
- 情報は「ググる」から「アルゴる」へ、Z世代のメディア活用
- 透明でフェアな「生の声」がZ世代を引きつける
- 「推しやすさ」がフォロワーを築く上では重要
- Z世代は「この人と仕事をすると、どんな世界に行けるのか」で仕事を選ぶ
- 「異なる価値観の背景を考える」ことが社会を前進させる
1990年代後半から2010年代序盤生まれの「Z世代」。ネットメディアやSNSを通じて毎日膨大な量の情報に接する彼ら・彼女らにとっては、もはや検索をすることは最優先の行為ではない。大事なのは、(SNSの)アルゴリズムによるレコメンドと、そのレコメンドされた情報を「推せる」かどうかである。
電通のクリエーティブ・ストラテジストとして企業やアーティストのブランディング支援に従事しながら、10~20代の実態調査をする「電通若者研究部」にも所属する用丸雅也氏は、Z世代のメディア接触についてこのような分析をする。かつて「Googleで検索をする」という意味から「ググる」という言葉が生まれたように、「SNSのアルゴリズムでレコメンドされた情報を選択する」ことから始まるZ世代の行動を用丸氏は「アルゴる」という造語で説明する。Z世代は、GoogleやInstagramの検索よりも、レコメンドで自分好みのショート動画が流れてくるTikTokなどから情報を得るということだ。
ではZ世代が魅力を感じるメディアのコンテンツとは一体どんなものなのだろうか。そして「推し」はメディアやブランドのあり方にどうつながるのか。用丸氏に聞いた。
情報は「ググる」から「アルゴる」へ、Z世代のメディア活用
——Z世代はどのようにメディアに接触しているのでしょうか。上の世代との違いなどを教えてください。
ひと言でいうと「ググる(グーグルで検索する)」から「アルゴる(アルゴリズムに任せる)」へ変化しつつある状況だと思います。「アルゴる」というのは僕の造語ですが、Googleのような検索エンジンを使った「検索」ではなくて、情報の選択をもはや(SNSなどの)アルゴリズムに任せているのが、今のZ世代のメディア接触です。
僕は今年30歳で、いわゆるミレニアル世代(1980年代〜1990年代なかば生まれ)の人間です。僕らの世代にとって「情報リテラシーが高い」ということは、「いかに自分が欲しい情報を探しにいけるか」ということを指しました。つまり、情報を「自分から取りに行く」というスタンスを意味します。
それがZ世代の場合だと、情報は気づけばすでにスマホに集まっている状態です。なので、リテラシーの高さとは、「いかにして目の前に出てくる情報を取捨選択するか」を意味するようになったと思います。さらには、「もはや自分で選びすらしない」という段階まで進みつつあるというのが、「アルゴる」という言葉に込めた意味です。
Z世代は本当にTikTokをよく見ますよね。それはなぜでしょうか。InstagramやX(旧Twitter)、Googleは、基本的には自分たちから何らかのアクションをしないと欲しい情報に接触できません。それに対してTikTokは、アプリを開いた瞬間にショート動画が流れてくる。しかもアルゴリズムがその人好みの情報を取捨選択してくれているので、情報が自分にフィットしている度合いが異常に高い。自分が本当に興味のあるものを先回りしてレコメンドしてくれる——TikTokがZ世代を引きつけるのは、そんなイノベーションを起こしているからです。
それゆえZ世代においては、文字情報での検索だけでなく、動画を検索するという行為が一般的になっています。例えば、北海道のニセコ町に旅行しようという時、僕はGoogleやInstagramを見てしまうんですが、Z世代はそこでTikTokを見る方が多い。ショート動画に情報がまとまっているので、検索して文字を読むよりも、「この人気の動画さえ見れば、ニセコで何をすればいいかが一瞬でわかる」ということなんです。
これは、「コスパからタイパ(タイムパフォーマンス)へ」という価値観の変化とも合致します。タイパとは、いかに短い時間で効率よく対価が得られるか、ということです。情報量が増えすぎたことで、可処分所得だけでなく可処分時間が足りなくなっているんです。
——ニセコへの旅程をTikTokで決めてしまうことはあっても、例えば車のような高額なものを買うとなると状況が違うと思います。Z世代は、自分の状況に応じて接触するメディアを使い分けたりしているのでしょうか。
おっしゃる通り、一般的にZ世代は可処分所得が少ないので、適当にお金を使うということはありません。重要な意思決定に関しては、もちろん入念にリサーチや比較検討をした上で決定すると思います。ですが、比較検討の入り口がTikTokであることが多いのです。もっと言えば、TikTokを見ているうちに「これがやりたい!こういう人に憧れる!」となって、やりたいことや目指していくものが見つかることもあります。
もちろんその先でGoogle検索をする、という行動はあると思います。最初にTikTokで見つけたものについて、Twitterで口コミを調べたり、Googleでメディアでの言及を検索したりする——つまり、メディア自体に優劣をつけているというよりは、メディアを活用する順番が違うということです。
