
- EC事業者の課題解決、カギは倉庫事業者と共同で使う「一体型システム」
- EC事業者が何もしないで済む“自動出荷”を実現
- 高度なロジスティクスを後押し、280社が導入
- きっかけは自分たちがECに挑戦して感じた物流の課題
日本のEC市場が着々と拡大している。経済産業省が7月に公開した「電子商取引に関する市場調査の結果」によると、BtoCのEC市場規模は前年比7.65%増の19.4兆円に成長。軸となる物販系分野は初めて10兆円を超えた(10兆515億円、前年比8.09%増)。
ECを取り巻く環境もここ数年で大きく変わりつつある。スマホの浸透や決済手段の多様化など消費者側の体験の進化だけでなく、BASEやSTORES、Shopifyといったサービスが広がり事業者側がECに挑戦しやすい土台が整ってきた。
これらのサービスと同様、2017年創業のロジレスもEC事業者を後押しするスタートアップの1社だ。BASEなどが「ECサイトの開設や運営」のハードルを下げるものだとすれば、ロジレスは「裏側の物流業務」を簡単にする。
現在展開しているEC物流効率化SaaSの「LOGILESS(ロジレス)」では、「商品が売れてから配送会社に手渡すまで」の受注・出荷業務の効率化をサポート。2020年10月時点で280社のEC事業者やD2C事業者に導入されるなど、急拡大中だ。
そのロジレスは今後の成長に向けて、ALL STAR SAAS FUNDと既存投資家であるCoral Capitalを引受先とした第三者割当増資により総額5億円の資金調達を実施した。今回のシリーズAラウンドでの調達額を含めると、同社の累計調達額は5.5億円となる。
EC事業者の課題解決、カギは倉庫事業者と共同で使う「一体型システム」
上述したとおり、ロジレスではECのバリューチェーンにおける受注・出荷業務を効率化するプロダクトをEC事業者向けに展開している。要は「消費者がPCやスマホで商品を購入してから、EC事業者が荷物を準備して配送会社に手渡すまで」の工程をスムーズにするサービスだ。

ECの物流業務を効率化する仕組みとしては、EC事業者が利用する受注管理システム(OMS)と倉庫事業者が利用する倉庫間システム(WMS)が普及している。この2種類のシステムと物流代行サービスを活用することが「これまでの受注・出荷業務における最適解だった」というのがロジレス代表取締役CEOである西川真央氏の見解だ。
ただ、2つのシステムを利用する場合にも改善の余地がある。OMSとWMSが直接連携していない場合、ECの担当者は注文情報をシステム間で受け渡すためにCSVファイルなどの作成業務を毎日手作業で行わなければならない。
出荷件数や担当者の人数にもよるが、ある事業者はこの単純作業に毎日1時間ほど取られていて、大きな業務負荷になっていたという。
また2つのシステムに関してはそれぞれ20〜30種類ずつの製品が存在するため、どのようなシステムを組み合わせることが自社にとってベストなのか、その選定も難易度が高い。闇雲に物流業務をアウトソースすると、かえって全体の状況の見える化が難しくなることもあるという。
こうした状況を踏まえて「一連のプロセスを効率化するのであれば、そもそもシステムは2つも必要ないのではないか?と考えたのが最初のきっかけです」と西川氏はLOGILESSを開発した背景を話す。
西川氏たちが作ったのはEC事業者と倉庫事業者が共同で利用する「OMSとWMSが一体となったシステム」。両者が同じシステムを用いることで注文情報がほぼリアルタイムで連携されるようになり、出荷作業の大幅な効率化や戦略的な物流戦略の立案に繋がるのが特徴だ。
EC事業者が何もしないで済む“自動出荷”を実現
LOGILESを使うことで、具体的にどのような変化が生まれるのか。EC事業者にとって大きいのが通常の出荷業務を自動化できることだろう。
ECサイトで商品が売れたら、LOGILESSで受注・出荷のデータ処理を自動化し、その情報を基に物流倉庫が出荷作業を行う──。注文情報を共有するための作業がなくなるため、担当者の時間を別の作業に当てられる。
「総額1万円以上の購入者にはおまけをつける」「配送先住所が離島の場合は配送会社Aでの配送に変更する」といったように、特定の条件を満たす注文に対しては“通常とは別ルールの対応指示を付与”した上で、物流倉庫に自動で情報を連携する機能も実装。イレギュラーなものを除き、担当者の手間がかからない「自動出荷」を実現する。


