
- 新型コロナの影響でビデオ通話数は235%増加
- 病院の検索から予約、診察、決済までLINE上で可能に
- LINE PayはApple Pay対応、決済から認証へ
- 公式アカウントから直接予約ができる「LINE予約」
- 今年の冬に音楽ディストリビューションサービスを開始
- タイムラインを強化、エンタメのDXも推進
新型コロナウイルスの影響で半ば強制的な変化がもたらされ、私たちは「新しい生活様式(ニューノーマル)」への変更を余儀なくされた――そんな人々の生活の変化に合わせて、LINEがサービスを拡大させている。
9月10日、LINEは年次イベント「LINE DAY 2020」をオンラインで開催。オンラインが当たり前の時代に向けた新サービスを発表した。

LINEの代表取締役社長兼CEOを務める出澤剛氏は新型コロナを「戦後最大の変化」とし、この変化を元には戻れない「不可逆」なものと形容する。
「コロナを克服した後には、戻ることのない本質的な変化がある。社会を変身させる変化がニューノーマルを形作ります。当たり前を根本から見直すことによって真の意味のパラダイムシフトが起きると思っています」(出澤氏)
実はコミュニケーションサービスの「LINE」自体、2011年の東日本大震災で誕生した経緯を持つ。当時、ネイバージャパンで新しいアプリの開発を検討していた、上級執行役員LINEプラットフォーム企画統括の稲垣あゆみ氏はこう振り返る。
「有事の際は大切な人と連絡が取れるサービスが必要です。なぜ作っておかなかったのだろうかと思い、急ピッチで開発しました」(稲垣氏)
コロナ禍においてもLINEは、今年2月にダイヤモンド・プリンセス号が横浜港に入港した際、厚生労働省、ソフトバンクと組んでLINEをインストール済みのiPhone2000台を支給したほか、ユーザーを対象にウイルス対策のための全国調査を合計5回実施するなどの取り組みを行っている。

出澤氏は「コロナでの変化の起点はソーシャルディスタンス(人との距離を取る)だが、我々のコーポレートミッションである“CLOSING THE DISTANCE”(世界中の人と人、人と情報・サービスとの距離を縮め、心地良い関係性を創出する)を改めて意識しました」と述べる。この2つは「矛盾しているようだが、さらに高度に交わるものです」と続ける。
新型コロナの影響でビデオ通話数は235%増加
新型コロナの影響で、LINEの使い方そのものも変化している。まずはビデオ通話が増加したが、「ビデオ通話に慣れたことで新しい使い方が出てきています」と稲垣氏は語る。
「それまでは目的や用件を済ませるために、誰かと時間を決めて話をするためにLINEを開いていましたが、雑談をするため、あるいは誰かが作業している様子をビデオ通話で流すなどの利用が増えています。明確な目的がなくても時間をシェアすること自体がコミュニケーションになってきています」(稲垣氏)
オンラインを前提とすることでコミュニケーションの内容も変化しているといえるだろう。

LINEはコロナ禍でのニーズの変化に応じるべく、5月にはグループ通話中に画面をシェアしながらオンラインショッピングなどができる「みんなで見る」、8月には最大500人でビデオ通話ができる「LINEミーティング」などの機能を導入してきた。今後はビデオ通話をメインに、気持ちを伝えるためにスタンプやテキストを補助的に使うようなコミュニケーション、自分の顔を見せたくないときなどに使えるアバターなどを実現していくという。
また、友達の誕生日に全員でエフェクトを使って盛り上げたりバースデーソングをBGMに流すなど、一緒に楽しめるような仕掛けも考えているそうだ。
病院の検索から予約、診察、決済までLINE上で可能に
LINEでは"Life on LINE"をビジョンに掲げ、コミュニケーションツールとしてのLINE以外にも利用者の生活に密接したサービスや事業を展開している。LINE Dayではテクノロジー、フード、ローカルビジネス、ペイメント、マネー、ヘルスケア、情報、エンターテインメントの8領域で最新の取り組みを発表した。ここではそのいくつかを紹介する。
ヘルスケアでは、エムスリーと立ち上げたLINEヘルスケアが新サービスとして「LINEドクター」を発表した。病院の検索、予約、診察、決済までをLINEで行うことができるというもので、11月より提供を開始する。
2019年末にスタートしたLINEで医師に相談できる「健康相談サービス」は、累計の相談リクエスト数は30万件を超えたという。今年8月には悩み相談に対して、医師が暴言メッセージを送り、LINEは事実関係を確認した後、謝罪文を自社サイトに掲載し、該当の医師を2日から利用停止にしていたこともある。
健康相談サービスが相談にとどまっていたのに対し、LINEドクターではLINEのビデオ通話を使って医師と患者がやり取りをしながら“診療”を行う。薬の処方も受けることができ、支払いはLINE Payで行える。なお、利用者は診察費以外にオンライン診察を利用するための追加手数料は不要だ。
医療機関向けには利用環境・機能などによって選べる複数プランを提供予定で、11月は「Basic Plan」から提供をスタートする。同プランには、クリニックの予約機能、LINEビデオ通話機能、モバイル送金・決済サービス「LINE Pay」をはじめとした決済機能が搭載されており、初期費用・月額費用は無償で提供される。今後、LINEはサービス内容に応じて複数のプランを提供する計画だという。
また、「オンライン服薬指導」との連携も予定しており、実現すれば診察から薬の受け取りまで自宅で行うことができる。

