
- 元鉄筋工が目指す「世界一ひとにやさしい現場」
- 20年で100万人が消える建設業界の危機をロボットが救う
- 土木工事にも対応、将来は従量課金化・クラウド化も目指す
真夏の建築現場は体感温度では40℃から50℃にもなる過酷な世界だ。そんな環境で、建造物の骨組みである鉄筋を網目状に組む職人が鉄筋工。従来、その仕事の約4割は鉄筋の交点をワイヤで結び合わせる「結束」という単純作業が占めていた。
この鉄筋結束作業を自動で行うのが、建ロボテックが開発した「トモロボ」だ。建ロボテックは9月15日、グローカリンク、MICイノベーション5号ファンド(モバイル・インターネットキャピタル)による出資と中国銀行、商工中金からの融資の合計で、総額約2億円の資金調達実施を発表した。
元鉄筋工が目指す「世界一ひとにやさしい現場」
トモロボを開発・販売する建ロボテックは2015年10月に設立されたスタートアップ。香川県に本社を置く同社代表取締役の眞部達也氏は、自身も33歳まで現場で鉄筋を組んでいた元鉄筋工だ。
床面の鉄筋結束では、炎天下や凍てつく寒さの中でも腰をかがめた姿勢で長時間、作業を行わなければならない。簡単に見えるが誰でもできるわけではなく、かといって変化があるわけではない単調な作業だ。以前は全ての工程を手作業で行わなければならなかった、その鉄筋結束作業に最初の光明が見えたのは、1993年のこと。世界初の充電式「鉄筋結束機」が、ホチキスの主要メーカーとしてよく知られるマックスから登場したのだ。2017年にはトリガーを引くだけで、職人よりも早く強固に結束できる改良機種も現れた。
トモロボはこのマックス製の鉄筋結束機を活用し、さらに作業を自動化できるよう開発された、鉄筋結束ロボットだ。2019年3月に公開され、2020年1月からは正式販売を開始。8月現在で全国27台のトモロボ導入が進んでいる。

マックス製の鉄筋結束機を左右2台取り付けるだけで、土間・スラブなどの床面の鉄筋結束作業を自動で行えるトモロボ。鉄筋は意外と柔らかく、配筋時の誤差も1センチぐらいはあるというが、トモロボは鉄筋の幅に合わせて結束位置を変更でき、鉄筋と鉄筋の交点をセンサーで探すので、スタートボタンを押すだけでピッチが変化する環境でも自動対応して結束作業を進められる。
トモロボによる作業負担の軽減について、眞部氏はこう説明する。

「結束作業は鉄筋工の仕事の約4割を占めるため、その80%を自動化することで、床作業全体の37%を省力化することができ、作業負担を軽減できます。また今年7月に発表したオプション『トモロボスライダー』を活用すれば、トモロボが鉄筋の端に到達したときに、1人で横移動することが可能です。このため職人が1人いれば、多くのロボットを運用することができるようになりました」(眞部氏)
トモロボの定価は1台220万円。マックス製鉄筋結束機は定価22万円なので2台分の費用を加えて合計264万円が導入時のコストとなる。トモロボは1日当たり12時間稼働でき、職人1人が6500カ所の結束を行う間に1台で8000カ所の結束を行える。コスト削減だけでなく、職人を単純作業から解放することで、より技術力の必要な生産性の高い業務に集中することを可能とする。
20年で100万人が消える建設業界の危機をロボットが救う
「世界一ひとにやさしい現場を創る」をビジョンに掲げる建ロボテックは創業以来、鉄筋結束ロボットのトモロボをはじめ、建設現場の省力化のための製品を企画・開発・販売してきた。保有特許は12件。「さまざまな省力化を地道にやってきた」と眞部氏はいう。
その背景には建設業界の「存続の危機」といっても過言ではない深刻な人材減少があると眞部氏は説明する。
「2017年の建設業就業者の年代別の割合では、50歳以上が44%を占め、30歳未満は11%しかいません。しかも30歳未満の内訳は、海外からの技能実習生が10%、3年目離職想定者を合わせて考えると、44%が3年以内にいなくなる計算となります」(眞部氏)

