デジタルコンビニ「QuickGet」を開発するレキピオ代表取締役の平塚登馬氏(左)と共同創業者でCTOのRohit Funde氏(右) すべての画像提供 : レキピオ
デジタルコンビニ「QuickGet」を開発するレキピオ代表取締役の平塚登馬氏(左)と共同創業者でCTOのRohit Funde氏(右) すべての画像提供 : レキピオ
  • アプリで注文、30分以内に届くデリバリー特化コンビニ
  • レシピアプリからデジタルコンビニへのピボットを決めた理由
  • 「めんどくさいから全部届けて」に応える
  • ボタン1つで欲しいものが何でも届く体験の実現へ

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、巣ごもり需要により「デリバリーサービス」へのニーズが高まっている。

たとえばフードデリバリーの領域ではUber Eatsや出前館のようなサービスを使うことでアプリから簡単に食事を検索・注文でき、決済まで完結する。各サービスが対象エリアや加盟店を拡大していて、僕が住む地域でも今夏からUber Eatsを使えるようになった。

デリバリーの需要は何もフードメニューに限ったものではない。食品や日用品もスマホから手軽に注文できるサービスがあれば便利ではないだろうか。本日正式ローンチを迎えた「QuickGet(クイックゲット)」はそんな要望に応えてくれるサービスだ。

開発元のレキピオで代表取締役を務める平塚登馬氏はQuickGetを「デジタルコンビニ」と表現する。デリバリー専業で、モバイルアプリやブラウザ経由で注文が入った商品を30分以内に配達。食品やお酒、日用品など1000点以上の商品を扱う。

2019年11月にベータ版をローンチしてから1年弱。目立ったプロモーションなども行わず、東京都港区と渋谷区の一部エリアのみを対象にステルスで運営してきた。年明けからはユーザーも増え始め、六本木エリアのみでアプリ内の累計流通額は数千万円規模に成長。正式ローンチを機に本格展開していく計画だ。

そのための資金として、レキピオでは下記の投資家を引受先とする第三者割当増資と日本政策金融公庫からの融資により総額1.7億円の資金調達も実施している。

  • UB Ventures
  • マネックスベンチャーズ
  • サイバーエージェント・キャピタル
  • FGN ABBALab
  • F Ventures
  • 赤坂優氏
  • 中川綾太郎氏
  • 吉田浩一郎氏

アプリで注文、30分以内に届くデリバリー特化コンビニ

QuickGetのアプリ画面
QuickGetのアプリ画面

コンビニの定番ともいえるお弁当やおにぎりを始め、ジュースやコーヒー、缶ビールなどの食料品からトレイットペーパーやシャンプー、充電器などの日用品までQuickGetにはさまざまな商品が並ぶ。

コンビニという言葉を使ってはいるものの、高級スーパーが扱うような本格的なワインや調味料、ディスカウントストアに並ぶ調理器具やパーティーグッズなどもこのサービスを使えば簡単に手に入る。

平塚氏がサービスを設計する上でこだわったのが「今欲しいものがすぐに自宅に届き、しかも店舗と同等の価格で購入できる」こと。そのために六本木に自社倉庫を構え、自ら商品を仕入れて在庫も抱える。

商品ごとに多少のばらつきはあるものの、おおむね店舗で購入する場合と同等の価格帯を実現できているそう。サービスの利用料金はトータルの商品代金に配送料として250円が加算される形だ。

配送も六本木拠点から原付を使って自社で行う。周辺領域のバイク基準の配送ルートの知見がたまってきたこともあり、最適なルートを組むことで今のところ98%の注文を30分以内で配達できている。

またデリバリー専業にすることで来店対応をなくし、固定費の削減と床面積効率のアップを実現。コンビニ数十店舗分の商圏を1拠点でカバーすることで、しっかりとビジネスとしても成立しうるモデルを作り上げてきた。

「1番大きいのはデータに基づいてリーンなMD(マーチャンダイジング)ができること。店舗のPOSシステムでは『何が』『いつ』『何個』売れたのかという購入データと店員の主観的判断による性別・年代などの属性データしか取れませんが、QuickGetでは『誰が』にあたるユーザー情報と購入データをひもづけることが可能です。詳細な顧客属性や購買サイクルなどのデータから、そのエリアに最適化する形で商品の仕入れや陳列を柔軟にカスタマイズできるのが強みだと考えています」(平塚氏)

