。ゲームという仮想空間の中に、いくつも再現された「現実世界と似た仕組み」も、その面白さを加速させている。

たとえば、時間経過。現実世界の1秒はゲーム内の1分に相当し、24分で1日が経過する。ゲーム内の登場キャラクターは昼間には仕事場で作業をし、夜になると自宅で眠る。特定の時間になると、墓地へ祈りに行くキャラもいる。こういった時間の概念が導入されたゲームはこれまでにもあったが、ゼルダBotWでは魔物にも生活サイクルを持たせている。夜になると武器を武器庫に置き、屋内で就寝する。どうしても倒せない魔物がいたときは、夜中に武器庫から武器を奪い取った上で、寝込みを襲うといった攻略法もある。

ゼルダBotWではこれに加えて、世の中の物理現象をいくつもシミュレートするという試みを取り入れた。たとえば焚き火の近くにリンクが立つと服に火が燃え移り、ダメージを受ける。しかし焚き火の近くにキノコやりんごなどを置くと、加熱調理されて食物の栄養価が上がる。そんな場所に雨が降ると焚き火は消え、崖を登る際に手が滑りやすくなる反面、雨の音の影響でリンクの足音が聞こえづらくなり、走っても魔物から発見されにくくなる。

時には雷雨になることもあるが、その際に金属製の武器や盾などを装備していると落雷し、ダメージを受けてしまう。だがこれを利用し、夜間に寝込んでいる強敵のそばにそっと金属製の盾などを置いておくと、落雷で魔物に大ダメージを与えるといった攻略方法もある。つまり「もしかしてコレ、できる?」を試したくなり、試して、成功して「よし!」とガッツポーズを取りたくなるわけだ。

もちろん魔物たちを倒し、宿敵を倒してエンディングを迎えるゲーム進行を楽しむ人のほうが多数派だ。ゼルダBotWは「自分で遊び方を探す」ような、ゲーム慣れした人々から大絶賛されていた一方で、指示された順番でシナリオを追体験していく、いわゆる「一本道」なゲームを好むユーザーからは、それほど高い評価は得られてはいなかったようだ。ゼルダBotWは超名作ではあるが、『スーパーマリオブラザーズ』シリーズのような、万人向けのゲームではなかったことも事実ではある。

失敗し、試行錯誤することすら楽しい

ここまで説明してきた内容は、すべて前作のゼルダBotWについての内容だ。最新作のゼルダTotKでは、これらの要素はすべてそのまま引き継がれている上に、「今作ならでは」の要素が加わっている。

新要素の中でも特筆するのが、「ウルトラハンド」というリンクの新たな能力だ。往年のゲームファンなら、この名前は任天堂が1966年に発売した、いわゆる「マジックハンド」の製品名だということに気付くかもしれない。

ゼルダTotKのゲーム内におけるウルトラハンドは、ゲーム内のオブジェクト(木材や板、各種パーツなど)をつかんで動かし、ほかのオブジェクトに近づけることで「接着」させる能力のことだ。たとえばリンクの目前に大きな湖が広がっていたとしよう。そしてリンクの足元には、いくつかの木材や扇風機パーツ(ゲーム内では「ゾナウギア」と呼ぶ)が落ちている。これらを組み合わせて自走式のイカダを作るというのが、ゲームを進行させるための解法であることにひらめくはずだ。

そこでまずは木材を1本用意し、そこに扇風機を接着する。急造のイカダを水に浮かべてみたら、扇風機の重量により木材がクルリと回転してしまい、扇風機は水中へ沈んでしまった。そこで木材を1本増やし、2本の木材を横に接着。これで回転はしなくなったが、今度は扇風機を取り付けていた位置が中央ではなかったため、真っ直ぐ進んでくれない。ではどう解決するのか? 扇風機の取り付け位置を2本の木材の中央へ移動させるのも1つの正解だが、扇風機をもう1つ用意して、左右に傾かない「ツインエンジン」にしても構わない。