透明でフェアな「生の声」がZ世代を引きつける
——先ほど情報リテラシーについての言及がありましたが、Z世代は「情報のソースを確かめよう」という意識が身についているのでしょうか。
情報の一次情報を確かめるというよりも、無加工の「生の声」を知りたい、ということがあると思います。例えば、一時期インフルエンサーなどによるステマ(ステルスマーケティング)が問題だとして騒がれましたが、その頃からSNSでは「ほぼこれ広告案件だろ、PR案件だろ」と指摘されるようになりました。つまり、その情報が「本当に言っていること」なのか「言わされていること」なのかを重視しているのです。
背景にあるのは情報流通構造の変化です。かつてはマスメディアが発信する情報こそがほぼ全てでした。しかしウェブメディアやSNSの隆盛により情報の非対称性がなくなり、メディアだけでなく個人まで、誰もが情報を発信できるようになりました。
広告で宣伝されている内容や、メディアで取り上げられている内容だけでなく、SNSでの個人の意見や感想もウォッチすることができる。だからこそ、「その情報って実は嘘なのかもしれない」と疑い深くなり、透明性にすごく敏感になっているのが、Z世代の特徴であり、時代の流れだと思います。誰かにお金をもらって言わされていることではなくて、本人のいち意見としてフェアに言っているのかどうかをすごく大事にしている、という感覚があります。
そこで、友人関係も「グループ管理(組織など、第三者が設けた枠組みにひもづいた管理)」から「タグ管理(趣味嗜好など、個人的な要素にひもづいた管理)」になったとも言えます。学校で会うクラスメイトよりも、SNSでしかコミュニケーションしたことがない人の方が仲がいい、といった、バーチャルな関係性が、リアルを超える関係性にもなりうる時代になっています。

「推しやすさ」がフォロワーを築く上では重要
——Z世代はマスメディアの情報を一次情報として受け取りつつも、どこか生の声を感じないといった不満を感じているのでしょうか。
ありふれた言い方ですが、これからはメディアとして「推せるかどうか」が重要なポイントになると思います。昔はマスメディアがいわゆる正解やロールモデルを決めてくれていました。例えば、安室奈美恵さんや木村拓哉さんのように、その時代の国民的なロールモデルが常にありました。ですがメディアが細分化し、個人がもはやメディアとしての力を持つ今、みんなが追いかける唯一無二のロールモデルというものがなくなりました。一人ひとり、接触する情報が異なるので、「老若男女が応援する国民的アーティスト」はZ世代には存在しません。
2年前、大学生達にどのアーティストや芸能人が好きか聞いたところ、King Gnuの常田大希さん、モデルの水原希子さん、EXITの兼近大樹さんの回答が目立ちました。外見で選ばれたのかもしれないと思いましたが、話を聞くと別の理由がありました。
常田さんは、「King Gnuではあえてマス受けする音楽を作り、自分たちが本当にやりたい音楽は、別のアーティスト名義でやっているんだ」というところです。水原希子さんは、自らがランクインした「美しい顔ランキング」というのを、ルッキズム(外見至上主義)の権化だ、と痛烈に批判したところが評価されていました。兼近さんは、芸人だって政治の話をしてもいいと、毅然(きぜん)として話していたからという回答もありました。
いずれにも共通するのは、外見(の美醜)ではなく独自の思想やスタンスを推している、という点です。どんなに人気者であれ、必ずアンチ(批判者)はいます。誰もが情報を発信できる今日、メディアはそんなアンチの声をも届けられる状況になっています。そんな時代だからこそ、ただ「格好いい」「可愛い」という主観ではなく、「King Gnuは、あえてマス受けする音楽をやっている」と、ファクトで言える要素があること。ファンではない人に対しても客観的に推し要素を伝えられることが、推しやすさに繋がっているんです。アーティストをブランドと言い換えるならば、「ブランドとして思想があるかどうか」が、フォロワーやファン、ユーザーを築く上では重要なのです。推しやすさは、デザインできます。
同じく、「メディアとして思想があるかどうか」が明確であることは大事だと思います。その思想というのは右か左かとかいう話ではなくて、「どんな社会をつくるのか」という、ビジョンとコンセプトの明確さです。
もっと言うと、「理想の社会をつくるために、何をして何をしないか」という、“to do”と“not to do”が明確かどうかです。何を“するか”を考えることも大事ですが、何を“しない”のかまでを明確にすることも重要です。その上で、届ける情報の内容が切り口を含めて共感できるようなメディアであれば、Z世代が読みたくなるのではないかと思います。
Z世代は「この人と仕事をすると、どんな世界に行けるのか」で仕事を選ぶ
——分かりやすいロールモデルがなくなってきたという話がありましたが、キャリアについて着目するとどうでしょうか。かつては東大法学部を卒業したら官僚を目指す、というロールモデルがありました。それが今では、外資コンサルが人気になったり、自分でスタートアップ企業を立ち上げたりする人も少なくありません。
