
6月28日から30日にかけて京都市で開催中のスタートアップイベント「IVS2023 KYOTO」。これまで毎年2回程度、スタートアップの起業家や投資家を中心に招待制で開催していたイベントだ。今回はベンチャーキャピタルのHeadline Japanに加え、京都府や京都市などからなる「IVS KYOTO実行委員会」が主催。合わせて招待制を廃止し、チケットを購入すれば誰もが参加できる登録制に移行した。これにより、過去最大となる1万人超の登録者を記録している。
そんなIVSで毎回定番となっているピッチコンテストがLAUNCHPADだ(今回の名称は「IVS2023 LAUNCHPAD KYOTO」)。アーリーステージのスタートアップを対象にした、6分間のピッチコンテスト。Headlineによると過去の通算エントリー企業は5000社以上、登壇企業の60社がイグジット(上場やM&A)している。国内でもメディアやVCが主催するスタートアップ向けピッチコンテストは複数あるが、その草分け的存在でもある。
今回のLAUNCHPADには約400社の応募から選ばれた14社のスタートアップがピッチを繰り広げた。見事優勝を勝ち取ったのは、介護向けIoTパッド「ヘルプパッド2」を提供するabaだった。同社はまた観覧者投票により決まるオーディエンス賞も受賞した。abaには「スタートアップ京都国際賞」として、最大1000万円の補助金が授与される。
Aba代表取締役の宇井吉美氏は受賞後に、15年前にサービスを開発するきっかけになった介護士と連絡が取れないとコメント。SNSなどを通じて本人へメッセージを届けたいと思いを語った。
2位は債権管理自動化ツールの「Lectoプラットフォーム」提供のLecto、3位には電話・商談をAI解析する「JamRoll」提供のPoetics、4位にはセキュリティ規制の適用支援する「SecureNavi」提供のSecureNavi、5位にはEC特化ノーコードツール「TēPs」を提供するテープスが続いた。登壇した14社の概要は以下の通り(登壇順)。
Stroly「Stroly」
京都発のスタートアップ。GPSと連動したデザインマップを提供できるプラットフォームを展開する。すでに世界40カ国に対応。GPSデータはリアルタイムで取得可能。誤差は20m程度で、データを元にヒートマップ表示や時間帯別表示などで人流を確認できるダッシュボードを提供する。
Poetics「JamRoll」
電話・商談をAI解析し、録画データや音声、その議事録やその要約などを自動生成。それをSFA(Sales Force Automation)へ自動入力して商談の効率化を実現する。ToDoやタスクも自動で起こし、AI解析で課題や感情解析なども展開する。強みは自社開発のAIによる音声認識の精度。大規模言語モデルの開発はAI研究者だけでなく、哲学者も関わり開発しているという。
aba「ヘルプパッド2」
3つの「においセンサー」と通信モジュールを内蔵した介護用パッドを展開するスタートアップ。7年間・300人・5000以上に渡って集めたセンサーデータが最大の強みで、これにより高い精度での尿・便を検知する。管理用のダッシュボードも提供しており、導入施設内すべてのパッドの状態を確認できるため、おむつ交換の効率化を図ることができる。尿と便の両方を検知できるのは現在同社のみだという。
Lypid「Lypid」
台湾発の植物性代替肉スタートアップ。本来常温で液状である植物性油脂だが、動物性脂肪のように常温で固形を保つことができる独自技術「PhytoFat」を生かしたジューシーさが特長だという。またこの代替肉はトランス脂肪酸ゼロで、水素添加なしの植物肉を提供する。すでに台湾と米国で500店舗以上に展開している。
レコテック「pool」
メーカーがサーキュラーエコノミーを実現するには、リサイクル材料の品質、コスト、調達量、トレーサビリティが求められる。だが分別するほど回収コストがかかる。その解決に向けたデータ管理サービス。資源を廃棄する企業が資源を登録。回収したい企業向けにその資源データを可視化。その資源を回収、リサイクルした際にもデータを管理することで、資源再利用時にトレーサリビティを実現する。現在大手百貨店やデベロッパーなどに展開。8月には自動車メーカーの導入も予定する。今後はカーボンオフセットのクレジットも提供する予定。
