Code Climber
画像提供:Value market
  • 50歳にして仕事がなくなったエンジニアに亡き父の姿が重なる
  • 「労働集約構造」「情報の非対称性」を解体するサービス
  • 相互評価の結果をデータベースに蓄積して“線”でエンジニアを支援
  • スタートアップの採用を併走支援、CTO育成プログラムも
  • エンジニアと企業が互いに成長できるプラットフォームを目指す

エンジニア、それもフリーランスのエンジニアというと「引く手あまたの売り手市場」「能力次第で高い報酬が得られる」といったイメージがあるかもしれない。しかし実際には、年齢とともに単価を下げざるを得ず、徐々に低い単価でも仕事が取れなくなるエンジニアや、若手でどのようにキャリア形成すればいいか分からず、与えられた仕事をこなしながら不安を抱えるエンジニアも多いという。

一方、エンジニアに仕事を依頼する側の企業、特にスタートアップや中小企業では「欲しいスキルを持ったエンジニアに巡り会えない」という問題があるだけでなく、「そもそもどういうスキルの人に来てもらうべきなのかが分からない」という企業が少なくない。

この双方の課題を解決するための採用支援サービスが、スタートアップのValue market(バリューマーケット)が提供する「Code Climber(コードクライマー)」だ。

50歳にして仕事がなくなったエンジニアに亡き父の姿が重なる

Value market代表取締役の内田裕希氏は、楽天の出身。ECモールの新規出店営業を9年担当した後、2016年にフードロス問題を農家と消費者のマッチングにより解決するサービスを検討し、Value marketを立ち上げた。だが当初手がけた事業は思うようにいかず、一時、会社は休眠状態になる。

その後、内田氏は人材紹介スタートアップに「最初は副業として」参画し、後に執行役員として採用、営業、総務、法務など事業にかかわる業務全般を担当した。そして、この企業の売却が決まり、引き継ぎが完了するまでの1年半、フリーランスの紹介事業に携わったのだが、この時に知ったエンジニア人材の課題が、再独立した現在の事業展開につながっている。

長年活躍していたエンジニアなのに年齢とともに仕事がなくなる。若手エンジニアはキャリア形成に悩んでいる。エージェントとしてフリーランスエンジニアの紹介に立ち会う中で、内田氏は、スキルが不足していて、3年後にはどうなるかが気がかりなエンジニアと相当数出会ったという。だが、そこをサポートする機能がエージェントにはない。

象徴的な出来事として内田氏が語ったのは、50歳のエンジニアとの出会いだ。昔はバリバリ活躍していたが、年齢とともに単価を下げても仕事がなくなりエージェントに登録してきたという、その人物。内田氏は彼にスタートアップでの仕事を紹介したが、SIerでの受託開発経験ではスタートアップの現場で必要なスキル・キャリアが積めておらず、うまくフィットしなかった。

「何とかしたいけれども、どうしようもありません。自分たちの仕事の意味とは何かを深く考えました。個人的には、私が15歳の時に亡くなった父が当時ちょうど50歳だったので、彼を父と重ねて見ているところもありました。古い男性社会に生きてきて『仕事が生きがい』みたいなところもある人が、これから正社員で雇ってもらえるところもない。5年ぐらいは単価を下げて食いつなげるかもしれないけれど、この人生100年時代、その後はどうするんだろう。そう思うと強烈な違和感がありました」(内田氏)

Value market代表取締役 内田裕希氏
Value market代表取締役 内田裕希氏

少子高齢化で労働人口減が進む中、紹介している人材が必ずしも成長していないこと、同じスキルで現場を転々として、年齢とともにだんだん仕事がなくなるという状況を何とかしたい。内田氏は、今、その場だけで必要とされるスキルだけを習得していくという、エンジニアの短期的なキャリア形成に課題があると考えた。

「中長期で見た時に、いろいろな現場を経て少しずつレベルが上がることで、新しく受け入れる会社も喜ぶ、というのが本来あるべき姿。このままでは市場自体も縮小してしまうのではないかという危機感もあり、この業界の課題を解決するために、サービスを一から立ち上げることにしました」(内田氏)

