CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏
CAMPFIRE代表取締役の家入一真氏
  • 中途半端なプラットフォームが増えると、みんなが不幸になる
  • BASEとは将来的には機能連携も視野に
  • 「クラウドファンディングの思想」から逃げてはいけない
  • コロナ禍で気づいたクラウドファンディングの新たな価値

不要不急の外出自粛、インバウンド需要の消滅、音楽イベントの中止──コロナ禍で多くの飲食店や生産者、ホテル、旅館、アーティストが苦しい状況に追い込まれている。

そうした中、彼らが事業や活動を継続するための資金を調達したり、販路を開拓したりする受け皿として急拡大している会社がある。クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」を運営するCAMPFIREだ。2020年の流通額は200億円、プロジェクトの掲載数は1万4500件を突破する見込みだという。そんな急成長中のCAMPFIREが、さらに成長スピードを加速させるべく大型の資金調達を実施する。

CAMPFIREは12月4日、Minerva Growth Partners LLP、BASE、丸井グループのほか既存投資家を引受先として総額約36億円の第三者割当増資、およびみずほ銀行と6億円を上限とするコミットメントライン契約(契約した期間・融資枠の範囲内で請求に基づき、銀行が融資を実行すること)を締結し、合計約42億円の資金調達を実施することを明かした。今回の資金調達により、同社の累計調達額は76億5000万円となる。

今回調達する資金は、購入型クラウドファンディング「CAMPFIRE」を中心に、融資型クラウドファンディング「CAMPFIRE Owners」、株式投資型クラウドファンディング「CAMPFIRE Angels」の利用者拡大に向けた事業基盤の強化などに充てるという。

東日本大震災が発生し、日本が未曾有の危機に瀕した2011年に立ち上がったCAMPFIRE。代表取締役の家入一真氏はこの9年、ずっと「資金集めを民主化し、世界中の誰しもが声をあげられる世の中をつくる」と言い続けてきた。

そして2020年、図らずも新型コロナウイルスの影響で多くの人が深刻なダメージを受けたとき、その“助けてほしい”という声をあげるためのツール、つまり困窮した人たちが資金を集める場としてクラウドファンディングに注目が集まり、そしてCAMPFIREが使われた。同社では、コロナ禍で経営に被害を受けた企業や店舗向けにした支援施策「新型コロナウイルスサポートプログラム」を展開したが、その総支援額は96億7000万円にものぼっている。

改めて“クラウドファンディングが持つ価値”が見直された2020年。家入氏は今回の大型調達を踏まえて、来年以降のCAMPFIREについて何を考えているのか。話を聞いた。

中途半端なプラットフォームが増えると、みんなが不幸になる

──まず、今回の資金調達の狙いについて教えてください。

マーケティング活動や人材採用に注力するためです。CAMPFIREは10月末からテレビCMを開始しましたが、多くの人が声をあげるプラットフォームとしてCAMPFIREを使ってくれているタイミングだからこそ、“クラウドファンディングといえばCAMPFIRE”という認知を獲得しなければいけないと思っています。だからこそ、今回の資金調達でより一層、成長スピードを上げていくつもりです。

基本的にはCAMPFIREを中心に、融資型クラウドファンディング「CAMPFIRE Owners」と株式投資型クラウドファンディング「CAMPFIRE Angels」の利用者を拡大させていくための資金と考えていますが、M&Aも積極的にやっていきたいと思っています。

これまでにもCAMPFIREは、地域に特化したクラウドファンディングサービス「FAAVO(ファーボ)」やコミュニティウォレット「Gojo(ゴジョ)」、仲間集めプラットフォーム「tomoshibi(トモシビ)」を買収してきています。

現在、残っているサービスはFAAVOのみですが、GojoのメンバーはCAMPFIREのスマホアプリ開発のメンバーとして活躍していますし、tomoshibiのメンバーは株式投資型クラウドファンディングの中心メンバーとして活躍している。買収後もCAMPFIREの成長に貢献してくれているんです。

──M&Aの目的は近い思想を持ったメンバーのハイアリングでしょうか?

