
- MERY創業者「次はグローバルを狙えるプロダクトをつくりたかった」
- 数十万MAUを記録し、1日の平均滞在時間は約60分
- 音声コンテンツを「作ってもらう楽しみ」の体験を増やす
好きなことで、生きていく──2014年、動画共有サービス「YouTube(ユーチューブ)」が実施したCMは大きな話題を呼んだ。趣味で投稿していた動画に広告が表示されるようになったことで収益が生まれ、それが仕事になる。YouTubeに動画を投稿する人たちは「YouTuber(ユーチューバー)」と呼ばれるようになり、小学生がなりたい職業ランキングの上位にランクインにするなど、今や市民権を得ている。
その流れが、今後は「音声サービス」にやって来るかもしれない。音声配信アプリ「stand.fm」を手掛けるstand.fmは8月20日、配信者の収益化を支援する「stand.fmパートナープログラム(以下、SPP)」を開始した。シードラウンドでYJ Capitalを引受先として総額5億円の資金調達を実施したこともあきらかにした。
プログラムの第1弾として、配信者に対して再生時間に応じた収益還元を開始する。審査を通過した配信者は、再生時間に応じた収益を受け取ることが可能になる。2020年内はキャンペーンとして、再生1時間につき4〜6円の収益還元を計画しているそうで、例えば60分の音声コンテンツが2万回再生された場合、10万円前後の収益を受け取れる。今後は単価の調整、音声広告の挿入、ライブ配信時の収益還元なども視野に入れる。
審査に関しては誰でも応募可能だが、配信者の「stand.fm」、YouTube、SNSなどのフォロワー数や発信内容など総合的な角度から審査される。
またstand.fmは今後、配信者が価格を自由に設定し、音声コンテンツを販売できる「コンテンツ販売」や、応援してくれる有料月額ユーザー(サポーター)向けに限定コンテンツを配信する「サポーター機能」も実装する予定とのこと。なお、今回調達した資金はSPPの拡充、マーケティング強化、エンジニア採用に充てる予定だという。
MERY創業者「次はグローバルを狙えるプロダクトをつくりたかった」
stand.fmを立ち上げたのは、女性向けキュレーションメディア「MERY(メリー)」を立ち上げたペロリの創業者であり、現在はnewnの代表を務める中川綾太郎氏だ。もともと「stand.fm」はnewnの社内で試験的にスタートしたプロジェクトだった。サービス立ち上げから約1年半が過ぎた2020年4月に分社化。現在はペロリ元取締役の河合真吾氏と共に共同代表を務める。
「次はグローバルを狙えるプロダクトで、なおかつプラットフォーム型のサービスをやりたかった」と中川氏は言う。その中で見つけた市場が「音声ビジネス」だった。
「2年ほど前にスマートホームデバイスが普及し始め、入力のインターフェースが“音声”に変わるかもしれないと思い、興味を持ち始めたんです。ただ、自分はデバイスをつくることに関心はなかったので、当時は本当に気になっていただけでした」(中川氏)
そんな中川氏の考えが変わったのは、Appleが完全ワイヤレスイヤホン「AirPods(エアーポッズ)」を発売したタイミング。「これは人の体験を変えるかも知れない」と感じたという。
「実はその時期から(音楽配信サービスの)Spotify(スポティファイ)がポッドキャストの会社を買収していたのですが、そういった動きは後から知りました。それよりも、自分自身は個人をエンパワーメントするサービスをつくることが好きなんですよね。日本でも音声配信サービスがいくつか立ち上がっているのは知っていましたが、もっと音声コンテンツを簡単に作れるサービスが増え、音声配信するクリエイターが増えればいいのにと思い、自ら作ってみることにしたんです」(中川氏)
数十万MAUを記録し、1日の平均滞在時間は約60分
「stand.fm」は気軽に収録ができ、すぐに配信できる音声配信アプリ。質問やメッセージが届く「レター機能」のほか、BGMの追加、音声の切り取り・挿入といった機能によって、簡単に音声コンテンツを作成できるのが大きな特徴。
また配信の方法は“収録”のほか“ライブ”もあり、それぞれ複数人(収録は最大4人、ライブは最大5人)で同時配信できる機能も用意されている。これにより、「1人喋りは難しい」といった悩みを抱える配信者でも友人、知人と気軽に音声コンテンツが作成できる。

こうした機能によって音声配信のハードルを下げることで、配信者が増加。例えば、最近ではJリーグ所属プロサッカークラブ「鹿島アントラーズ」や、元AKB48で女優の篠田麻里子さん、タレントの優木まおみさんなども配信を開始したりしている。
幅広い人たちが配信することでコンテンツの幅も広がり、現在ではエンタメやビジネス、スポーツ、恋愛、美容、ミュージック、ライフスタイルなどのコンテンツが提供されている。現時点でMAU(月間アクティブユーザー数)は数十万ユーザーを記録しており、1日のユーザーの平均滞在時間は約60分にまで伸びているという。
音声コンテンツを「作ってもらう楽しみ」の体験を増やす
stand.fmを立ち上げてみたものの、「最初の1年ほどは模索の期間が続きました」と中川氏は振り返る。当時、タレントなどがYouTubeに参入するニュースが増えており、世間的には「動画の時代が来た」と思われているところあった。
「一部の人は“音声の時代が来る”と思っていましたが、世間は全然違う感覚で、そもそも配信者も集まらず、最初は自分たちでコンテンツを制作していました」(中川氏)
音声配信のUI/UXの最適解も分からない中、模索を続けていき、BGMの追加やレター機能で「何を話すか悩む」といった課題を解決したことで、少しずつ配信者が増えていった。その後、複数の配信者が共同で収録できる「コラボ収録」や複数人でのライブ配信といった機能を提供し、音声コンテンツを楽しむ仕掛けをつくることで、配信者とリスナーの両方が伸びていき、事業も軌道に乗り始めた。
今回、資金調達を実施し、プログラムを開始することで、配信者の収益化をサポートし新しいコンテンツを生み出し続けるサスティナブルな仕組みづくりに取り組む。
「プログラムを通じて音声コンテンツを作ることが楽しい、という体験を増やせればと思っています。クリエイターたちがやりたいことをやるための収入を支援することで、彼らは作ることに集中できる。ひとまず、SPPは試験的な導入になりますが、stand.fmはクリエイターが安心して音声コンテンツをつくっていける場所にしていきたいと思っています」(中川氏)