ポケットにも容易に入れることができる「iPhone 12 mini」 画像はすべてアップルが開催した発表会のキャプチャおよび提供写真
ポケットにも容易に入れることができる「iPhone 12 mini」 画像はすべてアップルが開催した発表会のキャプチャおよび提供写真より
  • 注目は「小型5G」iPhone 12 mini
  • 5G普及の起爆剤となるか
  • 日本の3キャリアもPhone 12シリーズで5G対応へ
  • HDR動画対応の「Super Retina XDディスプレイ」
  • HDR動画を撮影から編集まで1台で完結
  • 「セラミックシールド」で落下耐性4倍、「MagSafe」も新搭載
  • iPhone 12とiPhone 12 miniの違いは大きさだけ
  • Proライン2モデルは「RAW撮影」も強化
  • 発売は10月と11月の2段階に、予約は16日午後9時から
  • スマートスピーカーの小型版「HomePod mini」
  • 「5Gで何をするか」を問い直したiPhone 12

アップルは10月14日(日本時間)、5Gに対応したiPhone 12シリーズを発表した。今回はシリーズでも最多の4モデル展開で、普及価格帯ではシリーズを代表するモデルとなる6.1インチの「iPhone 12」に加え、小型版の5.4インチモデル「iPhone 12 mini」を展開。より高機能を求めるユーザー向けのProラインには6.1インチの「iPhone 12 Pro」6.7インチの「iPhone 12 Pro Max」の2製品を投入する。

「iPhone 12 Pro」の新色・パシフィックブルー
「iPhone 12」と「iPhone 12mini」。カラーは新色のパシフィックブルー

ことし2020年に日本の4キャリアが提供を開始した5Gによるモバイル通信サービスだが、世界的に見ても普及が進んでいるとは言いがたい。高級スマートフォンとして世界的に人気が高いiPhoneの5G対応は、普及の起爆剤となる可能性もある。

アップルCEOのティム・クック氏
アップルCEOのティム・クック氏

注目は「小型5G」iPhone 12 mini

4モデルのすべてが5G対応となるなかで、特に注目に値するのは最廉価のモデル「iPhone 12 mini」だ。第二世代iPhone SEよりも小さな筐体に5.4インチのディスプレイを収め、5Gにも対応する。このモデルについてアップルは「世界最小・最薄・最軽量の5Gスマホ」をうたっている。

「小型の5Gスマホ」を作るのは、実は難しい。

ただし、5Gの通信で新たに利用される電波(周波数帯)は、障害物に弱く制御が難しい。そのため、現世代の5Gスマホは、大きなアンテナを搭載する必要があり、4G LTEスマホよりも大ぶりな製品が大半を占めている。アップルはAndroid陣営からおよそ1年遅れで5G対応iPhoneを投入することになるが、技術的には進んだ製品を投入することで、挽回を目指す格好だ。

アップルの強みは、スマートフォンのハードウェアやCPU/GPUといった半導体から、OSやアプリレイヤーを含めたプラットフォームの全体を自社で設計する能力があることだ。“小型5Gスマホ”が実現した秘訣は、デバイスからアプリまで、スマートフォン全体で5Gネットワークに最適化させたことにある。その一例として、iPhone 12シリーズには5Gの高速通信が必要なときだけ有効化される「スマートデータモード」 が実装したことが紹介された。

5G普及の起爆剤となるか

初期の5Gが唯一持つ利点は、「通信が速くなる」ことだ。高速な通信が可能になると、多くの通信を素早くさばけることから、結果として混雑する地域でも安定した通信が提供できるようになる。