「労働集約構造」「情報の非対称性」を解体するサービス

内田氏はエージェントの「労働集約構造」と「情報の非対称性」を課題の本質として挙げる。労働集約構造については、スピード重視、かつ大量の提案をエージェントの人海戦術でこなしていることが要因だ。エージェントは高い広告費で人材を集めるが、人材の見極めはできないため、「数打ちゃ当たる」の大量提案を行う。数をこなすために多重下請け構造もでき、手数料もかさむようになる。

企業側も大量選考して契約を行うので、エージェントの稼働時間、人件費も膨らむ。だが実際にエージェントが対応するのは面接の日程調整だけ。そして、いざエンジニアが稼働するようになっても、3カ月に1回の面談以外にサポートが特にないため、継続契約にはつながらず、契約を終えたエンジニアはまた広告経由でエージェントに登録することになる。人材は常に不足しているので、早く紹介を、と質の向上よりもスピードを求められる。

また紹介手数料は原則非公開で、お金の情報がブラックボックス化されている。これがエージェントと企業・エンジニアとの情報の非対称性を生んでいる。企業はエンジニアがいくらお金をもらっているかを知らず、エンジニアも企業がいくら出しているかを知らない。このため、過請求・搾取構造が生まれ、企業の採用コストは高騰する。良い人材と適正価格で契約することができず、委託料を下げようとすると、エンジニアの手取りも減ってしまうため、「ブラック企業」との風評も受けかねない。

正確な報酬が把握できないため、企業は重要な判断材料が欠けた状態になり、人材の見極めがますます困難になるだけでなく、よりよい人材採用のためのPDCAも回せない。エージェントによる低スキル人材の押し込みにも、対処することができなくなってしまう。また、エージェントの契約後のフォローがないことから、各社で独自の定着支援策が必要となる。

これらの課題に対し、Value marketが2018年末からサービスを開始したのがCode Climber。スタートアップに特化したフリーランスエンジニア専門の採用支援サービスだ。

Code Climberでは、フリーランスエンジニアとValue marketによる準委任契約をベースに、企業との契約再委託を行うSES(システムエンジニアリングサービス)モデルを採用する。企業からの業務委託料から手数料を引いた金額がエンジニアの報酬になるのだが、この手数料率が15%と公開・可視化されているところが特徴となっている。

さらに企業・エンジニアが定期的な面談・相互評価に協力するなど、契約更新条件を達成すると最大5%にまで料率が下がる。手数料が減じた分は、エンジニアの報酬アップと企業の委託料減の形で両者に還元する。通常のエージェントでは固定で20〜30%の手数料が相場とされているため、価格優位性も大きい。

企業とエンジニアの相互評価は、契約後3カ月ごとに実施される。エンジニアとは1on1での面談も実施し、キャリア形成に関するコンサルティングを行う。また、企業の方にもエンジニア採用に関するコンサルティングを実施している。

「企業には、短期的には安いと感じてもらえて、かつ共感も得られています」(内田氏)

相互評価の結果をデータベースに蓄積して“線”でエンジニアを支援

エンジニアと企業の相互評価の結果はCode Climberのデータベースに蓄積され、フリーランスエンジニアと企業のマッチングに特化した評価データベース(DB)として活用されている。3000件の商談から定量的・定性的に情報を蓄積し、ミスマッチから需給ニーズを可視化することで、より適切な人材をより適切な企業へ紹介し、活躍を支援しようという仕組みだ。

「評価は『ミスマッチ』から始まります。『いつ、どこで、何が原因でミスマッチが起こるか』に注目して情報を蓄積し、企業・エンジニア間の情報にズレがある部分を可視化することで、各社の採用のベストプラクティスを構築していき、効率を上げています」(内田氏)

