
- 50店舗がノーコードでアプリ実現
- アプリ単体で月商2000万円の事例も
- 非開発者向けのノーコードツール、カギは目的を絞ること
- ソフトウェアの力でたくさんの人にスーパーパワーを
ECサイト作成サービス「BASE」のショップオーナーが、お店の公式モバイルアプリを“ノーコード”で作れる「Appify(アッピファイ)」が事業を拡大中だ。
6月のサービスローンチから約4カ月で100店舗以上がサービスに登録し、すでに約50個のアプリがApp Store上に並ぶ。Appifyを用いて作られたアプリの総インストール数は約4万件。中にはApp Storeのファッションカテゴリでランキング1位を獲得し、アプリ単体で月間2000万円を売り上げるショップも出てきた。
直近ではBASEに加えて「Shopify」や「CAMPFIRE Community」といったプラットフォームとも連携し、それぞれのアプリが作成できるように準備を進めている。「専門知識がない人であってもコーディングなしで簡単にアプリを作れる体験」をこれからも広げていく計画だ。
開発元のAppify Technologiesではその軍資金としてEast Ventures、グリーベンチャーズ(2020年4月新設のグリーのCVC。旧グリーベンチャーズは同タイミングでSTRIVEに社名変更している)およびエンジェル投資家らを引受先とする第三者割当増資とJ-KISS型新株予約権方式により、総額約2億円を調達した。
50店舗がノーコードでアプリ実現

6月のローンチ直後にも紹介した通り、Appifyはモバイルアプリを簡単に作れるサブスクリプション型のサービスだ。
最初にタッグを組んだBASEであれば、ショップオーナーは月額4980円で独自のiOSアプリを作成・運営できる(アプリをApp Storeに公開するためには別途、年額1万1800円のApple Developer Accountに登録する必要がある)。
自前でアプリを作ろうと思った場合、課題になるのがコストと時間だ。数百万円規模の制作コスト、数カ月単位の期間がかかることも珍しくなく、特に個人や小規模事業者にとっては敷居が高かった。
Appifyの役割はその「アプリ開発のハードル」を大幅に下げ、誰でも独自のアプリを持てるようにすることだ。BASEのウェブサイト上で利用できる拡張機能の中からAppifyをインストールした後、アプリ名の登録やApple IDの連携といった初期設定をするだけで基本的な準備は完了。最短2週間でiOSアプリが完成する。
すでに独自アプリを公開しているユーザーは、BASE上で月間数千万円規模を売り上げる法人から個人でECを運営するオーナーまで幅広い。
たとえば石川県在住で子供服のECサイト「子供服kawaiiZOU」を運営するショップオーナーは、ブランド開始当初からホームページやアプリは欲しいとは思っていたものの制作費がネックとなり断念していた。そんな時にAppifyを知り、念願のiOSアプリをローンチ。約2.8万人のファンを抱えるインスタグラムを中心にアプリの紹介をしたところ、実際に多くのファンがアプリをインストールし、App Storeのファッションカテゴリにもランクインした。

アプリ単体で月商2000万円の事例も
スタートアップコミュニティでは「ゆずしお」の名でも知られる、Appify Technologies代表取締役の福田涼介氏の話では、法人ではアプリ単体で月間2000万円ほどの売上を記録するショップが出てきているほか、個人で運営するショップでも月に200〜300万円を売り上げる事例が生まれているという。
プッシュ通知とクーポンなどを組み合わせることでコアなファンに対して効果的に情報を届けやすく、ユーザーあたりの平均購入単価が上がっているのではないかと福田氏は分析する。