これを人数に置き換えると、建設業界へ入る人材は今後20年で40万人しかいないのに、144万人が出て行くことになる。全体の約20%に当たる100万人が業界から消える計算だ。国内54.6兆円産業とされる建設業界は、労働者不足に加え、技術力の衰退や後継者の断絶といった大きな問題を抱えている。
眞部氏は、この問題を解決するための第1弾製品としてトモロボを開発。建設産業がロボットを活用するシーンを広げたい、持続可能な産業へと進化させたいと語る。
「人口減少の中で建設業界にも新しい生産方法が必要です。そのためには、人に優しい現場を実現するのが近道だと私は考えます。省力化技術の開発を中心に、付随するいろいろな技術を、小さなものも含めて使うことで人に優しい現場を実現したい」(眞部氏)
建設労働力が不足しているのは日本だけではなく、海外でも特に高齢化が進む先進国では同様の傾向にある。建ロボテックでは長期的には、国内外の労働力不足ソリューション市場を約5兆1000億円と見込む。海外からの問い合わせもあり、アメリカ、シンガポール、韓国では海外特許を、中国でも実用新案を出願しているそうだ。
鉄筋結束ロボットの開発は、実は大手建設会社の大成建設などでも行われている。またトモロボは構造としては単純で、市販の工具を装着させて動作させる設計になっているため、追従する企業が現れてもおかしくはなさそうだ。
眞部氏は「単純なロボットなので実際マネされる可能性はあります」と断った上で、「それより先に我々はトモロボを進化させ、最初に開発した企業としてのアドバンテージを保つ」と自信を見せる。後述するが、建ロボテックとしては“トモロボを開発する会社”にとどまるのではなく、トモロボを起点としながら、建設業界の現場全体の課題解決を目論んでいる。
土木工事にも対応、将来は従量課金化・クラウド化も目指す
現在は代理店、レンタル会社を通じてロボットやワイヤなどの資材等を販売するビジネスモデルをとる建ロボテック。直近では床結束のトモロボを進化させ、完全自動化を図る。その上で、各種機能をオプションとして選択できるようにする。また、シリーズとして運搬用ロボットの開発も開始したという。

現行機種は建設業の中でも建物を作る建築作業に特化しているが、土木業ニーズへの対応もスタートした。道路橋や高架橋などの土木構造物の設計・施工を手がける富士ピー・エスの協力により、土木対応の改造型開発を今夏開始、2020年中には製品化を発表する予定だ。
建ロボテックでは今後、スタンドアローンのトモロボにセンサーを搭載し、GPSやクラウドサービスと接続することも検討しており、「いずれ従量課金モデルを目指したい」と眞部氏はいう。その根拠はこうだ。
仮に六本木ヒルズ建設にトモロボが導入されたとしたら、床面積は東京ドーム15.5個分の広さ、約72万4500平方メートルにもなる。鉄筋交点は3212万カ所。建設工事標準仕様では、交点の半数以上を結束する基準となっているので、1600万カ所の結束が必要となる。結束に必要なのべ作業人数は2600人。トモロボを導入すれば、600人に減らすことが可能だ。結束1カ所に付き1円を課金するとしても、2000人工の費用と比べればコストは下げることができる。また、建ロボテックとしても収益は十分上げられるという算段だ。
とはいえ、従量課金の導入はまだまだ先の話。当面は専門工事業者が利益を上げ、持続可能な企業に転換できることを伝え、導入成果を出してもらうことで認知を広げたい、と眞部氏は話す。このため、建ロボテックは半ばコンサルティングのような業態へ変わろうとしているという。
「鉄筋業は、私も含めてPR下手が多い業界。鉄筋業者の地力だけでなく、ゼネコンを対象にした企業ブランディングも必要と考えています。そこでコンサルティングの一環として、TAC(Tomorobo Advanced Company)認定制度というものも用意しました。トモロボを活用してスマート施工を推進しようとしている会社をゼネコンに発信するといった活動も地道に進めていきます」(眞部氏)
まずは鉄筋結束トモロボを徹底的に進化させることで、現場で本当に使えるものとして認知を広げ、導入する鉄筋業者の成長ストーリーをつくる、と眞部氏。その上で建設業の別の専門業種それぞれに、同じように省力化ソリューションを広げていきたいと語る。
また、トモロボで収集した建設現場のデータをまとめて予測・分析に活用するプロトコルを、AI研究・開発企業と共同開発することも検討しているとのことだ。これにより「ロボットの故障情報だけでなく、地域ごと・業種ごとの人でのニーズ予測など、日本全国での労働力共有が生まれると考えています」と眞部氏は話している。
「最終的にはトモロボオペレーションシステムを展開できればと考えています。ロボットを軸に、周辺業務をウェブサービス化し、省力化ソリューションとして提供していきたい」(眞部氏)