
- グリーンラッシュに沸く「米国」、一方の「日本」は
- 相次ぐピボット、事業を模索し続ける日々
- CBD業界を発展させれば、新たな文化を創造できる
- 日本市場における答えが「有機化学合成」だった
- 日本からより良いCBD製品を世の中へ
「グリーンラッシュ」と呼ばれるなど、新たな“ビジネスの金脈”として、爆発的な盛り上がりを見せているのが「合法大麻市場」だ。とりわけ、“CBD(カンナビジオール)関連ビジネス”は驚異的なスピードで成長しており、調査会社ブライトフィールドの発表によれば、2019年に650億円だった市場規模は2022年には約2兆4200億円に成長すると予測されている。
CBDはCBDは大麻草(ヘンプ)に含まれるカンナビノイドの成分の一種。大麻草から採取できる"成分"は大きく2種類あり、ひとつがTHC(テトラヒドロカンナビノール)で、もうひとつがCBDだ。多くの人が大麻(マリファナ)と聞いてイメージするのはTHCのことで、この成分には精神活性作用が含まれている。
一方のCBDには精神活性作用はなく、依存性もない。どちらかと言えば、ストレスの緩和や不安の軽減、精神疾患の治療などに有効な成分と言われており、その安全性と有効性についてはWHO(世界保健機関)が認めているほどだ。
実際、米国ではCBD成分が入った化粧品やスキンケア商品、サプリメントや食品、飲料などが人気を博しており、2019年にCBDの売上はこれまで一番人気の天然ハーブサプリメントと言われていた「ターメリック(ウコン)」の売上実績を上回った。
グリーンラッシュに沸く「米国」、一方の「日本」は
日本においては大麻取締法でTHCは違法とされているが、CBDは茎と種子由来であれば法的な規制はない。そのため日本に進出する外資系企業も増えている、日本でもCBD成分が入った製品を目にする機会が増えた。しかし、海外から輸入された製品はTHCが微量に含まれている可能性があり、法的にグレーな製品も多い。実際、2019年10月には米国CBDオイル大手のElixinol(以下、エリクシノール)が、大麻草の茎と種子以外の部分を原材料として使用していた疑いから日本法人における製品販売を停止。2020年2月には、厚労省が同社製品の一部から微量のTHCを検出したと公表した事例もある。その後エリクシノール日本法人は、当該製品を除いた製品の販売を再開。当該製品の購入者に対しては県へ提出するようアナウンスを出した。
日本のCBD市場は未開拓なこともあり、法律の境界線を不明瞭にした企業や、品質をあいまい にしているブランドが存在する中、「日本からより良いCBD製品を世の中へ届けたい」という思いのもと、完全合法にこだわったウェルネスブランドが新たに立ち上がった。

バランスドは8月19日、ウェルネスブランド「WALALA(ワララ)」を立ち上げ、最初の商品としてCBDポイントクリーム「CBD POINT CREAM」の発売を発表した。また同社は立ち上げにあたり、国内の企業2社から約5000万円の資金調達も実施している。
このCBDポイントクリームは麻由来ではなく、製薬会社の研究開発によって生産された税関、厚生労働省の許可を得た有機化学合成のCBD成分のみを使用。バランスド代表取締役の柴田マイケル空也氏(Mike Eidlin)は「弊社のCBD商品は日本の法律を遵守しており、原料の安全性も問題ありません」と自信を持ってこう語る。
なぜ、彼はCBD製品のブランドを立ち上げようと思ったのか。また、いかにして完全合法のCBD製品を開発したのか。「東京生まれ、カリフォルニア育ち」という、彼ならではのバックグランドを活かした柴田氏の挑戦に迫る。
相次ぐピボット、事業を模索し続ける日々
東京・広尾で生まれ、2〜3歳の頃に米国・カリフォルニア州に引っ越した柴田氏。カリフォルニアの大学を卒業後、彼が新卒で就職したのは東京の金融企業。3カ月ほど、サマーアナリストとして働いていたものの、途中で「自分に金融系の仕事は向いていない」と感じ、カリフォルニアに戻り、アプリ開発に勤しむ日々を送る。
