
- 起業のきっかけはコロナ禍での“食品ロス”
- 食品の共同購入から総合ECプラットフォームを目指して
中国で巨人アリババに迫る勢いで急成長するECプラットフォーム「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」。2015年の創業から5年で、2020年6月末時点の年間流通取引総額は約19兆4000億円、年間アクティブバイヤー数は約6億8300万人に達した。また2020年第2四半期の月間アクティブユーザー数は平均で約5億6880万人。中国ECでは第2位の規模を誇る。
拼多多の人気の理由は「共同購入」機能にある。ユーザーは欲しい商品を見つけたら、WeChatなどのSNSで家族や友人にも購入を勧める。単独での商品購入はできないが、共同購入者が集まれば、全員が商品を格安価格で購入できる仕組みだ。
そんな拼多多の“日本版”とも言えるサービスが9月1日、誕生した。スタートアップのX Asia(エックスアジア)が提供するショッピングアプリの「カウシェ」だ。拼多多と同様に、目標人数が集まれば、格安価格の商品を共同購入できる。
X Asiaはカウシェの提供開始と同時に、宿泊予約サイト「Relux」を提供するLoco Partners創業者の篠塚孝哉氏が社外取締役に就任し、同氏からの資金調達を実施したことも明らかにしている。
起業のきっかけはコロナ禍での“食品ロス”
X Asiaは今年の4月に設立されたばかり。代表取締役の門奈剣平氏は日本人の父親と中国人の母親を持つ。中学生まで中国で過ごし、高校からは拠点を日本に移した。事業を経営する両親の影響から、ビジネスや起業に興味を持つようになったという。
門奈氏は慶應義塾大学に在学中、Loco Partnersでの長期インターンを開始した。インターンといっても、当時の社員は元代表取締役の篠塚氏のみ。事実上2人目のメンバーとして同社に参画することとなった。
卒業後はLoco Partnersの社員となり、2017年に中国子会社を設立した際には支社長に就任。Reluxの中国展開を指揮した。合計で8年、Loco Partnersのシード期からKDDIによるM&A、M&A後の統合プロセスまでを経験。たった2人から成るスタートアップが数百人規模にまで成長する過程を見てきた。
門奈氏が起業に至った背景には、コロナ禍で販路を失った飲食店、食品メーカーや生産者が廃棄した食品を目の当たりにした経験がある。多くの飲食店は営業を自粛し、仕入れを止めた。卸売市場も仕入れを控えた。結果、出荷先を失った食品の多くは“食品ロス”となった。
もともと「中国で進んでいる事業を持ち帰り、日本に貢献したい」という志があった門奈氏は、「拼多多の仕組みを活用すれば日本の食品ロスを減らすことができるのでは」と考え、X Asiaを設立。カウシェの開発に着手した。
門奈氏によれば、中国ではEC化が進んでいるため、新型コロナの影響下でも日本ほど事業者の販路が課題として浮上することはなかったという。だが日本のEC化率はまだまだ低い。経済産業省によると、日本国内におけるBtoC(消費者向け)事業のEC化率は2019年、わずか6.76%だった。
門奈氏はカウシェの提供を通じて、より多くの食品が「無駄にならない」社会の実現を目指す。
食品の共同購入から総合ECプラットフォームを目指して
前述のとおり、X Asiaが提供するカウシェは拼多多に着想を得たサービスだ。現在はiOSアプリのみを提供しているが、Android版の開発も視野にある。
ユーザーはカウシェのアプリで欲しい商品を探し、LINE、Facebook、Twitter、Instagramやメールで家族や友人に購入を勧める。共同購入者が集まれば、掲載商品を最大55%の割引率で購入できる。

現在、カウシェは北海道産の帆立、霜降りカルビのスライスから地方のスイーツ、ミネラルウォーターまで、約500種類の商品を取り扱っている。商品を販売している事業者は飲食店、食品メーカー、生産者などさまざまだ。販売はカウシェが代行するが発送は各事業者が行う。
門奈氏いわく、カウシェに商品を掲載している事業者は、売上以上にSNS上でのバイラルによる認知の向上に期待しているという。ユーザーは共同購入者を探す際、商品ページへのリンクをシェアする。そのため、各SNSのタイムラインで不特定多数に共同購入を促すことも可能だ。同氏はインフルエンサーが、SNSやLINEなどのグループで商品紹介することを想定している。
カウシェでは現在、食品を中心に扱っているが、将来的にはコスメや家電も扱う総合ECプラットフォームを目指す。そしてユーザーのエンゲージメントを高めるため、ゲーミフィケーションや、AIを活用した商品のレコメンデーションといった機能の開発を視野に、更なる資金調達にも踏み込むという。
拼多多は2018年に「多多果園」というミニゲームを取り入れた。特定の商品を購入するとゲーム上の果物が育ち、ユーザーには実物の果物が届けられる。門奈氏はこのような機能をカウシェに実装していきたいと考えている。
X Asiaは2020年度、まずは日本に共同購入の文化を根付かせることに注力する。コロナ禍で実家に帰省できない人は多い。友人に会うことを躊躇している人もいるだろう。食事を共にすることが難しい今、門奈氏は、カウシェを通じて「気に入った商品を勧め、共同購入して一緒に楽しむ、家族や友人との絆を確認するようなコミュニケーション」が起こることを期待している。