
- 「デジタル・ゴールド」になったビットコイン
- ついに大手企業が動いた
- 暗号資産は安定的に発展していく段階へ
- 暗号資産はどこへ向かうのか
ビットコインが“仮想通貨(暗号資産)バブル”を彷彿とさせる値上がりを見せ、再び注目を集めている。
2020年10月10日に120万円を突破したかと思うとそこからさらに上昇を続け、11月24日には一時198万円を突破した。最後に190万円を突破したのは、2018年1月8日で実に2年5ヶ月ぶりの高値だ(1日あたりの平均価格、コインチェック調べ)。
しかしながら今回の価格高騰は、バブル当時とは異なる冷静さを保った状況を見せる。一体、これまでの状況とは何が異なるのか──。
これまで業界を第一線で見てきた者としては2020年に入ってから、特に暗号資産の価値に対する評価が、投機から資産へと変化したように思う。その変化を象徴するような2020年の出来事を紹介していく。

「デジタル・ゴールド」になったビットコイン
最近、ビットコインが「デジタル・ゴールド」と呼ばれる機会が増えてきた。ビットコインは、特定の国や地域にも紐づかないアセットクラスである点や、発行上限がある点などの共通点から、昔から一部の層ではゴールド(金)と似ていると言われてきた。しかしながら、バブル期には価格が激しく乱高下していたため、一般に広がることがなく忘れ去られていた。
それが一転、最近になり大手メディアなどでも、「デジタル・ゴールド」というワードを見かけるようになった。
その要因は新型コロナウイルスの感染拡大により、暗号資産の”特定の国家・地域に紐づかない”という特徴に関する価値が見直されたことによるのではないだろうか。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により私たちの生活は前例がないほど変化した。世界規模でこのような混乱が起こる事は未だかつてない事象ではないかと思う。
2020年2月中旬ごろからコロナウイルスによる実体経済への影響を恐れたリスクオフの動きによって、株式市場は大荒れとなった。その後、3月11日には世界保健機関(以下、WHO)がパンデミック(世界的大流行)を宣言したことで、その動きはより強まり、株価の大暴落が起きた。ビットコインも例外ではなくその動きに連動し、2月中旬には110万円を超えていたが、3月には50万円台まで暴落した。しかし、その後の回復は早く、金と同じような曲線を描いた。詳細は弊社のオウンドメディアでも紹介しているので、ぜひ興味のある人は見てほしい。
また、コロナウイルスの感染拡大の長期化への不安や米中摩擦の激化等により、複数の主要国通貨に対する米ドルの価値を示す「ドル指数」は、2020年7月27日に約2年ぶりの低水準となり、金・ビットコインの価格が急伸した。