LINE PayはApple Pay対応、決済から認証へ
決済のLINE Payでは、Apple Payの対応が発表された。これまでLINEはQRコードを使った“コード支払い”、NFCを利用した“かざして決済”、Visa LINE Payクレジットカードとの“非接触への対応”を進めてきた。すでにGoogle Payには対応済みで、Apple Payが利用できるようになることで、「現在普及している全ての決済手段に対応」し、目指していたプラットフォームが完成する、とLINE Pay代表取締役社⻑兼CEOの⻑福久弘氏は述べた。
Apple Payは2020年中に利用できるようになり、これにより全世界で9000万箇所以上の決済で利用できるとのことだ。
また東京ガスとの提携により“払込書のペーパーレス”として、払込書で支払っている顧客向けに、東京ガスのウェブ会員サービス「myTOKYOGAS」とLINE Payの連携により通知メッセージからLINE Payで支払うことができるサービスも発表。2021年春頃に利用できるようになる。
LINE Payは今後のビジョンとして、決済から認証へと役割を拡大させる「LINE ID Passport」を発表した。オンライン認証eKYC(electronic Know Your Customer)を土台として、LINEで本人確認されれば他のLINEサービスでスムーズに本人確認される仕組みで、「外部企業に対しても仕組みを提供する計画があります」と長福氏は語る。

公式アカウントから直接予約ができる「LINE予約」
ローカルビジネスでは、LINE公式アカウントから直接レストランなどの予約ができる「LINEで予約」などを発表した。店舗のLINE公式アカウントのプロフィールから予約したり、トーク機能を使って利用できる。
ローンチにあたってぐるなびと連携。ぐるなびに加盟する飲食店のうち席のみ指定でのオンライン即予約に対応している店舗を対象にLINEから予約できる。

今年の冬に音楽ディストリビューションサービスを開始
エンターテインメント業界はコロナ禍の打撃を大きく受けた業界の1つだが、「デジタル化されているものについてはコロナ禍でも成長できている」と語るのが、LINEのCSMO(最高戦略・マーケティング責任者)の舛田淳氏だ。
定額制の音楽配信サービス「LINE MUSIC」の場合、再生回数は135%増えた。だが、このようなデジタル化コンテンツを上回るのが、ユーチューバー、インスタグラマー、ティックトッカーなどと言われる個人のクリエイターが作成するコンテンツだ。
LINEはこの市場に向け、8月に動画クリエイターのマネジメント事務所「UUUM(ウーム)」との提携を発表しているが、舛田氏は「クリエイターのためのコンテンツプラットフォームを担っていきます」と語り、新たに音楽ディストリビューションサービス「SOUNDALLY」を開始することを発表した。
SOUNDALLYは音楽クリエイターのコンテンツを配信するものだが、潜在性は大きいと見る。LINE MUSICにおけるインディーズの再生回数は2020年1月は前年同月比で530%増となっており、「これまでのメジャーとインディーズという長年続いてきた構図に影響を与えるほどの勢い」と舛田氏はいう。
SOUNDALLYは「サービスに登録いただくだけで、誰でも簡単に自分の楽曲を配信できることが大きな特徴です」と舛田氏は語り、配信先はLINE MUSICだけでなく世界の音楽配信サービスでも配信することができる。
2020年冬に開始予定で、詳細は明らかにしなかったが登録は無料で曲数の上限なしにするなど「費用面のハードルを下げることで、多くのアーティストに利用いただきたい」とし、さらに「クリエイターコンテンツプラットフォームとしての役割を強化していきます」と舛田氏は宣言した。

タイムラインを強化、エンタメのDXも推進
エンターテインメント分野ではまた、LINEのソーシャル機能である「LINE タイムライン」の強化も発表した。友人と近況をシェアあえるこの機能ののMAU(月間アクティブユーザー)は6800万人以上であり、「トーク、ニュース、ウォレットと並ぶサービスであり、巨大なSNSになっています」舛田氏はいう。
今後、このLINE タイムラインを大幅刷新し、「LINE タイムライン2.0」としてソーシャルグラフからコンテンツフォロー型プラットフォームにする。
すでに、LINEで友達かどうかに関係なく利用者の嗜好に合うコンテンツを表示する「ディスカバー」タブを導入済みだ。LINE友達登録に関係なく、ユーザーの嗜好に合わせた動画フィードがある。
これまでのソーシャルグラフをベースとしたタイムラインでは「狭くて深い範囲で情報がやり取りされており、“拡散”は起こりにくい構造になっていた。そのため、再生数やライブ数が少ないという声も頂いていました」と舛田氏は語り、コンテンツフォローモデルへのシフトとディスカバーにより、この課題を解決するとした。
「友達同士のコミュニケーションはトーク、コンテンツを見る場所はタイムラインという棲み分けをイメージしています。これによって6800万人というタイムラインのMAUを生かした形でコンテンツをデリバリーできる場所になります」(舛田氏)
また、クリエイター向けには「マルチアカウント」機能を発表した。個人が複数のアカウントを作成できるもので、LINEタイムライン上で個人アカウントは別にオフィシャルアカウントとして運用することができる。

LINEはこの分野で、松竹、Sprootと3社で「松竹DXコンソーシアム」を設立したことも発表した。映画館や劇場のスマート化、IDとデータベースの統合、マーケティングと顧客体験の高度化などを通じてエンターテインメントのDXを進める。
ステージに上がった松竹の取締役井上貴弘氏は、今年で創業125年を迎えたことに触れながら「技術や新しい動きを取り入れる部分は苦手なところ。ここを支援してもらう」と提携に期待を寄せた。
また、2021年3月頃に完了予定のZホールディングス(ヤフー)との経営統合に関しては、「LINE DAY 2020」ではほとんど話題に出なかった。
