Social Gate構想に基づいた鏡型デバイスのイメージ
Social Gate構想に基づいた鏡型スマートディスプレイのイメージ
  • 「シンプル」でニーズを掴む
  • 5G時代に“脱スマホ”なシニア向けIoT機器を構想
  • 脱スマホ見据えシフトチェンジを図る京セラ

国内系スマホメーカーの数少ない生き残りとなった京セラは、脱スマホを見据えた構想を練っている。

京セラはスマホ時代を生き延びた日本の携帯電話メーカーだ。2007年のiPhone発売以降、日本の携帯市場は国内資本の撤退が相次いだ。2010年の個人向けスマホ市場では、上位10社のうち7社が国内系スマホメーカーだったが、パナソニック、東芝、NECカシオモバイルは撤退済み。シャープは台湾資本となり、富士通の携帯事業は投資ファンド傘下となった。

厳しい市況の中で、京セラは、シニア向けスマホやタフネススマホなど、ニッチな需要を捉えた製品に活路を見出し、生き延びてきた。

京セラが11月25日に開催した事業説明会では、このうちシニア向け事業の展望が紹介された。

「シンプル」でニーズを掴む

京セラのシニア向けケータイの先駆けは、2004年発売の「ツーカーS」だ。通話に特化した携帯電話で、画面すらなく、ボタンは数字キーと通話・キリボタン、電源スイッチだけという潔い仕様のケータイだ。

「ツーカーS」
シンプルさでヒット商品した2004年発売の「ツーカーS」

ツーカーSの発売当時、日本の携帯電話はカメラやモバイルインターネットなど多機能化が進んでいる最中にあった。市場のトレンドに逆行するようなツーカーSの投入には社内の反対もあったものの、蓋を開けてみればシンプルさが好まれ、ヒット商品となった。

それ以来、京セラはシニア層の細かなニーズを捉えた製品開発を続けてきた。例えばスマホでは、画面全体が受話スピーカーとなる「スマートソニックレシーバー」という技術を取り入れて、耳を当てる位置を気にせず通話できるという便利さを実現している。高機能ではないが、ユーザーに必要な機能を低価格な携帯電話に詰め込めるノウハウが同社の強みとなっている。

5G時代に“脱スマホ”なシニア向けIoT機器を構想

今年2020年には国内携帯キャリア4社が5Gサービスをスタートし、携帯電話史は新たな展開に入った。5Gの導入当初はスマホが主流の機器になるが、将来的には産業向けIoTや自動運転、ロボットといった「モノの通信」での実用化も見込まれている。

近未来の“5Gが当たり前になった社会”に向けて京セラが描くのが「Social Gate」構想だ。スマホが当たり前のインフラとなった社会で、スマホに苦手意識を持つシニア層も使いやすいデジタル機器を導入する構想だ。

アイデアの1つとして示されたのは鏡型のスマートディスプレイだ。鏡がディスプレイにもなり、遠く離れた場所に住む家族を映し出し、オンラインで通話できるようにする。さらに各種のセンサーを内蔵して、健康状態をモニタリングしたり、部屋の温度が高すぎるときにエアコンを付けるようアドバイスを流したりする。

Social Gate構想の肝はスマホとの連携が必須ではないところにある。5Gの通信機能を鏡、写真立て、カレンダーといった身近な道具に組み込むことで、シニア層でも自然と使い続けられる仕組みを目指すという。

Social Gateのデバイスは現時点ではあくまでコンセプトに過ぎないが、鏡型ディスプレイの場合、技術的な素地は整いつつあるという。

ちなみに、市場ではAndroid搭載の鏡型ディスプレイがベンチャー企業から投入されている。高齢者でも使いやすい操作体系や、5Gでの通信サービス、バッテリーの小型化などには課題もあるが、京セラでは2025年頃までには製品化が可能と見込んでいる。

脱スマホ見据えシフトチェンジを図る京セラ

大手キャリアの5G展開にあわせて、国内メーカーも5Gスマホを相次いで投入しているが、京セラは2020年11月時点では市場投入していない。2020年1月にはタフネススマホの5G版コンセプトモデルを公開しており、今後市場投入する際も、従来から強い分野に特化していく方針は変わらないだろう。

その一方で、京セラは5Gネットワークが一通り普及した後の“脱スマホ”のプランも見据えているという訳だ。

京セラといえば創業者の稲盛和夫氏が発案した「アメーバ経営」という経営手法でも知られている。モバイル通信の分野は5年後の未来を正確に予想するのは困難だが、京セラがその荒波を乗り越えてこられたのは、市場の変化に対応できる体制を整えていることにも要因があるのだろう。Social Gateで描く“脱スマホ”も、その足がかりとなりそうだ。