
世界最大規模のベンチャーキャピタル(VC)であるSequoia Capital(セコイア)が、日本で事業を展開するスタートアップへの投資を本格化させている。今度のターゲットは、建築業異のDXに取り組むスタートアップだ。
建築・建設現場向けの施工管理サービス「ANDPAD」を開発し提供するアンドパッドは10月12日、リード投資家のMinerva Growth Partnersに加えてSequoia Capital Chinaを引受先とする、約20億円の資金調達の実施を発表した。
このラウンドは7月に発表されたシリーズCラウンドに続くエクステンションラウンドで、シリーズCラウンドの累計調達額は約60億円。アンドパッドの累計調達額は約84億円となった。
Minerva Growth Partnersは、メルカリでCFOを務めた長澤啓氏と、モルガン・スタンレー出身の村島健介氏が、2014年に香港に設立された資産運用会社、Pleiad Investment Advisorsと共同で設立したグロースファンドだ。9月に設立が発表されたばかりの同ファンドは、日本のレイトステージのスタートアップを中心に投資を行う。
Sequoia Capital Chinaは、1972年に創業しシリコンバレーに拠点を置く老舗ベンチャーキャピタルSequoia Capitalが、2005年に中国で設立した現地法人だ。これまでに、「TikTok」を運営する北京字節跳動科技(ByteDance)、ライドシェアサービスを提供する滴滴出行(Didi Chuxing)、ソーシャルEC大手「拼多多(Pinduoduo)」などに出資してきた。
昨年より、セコイアを含む多くの海外VCが日本での投資を加速させている状況だ。2019年8月には、データマーケティングプラットフォーム「b→dash(ビーダッシュ)」を開発し提供するフロムスクラッチが、米大手投資会社のKKRを含む引受先から約100億円の資金調達を実施を発表した。
2019年11月には、「Paidy翌月払い」を提供するPaidyが、PayPal Venturesを含む引受先から約156億円の資金調達を実施を発表。2020年8月には、商売のデジタル化を支援する「STORES(ストアーズ)デジタルストアプラットフォーム」 を開発し運営するヘイが、米投資会社のベイン・キャピタルを含む引受先から約70億円の資金調達を発表した。
そして9月には人事労務SaaSの「SmartHR」を提供するSmartHRがセコイア関連ファンドのSequoia Heritageから、そして日本に本社機能を置くゲーム会社のPlaycoが同じく関連ファンドのSequoia Capital Global Equitiesからの資金調達を明かすなど、日本でもセコイアの名を目にする機会が出てきた。
前述のとおり、SmartHRは関連ファンドのSequoia Heritageから出資を受けているが、Sequoia Capital Chinaからの日本のスタートアップ投資としては、第1号の案件となる。
元ミクシィCFOで現アンドパッド取締役CFOの荻野泰弘氏は、MinervaとSequoiaという2社のグローバルVCからの資金調達について、「今のタイミングからグローバルの投資家とコミュニケーションを開始して、上場時、上場後も含めて、『長く海外の投資家から調達できるような環境を整えるべきだ』と考えました。それが今回、海外の投資家に絞ってエクステンションラウンドを実施した背景になります」と説明する。
「我々は事業拡大に向けて、今後も資金を調達して、事業に投資をし続けます。1つのマイルストーンとして、上場・株式公開もあると思います。ですが、そこがゴールではなく、会社が成長し続ける限りは、ずっと資金調達を続けるでしょう。そう考えた時に、長期的に、我々がどんなサイズになっても、100億円、1000億円規模の買収が必要な時にも対応できる、ディープポケットでグローバルな投資家を早期に株主にする必要があります」
「投資家は忙しいので、我々のビジネスのモデルを組んでくれたり、株価のフェアバリューを算定してくれたり、といったことはなかなかしてくれません。ですが、IPOの時には、基本的にはほとんどの投資家がそこまでやってくれます。IPOの土台を作っていく際に、グローバルな投資家といかにコミュニケーションをして関係を構築していくかというのは、非常に重要だと考えています」(荻野氏)
両ファンドからの出資に繋がったアンドパッドの強みについては「きちんとしたビジネスドメインを持っていること」、そして「正しいビジネスモデルで戦っていること」の2点が重要だったと荻野氏は言う。
「グローバルな投資家からは『カテゴリーリーダー』という言葉をよく聞きます。カテゴリーリーダーというのは、そのカテゴリーに1社しかない会社。日本で(建築・建設領域における)カテゴリーリーダーになってくれるだろうという期待のもと、出資していただけているのかな、と感じています」
同じく建設・建築現場向けのSaaSを提供するスタートアップにはフォトラクションなどがあるが、荻野氏は「我々は会話をしている投資家から『日本で競合はどこか』と聞かれたことはありません。圧倒的に競合のいないポジションに我々がいると思っています」と話す。建設・建築業界でアクティブに使用される業界特化ツールとして、不動の地位を築いたからこそ、出資につながったのだと、同氏は説明する。
「我々のビジネスは“業務フロー”を押さえています。要するに、毎日の業務で使わざるをえないというビジネスドメインです。マッチングサービスだと、マッチングをするとき、つまり人を採用する時にだけ必要なプラットフォームになります。ものの売買サービスだと売買するときにだけ使います。ですが、業務フローのためのサービスとなると、仕事をする毎営業日、必要になります。 加えて、ANDPADのチャット機能を使って、現場の方々は非常に活発にコミュニケーションをとっています。(業務フローとチャット機能を押さええている)我々のアプローチに対して、非常に興味と関心を持っていただけています。それらを抑えているから、事業がグローバルSaaSの水準と比べても、比肩するような勢いで伸びています」
「ですが、数字の伸びというのは先行指標ではなく、後からついてくるものだと思っていて、先ほど申し上げたように、ちゃんとしたビジネスドメインを持っているか、そして正しいビジネスモデルで戦っているかが重要です。あとは、自分から言うのは恥ずかしいですけれど、マネジメント体制がすごく整っているというのは、すごくおっしゃっていただけているところです。学生ベンチャーとは違って、それなりに経験があって、将来を確実に見通せるくらいの力を持った経営しているという点も、非常に評価いただいています」(荻野氏)