SPeak「JPort」
日本の大学で学び、日本で働くことを目指す高度若手外国人材のキャリアプラットフォーム。英語および日本語で、100本以上の就活向けコンテンツ(記事および動画)を提供。さらに30カ国70人の「SENPAI(外国人材の先輩)」に相談をしたり、オンラインで相談などができるコミュニティを用意。ユーザーは卒業後に99.7%がこのSENPAIに登録するという。また企業側は日本語で学生に「つながり」を申請し、コミュニケーションを取ることができる。1人あたり採用コスト76%減という事例もあるという。今後は外国人キャリア支援だけでなく、外国人の住まいや金融に関するサポートビジネスも計画する。
パナリット「パナリット」
給与や勤怠、評価、労務など人事に関わるデータをAPIで連係。データ診断とクレンジングを行い、「人的資本KPI」として表示する。これにより、「産休・育休を取得した人材のキャリアが遅れている」「20代の短期離職率が増加している」といったデータの見える化を実現する。
KEEN「KEEN Manager」
顧客紹介やSNSでのシェアなどをしてくれる「スター顧客(優良顧客)」を発掘・育成する、BtoB向けのコミュニティデータ統合分析サービス。SNSやコミュニティサービスなどを連携し、目的に応じた重み付けをすることで、ユーザーの貢献度を分析。プラットフォームを横断して、活動状況を時系列で確認することができる。
Lecto「Lectoプラットフォーム」
債権管理・督促回収を自動化・効率化するプラットフォーム。自社のユーザー(債務者)データをCSVでアップロードし、督促用のテンプレートを作成。督促アクションのタイミングを設定をすれば、自動で督促を行う。EメールやSMS、電話などの手段に対応する。担当人員の稼働時間半減などの実績も生まれているという。現在の取り扱い債権額は400億円、年間売上高は4.2億円に上るという。
ジーフィット「TRADOM -トレーダム- 為替ソリューション」
400以上の教師データをもとに為替をAI予測し、適切な為替予測を行う。その予測に基づき、TRADOMによるヘッジ効果も表示することができる。リリース3週間で10社以上の大手企業が導入。海外通貨についてもサービスの展開を計画する。
SecureNavi「SecureNavi」
社内規定のドキュメントをアップロードすると、さまざまなセキュリティ規制への対応を自動で判定。問題があれば規定の改定案を提案してくれる。さらに、規定の中にあるタスクを自動で抽出してくれることで、規定の徹底を図る。2024年までに国内外17のセキュリティ規制に対応する予定。
OpenFactory「Printio」
プリントオンデマンドをECサイトをはじめとしたウェブサイトに組み込む、ものづくりのためのサービス。工場のDXを進めてプリントオンデマンドの業務フローを効率化。さらにAPIを提供することで、ECサイトや各種サイトで、オリジナル商品やカスタマイズ商品のオンデマンド印刷を実現。累計製造個数は14万個、6工場で展開。
テープス「TēPs」
ECに特化したノーコードツール。楽天市場やAmazon、ShopifyなどのECプラットフォームを始め、コミュニケーションツールなどを連係して、ワークフローの自動化を実現。さらにCRM・基幹システムとの連係機能などを影響する。
タッチスポット「CEOclone」
無駄な商談を減らし、有効商談を増やす。商談DXプラットフォーム。経営者や営業担当者といったユーザーのクローン(ユーザーによる自社サービスの解説動画)を生成。そのURLを見込み顧客に送ることで、顧客はクローンによる営業提案を受けることができる。動画はアジェンダごとに分割。動画の最中にヒアリングを行うことで、顧客ごとに最適なアジェンダを自動で提案する。架電の獲得効率で11倍、架電数で1000件から90件への削減といった事例も生まれている。リリース3カ月で売上高5000万円を達成。