ただし、障害物に弱い5Gの電波でエリアを拡大するには、4G LTEよりも多くの基地局を展開する必要がある。多数の基地局を展開するためには、5Gを使うユーザーを増やす必要がある。携帯キャリアにとっては、より効率の良い5Gへの移行を進めたいが、エリアが狭いため移行を促せないというジレンマに陥っている。iPhoneはその起爆剤としての期待を集める。

iPhone 12の発表イベントでは米国の携帯キャリアVerizon(ベライゾン)のCEO Hans Vestberg氏がゲストとして登壇し、Verizon 5Gエリアを全米に展開する方針を表明した。Verizonの5Gサービスは現在、米国の6都市での展開に留まっているが、iPhone 12の投入を機に、これを大きく拡大する計画だ。

なお、Verizonは5Gでも特に高速だが、掴みづらいミリ波帯を中心としたネットワークを展開している。米国で発売されるiPhone 12シリーズは全モデルがミリ波に対応する。Vestberg氏は「もはや5Gは夢物語ではない」とVerizon 5Gが実質的なスタートラインに立ったことを強くアピールした。

ライアットゲームズからは、人気ゲームシリーズ『League of Legends: Wild Rift』の次期バージョンのiPhone向けの投入が発表された。Verizonは同社との協力により、人気タイトルを5Gのキラーコンテンツとして訴求していく狙いだ。

日本の3キャリアもPhone 12シリーズで5G対応へ

アップルはiPhone 12シリーズでの5G対応に向けて、世界30の地域の100以上の携帯キャリアと調整を重ねてきた。その携帯キャリアとして紹介された各国のキャリアのロゴが入ったスライドには、NTTドコモ、au、ソフトバンクという日本の大手3キャリアも並んでいる。この3社が新モデルも展開するのは、ほぼ確定したといって良いだろう。

HDR動画対応の「Super Retina XDディスプレイ」

ここからはアップルの発表をなぞりつつ、新モデルの特徴をおさらいしていこう。4モデルの基幹部品はすべて共通で、チップセットは自社設計のApple A14 Bionicを搭載している。9月に発表されたiPad Air向けと共通の半導体で、順当に処理能力をアップさせている。

世界初となる5nmプロセスで設計されたA14 Bionicには、処理速度が前世代から50%高速化された6コアのCPUや、グラフィック性能を50%向上したGPU、毎秒11兆回の計算が可能な16コアのAI処理用チップが含まれている。

5G対応を含め、iPhone 12シリーズは順当な進化を遂げている。大きな変化はボディのデザインで、iPhone 8以来の丸みを帯びた形状から、iPhone 5や初代iPhone SEのような角張った形状へと回帰している。これはボディのサイズを縮めるためで、画面の大型化にともなって、ベゼル(画面の枠)の幅も細めている。なお、iPhoneの特徴的な長いノッチ(画面上部の出っ張り)はそのまま継承している。

ディスプレイは狭額縁化にともない、「Super Retina XDディスプレイ」と呼ぶ新型に更新された。コントラスト比や画素密度を高めた上で、iPhoneとして初めてHDR規格の動画の再生に対応した。Dolby Vision、HDR 10、HLGというメジャーなHDR動画規格を網羅している。

HDR動画を撮影から編集まで1台で完結

カメラは主に暗所性能を向上させている。光学的なレンズ設計などは順当に性能を向上させた。iPhone 12シリーズな背面のメインカメラとなる広角カメラは7枚構成のレンズを採用し、取り込める光の量を増やしている。

加えて、パワフルなコンピューティング能力を生かした新機能を採り入れている。たとえば、「スマートHDR3」と呼ばれる撮影機能では、写真を解析してホワイトバランスや露出などをパーツごとに自動で調整する。薄暗い場所での撮影性能を引き上げるDeep Fusionは、新モデルからインカメラでも適用できるようになった。

動画撮影の目玉機能は、「Dolby Vision規格のHDR動画の撮影」に対応したことだ。Dolby Visionの動画フォーマットは映画の世界ではお馴染みだが、スマートフォンで撮影・編集という類例は存在しない。iPhoneは世界で初めて「Dolby Vision動画の撮影、編集、視聴、シェアが1台で完結するスマホ」となったという。

