
- 競合でなく追い風、“ちょこざっぷの近所”でも増える会員数
- 8割は「ジムが続かなかった人」や「ジム未経験者」
- 飲食店のオーナーがフィットジムのオーナーに転身
- フィットネスジムは飽和市場ではない
低単価で利用できる24時間型のフィットネスジムが国内で広がっている。中でも勢いがあるのが、RIZAPグループのRIZAPが2022年7月より展開している「chocoZAP(ちょこざっぷ)」だ。
RIZAPグループの発表によると、chocoZAPの会員数は8月15日時点で80万人に到達した。直近の決算情報で開示されている会員数に基づくと、エニタイムフィットネス(6月末時点で78万人)やカーブス(5月末時点で77.2万人)を上回ったかたちだ。
店舗数も8月14日時点で880店舗まで増えた。中期経営計画では2026年3月期の目標として、2000店舗の達成を掲げる。
以前から国内でも24時間運営のフィットネスジムは存在していたが、近年はchocoZAPを筆頭に月額3000円程度で利用できる低単価型のタイプが目立つようになってきた。2020年創業のスタートアップ・FiT(5月にLifeCoachから社名変更)も、この領域で事業を手がける1社だ。
FiTでは2022年2月より2980円(税込み3278円)で30日間通い放題の24時間型ジム「LifeFit」を運営する。価格の安さに加え、専用のモバイルアプリから入会や退会の手続きが完結する手軽さもウリだ。
現在はフランチャイズ形式で24店舗を展開しており、MAU(月間利用者数)は約1.3万人。20代の男性を中心に利用者を広げる。
競争が激しくなっており、“レッドオーシャン”にも見えるフィットネスジム市場。スタートアップがどのように戦っていくのか、FiT代表取締役の加藤恵多氏に聞いた。
競合でなく追い風、“ちょこざっぷの近所”でも増える会員数
「現時点ではフィットネスジム人口のパイを取り合っているというよりも、これまで応えられていなかったニーズや新しいニーズを掘り起こしている感覚に近いです」
LifeFitのオープンから約1年半。加藤氏は事業の現状をそのように説明する。
LifeFitを含めた低単価の24時間ジムに関しては、この1年でchocoZAPの存在感が急激に高まっている。LifeFitとしては比較対象となるサービスが増えてきている状況だが、「実は必ずしもバッティングしていない」と加藤氏は話す。
「最初に立ち上げた店舗の近くにchocoZAPさんがオープンされたのですが、実はその後も会員数は増え続けたんです。もちろん利用者の中には(chocoZAPなどに)移動した方がいる可能性もありますが、主なユーザー層は明確に異なっていると感じます。確かにデジタル広告のCPA(獲得単価)が上がっているといった側面はありますが、パイの奪い合いになってユーザーが全く増えないということはありません。むしろ業界が注目されることでLifeFitを知ってもらえるという意味では、追い風になっています」(加藤氏)

トレーニング器具だけでなく、エステや脱毛関連のマシンも充実しており、初心者層を中心に女性の利用者も多いchocoZAP。一方でLifeFitは20代の男性ユーザーが中心で、全体の8割程度を男性が占める。
ユーザー属性だけを見れば、LifeFitはchocoZAPよりもエニタイムフィットネスの方が近いと言えるだろう(同ブランドも2023年6月末時点では40代以下の会員が約9割、男性が8割弱を占める)。
8割は「ジムが続かなかった人」や「ジム未経験者」

加藤氏によるとLifeFitでは「フィットネスで成果を出したい」「運動を習慣にしたい」といった“成果にこだわるユーザー”が多く、店舗のレイアウトや設置する器具も本格的なフィットネス空間を目指して設計しているという。
具体的には60〜100坪程度の箱の中で、ユーザーのレベルや用途に合わせてゾーンを分けながら複数のマシンを設置。初心者でも扱いやすいマシンだけでなく、慣れてきたユーザーや中上級者用のマシンも用意し、フリーウェイト用のスペースなども設ける。
「レイアウトやマシンによっても、利用者層は大きく変わってくる。それがフィットネス業界の面白さの1つだと思います。この業界ではどこかが全ての領域で勝つのではなく、細かいセグメントごとに棲み分けが進んでいます。(LifeFitでは)事業を始めた当初はターゲット層がもう少しぼやっとしていて、広い層の方に向けて設計していた部分がありました。この1年で『成果を重視する人』という軸が明確に定まり、そのような方々に使ってもらえるジムになってきています」(加藤氏)

