
- 世界中で広がる“非ダウンロード”ゲーム
- 日本に本社機能を置く理由はLINEとの連携と人材確保のため
- インスタントプレイゲームはソシャゲを超えられるか
デバイスの性能向上や通信の高速化、ウェブテクノロジーの向上などを要因に、スマホなどでダウンロード不要で遊べるゲームが再び勢いを増している。そうした「インスタントプレイゲーム」を専門にプロデュース・開発するスタートアップが登場した。2020年頭に米国で設立され、日本に本社機能を置くPlayco(プレイコー)だ。
Playcoは9月21日、会社の設立とシリーズAラウンドで約105億円(約1億ドル)の資金調達を実施したことを発表。評価額が1000億円を突破し、ユニコーン企業になったことを明かした。ラウンドをリードしたのは個人投資家のJosh Buckley(ジョシュ・バックリー)氏とSequoia Capital Global Equitiesだ。
Playcoはゲーム業界では著名な4名の共同創業者によって設立された。これまでもインスタントプレイゲームを開発してきたGame Closure共同創業者のマイケル・カーター氏、米ソーシャルゲーム大手Zynga共同創業者のジャスティン・ウォルドロン氏、ディー・エヌ・エー(DeNA)出身で2017年に総プレイヤー数が1450万人を突破したソーシャルゲーム「怪盗ロワイヤル」を開発した大塚剛司氏、そしてGame Closureでゲーム開発を指揮したテディ・クロス氏だ。
Playcoはいかにして投資家陣の注目を集め100億円もの資金調達を実現したのか――。CEOのカーター氏、Presidentのウォルドロン氏、Senior Vice Presidentの大塚氏に話を聞いた。
世界中で広がる“非ダウンロード”ゲーム
カーター氏はダウンロード不要なHTML5ゲームを実現した技術、「HTML5 WebSocket(ウェブソケット)」を発明した人物だ。2011年に設立したGame Closureでは、Facebook Instant Gamesの「EverWing」、LINE QUICK GAMEの「にゃんこ防衛軍」やSnapchatで遊べる「Snake Squad」などを開発・共同開発してきた。
ウォルドロン氏と大塚氏はGame Closureのアドバイザーを務めていたが、インスタントプレイゲームをより幅広く普及させるため、そして各ゲームのクオリティを高めるため、カーター氏と共にPlaycoを設立するに至った。Game Closureの技術や従業員はPlaycoが引き継いだ。
Game ClosureではHTML5ゲームの開発に注力していたため、展開できるプラットフォームが限られていた。PlaycoではHTML5が主力なのには変わりはないが、近年広がりを見せているゲームのクラウドストリーミングや、AppleのiOS App Clips、GoogleのGoogle Play Instantといったプラットフォーム特化のツールも活用し、より多様な環境に対応していく。
大塚氏は「スマホでゲームをプレイする場合、これまではアプリをダウンロードする必要がありました。ですが、ストリーミングの技術や通信速度、そしてウェブテクノロジーが全体的に向上し、ダウンロードしなくても遊べるようになってきています」と説明する。
Playcoでは、インスタントプレイに特化した独自のゲームエンジンも開発。将来的にはUnityのように外部の開発者向けに提供していくことも視野にある。
日本に本社機能を置く理由はLINEとの連携と人材確保のため
Playcoは米国のスタートアップだが、前述のとおり、本社機能は東京に置いている。Facebook、LINE、Viber、Snapchatとの提携を発表しているが、カーター氏いわく、LINEとの提携に最も可能性を感じているという。
「米国ではFacebookのMessengerやSnapchatなど、多くのメッセンジャーにゲームを配信していく予定ですが、複数のメッセンジャーを使い分けている人は多い。一方で、日本では誰もがLINEを日常的に使っているため、我々にとっては好条件だと言えるでしょう」(カーター氏)
ウォルドロン氏も、カーター氏と同様にLINEに高い可能性を見出していると説明する。だが、日本に本社機能を置いている最大の理由は「人材の確保」のためだと付け加えた。
「LINEのようなプラットフォームとの提携には大いに期待しています。ですが、我々が日本にいる理由は、どの国よりも優秀なゲーム業界の人材が揃っているからです。そのような人材は歴史のあるゲーム企業で働いているケースが多いですが、国際的なスタートアップとして、彼らに新たな挑戦の場を提供できれば」(ウォルドロン氏)
Playcoは米・シリコンバレーにも拠点を構えている。カーター氏いわく、ゲーム好きは日本好きでもあることが多い。そのため、「Playcoにジョインして日本で働かないか?」と誘うと採用に繋がりやすいと同氏は笑う。
Playcoは世界中のSNSなどのプラットフォームとの連携を目指している。そのため、中国や韓国への進出を目論む上でも、日本に本社機能を置くことは重要なのだとカーター氏はいう。
インスタントプレイゲームはソシャゲを超えられるか
Playcoは設立と資金調達を発表したものの、肝心なゲームに関してはまだ未公開。数タイトルを開発中で、今年中には第1弾が発表される予定だ。詳細は明かされていないが、Playcoの広報担当者は開発中のゲームのイメージを送ってきた。以下がその画像だ。

カーター氏、ウォルドロン氏、大塚氏は、Playcoが成功するには「ヒットタイトルを開発することが最も重要だ」と口を揃える。確かに、筆者はGame Closureが開発に関わったLINE QUICK GAMEのにゃんこ防衛軍などをプレイしてきたが、正直、すぐに飽きてしまっている。インスタントプレイゲームがソシャゲを超えるほどに成長するには、ロングヒットするタイトルを開発することは不可欠だろう。
大塚氏は、怪盗ロワイヤルなどヒット作を開発してきた経験を活かし、イベント性を持たせたり、よりインタラクティブにすることで、インスタントプレイゲームをより完成度の高いものに仕上げていくという。
「一度ヒットゲームが出ると、かつてのグリー、ミクシィ、DeNAのような急成長が期待できます。そして急成長する市場だと投資家も理解しています。勝負をかけるなら大きく出るべき。もたもたしていては競争に負けてしまうので、大規模な資金調達を実施しました」(大塚氏)
シリーズAラウンドには、リード投資家のバックリー氏とSequoia Capital Global Equitiesに加え、Sozo Ventures、Caffeinated Capital、サッカー選手・本田圭佑氏のKSK Angel Fund、孫泰蔵氏のMistletoe Singapore、Digital Garage、俳優Will Smith(ウィル・スミス)氏のDreamers VC、Makers Fundなどの投資家陣が参加した。
「ソシャゲ全盛期のFacebookやmixiの規模を、今のFacebookやLINEと比較すると、10倍くらいの人たちが利用している状況です。テクノロジーも発達してきて、 全世界にモバイルでゲームをプレイしている人たちがいる。日本ではモバイルのソーシャルゲームがヒットしましたが、米国ではソーシャルゲームはPCでプレイされていました。ですが、今はスマホが普及している。(インスタントプレイゲームには)ソーシャルゲームが流行していた当時と比較しても、10〜20倍のポテンシャルがあると思っています。市場の規模は、当時、日本だと数千億円。米国でも同等でした。今回は1桁違うくらいの規模になるのではないかと考えています」(大塚氏)