• 「行ったことのない土地をなくす」を実現するための起業
  • 社会に出て変化した友人への「焦り」
  • 二度の起業、個人で800万円の負債を負うことに
  • カネではなく、人のためになるサービスを

資金調達にサービスの立ち上げ、上場や事業売却と、ポジティブな側面が取り上げられがちなスタートアップだが、その実態は、失敗や苦悩の連続だ。この連載では、起業家の生々しい「失敗」、そしてそれを乗り越えた「実体験」を動画とテキストのインタビューで学んでいく。第2回はRepro代表取締役の平田祐介氏の「失敗」について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 岩本有平、動画ディレクション/ダイヤモンド編集部 久保田剛史)

 平田氏は学生時代に仲間と一度目の起業をしたのち、世界を放浪。そして就職してコンサルタントととなり、再び起業したのち、2014年にReproを創業した。Reproが提供するウェブとアプリ向けのマーケティングツールは、現在世界59ヵ国、7000のサービスに導入されている。だが、そこに至るまでの二度の起業自体が「最大の失敗」だったという。平田氏に、Repro創業までの失敗の経験を語ってもらおう。

「行ったことのない土地をなくす」を実現するための起業

 起業家になろう。そう志したのは、高校2年生の夏のことでした。当時はベンチャーブーム(2000年前後)の前で、今のスタートアップのような考え方はありませんでしたが、自分の人生の目標を“仮置き”できるような経験をしたことがきっかけです。

 当時、ずっと海外に憧れがあったんです。それで、バイトで50万円の資金を集めて、フランス・パリに安いアパートを借りて、ヨーロッパ各国を旅行して回りました。そのときは毎日のように日記を付けていたんですが、結論自分の人生で得られる価値を最大化するためには、いかに感動し、喜びを感じられるのかということに気付きました。今まで行ったことのない場所に足を踏み入れること以上に興奮するようなことはないと思ったんです。

 毎日刺激のある環境にいたい。そう生きるために仮置きした目標は「行ったことのない土地をなくす」ということ。そうなったら、60歳まで勤め上げてからやりたいことをやるという、サラリーマン人生を選べないんじゃないかと思いました。45歳になったら、そんなふうに自由に活動できるようにと逆算して考えた結果、起業という選択肢が出てきました。

社会に出て変化した友人への「焦り」

 実は私は、大学を卒業したあと2年間、就職していませんでした。というのも、大学生の頃に数千万円のお金を持っていたからなんです。その当時は、人生で一番お金があった時期ですね(笑)。当時、米国に「The Strokes」というヤバいくらいかっこいいバンドがいたんです。彼らは古着好きだったんですが、彼らが着る古着は、当時の日本だと売っていないようなブランドが多くて。あるとき、アパレルに詳しい友人に「彼らの着ている服のブランドは分かる?」と聞いたんですが、「7割は分かる」という答えがありました。そこでひらめいた私は、すぐにeBayなどを使って彼らの着ているような古着を取り寄せて、日本で販売することにしたんです。

 古着の販売は好調だったのですが、2年ほどやって、突然ビジネスができなくなってしまいました。当然ですが古着なんてストックに限界があって、仕入れ自体ができなくなったんです。それで友人3人で組んだチームを解散して、1人1000万円くらいのお金を分けました。その半分を「何事も経験だ」と思ってFXに投資したところ、それが2000万円ほどに増えたんです。それでまた、未踏の地をなくす旅に出ました。

 旅を始めて2年ほどして日本に戻ってきたんですが、そこで「焦り」を感じました。学生時代に一緒に遊んでいた友人が大きく二分されていたんです。一方はやれキャバクラだ、女だ、とくだらない話しかしなくなってしまった友人。もう一方は、それこそ大学時代には地味だったのに、志高く仕事について語る友人。人は社会に出るとこんなに変化するのかと思いました。

 それで私も就職を志したんです。年収で数千万円を目指ざせる自信はあったんですが、どうしたらいいか? と周囲に相談していたら、「お前みたいなやつは一度鼻っ柱を折られた方がいい」と、コンサルを薦められました。4社ほど受けて無事就職できたのですが、初日から文字通りに“激詰め”され、ボコボコにへこまされました。それでも5年ほど務めて、仕事にもそれなりに自信が付いてきたのが28歳。そこでいよいよ起業しようと会社を離れました。