その意味合いも強いですね。やはり、強い思いを持ってゼロからイチをつくった人たちは貴重な存在。1000人規模の組織のトップと話をしたときも「ゼロイチつくれる人はいない」と言っていました。決して事業が必要ないという話ではないのですが、ゼロイチで何かをつくった人は貴重なので、事業と人材のすべてを引き受けた上で一緒に成長していけたらいいな、と思っています。

またM&Aに力を入れる背景には“プラットフォーム生まれすぎ問題”もあります。例えば、投げ銭系のアプリなどは生まれては消えて、生まれては消えて……を繰り返しているんです。「誰かが誰かを応援する」というのはインターネットの根底にある思想です。なのでいろんな(投げ銭の)サービスが生まれるのですが、そこで残っていくのは大変なんです。これは決して投げ銭アプリの話だけではありません。クラウドファンディングサービスもそうです。

過去にもメディア機能を持っている会社がクラウドファンディングを始めるなどしており、一時は規模の大小合わせて200個ほどクラウドファンディングのサービスがあると言われていました。もちろんサービスの選択肢がたくさんあることは悪いわけではないのですが、クラウドファンディングは運用が大変なんです。

少額のお金をたくさん扱いますし、プロジェクトを発掘したり、審査したり、どうすれば魅力的なプロジェクトになるのかも考える必要があります。僕たちは9年ほどやっているのでノウハウは溜まっていますが、これらは一朝一夕ではできません。

またクラウドファンディングは儲かりづらい。仮に10〜20%の手数料をとっていたとして、月間1000万円の流通金額で売上は100万円ほど。その結果、疲弊してしまい、サービスが終わってしまうんです。

中途半端なプラットフォームが出てきてしまうと、そのプラットフォームで過去にプロジェクトをやった人も、そこでプロジェクトを支援した人も、その事業に携わった人も、みんなが不幸になる。そういう構造は割とあるんです。そうであれば、システムや運用の部分はCAMPFIREがやるので、それ以外の得意な部分を運営している会社がやり、手数料は分け合うスキームでやったらお互いにとって良いのではないかと思っています。事業提携や買収も含め、まだまだ組めるところはあるので、今後はそういったこともやっていきたいです。

BASEとは将来的には機能連携も視野に

──今回の資金調達はBASEや丸井グループなど、事業会社から資金調達を実施しているのも特徴的でした。

そうですね。特にBASEは(個人やスモールチームなど)ターゲット層が被っているので、彼らと組めるのは僕たちにとっても大きいことです。BASEの累計ショップ開設数は120万店舗を超えていて、CAMPFIREのプロジェクト掲載数は4万件なので数字だけ見たら30倍ほど差があります。ただ、事業連携することでBASEのショップオーナーが将来的にクラウドファンディングをやる際、CAMPFIREでプロジェクトが実施できるのはBASEにとってもメリットがあると思っています。

連携に関する具体的な話は今後詰めていく予定ですが、まずは相互送客から始めていき、将来的にはID連携などの機能連携も視野に入れていければと思っています。

──家入さんはBASEの社外取締役も務められていますが、なぜ事業連携のタイミングは今だったのでしょうか?

これまでも「事業連携はやれたらいいね」という話は常に出ていました。ただ、お互いに集中すべきことがあったので、なかなか進まなかったんです。そうした中、たまたまCAMPFIREがファイナンスのタイミングに差し掛かり、BASEも海外投資家向けの公募増資で約120億円の資金調達も実施し、積極的に外部への投資を進めていこうとしていたフェーズだったのでお互いに良いタイミングだと思い、事業提携が実現しました。

「クラウドファンディングの思想」から逃げてはいけない

──競合のMakuakeは“アタラシイものや体験の応援購入サービス”にタグラインを刷新し、クラウドファンディングから「応援購入」とうたうなど、メッセージの打ち出し方を変えていますが、CAMPFIREは購入型クラウドファンディングについてどのような考えを持っているのでしょうか?

お互いのサービスの思想がテレビCMに反映されたな、と思いました。彼らは消費者側にフォーカスを当てた内容になっていて“購入側”を見ている。一方で、僕らはクラウドファンディングを通じてチャレンジしようという内容になっていて“プロジェクトオーナー側”を見ている。どちらが良い、悪いという話ではないのですが、彼らはECプラットフォームとして進化を遂げています。一方でCAMPFIREの本質はあくまで“クラウドファンディング”にあると思っているんです。

クラウドファンディングの価値は、一つひとつのプロジェクトの金額が小さいけれども、誰も知らない飲食店が声をあげて、それを身近な人が応援していき、応援の輪が日本全国にまで広がっていくことにあります。

その一方で、不特定多数からお金を集める仕組みなので「クラウドファンディングって大丈夫なの?」という声もあるのですが、僕たちはクラウドファンディングの思想から逃げてはいけないですし、ずっと“クラウドファンディング”であるべきなんです。