六本木に自社倉庫を設け、ここからほぼ全ての商品を配送する。なお現在も一部の商品は「配送代行」という形で市販のものを購入し届けているという
六本木に自社倉庫を設け、ここからほぼ全ての商品を配送する。なお現在も一部の商品は「買い物代行」という形で市販のものを購入し届けているという

ベータ版は港区と渋谷区の一部エリアで展開していたこともあり、経営者層や小さな子供のいる主婦層、若いビジネスパーソン、夜間の労働者など幅広い層に利用されている。

2リットルの飲み物など重たい商品や弁当類に加え、食パンや牛乳など普遍的なニーズのあるもの、コンビニにはないようなお酒や健康食品などが人気商品。中には1カ月に数十万円を使うヘビーユーザーもいるそうだ。

「定期的に使ってくれている方達からは『自宅からコンビニに行くことがなくなった』という声をよく聞きます。自分で近くの店舗へ買い物に行くことを考えると、支度の時間を入れれば長くて数十分はかかる。(配送料はかかるものの)その手間がなくなって、自由に使える時間が増えることを考えれば安いと言っていただけることが多いです。また扱っている商品が多く、飲み物やお菓子などもまとめて変えるため『Uber Eatsを使う機会が減った』という方も一部ではいらっしゃいます」(平塚氏)

QuickGetでは本日から対象エリアを拡大していて、新たに恵比寿、神宮前、代官山、白金エリアなどでも使えるようになった。

最新の対応エリア
最新の対応エリア

レシピアプリからデジタルコンビニへのピボットを決めた理由

レキピオは2017年9月の設立。当時同志社大学に在学していた平塚氏ら数名の学生が共同で立ち上げたスタートアップだ。もともとは冷蔵庫の中にある食材に合ったレシピを提案してくれるアプリ「Recipio(レキピオ)」を展開していたが、そこからピボットをする形で昨年QuickGetを始めた。

「自分が東京に来て間もなかったころ、欲しいものがどのお店で売っているかわからなかったんです。ネットで調べて店舗に実際に行ってみると、店頭には置いてなかったりもする。その落胆をなくすために、『どの店舗にどんな商品が置いてあるのかがわかるサービス』があれば便利だと思ったのが最初です」(平塚氏)

せっかくなら、その商品がボタン1つで自宅に届いた方がユーザーにとって利便性がいいのではないか。当時日本でもUber Eatsが市民権を獲得し始めていたことに加え、世界的にもオフラインとオンラインを融合したOMO(Online Merges with Offline)の波が広がっていたこともあり、デリバリーモデルの次世代コンビニサービスにチャレンジすることを決めた。

もっとも、Recipioを運営していた頃から平塚氏の中には生鮮ECに取り組む構想があった。その時はレシピに足りない食材を届ける機能としてイメージしていたが、アイデアを整理するうちに「生鮮食品だけでなく欲しいものを全部運んでくれる方が便利だし、ビジネスとしても大きな可能性があるのではないか」と考えるようになったという。

また、同世代の起業家の活躍も平塚氏に大きな影響を与えた。特に以前から親しかったという小川嶺氏が代表を務めるタイミーは2018年8月にスキマバイトアプリをローンチ。そこから一気に事業を拡大するとともに、2019年10月には20億円の資金調達を実施している。

同社が短期間で急成長する様子を見て伸びてるスタートアップの勢いを肌で感じるとともに、Recipioの状況を省みると同じようなインパクトを生み出せていないことを痛感したという。

世の中を変えるようなプロダクトを作るには、もう一度市場選択と参入のタイミングを考えなければならない。国内の市場動向や海外の事例などもリサーチした結果「QuickGetをやるなら今しかない」と考え準備にとりかかった。今から約1年前、昨年9月のことだ。

もともとは現在の社名と同じレシピアプリからスタート。UB Ventures、サイバーエージェント・キャピタル、FVenturesなどはその時代からの株主だ
もともとは現在の社名と同じレシピアプリからスタート。UB Ventures、サイバーエージェント・キャピタル、FVenturesなどはその時代からの株主だ

「めんどくさいから全部届けて」に応える

まずは簡単なiOSアプリとLINEから注文を受け付け、コンビニなどで商品を買って届ける「買い物代行モデル」の形で試験的にプロジェクトを始めた。

もちろん最初から上手くいくほど甘くはない。注文がゼロの日も珍しくなく、数件注文が入るだけでも喜んだ。六本木のカフェで「QuickGetというアプリが流行ってるらしいよ」と少し大きめの声で話してみたり、スーパーやコンビニから少し距離のあるマンションを中心にポスティングをしてみたり。サービスを知ってもらうために出来そうなことに泥臭く取り組む日々が続いた。