またマーケティティングの観点以外でも「そもそも公式アプリがあること自体がブランドの価値や信頼感を高める効果がある」という声がユーザーからあがっているとのこと。今のところAppifyユーザーの約9割はアパレル関連で、有名ブランドの多くが自社アプリを保有しているのと同じように「自分たちも独自のアプリを持ちたい」という人も多い。それを無理のない価格帯で実現できる点に価値を感じてもらえていると福田氏は話す。
Appifyを通じてクオリティの高いアプリを作れることは、プラットフォーマー側にもメリットは大きい。アプリ経由の売上が増えればプラットフォーマー自体の売上(手数料)アップに繋がるほか、仮に競合が有望なショップオーナーを引き抜こうとした際の防御策にもなりうるからだ。
非開発者向けのノーコードツール、カギは目的を絞ること
Appify Technologiesの設立は2018年6月。福田氏は現在23歳で、学生時代からメルカリやDMM.comで開発経験を積んできた。起業から1年半ほどは個人向けのアプリを開発してみるも、なかなか思い描いたような結果が出ない。新しいアプリを作っては、しばらくして壊すという日々を繰り返しながら方向性を模索した。
そんな過程において、新しいアプリを効率的に開発するべく「社内用に作ったソフトウェア開発の基盤」が後のAppifyとなる。エンジニアがいなくて困っている周囲のスタートアップに話してみると、このツール自体に需要があることがわかった。
まずはアルファ版という形でリリースし、さまざまなアプリの開発を請け負ったものの、次第に福田氏はスケーラビリティの観点でこのビジネスは“筋が良くない”と悟る。試行錯誤した後に決めたのは「(アプリを作る)目的を明確に絞る」ということ。以前から接点のあったBASE代表取締役CEOの鶴岡裕太氏と話す中で、まずは6月にBASEのアプリ開発に特化したノーコードツールとしてサービスを始めた。
「いわゆるノーコード型のサービスは開発者やクリエイティブ職の人が使うものと、一般の人が使うものの2種類に分類できると考えています。前者は抽象度が高くても良い一方で、後者の場合は具体的なユースケースを設定することが重要です。『どんなアプリでも作れる』というのは良さそうに聞こえますが、使う人が明確にどのようなアプリを作りたいかがイメージできていないと、結局使われずに離脱される可能性が高くなってしまいます」(福田氏)
海外に目を向けても、特定のユースケースに注力することで事業を伸ばしているスタートアップが出てきている。一例をあげるとShopifyのアプリ化を支援する「Tapcart」はすでに世界で7000以上のブランドオーナーが活用中だ。
これに比べるとAppifyの規模はまだまだかなり小さくはなるが、ゆくゆくは数千、数万規模のユーザーへの導入を見据える。先月末にショップ開設数が120万ショップを突破したBASEを始め、今後はCAMPFIRE CommunityやShopifyにおいても同様の取り組みを加速させる計画だ。

ソフトウェアの力でたくさんの人にスーパーパワーを
Appify Technologiesでは当面はAppifyの基本機能の磨き込みに注力する。まずは最低限の機能を実装した上でリリースしたため、この4カ月でユーザーから良い反応を得られた反面、課題もいくつか見つかった。
「BASEのショップオーナーさんに共通するのが、自分のお店の世界観を大切にしているということ。“自分のお店感”を出すために細かいことにこだわりたい、お洒落なアプリを作りたいという要望も多く、規模が大きくなるほどそこにかける思いが強いです。これからより多くの方々に使ってもらうためには、テンプレートの拡充を始め、お店の世界観を出せるような仕組みをもっと充実させることが必須だと感じています」(福田氏)
またAppifyを使えばアプリを開発する必要はないが、Appleのアカウントはショップオーナー自身で取得しなければならない。それが思ったよりも難易度が高く、一定数離脱してしまうケースがあるため、動画ガイドを作るなど対応を進めているという。
こうした細かいアップデートと並行して、少しずつアドオン型の拡張機能も準備する。基本機能については、初めて使うユーザーでも迷わないようにシンプルさを保ちつつ、慣れてきたユーザーがより高度な分析やマーケティング施策の自動化などを試せるような仕組みを作る予定だ。
今回調達した資金はまさにこれらの取り組みを加速させるためのもの。大部分はAppifyの競争力に直結するエンジニアの採用に当てる。
「自分たちのビジネスは『ソースコード(技術)ありきで、それをどうやって買ってもらうか、マネタイズしていくか』を追求するタイプだと考えています。だからこそエンジニアの実力がプロダクトの勝敗に大きな影響を及ぼすし、勝ち筋もいかに良いエンジニアを採用して、他が真似できなプロダクトを作れるかにある。今回の調達はそのためのチームを作っていくことが目的です」
「たとえばShopifyは1000人体制で1つのECプロダクトを作り上げているため、1つ1つのお店が数百万円かけてECアプリを作るよりも良いものを作れますし、それがユーザーにとっての大きなメリットでもあります。僕たちも同じような体験を実現していくために、コアとなるエンジニアを集めなければなりません」(福田氏)
Appifyは福田氏を含む3人のコアメンバーが全員エンジニアであるほか、業務委託として関わっているメンバーも6人中5人がエンジニアの技術者集団。今後もエンジニア比率9割を維持しながらチームを強化していく方針で、条件を満たした業務委託のメンバーにはストックオプションを付与するような取り組みもしているのだという。
「世の中には自分で何かを作ってみたい人はたくさんいます。その際に自身にはプログラミングスキルがないことが原因で思いを実現できない人、困っている人をソフトウェアの力でサポートしていくのが会社としての目標です。Appifyに限らず、たくさんの人にスーパーパワーを与えられるようなプロダクトを目指していきます」(福田氏)