「セラミックシールド」で落下耐性4倍、「MagSafe」も新搭載

ディスプレイガラスには、米コーニング社と共同開発した新技術「セラミックシールド」を採用し、硬度を高めている。セラミック結晶の薄膜をディスプレイ上にコーティングする技術で、落下耐性が4倍まで高まっているという。

さらに、「MagSafe for iPhone」と呼ぶワイヤレス充電用の新たな機構が導入された。MacユーザーにMagSafeといえば、MacBookの旧世代モデルが備えていた給電ケーブルの機構を想像するだろう。iPhoneで復活したMagSafeブランドもそれと同じく、ワイヤレス充電の使い勝手を良くするものだ。

「MagSafe for iPhone」のイメージ

MagSafe for iPhoneのワイヤレス充電部分の設計は、ワイヤレス充電の共通規格「Qi」との完全な互換性を備えている。これは、これまでのiPhoneと同様だ。改善されたのは充電器へ固定する機構で、充電コイルの周りに磁石を配列し、充電器へとペタリと貼り付けられるようになった。さらにMagSafeシステムには、iPhone側からMagSafe機器の状況を確認できるような仕掛けも仕込まれている。iPhoneのケースにもMagSafe機構を取り入れ、脱着を容易にした点も特徴だ。

このMagSafe for iPhoneには、アップル純正のMagSafe Chargerのほか、Belkinなど複数のサードパーティブランドからも対応製品が投入される。

「MagSafe for iPhone」の構造
「MagSafe for iPhone」の構造

iPhone 12とiPhone 12 miniの違いは大きさだけ

新色も追加された「iPhone 12」
新色も追加された「iPhone 12」

iPhone 12とiPhone 12 miniが明らかに違う点は、アップルいわく「大きさだけ」だ。ボディは宇宙航空グレードのアルミニウム素材を採用し、iPhone 8世代のイメージに回帰する角張ったデザインに仕上げられた。背面カメラは広角と超広角というデュアルカメラを搭載する。

カラーバリエーションは両機種でブルー、グリーン、ブラック、ホワイト、(PRODUCT)REDの5色を展開。容量は64GB、128GB、256GBを用意する。

Proライン2モデルは「RAW撮影」も強化

Proラインの2モデルは、より性能を求めるユーザー向けのiPhoneだ。5GやApple A14 Bionic搭載といった主な仕様は共通ながら、細部の性能が強化されている。ディスプレイサイズはiPhone 12 Proが6.1インチ、iPhone 12 Pro Maxが6.7インチとなる。それぞれ前世代モデルと同等の大きさを保ちつつ、ディスプレイサイズを拡大させている。もちろん、HDR動画が再生できるSuper Retina XDR displayだ。

前機種よりスクリーンサイズも大きくなった「iPhone 12 Pro Max」
前機種よりスクリーンサイズも大きくなった「iPhone 12 Pro Max」

ボディはフレームに医療用グレードのステンレス鋼が輝き、これまでのiPhoneに無い色気を醸し出している。カラーはグラファイト、シルバー、ゴールド、パシフィックブルーという4色を揃えた。容量は128GB、256GB、512GBの3種類が用意される。

背面カメラはiPhone 11 Proの系統を引き継ぎ、広角、超広角、望遠の3カメラ構成を採用する。超広角側の画角は35mm判換算で13mm、望遠側は5倍相当の画角65mmとなる。広角カメラはレンズ性能の強化に加え、Phone 12 Pro Maxではセンサーサイズも拡大し、さらに暗所性能を引き上げている。Dolby Vison HDRの撮影機能では、最大4K/60fpsの動画を処理できるパフォーマンスを備える。

iPhone 12 Proラインの2モデルは「LiDAR」を搭載する。LiDARはレーザー光を用いて空間を立体的に把握する技術で、自動運転などでも応用されている。LiDARによってARアプリの性能が高まるだけでなく、写真撮影時のフォーカス速度に向上にも繋げている。

iPhone 12 Proライン限定の機能となるのが、「Apple ProRAW」だ。プロ向けスチールカメラのユーザーにはお馴染みのRAW撮影にアップルならではのコンピューター処理を生かせるようにしたものだ。