二度の起業、個人で800万円の負債を負うことに

 テーマに選んだのはECでした。当時、「ソーシャルコマース」というのがバズワードになっていましたが、私たちもそれに乗ったサービスでした。言ってみればZOZOの「WEAR」とフリマアプリの「メルカリ」を足し算したようなサービス。街角でストリートスナップを撮影して、その人が売っていいと思った商品をオンライン上に公開するというもの。立ち上げてみると、PVは右肩上がりだけど売り上げが上がらない。それはそうです、当たり前ですが商品は全部「一点モノ」です。結局、私は会社を離れることになりました。

 二度目の起業もECでした。そもそも私がやっていたコンサルという仕事は「外部アドバイザー」。自ら事業をつくってお金をもうけた経験がありませんでした。だったら自分の事業でマネタイズをしてみよう、と考えたんです。ですが事業がうまく回らず、半年で800万円くらいの借金を抱えることになってしまいました。

 あらゆるECの本を読んだんですが、トップページでの直帰率が90パーセント以上で、誰も商品を買ってくれない。そんな時、旅行時代にイギリスで出会った友人が、たまたまFacebookに「もしかして友人かも」と表示されたんです。話してみると、彼は業界では名前の知られたグロースハッカーになっていたんです。それで、彼に自分のサイトのことを相談しました。

 そこで教えてもらったのが、スウェーデンの企業が開発した「GhostRec」というツールでした。ユーザーのサイト上での行動を分析できるツールなのですが、これを使うことで大きな気付きがあったんです。毎日コツコツとサイトを改善していったのですが、最終的にはコンバージョンが以前と比較して500%も上がって、黒字化しました。そこから数ヵ月で、個人の負債もゼロになりました。ですが、「このまま事業を伸ばすのか」と考えたときに、ずっとやりたい事業でもないと気付きました。また、いったんは当初の「自分の事業でマネタイズする」という目的を達成したこともあり、精算しようと決めました。

カネではなく、人のためになるサービスを

“起業家”という生き方は、私自身の志をも成長させてくれているものです。だから、ECの会社を閉じて、次に何をやるかと考えた時に、本当に人のためになるサービスをつくろうと決めました。私が助けられたGhostRecは、ウェブの分析しかできないツールです。だったらその「アプリ版」を作ろうときめたのがRepro創業のきっかけです。今は志も製品も、成長を続けています。社員は現在200人まで拡大しました。売上高も順調に推移しています。

 今考えれば、これまで2回の起業は、高校2年で決めた気持ちが動機になったものでした。サイトをつくって、5億円で売って、好きに旅をする人生を過ごす――結局そういう考えでは、自分のお金のために起業している状況だったので、うまくいかなかったんだろうなと思います。近江商人の教えとして「商売は世の為、人の為」というのがありますが、まさにその通りなんです。自分が起業して、世に貢献するということを考えられていませんでした。コンサル時代の先輩にも、そういって怒られたことがあります。

「自分が金持ちになるために起業する」というマインドはサービスにも反映されるし、何より従業員にバレるんですよ。コンサルでは「頂いている以上の価値を相手に提供する」と言っていたんですが、結局は自分のための起業になっていました。そんな低い理念や視座では人はついてこないし、サービスもちょっと利益が出たら頭打ちになります。

 起業で失敗をすると、本当に、無茶苦茶に、つらいことがあるんですよ。昨日までは仕事終わりに、コンビニで買った安い缶チューハイを一緒に飲んでいたような仲間だって、いざ会社がつぶれかけたら、喫煙スペースでこそこそと悪口を言うようになります。あらためて思うのは、創業者のマインドセットの大切さです。本気で会社に来てくれた仲間に対してはウソを言わない。たとえメディアの前ではいいことを言っても、本心が「金もうけだ」というなら、仲間にも素直にそう話した方がいいですよね。

 おかげさまで私自身の人生の目標は何度か上方修正できているので、今度は日本のために何をしていくべきか考えています。Reproは今、海外進出を進めています。僕はあらためて、「日本人が外貨を獲得する」というのを、先頭を切ってやっていきたい。今年はシンガポールに法人を立ち上げましたが、1年半後にはインドにも進出して、アジアでシェアナンバーワンを本気で取ろうと思っています。きつい勝負かもしれませんが、最初の起業から10年以上も泥水をすすり続けてきました。同じことをやるだけです。