ファイナルファンタジーXVI公式サイトより
  • クリアまでは約35時間、半分は物語を「観る」ゲーム
  • 競合コンテンツはファンタジー映像作品
  • シリアスで哀しく、重い「大人のFF」ストーリー
  • 二度と出会えるかわからない、スクウェア・エニックス渾身の超大作

スクウェア・エニックスを代表する『ファイナルファンタジー』シリーズ最新作『ファイナルファンタジーXVI(FF16)』が6月22日、「PlayStation 5(以下PS5)」で発売された。PS5の販売台数は3840万台。PlayStation 4(累計1億1700万台販売)に比べて3分の1以下しかないハードの「専用ソフト」であるにも関わらず、発売から1週間で世界累計300万本を販売したという発表があった。6月2日に発売したカプコンの『ストリートファイター6』はPS4、PS5、Xbox Series X|S 、Steam(Windows)という4機種用の合計本数が100万本だったことを考えると、その売り上げの多さを実感できるだろう。

しかし、FF16を商業的に大成功と評価するのはまだ早い。経済メディア「NewsPicks」において、メディアアーティストの落合陽一氏と対談したFF16プロデューサーの吉田直樹氏は「最初に会社へ提出した開発総予算の資料は見たくもない」、「(開発費増加の経緯について)FFというタイトルは、引くに引けないところがある」と語っていることから、莫大な開発費用が投入されていると推察される。

PS5の発売元であるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)にとっても、FF16はPS5を売り伸ばす意味で重要な役割を担っている。FF16は「PS5版の発売から半年間は他ハードでの発売を制限」しているが、そこにはSIEからスクウェア・エニックスに対する契約金などの便宜が図られていることが想定される。また、SIE側のPS5開発担当者がFF16の開発に協力したほか、FF16の広告費用の一部をSIEが負担しているような吉田氏の発言もあった。こうした援護射撃がありながらも、吉田氏は「売上目標は発売から18カ月後までの累計本数」という発言があったことから、300万本という好調な数字をもってしても、黒字ラインには到底到達できていない状況がうかがえる。

ちなみに、ゲーム業界内でのソフト評価としてデファクトスタンダードとも言えるメタスコア(各種ゲームニュースサイトのレビュー評価をもとにした指標)では、100点満点中88点という高得点となったFF16。英ゲームニュースサイトのEurogamerが「黒人が登場しない」という理由で60点の評価を行わなければ、89~90点も狙えたかもしれない高評価だ。一方で、一般ユーザーからの評価では10点満点中7.9点。決して低い数字ではないが、メタスコアには劣る。この差はどうして生まれたのか。そしてFF16はどんなゲームなのかを、本記事で説明していこう。

クリアまでは約35時間、半分は物語を「観る」ゲーム

吉田プロデューサーによると、FF16は寄り道をせずにメインストーリーだけを進めていくと、約35時間でクリアできるという。筆者がプレーしてみると、プレー時間のうち約半分は映像作品のように物語を「観る」時間。残りの半分はプレーヤーが操作して、キャラクターを移動させたり、モンスターと戦闘するといった割合に感じた。正直、過去の「RPG」および「アクションRPG」において、ここまでストーリーに比重が置かれた作品は類を見ない。

モンスターとの戦闘は、ゲーム開始時に選ぶモード次第で大きな変化がある。アクションゲームが苦手な人向けに用意された「ストーリーフォーカス」を選ぶと、操作をサポートしてくれるアイテム(アクセサリー)を複数装備した状態でゲームが始まる。アイテムには、「攻撃ボタンを押すだけで敵に接近し、連続攻撃を繰り出してくれる」、「敵から攻撃を受けそうになるとスローモーション演出となり、回避ボタンを押すまでの時間的な猶予が延長される」といった効果があるため、操作の難易度は低い。この戦闘シーンをアクションゲーム的に遊びたいと考えるプレーヤーなら、これらアクセサリーを「攻撃力UP」のような操作サポートをしないものに交換することで、ゲームの手応えを変更できる。