台風の日はUber Eatsなどが混雑するので自社サービスを使ってもらえるチャンス。そう考え、雨の中、自分たちで自転車を漕ぎながら必死で配送したこともあったという。

「先輩の起業家の方や周囲の友人に話をしても反対されることの方が多かったです。最初は思ったように注文が入らず辛い時もありましたが、それでも自分の中では絶対にいけるという自信がありました。未来から逆算した時に、欲しいものがすぐに届くという世界は間違いなくくるはずだと信じていたし、何よりも自分自身がQuickGetのようなサービスをずっと欲しいと思っていたので」(平塚氏)

当初はコンビニなどで商品を買って届ける買い物代行モデルでニーズの検証を行なっていた
当初はコンビニなどで商品を買って届ける買い物代行モデルでニーズの検証を行なっていた

粘りながら続けていくうちに、少しずつ注文が入るようになり繰り返し利用するユーザーも出てきた。ユーザー層や購入する商品はばらけていたが、ヒアリングをしてみると「自分で買いに行くのがめんどうだったので使ってみた」という共通点があった。

「『めんどくさい』というニーズはものすごく大きいと思うんです。今の時代、映画や音楽はNetflix、Spotifyといったサブスクサービスで様々なコンテンツにアクセスできるし、友達とゲームをするにしてもフォートナイトでボイスチャットを繋げばどこにいても一緒に楽しめる。わざわざ外に行かなくても家の中で十分完結するようになってきています」

「でもデリバリーを考えてみるとAmazonの翌日配送では応えられていないニーズがあり、Uber Eatsでは食事以外に対応できていない。そこにはまだチャンスがあると思いました。便利な社会になったからこそ、特に自分のような怠惰な人間は、全部届けて欲しいと思ってしまう。世の中の人が怠惰になるほど、めんどくさいというニーズが大きくなると思うんです」(平塚氏)

ようやく光が見えてきた11月、平塚氏はQuickGetのベータ版をローンチすることを決断。そこから徐々に対象エリアを広げつつ、年末から年明けにかけて自社の倉庫を開設し、少しずつ買い物代行モデルからのシフトを進めていった。

ボタン1つで欲しいものが何でも届く体験の実現へ

QuickGetでは定番のお菓子や飲み物、お弁当から高級スーパーやディスカウントショップで売っている商品まで1000点以上の商品を扱う
QuickGetでは定番のお菓子や飲み物、お弁当から高級スーパーやディスカウントショップで売っている商品まで1000点以上の商品を扱う

年明けからはユーザー数や注文数の伸び率も上がり、そこからは継続して事業を伸ばせている。今回のタイミングで正式ローンチと決めたのも、ある程度手応えをつかめてきた中で成長角度を上げるため。調達した資金を活用して人材採用を進め、事業を加速させていく計画だ。

平塚氏はQuickGetに蓄積された「データ」を今後のポイントに挙げる。どんな人たちが、どんな商品を、どのようなサイクルで購入しているのかがわかってきたので、そのデータを今後の商品設計や店舗拡大にも活かす方針。ゆくゆくはフードデリバリーや買い物代行など周辺領域のビジネスにも参入したいという。

「まずはデジタルコンビニのモデルがビジネスとしてしっかり成立することを証明するのが最初のステップです。でも本当に実現したいのは、欲しいものが何でもすぐに届くドラえもんのような世界。(QuickGetを通じて)既存のサービスではまだ満たせていない、すぐに欲しいというニーズに応えていくことで、今のコンビニのように誰もが使うようなサービスを作っていきたいと考えています」(平塚氏)

既存のコンビニの動きを見ていても、QuickGetのようなプロダクトには大きな可能性があると言えそうだ。約1年前からラストワンマイルの取り組みとしてUber Eatsの導入を始めたローソンでは、先月導入店舗が1000店を超えたことを発表。ライバルのセブイレブンに関しても今後店舗からの宅配事業を加速させるという報道が出ている。

コロナの影響でデリバリーサービスが今まで以上に浸透した状況において、QuickGetがどこまで事業を広げていけるのか。レキピオの挑戦は始まったばかりだ。