
- 総額7.7億円の資金を調達
- GitHubを連携するだけでスキル偏差値を自動算出
- 始まりは「一切売れなかった」求人票解析サービス
- 「DX」文脈でクライアントは大企業にまで拡大
- エンジニアの成長に貢献できる仕組みづくり目指す
受験生にとって「偏差値」は自分の実力を把握したり、志望校を検討したりする際に重要な指標となる。同じように“エンジニアのスキル”を偏差値という形で可視化することで、キャリアアップを支援しているのがHRスタートアップのファインディだ。
学力偏差値は模擬試験の結果などを基に算出されるが、ファインディのエンジニア偏差値ではソフトウェア開発プラットフォーム「GitHub」を情報源として用いる。
これまで書いてきたコードの量、他のプロジェクトへの貢献度、他者からのコードの支持やアカウントの影響力といったポイントを中心に、エンジニアごとのGitHubを独自のアルゴリズムによって自動で解析。トータルでの偏差値、開発言語ごとの偏差値をそれぞれ割り出す。下図のように「Total 67、Ruby 67、Java 63」といった具合で表示する。

ファインディではこのスキル偏差値を軸にエンジニアと企業をマッチングする仕組みとして2017年12月に「Findy」、2018年2月に「Findy Freelance」をローンチした。
現在2つのサービスを合わせた登録エンジニアの数は約3万人。Findyは日本マイクロソフトやソニー、三菱重工、日本経済新聞社といったエンタープライズ企業からITスタートアップまで約300社が、Findy Freelanceも同じく様々な規模の企業約200社が活用する。

総額7.7億円の資金を調達
そのファインディがさらなる事業拡大を見据えてシリーズBラウンドの資金調達に踏み切った。同社は8月3日にグローバル・ブレイン、ユナイテッド、SMBCベンチャーキャピタル、KDDI(KDDI Open Innovation Fund 3号)、JA三井リース、博報堂DYベンチャーズ(HAKUHODO DY FUTURE DESIGN FUND)、みずほキャピタルを引受先とする第三者割当増資と融資を合わせ、総額7.7億円を調達したことを明らかにしている。
今回の資金調達は2018年にグローバル・ブレインから約2億円を調達したシリーズAラウンドに続くもの。ファインディはそれ以前にもPKSHA Technology代表取締役の上野山勝也氏、レアジョブ代表取締役社長の中村岳氏、クロス・マーケティング代表取締役社長兼CEOの五十嵐幹氏を含む複数の投資家から資金調達を実施している。
GitHubを連携するだけでスキル偏差値を自動算出

ファインディが手がける2つのサービスに共通するのは冒頭で触れたスキル偏差値だ。エンジニアユーザーはGitHubを連携するだけで自身のスキルを偏差値化でき、それをもとに企業から転職や仕事のオファーを受けるチャンスを手に入れられる。
具体的には企業から届く「いいね!」に対してユーザーから「いいかも」を送り返すとマッチングが実現。その後スカウト、面談、採用と続いていく仕組みだ。
偏差値を割り出すにあたってファインディが重要視したのが「エンジニアのキャリアアップに繋がる指標になる」ということ。転職活動の際には自分のスキルを正当に評価してもらうための武器として使えるものを目指した。
わかりやすいのが年収や単価だ。実際にFindy Freelanceに登録していたある学生エンジニアが時間単価で5000円のオファーを企業から受けた例もある(最近では時給1000円〜3000円のケースが多い)。学歴や経歴問わず(もちろんそれが考慮される場合もあるだろうが)、スコア次第で高い評価を得られる可能性があるのが特徴だ。
これまでに成約した事例からも「スキル偏差値と年収に相関関係があること」がわかってきたため、昨年11月にはスキル偏差値などの情報をベースにユーザーの「想定年収」を予測する機能も実装した。同機能はエンジニアを中心にTwitterでも話題になった。、その結果、「通常2〜3カ月くらいかけて獲得していた数の会員が2〜3日で集まった」(ファインディ代表取締役CEOの山田裕一朗氏)そうだ。