出荷指示が自動化されることは、LOGILESSとタッグを組む倉庫事業者にとってもメリットがある。土日や深夜の時間帯でも注文情報が連携されるため、倉庫側は出社してからすぐに出荷作業に着手できる。
西川氏によると、従来はEC事業者から注文情報を受け取ってからでないと出荷作業をすることができなかったため、午後に出荷業務が集中することが多かったそう。LOGILESSは倉庫事業者の業務負荷の分散・軽減にも一役買っているため反響が良く、結果的に50社以上の倉庫事業者に活用されるまでになった。
高度なロジスティクスを後押し、280社が導入
連携する倉庫が広がれば、EC事業者はLOGILESSを通じて複数の倉庫を使い分けられるようになり、物流戦略のオプションも増える。
たとえば「配送地点が北海道の場合には東日本にあるA倉庫から、沖縄の場合には⻄日本にあるB倉庫から出荷」「常温商品はC倉庫から 、冷凍商品はD倉庫から出荷」などの出荷指示が可能。複数の倉庫を上手く使えば、配送コストや倉庫での商品管理コストを減らすことや、 配送のリードタイムを短縮することもできる。
「受注業務が大幅に削減されるほか、(物流倉庫にアウトソースすれば)出荷業務はそもそも必要なくなります。受注担当者を5人から1人に減らせたことで他の業務に人員を回せるようになった、深夜までやっていた出荷作業から解放された、配送コストの削減により年間数百万円のコスト削減に繋がったなど、特に業務効率化の面で大きな価値を感じていただけています」
「またこれまではデータの作成や加工などの作業が中心だったところから、最適な物流や自動化の方法を設計するための業務により多くの時間を使えるようになる。LOGILESSを使うことで受注・発注業務の中身も大きく変わります」(西川氏)
LOGILESSは月額の固定費と出荷件数に応じた利用料を組み合わせた物流業務効率化SaaSとしてEC事業者に有償でサービスを提供している。大手事業者などは多額の資金を投じてフルスクラッチで一体型のシステムを開発しているケースもあるが、LOGILESSは月額数万円から使えるため、小規模事業者でも手が届きやすい。
現在は月間の出荷件数が数百件〜数十万件規模の会社まで、280社の事業者が導入済み。直近ではD2C関連の事業者が増えているそうで、そのような企業の物流業務を支える形でロジレスも一緒に成長している状況だ。
きっかけは自分たちがECに挑戦して感じた物流の課題

ロジレスはP&G出身の西川氏、楽天出身の足立直之氏(COO)、同じく楽天出身の田中稔之(CTO)が3人で立ち上げた。
もともとは2012年に別会社を共同創業したのが始まり。最初の数年は各々の経験も生かしながらマーケティング領域のコンサルティングやホームページの受託開発、自社ECなど複数の事業に取り組んだ。
そんな中で“自分たち自身がECを運営する中で感じた課題”を解決するべく、自社ツールのような形で考案したのがロジレスのタネとなるアイデアだった。
「3人のうちの1人が朝から夜まで梱包作業に追われているような状態でした。これをやるために前職を辞めてまで起業したわけではないし、アウトソースして効率化したほう方がいいと考えて調べてみたのですが、なかなか求めているようなものが見つかりませんでした。自分たちが困っていて、同じような課題を抱えている事業者もいるはず。それならば新規事業としてこの領域でチャレンジしてみてもいいのではないかと、サービス開発を始めました」(西川氏)
EC事業者や倉庫事業者の声も取り入れつつ開発を進めるうちに、徐々に現在のLOGILESSに繋がるようなサービスが出来上がり始めた。
この事業はEC事業者の重要な情報を扱うこともあり、中途半端な形で運営することはできない。最終的にはEC事業者の物流課題を解決することに集中するべく改めて会社を作ることを決断。2017年にロジレスを創業し、再スタートを切った。
西川氏の話ではCoral Capitalから最初の資金調達を実施した2018年12月からの2年間でプロダクトの改善も進み、事業の進捗にも手応えを感じているそう。今回新たに調達した資金を用いて組織体制を強化し、事業をさらに加速させる計画だ。
先月には同じく物流業務の効率化に取り組むオープンロジが17.5億円の資金調達を実施した。冒頭でも触れた通りEC市場の拡大に伴って、EC事業者の裏側を支える物流サービスのニーズも今後さらに拡大していくはずだ。
ロジレスでは現在受注・出荷業務の効率化に注力しているものの、会社としては物流危機からECの未来を守り、社会インフラにもなりつつある便利なECを維持していくことが大きな目標。既存プロダクトのアップデートに加え、ゆくゆくは在庫問題の解決やラストワンマイル配送の最適化など、受注・出荷以外の工程にも事業を拡張していきたいという。