加藤氏が棲み分けが進んでいると話すように、既存のジムからLifeFitに乗り換えたユーザーは全体の2割程度とそれほど多くはない。残りの8割は過去にジムを試したものの続かなかった人や、運動に興味はあれどジムに通ったことがなかった人だ。
既存のジムでは価格が高かったり、入会や退会の作業が面倒で「始めづらく、やめづらい」設計になっていたりと何らかの課題が存在している。その課題を解消していくことで、新たな市場やニーズを開拓できる余地があるというのが加藤氏の見立てだ。
LifeFitではジムの開設と合わせて、ユーザー向けのアプリや管理者用のバックエンドのシステムを全て自社で開発。ユーザーの手続きの手間を省くとともに、無人型のジムとして人件費を抑えて運営できる仕組みを作ることで、低価格を実現した。
また定額利用だけでなく、都度利用できるプラン(現時点では1回550円で単発利用が可能)を用意することによって、気軽に運動を始めやすい環境も整えている。

飲食店のオーナーがフィットジムのオーナーに転身
内製のITシステムなどを駆使して運営の業務負荷を減らしたことは、フランチャイズ店舗のオーナーを集める上でもプラスに働いている。現在加盟しているオーナーの半数近くは、飲食店やコインランドリーなど「他業種のビジネスを展開していた事業者」だという。
「コロナ禍で既存事業の収益が落ちたことなどを1つのきっかけに、新たにフィットネスジムの運営に挑戦したいという方が増えています。割合としては新しく物件を借りて店舗を構えるケースが多いものの、2割程度はコインランドリーや飲食店など、既存の店舗をフィットネスジムに作り替えて運営されています」(加藤氏)
フィットネス業界の中でも直営型か、フランチャイズ型かは企業ごとにアプローチが異なる。FiTとしては「フィットネスに特化したIT企業として拡大する」戦略のため、自社ではソフトウェアやビジネスモデルへの投資に注力する方針。地場に精通したオーナーと協業しながら、フランチャイズ型で事業の拡大を目指す。
加藤氏が「思っていた以上にフィットネスジムの運営に関心がある人が多い」と話すように、すでにフランチャイズ加盟に関して約4000件の問い合わせがきているという。FiTでは2025年までに1000店舗の出店を目標に掲げる。

フィットネスジムは飽和市場ではない
FiTでは今後の事業拡大に向けて、8月16日にシリーズAラウンドの資金調達を実施した。
ニッセイ・キャピタル、XTech Ventures、みずほキャピタル、W fund、THE SEEDを引受先とした第三者割当増資で約3.5億円。金融機関からの約2.5億円の融資も含めると、調達額は総額で約6億円になる。
調達した資金を用いて店舗の拡大のほか、トニーニング記録の管理や伴走支援など、ユーザー向けアプリの機能拡充を進める。LifeFitとは異なる利用者層を想定した、別ブランドの施設を開始する計画もあるという。
「人口当たりのジムの数では、日本は米国の半数以下しかありません。日本では利用しやすいフィットネスジムの供給量がまだまだ足りていないと考えています。『フィットネスジムはもう飽和市場ではないか』と思われるかもしれませんが、そんなことはない。市場のニーズを掘り起こしていくことで、業界自体がもっと伸びていく可能性があります」
「まずは通いやすくて続けやすく、しっかりと運動ができて体を変えられるようなジムの数を増やしていきます。その先ではITを組み合わせて、ジムの体験自体をアップデートしていく。そうすることで、今まで業界で存在しなかったようなサービスを提供していきたいと考えています」(加藤氏)