企業にはDBの情報からミスマッチの原因を分析して、ニーズの具体化や採用のムダ削減をアドバイスする。またエンジニアのキャリア支援では、それぞれが目標とする報酬に対して必要なレベルを、目標達成済みのエンジニアの経歴・評価DBを参照して把握し、成長に最適な案件を提案する。

「その時その時に必要なスキルといった“点”ではなく、我々は“線”でエンジニアを支援していきます」(内田氏)

大量提案・サポートなしの労働集約構造のエージェントと比較すると手間はかかるものの、詳細なヒアリングに基づいて少数でも高品質な提案と、企業・エンジニア双方への両面コンサルによる人材定着・契約長期化によって、企業・エンジニアの満足度は上がる。また、トータルでは案件数を短期でどんどんこなすモデルより、Code Climberの運営コストは下げることができる、と内田氏はいう。

Code Climberの運営モデル
Code Climberの運営モデル 画像提供:Value market

Code Climberの面談契約率は37%。他社であれば20%程度というケースが多い中で、高い契約率を確保できているという。また、2回連続での契約更新率は他社で50%のところが90%となっており、定着する割合も高い。これにより4倍近い生産性を確立できていると内田氏は説明する。

「生産性の向上は計算して実現したというより、理想の手数料率は15%だというところからスタートした結果。理想の手数料に向かってどう事業をつくっていくかを考える中でできあがったものです」(内田氏)

契約企業、契約数はスタートアップを中心とした口コミによる紹介で伸びているという。フリーランスエンジニアの紹介エージェントという領域での競合は多いが、企業との直接契約のみで手数料公開を実施するところは2〜3社にとどまる。「加えて、両面コンサルまで踏み込んでいるところはおそらくありません。手間は大変だけれども、マネはしづらいモデル」と内田氏は自信を見せる。

スタートアップの採用を併走支援、CTO育成プログラムも

Value marketでは9月、Code Climberで蓄積した採用評価DBのデータとノウハウを活用して、スタートアップのフリーランスエンジニア採用を併走型で支援するサービスも開始した。この「併走型サポートプラン」では月額20万円から、3カ月以上の契約で、いつでもValue marketの採用パートナーに相談できる。

併走型サポートプラン
画像提供:Value market

「スタートアップでは、技術とビジネスとを翻訳する力が必要となりますし、技術自体のトレンドの入れ替わりもとても早いのが特徴です。エンジニアに求められることにも変化があり、技術だけができる人の価値は下がってきています。どうすればサービスをグロースさせられるか、技術を生かしてユーザーに価値を届けられるかというところまで入り込める人材が欲しいという企業も結構多いですが、ではそれに当てはまるエンジニアとはどういう人なのか、職務経歴書を見ただけでは判断が難しい。本質的な採用とは何かを突き詰めないと、たどり着けない傾向があります」(内田氏)

カルチャーも含めたミスマッチがなくなるように人材を判断するのが、非常に難しいスタートアップ。内田氏はだが、「エージェント次第で採用の当たり外れがある状況はなくしたい」と述べている。

「僕らは、過去の提案でどういう結果だったかというデータを蓄積して、誰が担当してもデータを参照すればすぐに精度の高い提案ができるようにしたい。誰が見てもいいマッチングができるようにした上で、さらに採用した後も1on1のコンサルティングでデータの確からしさを検証することで、精度をさらに上げようとしています」(内田氏)

「データをスクレイピングしてAIで分析するのもいいんですが、聞けば早いことは聞けばいい」と内田氏。データ探求と面談によるヒアリングとの組み合わせで、各社に合った採用支援を目指している。

「従来のエージェントでは、とにかくたくさん紹介の数をこなす営業スタイルとなり、働き方も単純でベテランになると辞めてしまう人も多い。だからスタートアップへの対応力やカルチャーを読み解く力を持つような、スキルの高い人は残りにくいんです。我々は企業の成長と、人の成長に踏み込んでいきます。ゴールは“紹介”には置いていません。キャリアをずっとサポートする設計でサービスを提供しています」(内田氏)

