
- オンラインコミュニティをコーディングなしで簡単に構築
- シャープなど50社が活用、特徴は柔軟性と独自のナレッジ
- サプリD2C事業で痛感した「顧客との距離」がきっかけに
- 既存顧客コミュニケーションのスタンダード目指す
動画配信や音楽配信といったコンシュマーサービスから法人向けのSaaSまで、「サブスク」とも呼ばれるサブスクリプション(定額課金)型のビジネスモデルが普及している。
そこで今まで以上に重要になっているのが、企業と既存顧客との良好な関係性の構築だ。サブスクは顧客がサービスを使い続けることでLTV(ライフタイムバリュー)、つまり顧客単位の生涯利益を上げることが重要なため、これまでの買い切り型のビジネス以上に継続的な関係性が必要になる。
特にデジタル社会においては、オンライン上で顧客接点を設けることがビジネスを拡大する上では必須だ。新型コロナウイルス感染症の影響でオフラインの施策を従来のように実行することが難しくなる中で「顧客接点のデジタル化」のニーズは一層増していくだろう。
そんな状況下で事業を伸ばしているのが2018年創業のコミューンだ。同社では“オンラインコミュニティ”を軸に企業がウェブ上で既存顧客との接点を作れるサービス「commmune(コミューン)」を手がける。
同サービスは現在エンタープライズ企業を中心に約50社が活用。コロナ禍の3月には1カ月あたりの問い合わせが従来の平均値の2倍になり、現在もその水準を維持するなど企業からの引き合いも増えている。
コミューンでは9月28日にDNX Venturesと既存株主であるUB Venturesを引受先とした第三者割当増資により総額4.5億円を調達した。この資金を活用して人材採用や機能拡充などを行い、顧客接点のデジタルシフトを加速させていく計画だ。
オンラインコミュニティをコーディングなしで簡単に構築

既存顧客とコミュニケーションをとるには、営業が顧客企業を訪問したり、カスタマーサクセス(CS)担当者が各社に電話をしたりと今でもアナログなやり方が主流だ。同じことを何度も説明するようなことも多々ある。
営業は訪問、問い合わせはサポート部門に電話、新機能のお知らせはメルマガといったように目的ごとにチャネルが分断され、それぞれの相乗効果は少ない。自社から顧客への一方通行のコミュニケーションになっているため負担も大きく、提供できる情報にも限界がある。
これらの課題の解決策として近年海外のSaaS企業を中心に広がっているのが、オンラインコミュニティを活用した「コミュニティタッチ」というアプローチだ。
コミュニティタッチではこれまで分散していた既存顧客とのコミュニケーションチャネルを、オンライン上のコミュニティに統合する。そこには企業とユーザーが参加し、企業からの情報共有はもちろん、ユーザー同士の自発的な情報交換も頻繁に行われる。コミュニティがそのサービスについてもっとも正しく、もっとも新しい情報が集まった「ポータルサイト」のような位置付けとして機能するわけだ。

commmuneはまさにこのコミュニティタッチ用のツールとして、企業がオンラインコミュニティを構築し、効果的な運用ができるように手助けする。コミューン代表取締役CEOの高田優哉氏によると特徴は大きく3つだ。
1つ目はコーディングなしでコミュニティを開発できる“ノーコードツール”であること。直接的にコミューンを使うことになる担当者はCSやマーケ部門のメンバーになることが多く、自らコードを書いてゼロからコミュニティを構築するとなるとハードルが高い。コーディング不要で自社のコミュニティを作れることがポイントになるという。
2つ目は運用管理や分析のためのダッシュボードが用意されていること。単にコミュニティを作るだけなら、Facebookグループなどを使ってもできないことはないが、その場合ユーザーの細かい動向を分析したり、その結果を基にカスタマイズしたりすることが難しい。commmuneは企業のコミュニティ運営用のツールとして開発されているため、運用管理や分析のための機能も必要なものが備わっている。


3つ目はコミューンのCS担当者が同社の蓄積してきたナレッジを基にコミュニティ運営に伴走すること。この領域はまだ型化されたナレッジなどが出回っておらず、ツールだけを渡しても上手く運用するのは困難だ。そのためコミューンでは自社でためてきた知見を“虎の巻”に落とし込み、それを活用しながら各顧客にCS担当者が付いてフォローしているという。
シャープなど50社が活用、特徴は柔軟性と独自のナレッジ
冒頭でも触れた通り、現在commmuneは約50社に活用されている。BtoC企業、BtoB企業に限らず利用が進むが、高田氏によると今のところはシャープやワークスアプリケーションズを筆頭にエンタープライズ企業がメインユーザーだ。