「実家に住みながら、約1〜2年ほどペット専門のSNSを開発していて、ユーザー数が5万人ほどになったタイミングで資金調達することにしたんです。それでキヨさん(小林清剛氏。サンフランシスコ在住の連続起業家)に相談したところ、日本の起業家や投資家を何人か紹介してくれたので、日本で資金調達をすることにしました」(柴田氏)
ペット専門のSNSの資金調達で来日した柴田氏だったが、日本で数日間生活する中で別の事業アイデアを思いつく。それがサブスクリプション型の翻訳メディアだった。
「日本のペット市場について書かれているブログ記事を読もうと思ったのですが、難しい日本語はよく分からないのでGoogle翻訳を使ったら、意味不明な日本語に訳されてしまった。それで何か良い翻訳サービスはないか知り合いに聞いてみたところ、『Gengo(ゲンゴ)』というサービスを教えてくれたのですが、翻訳に8000円ほどかかるんです」
「そのときに、自分が米国で普段読んでいるポール・グレアムやマイケル・モリッツのブログを日本の人たちはどうやって読んでいるのか気になって。実際に聞いてみたら、読まないか、誰かが翻訳してくれるのを待つと言うんです。この課題は解決したほうがいいんじゃないかと思い、急遽PeraPeraという翻訳サービスを立ち上げることにしました」(柴田氏)
ペット専門のSNSのIPは売却し、PeraPeraではEast Venturesや複数のエンジェル投資家から約4000万円の資金調達を実施した。しかし、2017年春頃にGoogle翻訳がAIを活用した高速・高精度の翻訳を可能にするというブログ記事を投稿し、これを目にした柴田氏は「これには勝てない」と感じ、再びピボットする道を探ることになる。
CBD業界を発展させれば、新たな文化を創造できる
その後は、ショート形式の動画共有サービス「Vine(バイン)」の創業者らが立ち上げた「HQ Trivia」や、日本ではグノシーが「グノシーQ」を手掛けていた波に乗っかるかのように“ライブクイズ”サービスを開発したり、その後はビデオチャット形式のデーティングアプリを開発したりしていたが、次第に「今の状態を続けていても厳しい」ことに気づく。
「米国で数年前に流行ったものを日本で展開する“タイムマシンモデル”は機能しなくなっていました。今は変化のスピードも早いですし、アプリは当たるか、当たらないかは“時の運”もあると思っていたので、一旦アプリの開発から離れることにしました」(柴田氏)
次は何の事業にするのか──アイデアを考える中で柴田氏は米国でD2Cブランドが盛り上がっていることも肌で感じていたが、それ以上にヘルス&ウェルネス業界が盛り上がりを見せており、それを牽引しているのがCBD事業であることを知る。
2019年の5月頃、ハワイ在住の知り合いから、「ハワイではみんなCBDのことを話すんだけど日本ではどうなの?」と問われ、日本のCBD事情についてリサーチしてみたところ、2018年10月頃にはエリクシノールがメディアで紹介されていることが分かり柴田氏は日本におけるCBD事業の可能性を感じた。
「米国のCBD業界の成長を間近で見てきたからこそ、日本でもきちんとCBD業界を発展させていくことができれば、新たな文化を創造できると思ったんです」(柴田氏)
日本市場における答えが「有機化学合成」だった
そして柴田氏は再び来日し、日本のCBD事情についてリサーチやヒアリングを重ねていく。結果的に日本でCBDを輸入するには、THCが含まれていないことを証明する「検査結果(COA)」と、茎と種のみから抽出されていることを証明する「宣誓書」、そして証明写真を貼り付けた「CBD製造方法」という3つの書類を提出する必要があることを知る。
そして柴田氏はCBDを米国から輸入すべく、生産者に「茎と種から抽出したCBDをもらえないか」と問い合わせたところ、想定外の答えが返ってくる。
「10社くらいの生産者に電話したのですが、どこも成分は葉や穂から抽出していて、茎と種は基本的に捨てている、と言われたんです。実際、カリフォルニアに住んでいた頃からCBDは茎と種以外から多く抽出されていることは知っていましたが、改めて論文を調べてみたところ、それが確信に変わりました。その事実を知ったときに、日本でCBDブランドをやるのが不可能だと思いました」(柴田氏)