エンジニアのキャリアの頂点のひとつには、CTOやVPoE(Vice President of Engineer)としての活躍がある。Value marketでは10月22日、優秀なエンジニアにCTO/VPoEとしてのキャリアを積む機会を提供する仕組みとして、育成型採用支援サービス「CTOut(シーティーアウト)」をリリースした。

CTOutは、Value marketの株主で、ウノウ(Zynga Japan)やUUUMでCTOを務めてきた尾藤正人氏が、技術顧問としてエンジニアをOJTサポートしながら、最短6カ月でCTO/VPoEを目指すプログラムだ。

CTOutサービスフロー
CTOutサービスフロー 画像提供:Value market

エンジニアは企業へCTO/VPoE候補者として参画し、尾藤氏による定期的な1on1やSlackによるサポート、個別研修を受ける。エンジニアはこれらのサポートを無料で受けることができ、6カ月間のプログラム終了後に企業・本人ともに合意した場合は、そのまま企業に参画することができる。

企業側は、Value marketからCTO/VPoE候補者の紹介を受けることができる。プログラム期間中は、候補者の報酬に応じた委託料と、技術顧問による候補者へのサポート費用を負担する。顧問費用は、サポート頻度や内容を事前に企業とすり合わせて決まる。

Value market技術顧問 尾藤正人氏
Value market技術顧問 尾藤正人氏 写真提供:Value market

「CTOやVPoE人材となると、もはや企業とエンジニアの“マッチング”の問題ではありません。どこかからいい人を連れてきてはめ込めばいいというものではなく、事業の成長や人の成長がより複雑で、お互いがお互いに変化し合って新しい組み合わせになっていくようなところがあります。その過程で企業文化が新しく醸成されることもある。そもそも即戦力のCTOとして顕在化している人は非常に少ないですし、条件も厳しいです。『CTOを連れてくる』というよりは優秀な人が『CTOになっていく』というイメージです」(内田氏)

日本ではIT組織、IT人材の存在感が足りないと内田氏はいう。「CTO/VPoEになっている人も欧米に比べれば少ない。だがCTO/VPoEになりたい人、なり得る人はたくさんいるはずなんです。Code Climberで支援して成長した人には『そろそろ大きな挑戦として、CTO/VPoEにチャレンジしてみては』と言える機能を用意したい。キャリアは線ですから、受け皿としてのCTO/VPoE育成サービスをつくっておきたいのです」(内田氏)

スタートアップのみならず、中小企業でもデジタルトランスフォーメーション文脈で、データの活用を考えるところは増えているが「開発責任者がいないのが悩み」というところも多い。内田氏は「CTOは天才である必要はありません。IT組織を牽引する人材で、その会社に合った人をCTOとして迎えられればいい。そうして社会全体のITの底上げができることが大事だと考えています」と語る。

エンジニアと企業が互いに成長できるプラットフォームを目指す

「あらゆる成長機会を創出する」をミッションとして「どのサービスもそこに根ざすようにつくっていく」という内田氏。「今は、キャリア志向のエンジニアで、『自分の価値を上げていきたい』『自分を成長させていきたい』という方に来ていただけるようにしたい。そうして、素晴らしいサービスを提供しているけれどもいい人と巡り会えていないスタートアップや中小企業と、そうしたキャリア志向の方々とをつなぐだけではなく、一緒になってお互いがお互いに成長し合えるようなプラットフォームを作りたいと思っています」と今後の展望について語る。

「我々も単に紹介して終わりというのではありません。人が育ってなんぼ、事業が伸びてなんぼだと思っているので、そういった志を持つ人や企業の方々と事業を行っていきたい。僕らは手数料を公開して業界最低水準にしている以上、エンジニアの単価を上げることでしか事業を伸ばすことはできません。また、企業に評価を開示しているので単価を盛ることもできません。ですから、純粋にいい人を紹介したいし、人の価値が上がって喜ばれる、当たり前の循環を作っていけるように懸命にやっていきます」(内田氏)