
- 「支援する」という言葉に感じた違和感
- プロジェクト数は1万1500件、応援購入総額は250億円へ
- 「価値ある挑戦者」が生まれる場でありたい
- 広がるべきものが広がる世の中にしていきたい
「消費」の新たな潮流が盛り上がっている。2013年8月のサービス開始以来、「クラウドファンディングサービス」として認知を広げてきたMakuake(マクアケ)は、2019年末のマザーズ上場にあわせてリブランディング。「アタラシイものや体験の応援購入サービス」へと、タグラインを刷新した。
コロナ禍での産業支援も積極的に進め、9月時点で会員数は約126万人を記録。ユーザーのリピート率は7割を超えている。Makuakeはなぜ自ら生まれ変わったのか。その真意とこれから描く未来について、マクアケ代表取締役社長の中山亮太郎氏に聞いた。
「支援する」という言葉に感じた違和感
自分たちが何者なのか。その語り方を変え、さらなる成長を遂げようとしているMakuake。創業以来6年使い続けた「クラウドファンディングサービス」という看板を下ろし、新たに「応援購入サービス」の会社へと変貌した。
「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」をビジョンに掲げる同社は、新しいモノやサービスを生んで世に送り出したい開発者と、それを買いたい人をつなぐプラットフォームの役割を果たす。開発者が企画・試作段階から購入予定者を募って資金を集め、創作活動をサポートする。
「大量生産・大量消費の20世紀型資本主義に乗り切れないという理由だけで、“お蔵入り”になりがちだったものづくりに光を当てたい」という中山氏の思いは創業時から変わらない。
文具などの日用品から存続が危ぶまれていた伝統行事まで、19年末時点で8000を超えるプロジェクトの“支援”が実行され、その幕を開けていった。ただ、6年の歩みの中で、中山氏の胸中にある違和感が生まれていたという。
「ユーザーが『支援』というボタンをクリックする時、どこか上から目線というか『助けてあげている』という意識に近い感覚なのかなと思うんです。僕らも長らくその言葉を使っていたのですが、僕が実際に購入する時の気持ちを考えてみると、もっとフラットに開発者の思いに共感しながら、『この挑戦を応援したい』という気持ちで買っているんです。アメリカから導入されて浸透したクラウドファンディングという言葉を使うのは便利だけれど、僕たちのビジョンの芯を食った言葉ではないのかもしれないと気づき、もう一度、自分たちの言葉で自分たちを表現しようと、創業メンバーで話し合うことにしました」(中山氏)
議論を重ねるうちに、ふと浮上した「応援購入」というワードに、全員が「それだね」と賛同。開発者側に立っていた軸足を購入者側にシフトしたことは、“新しい消費”に挑むステートメントでもある。
「多種多様な趣向に合う消費の選択肢がもっとあっていいと思っています。買うことが自己表現になり、愛着が湧くような買い物の形を増やしていきたい。“消費”という行動の価値そのものを変えていければと思っているんです」(中山氏)
プロジェクト数は1万1500件、応援購入総額は250億円へ
リブランディングから数カ月後には新型コロナウイルスの影響で、あらゆる産業がピンチになった。社会全体で生産と消費のあり方が大きく変わろうとする潮目に、「応援購入」という概念はフィットした。
地方の生産者の支援として、「オンライン陶器市」や「オンライン日本酒市」を開催すると、新規の会員も急伸。9月時点で会員数は約126万人を記録し、累計プロジェクト数は1万1500件、応援購入の総額は約250億円の大台に乗った。ステイホーム期間にキッチン用品などの需要が高まったことで、女性のユーザーも増えたという。
9月には全国ネットでテレビCMも投入した。中山氏自身、幅広い層から「見たよ」という反響を受け、手応えを感じている。
「薄く広くのマーケティング戦略は、Makuakeに合わないのではないかという指摘もあるかもしれません。けれど、愛着を持って応援の気持ちとセットで買い物をしたいニーズは、実は誰しも持っているはずだと、僕らは確信しているんです。応援購入と言語化されることで初めて刺激されるニーズはあるはずだと。その意味で、メディアとしての役割ももっと果たしていかないといけないと考えています」(中山氏)
開発者のチャレンジをこまめにレポートしたり、好みに応じたプロジェクトを紹介するレコメンドエンジンを強化したり。消費者側の「応援したい」の熱量を高め、維持していく機能に一層注力したことが、「応援購入のリピート率7割超」という結果につながっている。