かつてラジコンやミニ四駆などに触れたユーザーであればなおさら、自由な「組み立て」によるゲーム攻略に高揚感を覚えるのではないだろうか。筆者は子供時代にミニ四駆を組み立てていて、「モーターの数を2個、4個と増やしていったら、もっと速くなるか」とか、「ボディを前後に延長したら車体が跳ねずに安定するのではないか」と考えたことを思い出した。ほかにも「ここで下から支えてくれる道具があれば、高い位置にある宝箱が取れるのにな」というような仕掛けなどが提示される。そんな仕掛けをクリアするための道具を、その場にある材料を接着して自ら作り出す。これがゼルダTotKで追加された、最大の新要素だ。

別に格好いい自動車やイカダを作る必要はない。ゲーム内で提示された仕掛けをクリアできる機能を持つ道具さえ作れればそれでいい。でも、せっかく作るのなら……と、パーツの接着位置や配置などにこだわり始めると、それだけで数時間が経過していたなんていうことも、このゲームにおいては珍しい話ではない。

この感覚は、レゴのようなブロック玩具で何かを作っている感覚にすら似ている。最大の違いは、現実世界とは異なり、そのブロックが豊富に用意されていることだ。組み立てられる道具や乗り物の幅はかなり広い。また自ら作成した道具を用いて仕掛けをクリアした時の達成感は計り知れない。

ゼルダTotKの発売から1週間。ウルトラハンドの機能を使って独創性の高いさまざまな道具を作り出し、動画をSNSで公開しているユーザーも多数見かける。それらの多くは実用性よりもビジュアルインパクトを重視した大喜利のようなものばかりだが、それがまたファンの心に響き、自分も面白いものを作りたい、このブームに参加したい、という気持ちを生む。SNSにおけるポジティブな共感やバズが生まれるという意味でも、ゼルダTotKは最上級の成功例だと言える。

確定したと言っても過言ではない「ゲームオブザイヤー2023」

ゲーム内のシナリオを進めてエンディングに向けて進むのは、一般的なゲーマーの行動原理だ。戦闘の難易度は前作に較べて難しくなっているため、クリアを目指すのであればハート数を増やしながら挑むといいだろう。しかし、前述したようなウルトラハンドや、物理法則を利用した「あそび」を楽しみ始めると、果てしない遠回りを始めてしまい、いつまで経ってもゲームをクリアしない人も珍しくないのではないか。そんな懐の広さ、自由度こそが、ゼルダTotKの魅力だ。筆者にはゼルダTotKが世界各国の「ゲームオブザイヤー(年間最優秀ゲームの表彰)」を総なめしているであろう未来が見える。もっとも権威があると言われているイベントは、毎年12月にアメリカで開催されている「The Game Awards」。同イベントにおける最優秀賞である「Game of the Year」には、2022年はELDEN RING。もちろん、2017年にはゼルダBotWが選ばれた。

なお、本記事の冒頭で説明した「ゼルダTotK」に60点を付けた英GfinityのライターJosh Brown氏は、世界中のファンからTwitterを介して猛烈な非難を浴び、Twitterアカウントを非公開設定にした。60点という低評価がなければ、98点という歴代2位タイのメタスコアが付けられていたかもしれないという、ファンからの恨みを買ったのだろう。

最後に、任天堂オーストラリアがYouTubeで公開しているゼルダTotKのCMを見てほしい。疲れ果て、帰宅した男性サラリーマンが家のテレビでゼルダTotKをプレイする。帰宅中は無表情だった彼が口角を上げたり、真剣な表情になったり。自分のミスで溺れるリンクを見て「くすっ」と微笑む場面もある。前述したマジックハンドによる工作で失敗し、試行錯誤の上で成功。昨日まではただの移動でしかなかったバスの通勤時間が、Nintendo Switchを持って出勤したことで戦闘シーンを楽しみ、笑顔になるサラリーマン。バスの車窓から見える見慣れた風景も、昨日までとは違って見えるようになった、という展開だ。

このCMに、ゼルダTotKの良さが詰まっているように感じた。筆者も、日常生活で通りかかる風景を見て「この壁なら、握力ゲージがなくなる前に登りきれるかな」などと考えている自分の思考に気付いたとき、すっかりゼルダTotKの虜になっていることを自覚した。NHK連続テレビ小説『らんまん』オープニング映像のような花や草に溢れたハイラルの大地へ、今宵も出かけたいと思う。