
- 100種類以上の中から自分好みのおやつが届く
- 「宅飲み」需要で生まれた新商品が好調、新ブランドの展開も
- 300万件の評価データを基に商品をレコメンド
- “ウェブサービスを開発する要領で”おやつを作る
- 目指すはおやつをスマホで買う文化を広げること
自分用にパーソナライズされた“おやつ体験BOX”が定期的に自宅に届く、おやつサブスクの「snaq.me(スナックミー)」が事業を拡大している。
同サービスでは自然素材からできた100種類以上のおやつの中から、ユーザーの好みにマッチした8種類を独自アルゴリズムを駆使して選定。専用のBOXに収納し、決まった頻度でオフィスや自宅のポストまで届ける。
2016年3月のサービス提供開始から月次で5〜10%成長を続けていて、実数は非公開ながら直近1年間で売上規模は約2倍に増加した。
運営元のスナックミーでは菓子業界における国内No.1のサブスクリプションサービスを目指し、今後は人材採用やロジスティクス、新ブランドへの投資などを加速させる計画。そのための軍資金として、9月3日に総額2.6億円の資金調達を実施した。
調達した資金にはW ventures、デライト・ベンチャーズ、SMBCベンチャーキャピタル、Future Food Fund(オイシックス・ラ・⼤地のCVC)を引受先とする第三者割当増資に加えて、⽇本政策⾦融公庫などからの融資融資も含まれる。スナックミーでは昨年5月にもW ventures、Spiral Ventures Japan、SMBCベンチャーキャピタル、LINE Ventures、朝日メディアラボベンチャーズから2億円を調達済み。今回はそれに続く資金調達となり、累計の調達額は約6億円となった。
100種類以上の中から自分好みのおやつが届く

冒頭で触れた通り、snaq.meはユーザーの好みに合うおやつを定期的に届けるサブスクサービスだ。
ユーザーは初回利用時にウェブ上でアンケート形式の「おやつ診断」を実施する。回答結果からユーザーごとの好みを導き出し、独自開発したアルゴリズムを用いてBOXに入れる8種類のおやつを厳選。届いたおやつに対してフィードバックをしていけば、中身をより自分好みなものにアップデートすることができる。
スナックミーでは生産者とタッグを組み、人工添加物や白砂糖を使わない素材の味を活かしたおやつを製造。ラインナップは毎月入れ替わるが、ドライフルーツやナッツ、スナックなど常時100種類以上の商品を扱う。
1BOXあたりの料金は1980円(税込・送料無料)。頻度は2週に1回もしくは4週に1回から選べる。

スナックミー代表取締役の服部慎太郎氏によると女性からの指示が多く、ユーザーの95%を女性が占めるのだそう。当初は添加物が入っておらずナチュラルな製品であることに惹かれていたユーザーが多かったが、次第に「箱を開ける際のワクワク感が気に入っている」「頑張った自分へのご褒美として使っている」といったように、snaq.meが演出するおやつ体験に魅力を感じるユーザーが増えてきた。
それに合わせるような形で、おやつ診断の仕組みなどサービスの中身だけでなく、BOXのデザインや同封する冊子などについても定期的にアップデートを実施。サービス開始から4周年を迎えた今年の3月にはブランドの言語化も行っている。
服部氏によると指数関数的に急成長するようなモデルではないものの、ユーザー数は月に5〜10%成長を維持しているとのこと。ここ数カ月ではこれまでデパートやコンビニでおやつを購入していた人が、コロナ禍で外に出歩く機会が減ったことを機にsnaq.meを試し始めるなど伸び率も加速しているそうだ。
「宅飲み」需要で生まれた新商品が好調、新ブランドの展開も
また「宅飲み」が広がったことを受け、おつまみBOX「オツマミー」を開発。ローンチの3日ほど前から急遽準備を始め、最初は社内にある在庫の中からおつまみとして楽しめるおやつをセレクトする形で始めたところ、これが想定以上の人気を集めた。

第一弾の「オツマミー for ビール」は1週間で約1000箱を販売し、そこからは増産と販売ストップの繰り返し。その後はワイン向けなど新シリーズも手掛け、おつまみ用の新商品開発などにも乗り出した。本日からはオリオンビールとタッグを組んだ「オツマミー for オリオンビール」の販売も始めている。
スナックミーとしては「デジタル発のおやつブランド」として今後事業を拡大していく考え。これまでカルビーや森永製菓といったメーカーが様々な菓子ブランドを展開してきたように、同社でもsnaq.meを軸としながらブランドのポートフォリオを拡充していく計画だ。
「事業を広げていく上で『どこまで市場が伸びるかわからない』というのが1つの懸念点でもありました。それが今回のオツマミーを通じて、snaq.meで培ってきたモデルを活用しながら違うターゲットに対して異なるブランドを展開することで、ある程度スケールできるという感覚が掴めてきた。今後も新ブランド開発に向けた投資を行っていきますが、この方針が見えてきたことで事業に対する手応えも去年以上に増してきました」(服部氏)

