電動キックボードの公道での実証実験の様子 写真提供:三菱地所
  • 電動キックボードの公道での実証実験は国内初
  • 確認したいのは「自転車と電動キックボードの安全性における相違点」
  • 苦戦する電動キックボード海外勢、撤退済み企業も

電動キックボードの公道での実証実験は国内初

気軽に短距離を移動することができる利便性から、海外では人気を博す電動キックボードのシェアリングサービス。日本でも複数社がサービスインを目指し、実証実験を重ねている。10月下旬からは国内初となる公道での実証実験が全国的に開始した。

公道での実証実験を行うのは、Luupmobby rideEXx(エックス:旧社名はmymerit)の3社。いずれも電動キックボード事業を手がけるスタートアップで、2019年5月に結成された、マイクロモビリティ推進協議会の参加企業だ。

10月20日にはmobby rideが福岡県・福岡市で、10月27日にはLuupが東京都・千代田区で、それぞれ公道での実証実験を開始した。EXxもまもなく東京都や神奈川県での実証実験を開始する予定だ。実施期間は全社、2021年の3月末までとしている。各社の実施エリアは以下のとおり。

  • Luup:東京都・千代田区の一部エリア、新宿区の一部エリア、世田谷区の全域、渋谷区の全域
  • mobby ride:福岡県・福岡市、広島県・尾道市、愛媛県・今治市、兵庫県・神戸市(いずれも一部のエリア)
  • EXx:東京都・世田谷区の全域、渋谷区の全域、神奈川県・藤沢市の全域、千葉県・柏市の一部エリア

実証実験の実施内容は各社で異なるが、Luupの場合は、基本的には電動キックボードとヘルメットを貸し出し、参加者に通勤などの日常的な移動で利用してもらう。参加者はホームページで公募した。

Luupは5月よりシェアサイクルを都内で展開していて、いずれは自転車だけでなく、電動キックボードの提供も開始したいと考えている。実証実験を重ねることで「最も安心で安全な電動キックボードのシェアリングサービスのありかた」を模索している。

確認したいのは「自転車と電動キックボードの安全性における相違点」

今回の実証実験の特徴は、電動キックボードが自転車専用通行帯(自転車レーン)を走行することにある。電動キックボードは現行法上では原動機付自転車として扱われるため、公道で走行するにはウィンカーなど国土交通省が定める保安部品を取り付け、原動機付自転車登録をし、免許証を携帯する必要がある。

加えて、電動キックボードは自転車専用通行帯ではなく、車道を走らなくてはならない。しかし車と並走するのは危険なため、電動キックボードのシェアリングサービスを展開する事業者は、政府の「新事業特例制度」を利用し、自転車専用通行帯での走行による実証実験を行うに至った。

Luup代表取締役の岡井大輝氏は以前、DIAMOND SIGNALの取材において、今回の実証実験で確認したいのは「自転車と電動キックボードの安全性における相違点」だと説明していた。ヘルメットの着用や原付免許保有の必要性に関しては、今後の実証実験で検証していくという。

苦戦する電動キックボード海外勢、撤退済み企業も

国内の電動キックボード事業者が公道での実証実験を開始し、サービスインに向けて進み続けている一方で、鳴り物入りで参入してきた海外事業者はコロナ禍もあって苦戦している状況だ。

ドイツ・ベルリンに本社を置き、世界の約30都市で電動キックボードのシェアリングサービスを展開するWind Mobilityの日本法人、Wind Mobility Japanは5月31日、株主総会の決議により解散した。

Wind Mobility Japanは2018年4月の設立。2019年7月より千葉県・千葉市で、千葉市と共同で電動キックボードのシェアリングサービスの実証実験を実施していた。だが、2020年4月末にサービスの運用を終了。電動キックボードの販売も、4月3日に事前予約の受付を開始したが、「新型コロナウイルスの感染拡大を受け、車体用意の見通しがつかなかった」ことから販売を中止している。

DIAMOND SIGNALではWind Mobilityのベルリン本社にコメントを求めたが、回答は得られなかった。Wind Mobility Japanで3月末まで代表取締役を務めた及川克己氏も、「既に退職しているため、前職の内容について一切関知していない」と回答するにとどまった。

米国発の電動キックボード最大手、LimeとBirdに関しても、日本市場における今後の事業の見通しは不透明だ。

2019年11月に日本法人の設立とマイクロモビリティ推進協議会への参加を発表したLimeからは、日本市場における2人のキーマン、アジア太平洋地域の政府戦略および政策責任者のミチェル・プライス氏、そして広報担当者のクランシー・ドビン氏が退任している。

6月に開催された自由民主党・MaaS議員連盟による「マイクロモビリティプロジェクトチーム」でも、Lime側の参加者は株主で日本事業を支援するデジタルガレージの社員のみだった。

9月にマイクロモビリティ推進協議会に参加したBirdは、2019年8〜9月に福岡県・福岡市で同社にとって日本初となる実証実験を実施して以来、目立った発表をしていない。日本法人の設立に関しても発表していない状況だ。

匿名希望の業界関係者は「LimeやBirdは現時点では日本で新たな実証実験は予定していない。海外での利用データなどを提供することで、規制緩和に向けた支援をしていくようだが、Wind同様、苦戦しているようだ」と説明する。

DIAMOND SIGNALでは、Limeの日本展開を支援するデジタルガレージ、そしてBirdの日本展開を支援する住友商事に、各社の今後の展開について、コメントを求めている。回答を得られ次第、追記する。