デジタルカメラで撮影した画像は、画像センサーから生成されたRAWデータを元に、人が閲覧できる形にする処理がほどこされる。通常はカメラなどの機会が自動で処理するRAWデータは、最終的に生成される写真よりも多くの情報量を含むことからプロの写真家が独自の表現を追求する際にはRAWデータを元に編集することが多い。

こうしたRAWデータにiPhoneのコンピューター処理の成果を反映させたのがApple ProRAWだ。たとえば細部に渡るカラーやダイナミックレンジなど、多用な情報が含まれる。アップルはApple ProRAWの写真アプリ向けAPIを公開し、外部のプロフェッショナル向け写真編集アプリが対応できる環境を整える方針だ。

発売は10月と11月の2段階に、予約は16日午後9時から

iPhone 12シリーズのアップル直販分の発売は2段階に別れる。現段階で発表されているのはアップル直販分の予約開始日と発売日で、日本はいずれも第一次販売国に含まれている。

iPhone 12とiPhone 12 Proについては、日本時間10月16日午後9時に予約受け付けを開始し、10月16日発売となる。iPhone 12 miniとiPhone 12 Pro Maxの予約受付はそれより少し遅れて、日本時間11月6日午後9時に予約を開始する。発売は11月13日だ。

なお、今回のiPhone 12シリーズから、iPhoneのパッケージに有線イヤホンとUSB-AC充電器は同梱されなくなる。アップルはこの措置によってレアメタルの無駄遣いを防ぎ、パッケージのサイズを減らすことで環境負荷を下げられると説明している。ケーブルはLightning・USB Type-Cケーブルが付属し、汎用のUSB Type-C充電器で利用できる。

スマートスピーカーの小型版「HomePod mini」

「HomePod mini」
「HomePod mini」

iPhone以外には、スマートスピーカーの小型版「HomePod mini」が発表された。編み込みが施されたコンパクトなデザインで、従来の「HomePod」よりも低価格なモデルだ。

Apple HomePodは3万円台と高価格なこともあり、競合のGoogle NestやAmazon Alexaに遅れを取ってきた。アップルではiPhone/Apple Watchとの統合性や使い勝手の良さ、プライバシーへの配慮をこの製品の特徴としている。

iPhoneを使っている環境なら、家族でHomePod miniを活用できる。個人の認識機能を備えており、声から発言した人を判別できる。たとえば「Hey、Siri? アップデートはある?」と聞けば、「今日の天気は晴れで気温は27度、カレンダーには○○という予定があり、▲▲さんからメッセージが届いています……」と、その人物のiPhoneに登録された内容も含めてまとめて応答してくれる。

また、HomePodを活用した新機能として、「Intercom」が搭載された。Intercom機能は家族間連絡用の内線機能だ。家族が使っているiPhoneやiPad、Apple Watchへと一斉に伝言メッセージを送る機能や、それに応答する機能が含まれている。

「5Gで何をするか」を問い直したiPhone 12

技術としての5Gは未だ発展途上で、世界のキャリアもエリアを徐々に広げつつある状況だ。そこに投入されたiPhone 12は、Android陣営から1年のビハインドがあるとはいえ、投入時期としては遅くはないだろう。

むしろiPhone 12の投入が5Gの展開を早める起爆剤となる可能性がある。5Gでスマホの通信が速くなることそのものには大きな価値はない。重要なのはそこで新しい使い方が生まれ、新たなサービスへと繋がっていくことだ。iPhone 12シリーズはそのパワフルな能力によって、5Gのポテンシャルを生かす発想を育む素地となることだろう。