資金集めを民主化し、世界中の誰しもが声をあげられる世の中をつくる──このコンセプトをぶらさず、クラウドファンディングサービスとして存在し続けた結果、今回のコロナ禍で日本中の飲食店や生産者、ホテルが苦しい状況追い込まれたときに資金調達、販路開拓のためのツールとしてCAMPFIREを使ってもらえました。

それは数字にもあらわれていて、緊急事態宣言中には月間2000件ものプロジェクトが生まれていました。今も月間1500件ほどのプロジェクトが生まれています。

CAMPFIREのGMV全体における起案者ベースのリピート額の推移 画像提供:CAMPFIRE
CAMPFIREのGMV全体における起案者ベースのリピート額の推移 画像提供:CAMPFIRE

コロナ禍で各社、手数料を下げるなどのキャンペーンを実施していましたが、それでも僕たちが伸びた要因はこの9年、小さなプロジェクトをたくさん扱ってきたから。クラウドファンディングの本質的な価値に向き合い、逃げなかった。それが大きかったと思います。

CAMPFIREは購入型、融資型、株式投資型などさまざまなサービスを展開していますが、根底にある思想はクラウドファンディング──資金調達を民主化して、誰もが声をあげられる世界にすることです。今回のコロナ禍で改めて原点に立ち返れたと思います。

一つひとつのプロジェクトの規模は小さいし、中には達成しないプロジェクトもあります。ただ、そういったプラットフォームがあることで誰もが声をあげられる世界にすることが大事。またプロジェクトが増えれば自然と流通額も増えていくので、いかに声をあげやすいプラットフォームになれるかということはとても重要だと思っています。

コロナ禍で気づいたクラウドファンディングの新たな価値

──2020年の流通額は2019年の70億円から約3倍の200億円になる見込みだと発表しています。BASEの取材でも代表取締役CEOの鶴岡裕太氏が、「目指していた(個人を中心にした経済圏が生まれるという)世界観がコロナ禍で前倒しになった」と言っていました。家入さんは事業の成長についてどう考えていますか?

これは一時的な特需ではなく、“前倒し”という表現が正しいと思っています。僕たちが5年、10年かけて実現した世界の数字が前倒しで今に反映されている。CAMPFIREも2011年に立ち上がり、ずっと個人やスモールチームが活躍する世界の実現を目指してきて、それが前倒しで実現されました。

その一方で悔しい思いもあります。スタートアップやベンチャーの役割は「平時から世の中を変えていくこと」なのですが、それができなかった。結果的に、コロナ禍など社会全体が変わらざるを得ない大きな出来事によって、初めて行動や価値観が変わり、数字が伸びている。そこには僕らの努力不足、力不足でもあると思います。

とはいえ、粛々とクラウドファンディングに向き合い続けた結果として今があるので、今後も粛々とやっていく。そこに尽きるかなと思っています。

──今後、どういうプラットフォームになっていきたいと思っていますか?

CAMPFIREはコロナ禍で資金調達や販路開拓のためにクラウドファンディングをする文脈で使われた結果、業績が伸びました。この理由の本質について、BASE代表の鶴岡(裕太)さんやhey代表の佐藤(裕介)さんと一緒に考えていたんですが──僕たちがやっているのは、表面上は「ショップをつくる」「クラウドファンディングで資金集めをする」ということかもしれないけれども、本質的には「オンライン化されていなかったアセットをオンライン化すること」だという結論にたどり着いたんです。

例えば、Twitterすらやっていなかった居酒屋やウェブで物を販売してこなかった生産者たちの魅力や思い、哲学、物語といったものを、クラウドファンディングを通じてDX(デジタルトランスフォーメーション)している。

その結果、支援という形でファンやお客さん、応援者との繋がりが可視化された。デジタル化されてなかった魅力をデジタル化するという新しい価値に気づけました。

だからこそ、今後は繋がりをベースとした新しい金融の仕組みとしてCAMPFIREをもっと大きくできると思っています。例えば、プロジェクトをやる人と応援する人は一方通行ではなく、応援している人がプロジェクトオーナー側になることもあるし、プロジェクトオーナーだった人も応援する側にまわることもある。既存の金融機関の仕組みでは賄えなくなることも増えていくと思うので、そういうときにお互いに支え合って生きていくためのプラットフォームとして真っ先に使われる存在になっていきたいです。