
- 外勤営業の電話記録の課題が開発のきっかけだったピクポン
- 管理ではなくセールスアプローチ発見のためのツール
- あらゆるビジネスシーンでのやり取りをシェア可能なデータへ
新型コロナウイルスの影響でテレワーク環境を支えるサービスが伸びている。2019年9月に正式ローンチしたAI搭載型のクラウドIP電話サービス「pickupon(ピクポン)」の場合、サービスインから前月比120%で業績が成長していたところにコロナ禍が進行。問い合わせベースでは、3月に前月の2倍の数字を記録した。
ピクポンは電話営業のためのサービスだ。インサイドセールスの担当者が顧客と通話した内容を音声認識によりテキスト化し、CRM・SFAツールやチャットツールへ自動入力、社内で共有することができる。また、会話の中でも重要な部分は自動で要約(ピックアップ)して、サマリーを保存してくれる機能も持つ。
サービスを提供するpickuponは、9月4日にサイバーエージェント・キャピタル、East Ventures、MIRAISE、個人投資家の小出斉氏からの調達と融資を合わせた総額8000万円の資金調達を完了。10月21日には外勤営業向けのモバイルアプリのリリースも発表した。同社ではこのアプリを「外勤を含むあらゆる営業シーンの会話のデータ化・自動入力のための開発強化の第1弾」と位置付けている。
外勤営業の電話記録の課題が開発のきっかけだったピクポン
pickuponの創業は2018年2月。同社代表取締役の小幡洋一氏とCTOのCampaña Rojas José María(カンパニャ・ロハス・ホセマリア)氏らが情報科学芸術大学院大学で進めていたHCI(Human-Computer Interaction)、身体拡張、メディアアート、インテグラルデザインなどの領域横断的な研究に基づくプロジェクトが、Open Network Labのシードアクセラレータープログラムに採択されたことを機に設立された。
小幡氏らは「情報を共有するコストを大きく下げ、人類に寄与するようなテクノロジー」の創出を目指していた。そうして最初のサービスとして着目したのが、情報共有コストの大きさが課題となる電話でのセールス領域だった。
2019年9月に正式リリースされたピクポンは、インサイドセールスの通話記録の入力コスト削減に焦点を当て、サービスを提供してきた。電話での会話のテキスト化・サマリー化とCRM・SFAツールやチャットツールへの自動入力・シェアによって、情報の入力漏れの予防、通話内容のブラックボックス化の防止、情報共有の促進を図ることができる。

小幡氏は「実はピクポン開発の最初のきっかけはインサイドセールスではなく、フィールドセールス(外勤営業)へのインタビューです」と明かす。
能動的に電話をかけるアウトバウンドか、電話がかかってくることを想定して待機するインバウンドかの差はあれど、インサイドセールスでは電話での通話も、会話の記録も業務の前提となっている。一方、外勤営業では、いつ、どこで顧客から電話がかかってくるかは分からない。商談を含めた発話内容を覚えているうちにスマホなどのモバイル機器で入力することはかなり難しく、漏れなく記録を残そうとすれば、担当者の手間・コストもかかる。
「最初はプロダクトとして実現可能性の高いインサイドセールスの領域から開発を始めましたが、外勤の入力課題はより大きいとずっと感じていました。そこで引き続きインタビューを続けていたのですが、調達資金も得て、ようやく本丸であるフィールドセールスのためのプロダクトを出すことができました」(小幡氏)
今回リリースが発表されたモバイルアプリは、iOSに対応。9月1日からプレリリース版が一部の企業に先行導入されている。モバイルアプリではPCブラウザ用に提供していたピクポンの機能が全て利用可能。具体的には「アプリを使った架電・受電」「通話のサマリー作成と顧客管理ツールなどへの自動入力」「顧客の課題感や怒りを含む重要な発言をSlackの指定チャンネルへ投稿」といったことが、スマホから行える。