このようにFF16は物語を観ている時間が長く、しかも戦闘における操作難易度が低い設計だ。さらに、プレーヤーが迷わないように地形もほぼ一本道になっている。ただFF16の期待値が高すぎたこと。さらに、内容が既存のFFシリーズ、および既存のアクションRPGと違い過ぎることから、「想像していたものと違った」という戸惑いの声が散見された。

昨今は『ゼルダの伝説』シリーズや、そのゼルダシリーズに影響を受けたと公言している『ELDEN RING』のように、自由度の高いゲームがヒットしている。それらと比較して考えると、FF16はその真逆のゲームだ。加えてシリーズ自体の知名度の高さから、「操作している時間より、ムービーを観ている時間のほうが長い」「戦闘シーンが簡単過ぎる」といった過去作と比較した否定的な意見もSNS上に挙がった。こうした背景もあり、メタスコアのユーザーレビューは上述の7.9点でスタート。だがその後はゲームをクリアしたユーザーらによるポジティブな評価が増加。ソフト発売から1週間後の6月29日には、ユーザースコアが8.3にまで上昇するという珍しい現象も起きた。

ちなみに筆者はアクションゲームが好みだが、各種戦闘サポートアイテムを使って「敵の大群を相手に、ほとんど攻撃を受けずに無双している」という派手な戦闘シーンが気に入り、ストーリーフォーカスのままクリアした。

競合コンテンツはファンタジー映像作品

FF16をプレーしていると、ゲームというよりは長編の映像作品を観ているような気分になる。中世ヨーロッパを模したFF16の舞台は、映画『ロード・オブ・ザ・リング』や、アメリカのテレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』といったファンタジー作品に近い。FF16はゲームというプラットフォームを用いて、これらファンタジー映像作品を超えるコンテンツを目指したようにも感じる。

ゲームであることの利点はいくつかある。1つ目は、戦闘シーンで(簡単操作でも)自分で操作して敵を倒しているため、「自分が強い」という自信や、強敵との戦闘で瀕死になる緊張感も含めて感情移入がしやすいこと。2つ目は、フィールド移動時に自由にカメラ視点を変えて全方向の景色を眺められるため、世界を堪能できること。そのほかにも、地面の揺れや衝撃をコントローラーの振動で感じたり、重い扉を開ける際にはR2トリガーを押す「抵抗」が重くなることで、プレーヤーが「作品内に介在している実感」もある。

このほか、FF16は映像のほとんどを3DCGでリアルタイムに描画しているため、実写カメラには撮影できないようなアングルや演出、被写界深度まで自由自在だ。映像クオリティも4K解像度+HDRカラー。サウンド面もPS5の3Dサウンドに対応しているため、自宅にPS5と4Kディスプレイがあれば、IMAXレーザーを備えた映画館並のオーディオ&ビジュアルを自宅で堪能できる。

また劇場で観る映画とは異なり、自分の好きなタイミングで中断・再開もできるため、毎日帰宅後に1~2時間ずつプレーするといった楽しみ方もできるのは、地味に嬉しい。なにしろFF16の想定プレイ時間(35時間)は、1作が約3時間の『ロード・オブ・ザ・リング』なら11作ぶん。1作が約1時間の『ゲーム・オブ・スローンズ』に換算すれば35話、4シーズンぶんのボリュームがあるのだから。

シリアスで哀しく、重い「大人のFF」ストーリー

本作における魔法使いは「ベアラー」と呼ばれ、奴隷のような扱いを受けている。そして、魔法を使うごとに身体が石化していくという設定がある。召喚獣は、過去のFFシリーズでは「魔力を用いて呼び出す強力な魔法」という設定だったが、FF16では「体内に宿す強力な魔物(魔力)」という扱い。召喚獣を宿した人間は「ドミナント」と呼ばれ、ある国では王家の血筋としてあがめられるが、一方では国家間の争いで使う兵器と認識され、奴隷のような扱いをしている国もある。

