
- 「D2Cなものづくり」はスタートアップだからできる
- 探すのはOEMではなくて開発者
- 三位一体なチームビルディング
- ペルソナよりも目の前の消費者
- 常識にとらわれず自由に発想する
- プロジェクトはデザインシンキングで進める
- ブランド・アイデンティティの大切さ
外資系消費財メーカーを含め、約10年ほどブランディングやマーケティングの仕事をしてきた経験をもとに、新たにスキンケアブランドを立ち上げた。それが「SISI」だ。
11月20日から応援購入サイト「Makuake(マクアケ)」で第1弾の商品「Rozality(ロザリティ ウォータリーマスク)」の先行発売を開始している。これは新感覚の“はがさない美容マスク”だ。
過去仕事でスキンケア製品に関わってきた私が、なぜまたスキンケアを選んだのか、その理由は小さな頃の夢にさかのぼる。私の父親はいま90歳でもともと経営者だった。無駄を嫌い、物を買うことに厳しかった父だったが、唯一、母親の化粧品だけは特別だった。洗面台にはいつも素敵な化粧品が置いてあったことを今でも鮮明に覚えている。
8歳の私にとって、化粧品が並ぶ洗面台はまさに夢を感じる空間。「自分もいつか大人になったら化粧品にまつわる仕事がしたい」と思ったことがすべての始まりだった。もっと自由に、そして自分で責任を負ってブランドをつくり、自分が小さい頃に感じたような夢のあるスキンケアの体験をお届けしたい──そう思い、SISIを立ち上げた。
この記事では、SISIの立ち上げるにあたって大事にした「プロダクトとクリエイティブの関係性」について書いていこうと思う。
「D2Cなものづくり」はスタートアップだからできる

何かの記事で、D2Cの定義とは「卓越した少人数が今までにはない発想、大企業にはできない発想でものづくりを行い、デジタルを活用しマーケティングや物販を行うこと」と書かれていた。これは自身の経験とも重なるところがあり、とても記憶に残っている。自身の経験とは“大企業とD2Cの立ち上げ”という全く異なるブランドづくりを経験できたことだ。
大企業にいた頃は、クリエイティブチームとの関係は薄いものだった(当時はそういう意識はない)。広告代理店の営業担当にオリエンテーション(プロジェクトの要件定義)をして、その営業の方がデザイナーと会話する。
私のようなマーケティング担当者が直接デザイナーと話をする機会はあまりなかった。そしてプロジェクトに関わる人数が多いため、意思決定に時間がかかるという課題もあった。

一方で、さまざまなリソースに限りがあるスタートアップのD2Cブランドは、大企業と同じやり方をしていては絶対に勝てない。全員で知恵を絞り、スピード感を持ち、新しい発想でものづくりをしなくてはならない。そして、それがスタートアップの醍醐味でもあると思う。
探すのはOEMではなくて開発者
「自分でブランドをつくろう」と思い会社を辞めたとき、まず最初に必要なものは、事業計画でも、資金でもなく、製品だった。
私が知っているある起業家はD2Cブランドを手がけているが、自社工場を持っておらず、ほぼすべてのパターンにおいて、開発を請け負ってくれるOEM(相手先のブランドで販売される製品を製造する)会社の選定から入る。
OEMの化粧品開発のプロセスにおいては、メーカー(事業主)と開発担当者の間にOEM先の営業担当が入ることが一般的なため、直接開発の人とは会話することはほとんどない。先ほどの大企業でのマーケティング担当とデザイナーとの距離感に似た構造が、ここにもあると思う。

しかし、世の中に新しい価値を生むものづくりをしたいと思ったときに、本当に必要なのは本気で向き合ってくれる開発者だ。私は「良い製品は良い開発者からしか生まれない」と考えている。そういう開発者をチームに巻き込めるとブランドが強くなり、お客様を感動させられるものづくりができるようになると信じている。だから最初に探すのはOEM会社ではなく、開発者という視点がとても大切だと思う。
三位一体なチームビルディング

SISIは製品の基本処方が完成してから、わずか6カ月でブランドをプレローンチしている(一般的な大手化粧品メーカーの場合、3年以上かかる)。6カ月というスピードに驚くかもしれないが、製品開発のプロセスを省いているわけでも、納得がいかない製品を出しているわけでも決してない。むしろ開発者やデザイナーとの会話量はただならぬ量で、日々熱い議論が物凄いスピードで交わされている。
そして、チーム全員がユーザー視点でものづくりするので、誰かを納得させるためだけの無駄な資料も議論も一切ない。無駄を徹底的に排除し、本質に向き合うプロセスづくりをすることにこだわっている。
「良い」ブランドづくりには、プロダクトとクリエイティブ、マーケティングの信頼関係が必要だ。これは組織体制だけではなく、本質的な意味で三位一体になり、同じ目標に向かって進めるチームづくりをすることがとても重要なのだ。その結果、イノベーティブな製品やクリエイティブが生まれ、そして常識にとらわれない、今までにない新しい価値やものづくりをしてやろうという気概がチームに生まれていく。
ペルソナよりも目の前の消費者