「価値ある挑戦者」が生まれる場でありたい
かつてベトナムでベンチャーキャピタル事業に携わっていた中山氏には、「ものづくり大国だったはずの日本の底力を取り戻したい」という思いがある。
その思いは開発者の選定基準にも表れており、「もの・サービス自体が面白いかどうかのジャッジはしない」。つまり、それが世に出るべきかどうかは、消費者に委ねたいのだという。その一方で、Makuakeはプロジェクト掲載前から商品の納品までモニタリング体制を構築しているほか、トラブル時における消費者保護の対応を実施している。例えば、先日アイスシルク生地を使用したマスクの生地が“絹”ではなく“化学繊維”だったことが問題視されていたが、Makuakeが実行者に返金対応を促し、現在は絹と勘違いして応援購入してしまった人に関しては返金対応の手続きをとっている。
また、Makuakeに掲載されているプロジェクトが中国の大手通販サイト「AliExpress(アリエクスプレス)」の転売ではないか、といった声が聞かれることもあるが、これは正規の代理店と確認をした上で国内進出のサポートをしているという。
「僕らも創業時は400社以上回っても相手にされず苦しい時期も何度も味わってきた。新しい挑戦を始める時に、組織の大も中も小も関係ありません。国内外問わず、世の中が求める価値ある挑戦者が生まれる場でありたいんですし、広まるべきものがきちんと広まって欲しいと思うんです」(中山氏)
事業を続けるうちに希望を感じられたのが、“地方の出る杭”の誕生だ。例えば、刃物の町・岐阜県関市で創業50年を迎える金属加工プレスメーカー、ツカダは、板厚0.2mmのステンレス鋼板を使用した名刺入れを制作・販売するプロジェクトを17年秋に実施。応援購入額は2940%もの達成率を記録し、受注型だった同社のビジネスモデルを変える一つの転換点となった。

「最初は、地元の信用金庫さんからのご相談から始まったのですが、プロジェクト達成後は銀行の融資枠も広がったと聞いています。さらに嬉しかったのは、ツカダさんに刺激される形で、近隣の会社の士気も高まって地域が元気になってきたという波及効果です。野球の野茂英雄元選手が初めてメジャーリーグに挑戦して、後の選手も続いたように、地域の成功モデルをつくる橋渡しになれたらと思っています」(中山氏)
地域にこそ眠れるパワーがある。日本の素晴らしいものづくりを掘り起こせる役割を担えることは、自分たちがずっとやってきたかったこととも合致する。“応援購入”という言葉を得て、さらにビジョンを揺るぎないものにしたMakuakeは、関西、九州と拠点を増やしている。
「リモートでなんでもできる」という世の中の流れとあえて逆行するのは、ものづくりの現場に寄り添い、伴走する研究開発支援を強みとしてきたからだ。開発者選定の際に「面白いか」は問わないが、「本当に作れるのか」はきちんと見定めるのだという。
「とはいえ、情熱的に語られると、実現を応援したくなってしまいますよね(笑)。思いは強くてもノウハウが不足しているという場合には、開発プロセスの支援にも入っています」(中山氏)
広がるべきものが広がる世の中にしていきたい
どんなシーンに立ち会うと一番嬉しいのか? そう問うと、中山氏は「勝手に広がっているのを見た時です」と答えた。
「あるイベント会場でたまたま隣り合わせた人が身に付けていたのが、うちから世に出たプロダクトだったんです。思わず『それ、Makuakeからリリースされたんですよ。ご存じでしたか?』と聞くと、「知らなかった。ただ好みだから買ったんですよ」と。“応援”の気持ちが集まって世に出たプロダクトが、勝手に街中に広がっている。特別な行動ではなく、当たり前になっていく。その過程を作れていることに感動し、僕らがやってきたことは間違いじゃなかったと思えました」(中山氏)

まさに、広がるべきものが広がるシーン。今後は、応援購入だけでなく、「応援販売」「応援栽培」などさまざまな使われ方で「応援○○」が広がっていくといい。中山氏はそんな未来への想像を膨らませている。
「20世紀に未来として描かれたのは、無機質で画一的な世界が多かった。でも、今の僕らが暮らす世界はそうはなっていません。きっと、人間は本質的に多様性を求める生き物なのだと思います。多様な世界の中で自分らしさを確かめていきたい。そんな願いに寄り添える、エモーショナルな企業活動を続けていくこと。それが僕らが目指す未来です」(中山氏)