「外で電話したときのやり取りの記憶はこれまで大変でした。アプリを活用すれば、いつ何時、顧客から電話がかかってきても、位置情報や話した内容をSFAツールなどに記録できる。営業通話のペインについて、ピンポイントではあるが、今までより深いところを解決できたのではないかと思います」(小幡氏)
管理ではなくセールスアプローチ発見のためのツール
通話業務をAIで音声解析して可視化するサービスとしては、今月新たに7億円の資金調達を発表したRevComm(レブコム)が提供する「MiiTel(ミーテル)」なども存在する。
小幡氏は「MiiTelは、ピクポンとプロダクトとしては近い領域にありますが、出発点やコンセプトが異なるため、使用感などはかなり違うと思います」と説明する。MiiTelでは、発話量分析やトークスクリプトに基づいたキーワード分析など、商材や売り方が確立したセールスシーンでの教育や管理に向いた機能が豊富だ。これに対し、ピクポンは顧客が何を発言したかをそのまま収集し、センテンスをピックアップ。顧客の課題の発見や最適なセールスアプローチを見つけるためのツールと位置付ける。


ピクポンはリリース当初からクラウド型営業支援ツール「Senses(センシーズ)」と機能連携しているが、開発元・マツリカ執行役員の中谷真史氏は「CTI(Computer Telephony Integration)ツールが必要となったときに、一番Sensesと思想が近かった」とピクポンを選択した理由について述べている。
「Sensesは営業パーソンに創造性を与えるプロダクトとして開発を進めてきました。セールス現場の負荷をいかに下げ、顧客にいかに向かい合えるかということを日々考える中で、顧客に目を向け、営業パーソンが自分のオリジナリティやクリエイティビティを解放できる仕掛けがあるピクポンは、Sensesの描く世界観と近く、一番共感するCTIツールでした」(中谷氏)
「インサイドセールスは手段に過ぎない。管理をするというよりは、顧客のリアルを知り、かつ営業活動にそれが生かされることで、顧客と齟齬なく情報交換ができ、価値を提供できるかどうかがセールスのあるべき姿」として、中谷氏は「ピクポンではその本質に目が向けられていると開発思想から感じられた」と話している。
小幡氏も「フィールドセールス、ひいては営業の課題は、行動量が多い人ほどその多さ故にデータ化が難しいところにあります。課題を誰が解決しているかを見た時に、我々が最初に見つけたのがSensesというSFAでした」と連携のきっかけについて語る。
両社はモバイルアプリでも引き続き協調し、連携している。三菱地所グループで住宅事業のリテール仲介などを営む三菱地所ハウスネットのDX拠点として9月にオープンした「Cube i(キューブアイ)有楽町」では、ピクポンのモバイルアプリがSensesとともに先行導入された。
三菱地所ハウスネットはこのDX拠点で「不動産仲介におけるデータドリブンな新しい顧客体験」実現のための施策を検証している。専任のデータ分析チームによる営業の行動分析に取り組む中で、ピクポンが営業活動でブラックボックス化しやすい電話対応の可視化ができる点を評価。また、要点のサマライズ機能や各種ツールとの連携にも期待をかける。
小幡氏は「さまざまなスタートアップのツールやサービスが実験的に導入されているDX拠点のCube iで、インサイドセールスではない、いわゆる“営業”の担当者にピクポンを使っていただいています。このことは、今回、資金調達によって実現しようとしている『外勤を含むあらゆる営業シーンの会話のデータ化・自動入力』という目的へ向かうための象徴的な第一歩と考えています」と述べている。
あらゆるビジネスシーンでのやり取りをシェア可能なデータへ
新型コロナウイルスの影響について小幡氏は「これまでのインサイドセールスだけでなく、それ以外の用途での問い合わせがピクポンにも増えました。営業活動においても、出勤営業とリモートとのミックスも増えています。コロナ禍で完全にオンライン営業だけになったというわけでもないので、より柔軟で多様なコミュニケーション手段が必要とされるようになりました」と語る。
冒頭に記したとおり、コロナ禍以降、リード数では前月比2倍の月もあったというピクポン。「外勤・内勤にかかわらず、あらゆるビジネスシーンにおける発話によるやり取りを、シェア可能なデータにしていくということがコンセプトとして根底にあるので、そこをどんどん進めていきます」と小幡氏は、今後の展開について話している。
中長期的には、第1弾として公開したモバイルアプリに続き、ウェブミーティングも対象として、プロダクト開発を進めるとのこと。また「対面でのやり取りも必ず復活してくるはず」として、対面の発話のやり取りについても、「きちんと扱えるデータにして、そのチームのワークスペースに自在に入力、記録、メモ、クリップできるようなプロダクトに進化させていきたい」と小幡氏は語っていた。