ジョーシスの画面イメージ
ジョーシスの画面イメージ
  • 社内で増え続けるSaaSとITデバイスを一括管理
  • 業務プロセス自体をサービスとして提供する「BPaaS」へ
  • グローバルチームで世界を目指す

企業の情報システム部門向けに、ITデバイスとSaaSの統合管理プラットフォーム「ジョーシス」を展開するジョーシス。同社はグローバル・ブレインやグロービス・キャピタル・パートナーズなど18社を引受先とした第三者割当増資により、総額135億円を調達した。

ジョーシスでは集めた資金を活用し、国内のエンタープライズ企業へのサービス展開を強化する。9月6日より北米やAPACで事業を開始し、海外展開にも力を入れる計画だ。

コロナ禍を機に、企業におけるIT運用の複雑性が増している。リモートワークが広がり、企業内でSaaSの導入が加速した。増え続けるSaaSやITデバイスの管理は、情報システム(情シス)部門にとって悩みのタネとなっている。

特に中小企業やスタートアップにおいては担当者の数が限られていることも多く、“ひとり情シス”や他部門との“兼任情シス”も珍しくない。ジョーシスでCPO(Chief Product Officer)を務める横手絢一氏は「SaaSが爆発的に増えたことで担当者の守備範囲が一気に広がり、今まで以上に業務の負担が増している」と現場の状況を説明する。

このような課題の解決策として、ジョーシスではITデバイスとSaaSを効率的に管理するためのプラットフォームを開発。効率化した業務そのものをアウトソースできる仕組みもオプションとして提供することで、急速に事業を広げている。

2021年9月にラクスルの1事業としてスタートしてから約2年。現在は従業員数が300人以下の中小企業を中心に、導入企業数が300社を超えた。シリーズAラウンドで44億円を調達した2022年9月と比べて、この1年でARR(年間経常収益)も10倍に増加しているという。

社内で増え続けるSaaSとITデバイスを一括管理

横手氏によると、現在のジョーシスは「SaaS」と「アウトソーシングサービス」の2本の矢、つまり2つの事業が軸になっているという。

1本目の矢は、土台となるSaaSとしての機能だ。ジョーシスでは従業員のデータにひも付けるかたちで、社内のITデバイスやSaaSのアカウントを効率的に管理できる。

「誰が、何のサービスを、どのような権限で利用しているのか」。ジョーシス上では、従業員ごとのデバイスやSaaSの利用状況がリアルタイムで更新される。入退社に伴うアカウントの発行や削除も一括で対応できるため、複数のSaaSを1つずつ開きながら同じ作業をする手間もかからない。

業務効率化に加えて、ガバナンスやセキュリティ強化の観点から、情報システム部門をサポートする仕組みも備える。担当者や経営者が利用状況を把握しきれていないソフトウェア(シャドーIT)や削除漏れが発生しているアカウントがあれば、ジョーシスが自動で検知して適切な対策を促す。

業務プロセス自体をサービスとして提供する「BPaaS」へ

ジョーシスには「SaaSによって効率化された業務そのものを、まるっとアウトソースする」仕組みも用意されている。これは同サービスの大きな特徴であり、横手氏が言うところの、2本目の矢にあたるものだ。

ユーザーはSaaSのアカウント発行や削除、ITデバイスのセットアップ、回収、下取りなどの管理業務をジョーシスにアウトソーシングできる。

ローンチ当初からITデバイスに関する業務をアウトソースできる仕組みは設けられていたものの、ジョーシスではこの1年で対象の領域を拡張してきた。背景にあったのが顧客の声だ。

「(ヒアリングを重ねる中で)そもそもこの業務をやらなくても済むのであれば、それが一番良いというのがユーザーの本音だと感じました。特に中小企業は人手が不足していて、他の業務と兼務している人も多いです。そんな中でデバイスやSaaSの管理といったノンコア業務にはなるべく時間を使いたくない。だからこそ中小企業にとっては、アウトソーシングのサービスこそ、真のソリューションになりうるのではないかという感覚があります」(横手氏)

必ずしも全ての中小企業が最初からアウトソーシングサービスを求めているわけではないが、「将来的にはアウトソースもできるという選択肢があることで、ジョーシスのプラットフォームを導入いただくハードルが下がっている」と横手氏は話す。

単にソフトウェアを提供するだけでなく、ソフトウェアを組み込んだ業務プロセスそのものを提供するビジネスモデルは「BPaaS(Business Process as a Service)」と呼ばれる。ITやソフトウェアの扱いに慣れていない企業がそれらのメリットを享受できる仕組みとしても注目されており、国内ではChatworkなどがBPaaSの取り組みを推進している。

ジョーシスも、この1年で「(SaaSではなく)BPaaSを提供する会社」(横手氏)へと進化を遂げてきた。同社としては内製にこだわらず、パートナー企業ともタッグを組みながら体制を整え、情報システム部門におけるノンコア業務のアウトソースのニーズに応えるためのエコシステムを構築していく考えだという。

これまでは主に日本国内の中小企業や中堅企業を中心に利用企業を広げてきたジョーシスだが、今後はエンタープライズ企業や海外企業へのアプローチも強化する方針だ。

またSaaSの活用は日本以上に米国を始めとした海外で進んでおり、SaaSやデバイス管理に関する課題やニーズはグローバルで存在するものだ。ジョーシスでは一部の国でアルファ版(試験版)を提供してきたが、まずは米国やAPACなどの地域からグローバルでの正式展開を始める。

グローバルチームで世界を目指す

ジョーシスは9月6日に会見を開催。ジョーシス代表取締役社長CEOの松本恭攝氏はあらためて資金調達や海外展開の開始を説明した。

同社のメンバーは現在120人。そのうち日本は30人で、インドに70人、ベトナムに10人の開発メンバーがおり、プロダクトの企画開発は米国・シリコンバレーで行っているという。またAPACではシンガポール、マレーシアに拠点を置いている。松本氏は「グローバルチームで世界を目指していく」と語る。

ジョーシス代表取締役社長CEOの松本恭攝氏
ジョーシス代表取締役社長CEOの松本恭攝氏

またこれまでは顧客の約9割を中小企業(同社の定義では、従業員数300人までを中小企業、300〜3000人までを中堅企業、 それ以上をエンタープライズ企業と定義)が占めていたが、今後はエンタープライズ企業向けの展開をすすめる。

これまでジョーシスは中小企業のIT人材不足や情シス業務の自動化といった課題を解決してきた。だが大企業もコロナ禍を経て常態化したハイブリッドワーク環境の中で、モバイルデバイスやSaaSの管理など、ITガバナンスにまつわる課題を抱えるようになった。これらの課題解決を支援することで、ユーザー拡大をねらう。

ジョーシスのエンタープライズ戦略について 同社会見のスクリーンショット
ジョーシスのエンタープライズ戦略について 同社会見のスクリーンショット

一方で先行するSaaS管理プラットフォームは世界に数多くいる。それに対する優位性として、「これまではソフトウェアの管理をしてきたが、ハードウェアとソフトウェアの両方を管理できるのが強み」とした。