ほぼ諦めかけていた柴田氏だったが、CBDについてリサーチを続けていくと、ひとつの大きな可能性にたどり着く。それが有機化学合成のCBD成分だった。
「すでに麻由来のTHCが供給されている米国では有機化学合成のCBDのニーズはありません。ただヨーロッパは日本と似ている法律があり、茎と種から抽出した成分をOKだけれども、葉などから抽出した成分は使用禁止なんです。だからこそ、ヨーロッパのCBD市場も米国ほどに成長していません。それでリサーチを進めていき、チェコにCBDの有機化学合成を手掛けている会社を見つけ、彼らにコンタクトをとり提携することにしました」(柴田氏)

柴田氏が出会ったのは、チェコのCBDepot。彼らは2015年にチェコ科学アカデミーの専門科学者と共に合成CBD原料の研究および開発に成功している。柴田氏によれば、バランスドはCBDepotと提携するほか、日本における販売代理店契約を交わしたという。有機化学合成のCBD成分は麻由来のCBD成分と比較すると、原料の価格が3〜5倍ほど高くなるが、日本で100%合法なCBDブランドを立ち上げるには、その方法しかなかった。
「有機化学合成のCBD成分は安全なのか、効果はあるのか、最初自分も疑問に思っていたのですが、テストで確認したところ99.95%CBDであることが分かったんです。それなら問題ないだろうと思い、麻由来でないCBDを採用することにしました。当初はサプリブランドを作りたかったのですが、私たちは化粧品原料だけしか輸入できず、食品として輸入できないのでサプリを諦め、化粧品から始めています」(柴田氏)
なぜ、業界が盛り上がっている米国ではなく、日本で事業を展開することにしたのか。柴田氏に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「米国で事業を展開しても競合優位性はありません。またアメリカで日本語喋れてもアドバンテージはありませんが、日本で英語が母国語だと、それが大きなアドバンテージになるんです。現に海外の論文を全部読めたからこそ、有機化学合成のCBD成分という存在に気づき、日本で完全合法なCBD事業を展開できたわけですから」(柴田氏)
日本からより良いCBD製品を世の中へ

こうして前に立ち上げた会社は清算を進めながら、新たにバランスドを2019年10月に立ち上げ、ウェルネスブランドを始動させた柴田氏。WALALAのCBDポイントクリームは単にCBD成分が入っているだけでなく、ビタミンC誘導体やヒアルロン酸など美容効果の高い成分を豊富にバランスよく配合するなど、原料もこだわっているという。また全製品の研究開発、製造は日本の工場で行っており、高品質を保つことへのこだわりも強い。
価格は50gで7500円(税抜)。まずは30〜50代の女性をメインターゲットに商品の普及を図っていくとのこと。また今後は美容院やエステサロン、マッサージ店などにも商品を卸す事業モデルも展開していくほか、サプリ系やオイルといったCBD商品の展開も考えているという。
日本からより良いCBD製品を世の中へ届けたい、そして新たな文化を創造していきたい──そう考えているからこそ、バランスドは売上や利益も追っていく。
「日本ではまだまだ怪しいイメージを持っている人が多いからこそ、きちんとしたCBDブランドをつくっていきたいと思っています。将来的に日本の文化、法律を変えていくためには多くの人にCBD製品を手にとってもらい、使ってもらわなければいけません。そして、多くの人が手に取り、売上や利益が出ていけば、政治家の人たちにも一目置いてもらえるようなるかもしれないので、そのためにまずは世界最高のCBD製品を提供するブランドを目指していきたいと思います。」(柴田氏)
編集部より:初出時、エリクシノール社がTHCを含有した自社製品を自主回収したとしていました。しかし同社は製品の自主回収を行っておらず、購入者に対して製品を県に提出するようアナウンスを行っていました。関係者の皆さまには大変ご迷惑をおかけいたしました。おわびして訂正いたします。(2020年9月4日12時38分)。