
- 仲間とすぐに繋がる「声のバーチャルオフィス」
- ボイスチャットで「会話を諦めてしまう原因」を減らす
- オフィス感覚で気軽に話せるリモートワークインフラ目指す
新型コロナウイルスの感染拡大がリモートワーク(在宅勤務)の導入を加速させ、オフィスに集まるのではなく各社員が離れた場所から仕事をすることが珍しくなくなりつつある。
そこで課題になりやすいのが同僚とのコミュニケーションだ。
仕事中にちょっとした相談事が発生した時、パッと浮かんだアイデアを共有したい時、軽めの雑談をしたい時。リモート環境で「誰かと少し話したい」と思った場合、多くの人がSlackなどのテキストチャットか、もしくはZoomなどのウェブ会議システムを活用するなどしているのではないだろうか。
ただ必ずしもすべてのシーンにおいてこれらのツールが最適なわけではない。テキストよりも口頭の方が伝わりやすい場合や早く伝えられる場合もあるだろうし、わざわざウェブ会議システムを立ち上げのは面倒だという時もあるだろう。
そんな時にテキストチャットよりも伝わりやすく、ウェブ会議よりも簡単にコミュニケーションが取れるサービスがあれば便利ではないか──。2018年設立のラウンズが展開する「roundz(ラウンズ)」はまさにそのような体験を実現するサービスだ。
仲間とすぐに繋がる「声のバーチャルオフィス」
ラウンズ代表取締役の合田翔吾氏が「声のバーチャルオフィス」と表現するように、roundzはボイスチャットを軸に同僚と会話ができるリモートワーク用のツールだ。
特徴はトランシーバーのような感覚でキーボードを押すだけで仲間とすぐに話せること。roundz上には役員用オフィスや会議室といった「ルーム」を開設でき、同じルームに入っているメンバーとリアルタイムでボイスチャットが繋がる。「話しかけてOK」「通話NG(相手には声が届かない)」「退席中」など各メンバーの状況は、それぞれのアイコンに色で示される。
音声のみの通話にはなるものの、ワンクリックで画面とマウスの動きを共有する機能も搭載。全員で同じ資料を見ながら指さしで会話することも可能だ。


合田氏はroundzの開発において「心理的なハードルと会話を始めるためのハードルの両方を下げること」を意識しているとし、実際にその点が顧客からも評価されているという。
特にプライバシーに配慮し、管理者が承認したユーザーのみが参加できるように設計。カメラを使わないため顔や部屋の様子が表示されず、化粧や背景を気にしなくても済む。またキーを押している時にだけ通話状態とすることで(普段はミュート)、小さい子どもが側にいる状況などでも使いやすいようにした。
「単にプライバシーを守りたいというよりも、心理的に安全な環境を整えるという観点からプライバシーに配慮して開発しています。その状態が担保されるからこそ、会話も円滑に進むと思うんです」(合田氏)
プロダクトのUIについては「仕事を進める上で邪魔にならないこと」も重視した。縦に細長いデザインのroundzは他の画面を開いて作業している時でも常に表示させておくことができるため、会話をするためにわざわざ画面を切り替える必要がない。話したいと思った時にすぐ話し始められるUIにすることで、会話の簡単さを実現した。

2019年10月にベータ版を公開し、アップデートを重ねた上で今年の9月に正式版の提供をスタート。現在はユーザー数に応じた従量課金制(1ユーザーあたり月額980円〜、複数プランを提供)を採っていて、累計200社以上にサービスを提供してきた。
「テレワークを運用していく中で、徐々にコミュニケーション面の課題が浮き彫りになり導入に至るというケースも多いです。コロナ禍において急いで制度を取り入れたような企業では、特に課題が現れやすい。(roundzであれば)まずは今までオフィスでやってきたようなコミュニケーションをオンライン上で維持しつつ、徐々にテレワークに合わせた環境を構築していくこともできます」(合田氏)
ボイスチャットで「会話を諦めてしまう原因」を減らす
合田氏はもともと石油探査サービスを展開する外資系企業の出身。前職では約7年間にわたってソフトウェア開発に携わってきた。
もともとグローバルなチームで国をまたいでプロジェクトを進めていたこともあり、その当時からリモートワークのようなスタイルでも仕事が成立することは感じていたという。
「創業のきっかけとなったのは子どもの誕生と妻の転職です。子育てをしたい場所を優先しながらも、自分や妻の職場なども配慮した時に、そもそも会社の近くに住まなくても働けるような環境を実現したいと考えるようになりました。職場にとらわれることなく、自分のやりたいことや生活したい場所を選べる社会を作る。そんな思いから起業を決断しました」
リモートワークを後押しする仕組みとして、当初はアバターがオンライン上のオフィスに出勤する「3Dバーチャルオフィス」のモデルなども含めて複数のアイデアを検討したそう。ただ検証を進める中でオンライン上でも会話が弾むことに重きを置いた結果、最終的には邪魔になりえる要素は極力排除した「ボイスチャット」に落ち着いた。
「実際に顧客と話をしていても、人はちょっとしたことが原因で多くのコミュニケーションを『あきらめてしまう』ことに気づきました。話したいと思った時に話せないだけでもテンションが変わってしまうし、少しでもタイミングやテンポが崩れだけで会話が全く別のものになったりもする。話をするということは、思っている以上に複雑なものだと感じたからこそ、ラウンズでは『離れていても隣にいるように話しかけられる環境』の実現を目指して開発を進めてきました」(合田氏)

そこまで数は多くないものの一部のIT企業などではゲーマー用のボイスチャットサービス「Discord」を社内コミュニケーションツールとして活用しているという話も聞くが、まさにroundzでも開発当初は「ビジネス版のDiscord」をイメージしていたそう。
初期のUIは今よりもDiscordに近しかったが、顧客の声を聞きながら仕事中に使いやすい設計を模索していった結果、現在のものに落ち着いたのだという。
オフィス感覚で気軽に話せるリモートワークインフラ目指す

コロナの影響もあってリモートワークが今まで以上に加速する状況下において、roundzでは今後さらなる機能拡充なども進めながら「バーチャルオフィスソフトウェアの国内シェアNo.1」を目指していく方針だ。
そのための資金として、11月17日にはシードラウンドでXTech Ventures、KVP、日本スタートアップ支援1号ファンド(日本スタートアップ支援協会、フューチャーベンチャーキャピタルが運営)を引受先とした総額5000万円の第三者割当増資を実施したことも明らかにしている。
「どんな仕事や職場であっても、オフィスにいる時のように気軽に同僚に話しかけられるテレワークのインフラを作っていきたいと考えています。そのために相手に話しかけることに対するためらいを減らし、会話を勇気づけられるような機能を今後拡充していく計画です」(合田氏)