製品開発やマーケティングにおいて、よく語られることのひとつが「ペルソナ論」だ。自分自身、これまでに何度もペルソナを書き出してきた経験はある。しかし時間をかけて議論しても、存在しない顧客像に意味を見出せないことは多い。特にメンバーが少人数で、メンバーがユーザー感覚を持てている場合、まだ見ぬ顧客のペルソナを完成させることに時間を使うよりも実際に存在する目の前の消費者を見ることのほうが大切だ。
例えば、実際にお客さんになってくれそうな人にはとにかく会ってスキンケアの話をしてみる。最近使っているもの、なぜそれを買ったのか、実際に使ってみてどう感じたのか。会う人すべてに聞いていく。そして何より自分自身が美容の世界に純粋に触れて、感動する感覚をしっかりと持っていられることがとても役に立つと信じている。
常識にとらわれず自由に発想する

SISIはスキンケアのクレンジングからクリームまでの、いわゆる「ライン」を持たないブランドだ。ラインをつくらない理由は3つある。まず最初に人に個性があるように、ブランドの傘下にある一つひとつの製品にも「もっと個性があればいいのに」と思ったからだ。
つぎにライン使いをしなければスキンケアの効果が出ないような、ブランド視点での押しつけを与えたくなかったからだ。そして、そもそもひとつのブランドの商品だけを揃えて使っている人が少ないという背景もある。
SISIは、これまでのスキンケアのデザインの常識を覆す“カラフルなデザイン”を採用した。最初は「カラーコスメのワクワク感をスキンケアにも持ち込みたい」と思ったことが始まりだった。手にとったときに思わず気分が上がるような、そんなデザインでスキンケアブランドを設計したかった。
デジタルを販売チャネルの中心とするD2Cの強みを活かし、人の個性のように、製品一つひとつにもカラーでキャラクターを表現していけたらと考えた。デザインにはトレンドがあるので、どうしても既視感を感じてしまう製品が多い中、あえてそこをブレイクスルーできるデザインをつくるよう心がけて生まれたのがSISIだ。
私は漫画『ONE PIECE』がとても好きだ。主人公である麦わらの一味は同じ船に乗りながらみんな別々の夢を持ち、個性や強みも全く異なる。全員が必ず同じ役割を果たさなくても良い。一つひとつの製品に個性がある、そんなユニークなパワーアイテムを展開し、もっと自由に強みを発揮できるブランドを作っていきたいと考えている。
プロジェクトはデザインシンキングで進める
一般的なクリエイティブの提案は段階を追って進んでいくことが多い。例えば、コンセプトやロゴの提案から始まり、その後にパッケージ、キービジュアルの提案といった具合だ。
ただ、ロゴ単体だけ見ても自分たちがつくりたい世界の全体像は見えないし、そもそも「提案」という形ではイノベーティブなデザインは生まれにくいと考えている。
私がブランドづくりを行うプロセスでは、最初に一枚のコンセプトボードを共有する。そして一気にロゴ、パッケージ、キービジュアル、体験デザインなどをすべて同時並行で進めていき、実際に出てきたデザインを見ながら、デザイナーと一緒に進めていく。
オリエンテーションを完璧にして、チェックボックス式にフィードバックして完成品を求めることはあえてしない。まずはつくってみて、一緒に考えながら進めていく「デザイン・シンキング」のプロセスが少人数でのブランド立ち上げフェーズには向いていると思う。

一般的には、デザイナーは「提案」を求められ、打ち合わせでプレゼンし、デザインの良し悪しを評価されることが多い。ただ「提案を受ける」のではなく「一緒に考える」。悩みポイントの共有や相談をしてもらいやすい環境をするように心がけている。
途中経過を一緒に見て、話しながら考えを進化させ、同時にマーケティング戦略やコンセプトをブラッシュアップする。チームの全員がデザイナーの視点を持ちながら、インプットし合いブランドをつくる。そのプロセスには、全員が「ワーッ!!」と興奮するようなデザインのイノベーションが生まれやすい。

そして大切なのはチーム全体が楽しみながら取り組むこと。事業を創り、成功させたい思いが第一ではなく、「まだ世の中にはない新しい価値をつくるんだ」という思いが第一のチームは強い。
ブランド・アイデンティティの大切さ
ブランドの意思を伝える手段として、アイデンティティを持ったブランドにしていくことが私は大切だと考えている。そして、私はこのブランド・アイデンティティを考えるプロセスがとても好きだ。

SISIのブランド・アイデンティティは「芯を持ちながら柔軟に変化する可変ロゴ」。基本形は持ちつつもアイテムや使われる場所によって変幻自在に変化する。

このロゴマークのコンセプトは、「芯がある」「伸びる」「縮む」「曲がる」「繋がる」「柔軟」不定形」「変幻自在」「自由」「多様」、そして「よく曲がる。けれど決して折れない。」という意味がこめられている。
このブランド・アイデンティティをもとに、これから愛を込めて、自信を持ってお届けできる製品を世の中に生み出していこうと思っている。新たにスタートしたスキンケアブランドSISIのこれからにぜひ期待していただければと思う。

澤田実加(さわだ・みか)
SISIの代表取締役。8歳の頃から母の洗面台に憧れて、スキンケアを始めた美容好き。消費財メーカでブランドマーケティングを経験後、企業のTVCM、ブランドロゴ、パッケージの開発など多岐にわたるマーケティング業務に従事。過去多くの女性の悩みを聞き、「忙しい女性にはパワフルな効果や利便などの機能性が必要」、「だけど使うと幸せな気持ちになれる。そんなスキンケアを作りたい」と思い、2020年3月にSISIを設立。