
- 不動産のAI価格査定で起業
- 仲介・掲載手数料無料の中古マンションプラットフォーム
- 自社物件の買取・販売促進が目的
- 不動産版「GAFA」参考にサービスを開発
中古マンションのオンライン買取サービス「すむたす買取」を運営するすむたすは8月22日、リノベーションマンション特化型の販売サービス「すむたす直販」の提供を開始した。このサービスでは従来のプラットフォームサービスの収益源である物件販売会社に対するサイト掲載料や、買い手に対する仲介手数料は一切かからない。すむたすは創業1年半弱のスタートアップ。同社が手数料無料のサービスを始めた狙いとは。(編集・ライター 野口直希)
不動産のAI価格査定で起業
すむたすは2018年1月の設立。代表取締役の角高広(すみ・たかひろ)氏は、不動産流通メディア「イエウール」を運営するSpeeeや不動産テック企業のイタンジを経てすむたすを創業した。設立から1年半弱のスタートアップで、すでにベンチャーキャピタルのCoral Capital(当時は500 Startups Japan)などから2度の資金調達を実施している。2019年にはForbes「30 Under 30 Asia(アジアを代表する30歳未満の30人)」に選出されるなど、海外からも注目を集めている。
同社が注目を集めるきっかけになったすむたす買取は、AIを活用した中古マンションの買取サービスだ。売りたい物件の住所や間取りを入力すれば、独自の価格査定アルゴリズムをもとに最短1時間で買取価格を提示する。これまで価格査定までに約1~2週間、売却までに3ヵ月~半年程度かかるのが一般的だった中古物件の買取を、最短2日で実現する。急な海外転勤や離婚によって、すぐさま家を売却したいというニーズを解決する。
テクノロジーを活用して中古不動産業界にアプローチしていた同社が、新たに販売分野のサービスとして立ち上げたのが「すむたす直販」だ。これはリノベーション済みマンションの物件情報を掲載するサイト。ユーザーはサイトを通じて物件の検索や内見申し込みを自由に行える。
仲介・掲載手数料無料の中古マンションプラットフォーム
一見するとLIFULLの「LIFULL HOME'S」やリクルートグループの「SUUMO」などの仲介プラットフォームと同種のサービスだが、大きな違いは仲介手数料が一切かからない点にある。
角氏によれば、3000万円の中古マンションであれば、購入者に100万円程度の仲介手数料がかかるのが一般的だという。だがこれは、新生活スタート時の家具・家電の購入費用に相当する金額だ。
すむたす直販を利用すれば、購入者は仲介手数料にあてるはずだった資金をまるまる節約し、新生活の準備に充てることができる。サイト上から売り主である買取再販企業(リノベーション物件を取り扱う企業)とやり取りすることも可能で、近隣施設の情報など、物件ページだけではわからない情報を直接問い合わせることができる。

すむたす直販では売り主側の仲介手数料も無料にしている。リノベーション物件市場は、仲介業者を通して物件を購入した買取再販企業が物件を改築し、その後再び仲介業者を通して買い手を探すのが通例。自社サイトなどで直接物件を販売する買取再販企業も存在するものの、それだけでは露出が少ないため、掲載料を支払って仲介業者に頼ることがほとんどだという。
掲載手数料がかからないすむたす直販は、仲介手数料に悩む買取再販企業にとっての新たな販路になりうる。すでに首都圏を中心に100以上の物件が掲載されており、大手不動産買取再販会社も多数参画しているという。
自社物件の買取・販売促進が目的
不動産業界に限らず、プラットフォームサービスの多くは売り手・買い手からの仲介手数料を収益源にしている。では、これらを一切取らないすむたす直販はどのようにマネタイズをするのか。
すむたすの⾓氏は、「すむたす直販単体でのマネタイズは、将来的にも考えていません」とはっきり語る。
すむたす直販の目的は、主に2つ。まず1つは、自社物件の販路としての活用だ。これまですむたすでは、すむたす買取で購入した物件をリノベーションした後、ほかの買取再販企業と同じように仲介業者を通して販売していた。すむたす直販が普及すれば、すむたすの物件も仲介業者に掲載せず直販できるようになる。
もう1つの狙いは、ブランド向上による買取および販売事業の促進だ。より多くの買取再販企業がすむたす直販に参画して取扱件数が増えれば、すむたす自体の知名度も大きく向上する。それによって、長期的には物件の買取数や販売件数増加を見込む。
不動産版「GAFA」参考にサービスを開発
裏を返せば、すむたすが仲介および掲載手数料無料のプラットフォームを運営できるのは、彼らが単なるプラットフォーマーではなく、不動産の売買によって利益を上げるプレイヤーでもあるからだといえる。
ここで角氏が引き合いに出すのが、不動産版「GAFA」ともいわれる巨大テック企業の総称「ZORC」だ。これは米国の不動産テック企業Zillow、Opendoor、Redfin、Compassの4社を指す言葉で、すむたす買取のビジネスモデルもOpendoorを参考に設計されている。この4社に共通しているのが、「テックとリアルビジネスの融合」だと角氏は説明する。
「2000年代の米国では不動産ポータルなどのネットで完結するマーケットプレイス事業が猛威を振るっていましたが、2010年以降はAIを活用して実際に物件を買い取るOpendoorなど、テクノロジーと実際の不動産を扱った事業が急成長しています。日本でも一時期はあらゆる業界でITベンチャーによるマッチングサイトが乱立しましたが、すでにそれだけでは業界に大きな影響を与えることはできないはずです」(角氏)
彼らがすむたす直販を開始したのも、こうした潮流にならってのことだ。すむたす直販では、年内に掲載物件数300件、参画企業数30社、自社物件の販売数20件を目指す。その後は首都圏外の物件を取り扱うほか、戸建てや土地など対応物件の拡大も視野に入れているという。
また、角氏は日本の不動産業界が抱える「空き家問題」も、欧米のトレンドを取り入れることで解消しうると考えている。
「現在、日本で深刻な問題になっている空き家の増加は、日本の中古物件流通数が全体のうち約15%と非常に少ないことが原因の一つではないでしょうか。一方、米国は中古物件の流通率が全体のうち約90%を占めています。こうした業界の不動産マーケットを参考にすれば、日本でも中古物件の流通が増えていくのではないでしょうか」(角氏)