このスキル偏差値は企業の採用担当者が各ユーザーのスキルや目安となる年収を大まかに把握する際にも役に立つ。特に近年まで自社で積極的にエンジニアを採用してこなかった企業などにとっては、現在の水準やトレンドを知ることにも繋がるだろう。
加えてファインディでは企業とユーザー双方のサポートを充実させることで「ファインディのサービスでなければ繋がらなかったような企業とエンジニアのマッチング」も実現してきた。
特に企業向けにはAIが求人票を採点する「Findy Score」も活用しながら、エンジニアにとってわかりやすく、自社の魅力も伝わる求人票を作るところから支援する。人とテクノロジーを組み合わせた一連のサポート体制も、同社が選ばれる大きな理由にもなっているという。
始まりは「一切売れなかった」求人票解析サービス
山田氏は三菱重工業に新卒で入社した後、ボストンコンサルティンググループを経て2010年に前職のレアジョブに転職。同社では執行役員として人事やマーケティングなどに携わり、2016年7月にファインディを立ち上げた。
共同創業者で取締役CTOを務める佐藤将高氏は学生時代に同社でアルバイトをしていた経験があり、2人はその時からの付き合いだ。佐藤氏は東京大学の大学院で自然言語処理やデータマイニングの技術を学んだ後、新卒入社したグリーを経てファインディを創業している。
実は山田氏たちは当初AI求人票解析サービス・Findy Scoreを主力事業にしようと考えていた。ただこのアイデアを採用担当者などに話すと興味こそ持ってもらえるものの、ビジネスとしては成立しなかったという。要は「一切売れなかった」のだ。

とはいえ当時は特に目ぼしいアイデアもなかったため、試しに「無料で求人票を書きます」と募集をしてみることに。すると10社から応募が届いたのだが、そのうちの9社がエンジニアの求人票に関するものだった。この発見が後に同社の転機になる。
エンジニアと採用担当者の双方にヒアリングしてみた結果「人事側はエンジニア職や開発言語に対する理解が不足している」、「エンジニア側も自らの技術力や経験値を上手く伝えられていない」などの悩みが浮かび上がってきた。
この課題を解決できれば、双方のミスマッチを削減できるかもしれない。ある意味「一切売れなかったFindy Score」がきっかけとなって現場の課題にたどり着き、それを解決するための手段としてエンジニア偏差値やFindy転職が生まれたわけだ。
「DX」文脈でクライアントは大企業にまで拡大
ローンチ当初はスタートアップ企業が主なクライアントだったが、約2年半が経過した現在ではクライアントの顔ぶれもかなり多様化している。特に大きな変化として山田氏が挙げるのが「大手企業のDX文脈でのエンジニア採用ニーズ」だ。
「以前は担当者と話をしても、ウェブ系エンジニアやAI系エンジニアのハイスキル層を自社で採用したいというニーズはそこまで強くありませんでした。それがこの半年から1年で大きく変わってきた印象です。上場企業のIRを見ていても『何割の企業がこの言葉を使っているんだろう』と思うほどDXという文字を見かけるようになり、問い合わせを頂くことも増えてきています」
「ヒアリングする中で1番のポイントだと感じたのは、既存産業にソフトウェアやアルゴリズムを取り込まないと成長できないということです。その上で何を自社で抱えるべきなのか。今後間違いなく大きな価値を産むであろうデータ基盤に関わるところは内製化を進めたい、お客さんが直接使うフロントエンド部分は社内で開発したい。そういった考えから、大手企業がスタートアップで活躍しているようなソフトウェアエンジニアを積極的に採用したいという流れが加速しています」(山田氏)
その際に企業側のネックになるのが「どんな人材を、どうやって採用すればいいのかわからない」ということだと山田氏は言う。もともと大企業は新卒採用の文化があるほか、開発に関してはSIerなど外部企業に任せていた部分が多かったりもする。
ずっと取り組んできたコアとなる生産技術にはものすごい知見がある一方で、ソフトウェアやアルゴリズムのトレンドについての知見は持っていない企業も少なくない。そこをファインディがまるっとサポートするという構造だ。
「あまり知られていないだけで、近年はスキル偏差値の高いエンジニアが集まってきている企業や、モダンな開発環境が整えられている企業もあります。またユーザー数やそれに付随するデータ量が多い大企業だからこそチャレンジできることもある。エンジニア側でもそのような大企業に関心を持つ人が増えてきている印象です」(山田氏)
直近では新型コロナウイルスの影響からスタートアップ界隈でも採用人数を減らす動きなどが出てきて、ファインディの事業にも影響を与えた。ただ結果的に上半期は前年同期比に比べて売上が2倍に成長したという。
スタートアップの中でも医療系やクラウドサービス事業者などは事業拡大に伴い引き続き採用ニーズがあったほか、大手企業の顧客が昨年に比べて増加し売上拡大に貢献した形だ。
エンジニアの成長に貢献できる仕組みづくり目指す