300万件の評価データを基に商品をレコメンド
スナックミーは事業の性質上、ECを軸に展開する「お菓子メーカー」のように見えなくもないが、その実態はウェブサービスを展開するテック系スタートアップと変わらない。代表の服部氏もディー・エヌ・エー出身で、レコメンドエンジンなどのコアな仕組みは社内のエンジニアが作り上げている。
同社の重要なアセットの1つが、ユーザーによるおやつの評価データだ。現在約300万件分のデータが貯まっていて、これがsnaq.meのユーザー体験を左右する「レコメンドエンジン」と「商品開発」に大きな影響を与えている。

レコメンドエンジンについては服部氏が以前からこだわって開発を進めてきたものだ。人によっておやつの好みが変わるのはもちろん、美味しければ何度でも食べたいという人もいれば、毎回違うものを食べたいという人もいるように「おやつに対するスタンス」もさまざま。そういった条件を加味しながら各ユーザーに最適な商品が届けられるように、アルゴリズムのチューニングを日々繰り返してきた。
またsnaq.meではマイページから食べたいおやつをリクエストできる機能が搭載されているが、「リクエストページに表示するおやつ」を選定する際には「BOXに入れるおやつ」を選ぶ場合とは別のアルゴリズムを用いている。
「ずっと嫌いだと思っていたものを試してみると、ものすごく美味しくてハマってしまったという声を頂くこともよくあるんです。BOXに入れてお送りするものについてはあまりリスクがあるセレクトはできませんが、リクエストページに『こんなものもありますよ』と表示する際には少し幅を持たせる工夫をしています。新しいものとの出会いや発見を通じておやつの楽しみを増やしていくというのも、サブスクBOXの大きな価値の1つです」(服部氏)

“ウェブサービスを開発する要領で”おやつを作る
ユーザーから一つひとつのおやつに対する生の声が大量に集まることで、商品開発のあり方そのものをアップデートできるのもsnaq.meの面白いところだ。
たとえば特定のジャンルの商品が全体的に評価が高いことがわかれば「実際に作る前からある程度人気が出ることがほぼほぼ見えている状態」なので、別のフレーバーを試してみるなど重点的に開発を進めることができる。
似たような商品でどちらを残すのが良いか迷ったら、ABテストのような要領で双方をユーザーに試してもらいながら点数が高い方を採用することも可能。エッジの効いた商品なら小ロットだけ作ってみて、評価データを見ながら今後の方針を固めてもいい。
「従来のプロセスでは半年〜1年かけて1つの商品を作り込み、その中でグループインタビューやアンケートを繰り返しながら商品化に向けて動いていくという形が多かった。でもsnaq.meのやり方は全く逆で、ウェブサービスみたいにまずはベータ版を出してみて、反応を見ながらブラッシュアップをしていく感覚に近いんです。たとえば同じ商品でも途中でレシピを改良したりといったことは頻繁にやっています」(服部氏)
snaq.meで扱うおやつは社内で開発したレシピをOEM先の生産者に作ってもらうこともあれば、取引先の生産者にユーザーからの評価データを渡して共同開発に近い形で作り込んでいく場合もある。
今は生産者側から新商品の提案を受ける機会も増え、服部氏いわく「良いサイクルが回り始めている」そう。生産者にとってもsnaq.meが重要なチャネルになりつつあり、中には売上の20%がsnaq.me経由の生産者も出てきている。
直近ではコロナの影響で打撃を受けた土産屋や和菓子店などと共同でEC向けの商品開発にも取り組んだ。今では取引のある生産者の数も100社を超え、生産者向けの共創プラットフォームとしての役割も担うようになってきた。
「コロナの影響も受けて、生産者の方々のためにできることがあると再認識しました。店舗に卸すことが多かった生産者であれば、そもそも直接顧客の声を聞く機会もほぼありません。それがsnaq.meでは各商品に露骨に点数がついて、フィードバックが得られる。自分たちがユーザーとの接点となってその情報を開放していくことで、生産者はデータを基に新商品開発にチャレンジできるようにもなります。こういった機会を今後はもっと増やしていく計画です」(服部氏)
目指すはおやつをスマホで買う文化を広げること

スナックミーでは今回調達した資金を活用してサービス体験強化に向けた人材採用を進めるほか、オツマミーなど新ブランドの立ち上げや生産者との共創プラットフォームの強化を進める方針。また従来はロジスティクス周りの設備投資にも力を入れ、従来は人が担っていた部分にシステムを取り入れていくことでオペレーションの強化も図る。
まずは2021年末までにsnaq.meに加えて新たに2ブランドを展開し、生産者とのネットワークも現在の倍以上となる200社まで拡大することで、菓子分野で国内No.1のユーザー規模を目指していく。
「今ではスマホで服を買うことも決して珍しくないですが、ほんの数年前には『スマホで服は買わない』と言われていました。おやつに関しても今はコンビニやスーパーなどリアルな店舗で買うものだという認識が強いけれど、その認識を変えて『おやつをスマホで買う文化』を作ることができれば面白いと考えているんです。デジタル発のおやつブランドとしてそれをどこまで形にできるかが、今後のスナックミーのチャレンジ。すぐにできることではないですが、5年10年かけて実現していきたい」(服部氏)