東大法学部生が官僚を目指すことは、今も王道ではあると思います。僕も母校が東大なのでよく分かりますが、東大法学部では国家公務員以外の就職先を「民間」と呼ぶ文化があったんです。僕も「用丸は民間に行くんだね」と言われました(笑)。
一方で今の学生は、テロや戦争、未曽有の災害とともに育ってきたからこそ、正解がないという不安と常に向き合っており、大企業だからといって必ずしもサステナブルで安定した収入が得られるわけではないと感じている。それが当たり前だったのは、基本的に社会や経済が右肩上がりの時代というか、「明日はきっと良くなる」という時代だったと思います。
だからこそ、終身雇用を前提とするのではなく、ファーストキャリア、セカンドキャリアとキャリアを重ねる考え方が当たり前になってきています。さらには、フリーランスとして生計を立てる生き方も増えたことから、就職——というよりも「就社」をしてなくてもいいという考え方もあります。そもそも企業に所属するのかどうかという選択肢すら出始めているのです。
この流れにおいて、働き方は、組織型からどんどんコレクティブ(集合体)型になっていくでしょう。僕の周りでも、企業に所属しない気の合う仲間同士、友人以上企業未満のコレクティブで仕事をするあり方が、特にクリエイティブ業界では増えている印象があります。今の時代は思想やビジョンが問われる時代です。そんな時代に大事なのは、「この人と仕事をすると、どんな世界に行けるのか」ということです。
官僚を志す学生が減ったのは、こういった背景の中で、コスパやタイパの面で以前よりも優れた選択ではなくなったということではないでしょうか。長い期間の下積みを経ないと役職に就けない、副業もできない、というのはキャリアとしてのタイパがよくない、と考える人が多いのだと思います。だからこそ、僕の周りで官僚になった人は使命感に溢れる優秀な人が多い印象でした。それでも、3年ほど勤めた後に「民間」に転職する人が多いのも事実ですが。
またご質問では外資コンサルとスタートアップを挙げていただきましたが、外資コンサルを選ぶ層とスタートアップを選ぶ層は全く違うと思っています。私見ですが、外資コンサルは、ビジネスパーソンとしての汎用的なプロフェッショナルスキルが身に付き、「つぶしが効く」からこそ、モラトリアムの延長線上として選ぶ学生が多いイメージです。新しい王道でしょう。
一方で、卒業後まもなくスタートアップを立ち上げるような人はごくまれです。そういう人は、モラトリアムの延長という感覚では進路を選んでおらず、自身の原体験に根付いた解像度の高いビジョンを持っていることが多い。学生起業をした後輩もいますが、ある種の人生の先輩として純粋に尊敬します。
かつてYouTubeのキャッチコピーに「好きなことで、生きていく」というものがありました。それはそれで間違っていませんし、時代を言い得た言葉だと思うのですが、今求められているのは、「好きなことと社会性のバランス」だと思っています。
今求められているのは、自分一人で成長することではなく、将来世代や環境や社会をはじめ誰も置いて行かない成長すること。自分の「好き」と社会を前に進めていくためのバランスが求められていると思います。「就社」をしなくても生きていける選択肢のある時代になって、そういうことに憧れる方々は増えてきているように感じます。
「異なる価値観の背景を考える」ことが社会を前進させる
——「好きなことと社会性のバランス」を追及することが当たり前になってきた一方で、40代以降のような世代になると、どうしてもZ世代をはじめとした若者の価値観が理解しにくいと思います。
40代以降の方がZ世代の価値観を理解しにくいと思うのは、当たり前のことです。成長してきた時代背景も異なりますし、これまで生きてきた自分の常識を否定することはすごく難しいですよね。
けれど、「若者」というものを年齢で捉えず、「最初に新しくなる人」と定義してみると、40歳や50歳の方であっても、新しいことに挑戦する人や、新しいことを受け入れられる人は、「若者」です。
ですから、「近頃の若者は」、とZ世代の価値観を考えなしに拒絶してしまうのではなくて、「なぜ今の子たちはこういう発言をするのか、こういう行動をするのか」、と背景を考えるくせをつけるのが、40代以降の世代にとっては、大事だと思いますね。
日本からはイノベーションが起きにくいという話もありますが、それは古い常識に縛られて新しいことを受け入れられずに拒否してしまう、前例主義があるからです。少子高齢化が進む中でも、前例主義をブレークスルーする「若者」が増えて、日本が前に進んでいくことを願っています。
用丸雅也氏
2017年、東京大学法学部を卒業後、新卒で電通に入社。ブランディングディレクターとして、国民的アーティストのブランディングや、クライアント企業のパーパスやビジョンの言語化とそれに伴うコミュニケーション開発を多数手掛ける。「若者から『諦める』をなくす」という想いを形にするために電通若者研究部としても活動。国内外のクリエイティブアワードを最高賞含め10以上受賞。2023年8月いっぱいで電通を退社し、フリーランスのクリエイターとしての活動と並行して、脱炭素を軸に企業のステークホルダー経営を支援するウェリズムを創業。趣味は、サウナ&スナック巡りと、はじめたてのゴルフ。