主人公のクライヴはドミナントの血筋である王族の長男に生まれたが、召喚獣を宿したのは病弱な弟。ある事件をきっかけに弟はクライヴを守るために召喚獣へと変身するが、別の召喚獣に倒される現場を目の当たりにする。冒頭まもなく訪れるそのシーンから、彼の復讐劇が始まるというのが本作のストーリーだ。

本作のレーティングは、FFシリーズとしては初のCEROレーティング「D(17歳以上を対象とする表現内容が含まれている)」。北米のレーティングである「ESRB」も同じく17歳以上向けの「M」。さらにEUのレーティング「PEGI」では18歳以上向けとなっている。過去作と比較して厳しいレーティングの理由は、過酷な奴隷の扱いやベット上での男女の会話シーン、さらには同性愛表現などで、重厚なストーリーを描いているからだ。前述のゲーム・オブ・スローンズに見られるような直接的なセクシャル表現こそは避けつつも、これまで日本のゲームが触れてこなかった、人間心理の暗部にも踏み込んだ作品になっているのだ。

今年5月、サウジアラビアのレーティング組織はFF16の発売中止を発表している。「パブリッシャーが必要な変更を行うことを望まないため」と説明があったが、こういった表現に関わることは容易に想像できる。同国ではこれまでも同性愛表現のある映画の放映が禁止になっている。

二度と出会えるかわからない、スクウェア・エニックス渾身の超大作

FF16の開発スタッフは、ゲーム好きならばその名を二度見してしまうような面々が揃っている。

まずプロデューサーはFF14を大成功させた吉田直樹氏で、ディレクターもFF14でデザインセクションマネージャーを担当した高井浩氏。デザイナーの権代光俊氏はFF11のプランナーで、鈴木良太氏は以前のカプコン在籍時代に『戦国BASARA』や『デビルメイクライ』といった人気アクションゲームシリーズなどに関わった。シナリオはFF14でメインシナリオライターを務めた前廣和豊氏で、音楽もFF14の祖堅正慶氏。キャラクターデザインもFF14の髙橋和哉氏。

このようにFF14と同じ第三開発事業本部が開発しているためFF14スタッフが多数参加しているが、FF16ではこれに加えて第一開発事業本部の『キングダムハーツ』開発チームや、『ニーア オートマタ』を手掛けたゲーム開発会社のプラチナゲームズまでも、FF16の開発に参加。さらにPS5の開発者がSIEから技術サポートで協力したことも報じられている。つまりFF16はスクウェア・エニックスにできる、「ゲーム業界のアベンジャーズ」とも言うべき精鋭チームが作り上げた作品であり、これ以上のクオリティを持つゲームには、残りの人生で何度出会えるかわからない。

PS5の所有者は「PS5の性能をフルに引き出してくれる」というソフトは発売日直後に飛びつくため、発売後1週間で300万本売れたという数字には納得がいく。しかし、「現在はPS5を持っておらず、FF16のためにPS5ごと買う」というユーザーが今後どこまで増えるのかはSNSなどでの反響次第だ。それを期待してか、スクエニは公開に前向きな姿勢の動画配信ガイドラインを発表。異例の対応にゲームファンの話題を集めた。ストーリー重視のゲームであれば、「YouTubeで実況を観たから満足した」と、購入を控えられてしまうリスクもある。だがそれ踏まえた上で、FF16は「世の中に認知されること」を重視したのだろう。

販売本数で見れば、間もなく発売から2週間となり、通常のゲームタイトルであれば“初速”が一段落するタイミング。7月以降の売り上げはいったん落ち込み、次の盛り上がりは年末商戦における「PS5本体とのセット購入」という動きになるだろう。だが莫大な開発費用を投じたスクウェア・エニックスの予測では、2023年の年末商戦に売り伸ばしができたとしても、それでも黒字化できないという見込みだ。それほどまでのリスクを負ってでも、世に送り出した渾身(こんしん)の超大作なのである。

過去のFFシリーズや、既存のアクションRPGと較べて違うと評されるFF16。スクエニの本気と、主人公クライヴを待ち受けてる結末について、その目とその手で体感してほしい。