大企業は顧客数も多いため「限られたリソースを使っていかに効果的に既存顧客のLTVを高めるか」が重要な論点になる。その際にコスト効率に気を配りながらも顧客との関係性を最大化する手段として、commmuneが現場のニーズに合致するのだという。
特にエンタープライズ企業が導入検討する際にはSIerと比較されることが多い。SIerに頼んで自社のコミュニティサイトを作ってもらう場合、ネックになるのが価格と柔軟性だ。開発に数千万円単位の費用がかかることも珍しくないほか、後から細かい機能改善をするにはその都度追加で費用が発生する。
その点commmuneはミニマムで月額25万円から始められるSaaS型プロダクトのためエントリーのハードルが比較的低い。コミュニティの設計も担当者が自ら柔軟に変えられるため、PDCAを回しやすいのも利点だ。
「多くの企業はオンラインコミュニティに初挑戦するため、スタート時点で明確な正解のイメージがあることは少なく、実際に試しながら最適解を見つけていく場合がほとんどです。そのため改善したいと思った時に現場の担当者が簡単に仕様を変えられることが重要。またコミューンでは『他社の事例』や『平均的に上手くいっている施策』などをデータに基づいてアドバイスができ、そういった点に価値を感じていただけています」(高田氏)
利用用途としては「顧客のエンゲージメントを高める目的でオンラインコミュニティを活用する」ケースが全体の約8割。中にはフランチャイズ加盟店や代理店など取引先とのコミュケーションを円滑にする目的や、製品改善のためにユーザーから意見を収集する目的でcommmuneを活用する企業もいる。

たとえばシャープの場合はcommmuneを用いて「ヘルシオ ホットクック」の公式コミュニティ「ホットクック部」を運用。このコミュニティではユーザーが投稿したレシピや活用術が軸となっていて、熱量の高いヘビーユーザーによって生み出されたコンテンツがライトユーザーのエンゲージメントを高めることに大きく貢献している。
一方で企業からの情報発信をメインコンテンツとしている事例もあり、8割の企業において顧客エンゲージメントを高めたいという大枠の目的は共通するが、そのアプローチはさまざまだ。
サプリD2C事業で痛感した「顧客との距離」がきっかけに

コミューンはボストンコンサルティンググループ出身の高田氏とGoogle出身の橋本翔太氏(代表取締役COO)が2018年5月に立ち上げた。創業者の2人に取締役CTOの山本晃大氏も加えた3人の経営陣は東京大学時代の同級生。それぞれが別の企業で経験を積んだ後、コミューンに集結した。
最初はサプリのD2C事業からスタートしたが、ベータ版の時期に方向転換を決断する。次のチャレンジとしてコミュニティタッチツールを選んだのは、D2C事業時代の経験も大きく影響しているそうだ。
「ユーザー数が150〜200人ほどの規模だったにも関わらず、ユーザーの声を上手く聞くことができず苦戦したんです。中にはプロダクトを友人に勧めようとしてくれる人や、積極的にフィードバックをしてくれる人もいたのですが、そのような行動を促進する仕組みや場所を作ることができなかった。自分たち自身が顧客との距離や顧客接点に関する悩みを抱えていたんです」(高田氏)
創業者の2人が新しい事業案を練っていたある日、橋本氏が「お気に入りのスープ専門店にフィードバックする方法がない」という話を始めた。問い合わせ用の窓口に連絡をすればクレーマーと思われかもしれない。上手く伝える方法があれば、店舗にも顧客のためにもなるが、適切な場所が見つからないという。
その時に自分たち自身もかつて企業側の視点から同じような「企業と顧客の接点」に関する悩みを抱えていたことを思い出した。試しに周りの経営者にヒアリングをしてみると、どうやらこの課題は他社にも共通するものらしい。そこでcommmuneの開発に着手し、2018年9月にベータ版をローンチした。
「サブスクリプションの登場で所有から利用へと世の中のビジネスの構造が変わるとともに、SNSの普及などで個々人のメディアパワーも高まりました。そういった背景から企業と顧客の関係性が『明確な価値提供者と受益者』ではなく、『ともに価値を創る共創関係』にシフトし始めていると感じています。ただ両者の関係性は変わっているのに、コミュニケーションの方法は変わっていない。だからそこに垣根や距離が存在しているんです。今の社会に合わせて企業と顧客のコミュニケーションのあり方を再定義できれば面白いのではと考えました」(高田氏)
既存顧客コミュニケーションのスタンダード目指す

サービスローンチから約2年。グローバルで見ても勝者がいない領域で先行事例がないことに加え、クライアントによって使い方が多岐に渡りプロダクトに求められることも多いため「やればやるほど解くべき課題が難しく、難解な領域だと感じます」と高田氏は話す。
その反面、サービスを運営する中で企業ごとに最終的なアプローチは異なれど、ある程度は教科書のような形で共通の型を作れること、それを汎用的な機能としてプロダクトに落とし込めることも徐々に見えてきたという。
当面は現在のUXを徹底的に磨き込むことに注力するが、次のステップとしては「エンドユーザーの体験を自動的に最適化すること」を目指す計画だ。
今は蓄積したナレッジをドキュメントに落とし込み、それを活用してCSメンバーが各企業をサポートしていて、人力の要素も多い。まずはドキュメントにあるような施策を管理画面上でサジェストしていくことから始め、ゆくゆくは顧客のコミュニティの状況を踏まえて最適な施策が自動で反映されるような世界観を見据えている。
「未顧客へのコミュニケーションについては、セールスフォースの『The Model』が教科書のような存在として知られています。一方で既存顧客コミュニケーションにおいてはまだ同様のものが確立されていない。日本だけでなく、グローバルで見ても各社が個別最適でやっている状況です」
「自分たちの究極的な目標はcommmuneで得られたデータなども基にしながら、既存顧客コミュニケーションにおけるデファクトスタンダードとなる教科書を作っていくこと。もちろん簡単なことではないしライバルも多いとは思いますが、まだ雌雄が決していない領域だからこそチャンスもある。そこに向けてまずは今回の資金調達を機に事業を加速させていきます」(高田氏)