これらのマーケットの動きから、投資家にビットコインが金と同様に安全資産として見られており、投機から資産に変化つつあることを意味していると考えられる。
また、この変化は、投資家層を広げることにも一役買っている。米国グレイスケール・インベストメンツが運営するファンドでは、年金基金や富裕層向けに、ビットコインをはじめとする8種類の暗号資産の投資信託を販売している。11月初旬に発表された運用資産総額は、91億ドル(約9400億円)に到達しており、機関投資家の参入も進んでいることが伺える。
ついに大手企業が動いた
次に注目したいのは米大手企業が暗号資産を会社のポートフォリオに組み込み始めたことだ。米IT企業のマイクロストラテジーや米決済サービス大手のスクエアが今年に入り、企業の資産保全の手段としてビットコインを取得した。
マイクロストラテジーが発表したプレスリリースでは、CEOのMichael J. Saylor氏が「コロナウイルスの感染拡大を受け、世界各国での前例のない金融緩和や経済政策等への懸念から、法定通貨をはじめとする従来の資産への影響を懸念した」とコメントしている。
さらにスクエアは、企業がビットコインを購入する際に論点となることをまとめたホワイトペーパーを無料でインターネット上に公開した。
これは、スクエアが単にビットコインを購入すること以上に驚きであった。なぜなら、ホワイトペーパーでは、自社がビットコインを保有した経験を踏まえ、価格・買い方・保管方法・保険・会計・監査等をまとめており、このホワイトペーパーに沿って行えば、他の法人もBTCを購入することが可能になったからだ。
このホワイトペーパーを参考に、今後ビットコインを保有する法人は増えてくると思われる。
また、大手企業の暗号資産業界への参入も話題を集めた。米決済サービス大手のペイパルが暗号資産の売買サービスを開始したのだ。ユーザーはペイパルのアカウントを持っているだけで、ビットコインをはじめとする4種類の暗号資産の売買と保有が可能となり、来年には暗号資産による決済サービスも開始するとしている。
ペイパルは、全世界に3億4000万人のユーザーを抱える巨大サービスだ(2020年11月時点)。暗号資産業界にとって、未だかつてないほどの大手企業の参入ではないだろうか。ペイパルの参入に関するニュースは国内外で大きく報じられ、期待からビットコインの価格は上昇した。
我々コインチェックが暗号資産取引業に参入した2014年、暗号資産は怪しいものとされ、大手企業が暗号資産交換業へ参入することは考えにくかった。逆にそれがチャンスでもあると考えて我々は参入を決意したが、さらに資産として暗号資産を持つような事は想定できなかった。
2018年以降、当社をはじめ仮想通貨取引所がハッキングを受け、暗号資産が盗まれるなど暗号資産業界ではいろいろな事象が発生し、世間の暗号資産に対する風当たりが強い時期は短いものではなかった。しかしながら、ここまで社会的に評価をされるまできたかと思うと非常に感慨深いものがある。
暗号資産は安定的に発展していく段階へ
暗号資産のこれまでを振り返ると、ガートナーのハイプサイクルを思い出さずにはいられない。
2017年の「仮想通貨バブル」は振り返ってみれば、”儲かる”という過度な期待から需要が生まれ、熱狂が熱狂を呼ぶ状態になっていたよう思える。そのような「過度な期待」のピーク期を超え、「幻滅期」「啓蒙活動期」を経て、「生産性の安定期」に入ってきているよう思える。
確かにかつての熱狂はないが、地に足のついた盛り上がりだ。これは、バブル以降、法律や業界の自主規制等が整備され、暗号資産業界全体として顧客保護やセキュリティ・ガバナンス態勢が整ってきていたこともひとつの要因と言えるだろう。
ただし、誤解して欲しくないのは、暗号資産が”資産”として認識されつつあるからと言って技術的可能性が狭まったわけではないということだ。
今年、暗号資産業界では「DeFi(Decentralized Finance)」が一大ムーブメントを起こした。DeFiとはDecentralized Finance(分散型金融)の頭文字をとったもので、ブロックチェーン上で取引を完結させる仕組みの金融サービスのプロジェクトを指す。言葉だけの説明ではわかりにくいが、具体的には、管理者が必要のない暗号資産取引所や暗号資産のレンディングサービスなど、新たなサービスが次々と誕生している。
また、代替不可能なデジタル資産である「NFT(Non Fungible Token)」や「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」など、暗号資産の概念やブロックチェーンを応用した様々なモノが生まれており、市場のニーズに合わせて派生をしている状態だ。
暗号資産はどこへ向かうのか

コインチェックでは、今年に入り「次世代の価値交換を、もっと身近に」というミッションを新たに定めた。そこでは、暗号資産は現代の経済活動の中で最も身近な財産的価値である通貨の機能をブロックチェーンで表現したものと定義している。
その上で、かつてインターネット黎明期にTCP/IP・HTTPなど「情報移転(交換)プロトコル」が発明されて、情報交換が地理的・時間的・コスト的制約から解放されたように、ブロックチェーンは「価値交換のプロトコル」としてインターネット上で通貨・債権・株式・所有権などの財産的価値等を地理的・時間的・コスト的制約から解放されて移転することができ、新しい金融体験をもたらすことや社会の経済活動を効率化するインフラとなる可能性があるという未来を描いた。
昨年の今頃、再びビットコインが190万円を突破するなどという予想はできなかった。来年も、どのような価格になるか予想はできないが、引き続き「価値交換のプロトコル」として発展していくと信じている。