今年の4月には新しいチャレンジとして、これまで磨いてきたアルゴリズムやノウハウを“開発チームの健康診断”に活用した「Findy Teams」のベータ版をローンチした。
同サービスではエンジニア個人のものではなく、開発組織全体のGitHubを独自のアルゴリズムにより自動で解析。チーム全体の開発プロセスの活動量や改善点をグラフ・数値を用いて見える化する。
社内に「ウェブチーム」「iOSチーム」「Androidチーム」といったように複数の開発チームが存在する場合はチームごとに診断結果を比較できるのも特徴だ。
仮にiOSチームの指標が他チームに比べて下がっているとしたら、何か問題が発生しているかもしれないのですぐに原因を把握して手を打つべきだろう。反対にAndroidチームが高パフォーマンスを叩き出していれば、そのノウハウを全社展開することで開発部門全体の底上げが見込めるかもしれない。

Findy Teamsを担当する佐藤氏によると、複数社のCTOやエンジニアリーダーと話をする中で「エンジニアチームの状態や採用したエンジニア個人のパフォーマンスを評価する際の材料が足りていない」という悩みを聞くことが多かったそう。自身でも同じような感覚があったため、「まずは評価の一歩手前で、チームの状態を定常的に把握できる仕組みがあれば便利ではないか」と考えてFindy Teamsを開発した。
同サービスでチームごとに可視化される「イシュー増加率」「コミット増加率」「プルリク(プルリクエスト)増減率」「レビュー対応率」といったGitHub上のアクションは、手間をかければ自力でも測れる。ただCTOなどが様々な重要な業務を抱える中で、これだけに多くの時間を費やすのは現実的ではない。
「そもそも時間をかけても見える化するのが難しい指標にも対応できるようにしたいと考えていますが、(従来自力でやるのに時間がかかっていたことが)定常的に自動で見える化されただけでも価値があると感じて頂けることが多いです」(佐藤氏)
まずは最小限の機能のみを実装した状態でベータ版としてローンチして、事前登録のあった約20社から順々に試してもらっている状況だ。社員数が数百名規模の企業からスタートアップまで規模は様々。特にコロナ禍においてはリモートワークを推進している企業も多く、その状況下でチームの状態を把握したいというニーズから問い合わせに至るケースもある。
「現時点ではまだまだ足りない点や改善点も多い」(佐藤氏)ため、今回調達した資金は今後Findy Teamsをアップデートしていくための開発体制の強化にも用いる計画だ。現在はテクノロジーで組織の状態を可視化した後、コンサルティングに近い形で運営メンバーが改善のサポートをしている。後者についても、少しずつシステム側で対応できる領域を拡張していく予定だという。
またFindy Teamsの結果を外部に公開できる機能を追加することで、パフォーマンスの高い企業が自社の魅力を定量的にアピールするための仕組みも作っていきたいとのこと。そうなれば既存事業と連携も進みそうだ。
調達資金を使って、Findy Teamsのほか既存事業のアルゴリズム改善などにも投資をする。主にそれに伴う人材採用やマーケティングの強化に取り組む方針だ。
今「DX」と聞いて多くの人は「デジタルトランスフォーメーション」を思い浮かべるだろう。もちろんファインディのビジネスはハイスキルなエンジニアをマッチングすることで、大企業を中心とした既存産業のDXを支援する意味合いがあるのは間違いない。
一方で同社としてはこれまでもそうだったように、もう1つのDXと呼ぶ「Developer Experience (デベロッパーエクスペリエンス = 開発者体験)」の向上にも引き続き力を入れていきたいという。
「エンジニアにとってより良い環境を作りたいという考えは変わりません。中長期的にはスキル偏差値を活用しながら、もっとエンジニアにメリットのある機能を加えていきたいと思っています。転職する時に限らず、定期的にサービスを訪れることで自分の現在地が見えたり、課題や目標が見つかったり。エンジニアの成長に貢献できるサービスへ進化させていきたいと思っています」(山田氏)