(左)One Capital代表取締役CEO/General Partnerの浅田慎二氏 (右)ROXX代表取締役の中嶋汰朗氏
(左)One Capital代表取締役CEO/General Partnerの浅田慎二氏 (右)ROXX代表取締役の中嶋汰朗氏

コロナ禍で企業の採用活動も変化しつつある。これまで当たり前とされてきた“対面”での面接から、少しずつ“オンライン面接”の割合を増やす企業が増えてきている。採用活動のオンライン化は場所や時間をこれまでほど問わないといったメリットが生まれる一方、「対面の面接よりも読み取れる情報量が少ない」といったことから採用のミスマッチを懸念する声もあがる。

採用のミスマッチを防ぎたい──そんな企業のニーズを汲み取り、急速に成長を遂げているのがリファレンスチェックサービス「back check(バックチェック)」だ。

back checkは書類選考や面接だけでは分からない採用候補者の経歴や実績に関する情報を、候補者の上司や同僚など一緒に働いた経験のある第三者から取得するサービス。言ってみれば、これまで外資系企業などが採用時に行ってきたリファレンスチェックをオンラインで行えるものだ。

サービスを利用する企業は、採用予定の職種やポジションに合わせて数十問の質問を自動生成し、オンライン上で簡単にリファレンスチェックを実施できる。

リファレンスの取得は平均3日、90%以上の回答率の実績を誇る。価格も従来のリファレンスチェックサービスと比べて10分の1程度(1件あたり1万円以下)となっている。2019年10月の正式リリースから約1年で累計導入企業数は500社以上を記録しており、リファレンス実施数は累計8000件を突破した。

そんなback checkの運営元であるROXXは12月7日、One Capitalを引受先とした総額2億円の資金調達を実施したことを明かした。今回の資金調達により、同社の累計調達額は約24億円となる。また、今回の発表に併せてベンチャーキャピタル(VC)の投資先スタートアップ向けプラン「back check VC連携プラン」の提供を開始した。

back checkと提携した国内主要VC16社
back checkと提携した国内主要VC16社

同プランでは、第1弾として国内主要VC16社と連携を実施。これによりVC各社は、スタートアップへの投資を実行するにあたって無料でback checkを使って起業家のリファレンスチェックが行えるほか、VCの投資先は累積調達額に応じて最大75%引きでback checkを利用できるようになる。

今後、ROXXはback checkへの事業投資を積極的に行っていくほか、国内企業の採用活動におけるリファレンスチェックの浸透に取り組んでいくという。

“ダメな人”かどうかを見極めるサービスではない

「この1年でリファレンスチェックへのイメージが変わってきました」

ROXX代表取締役の中嶋汰朗氏は昨年を振り返り、こう語る。back checkのベータ版がリリースされたのは2019年1月。その後、導入企業からのフィードバッグを踏まえてサービスを改善したり、新機能を追加したりして2019年10月に正式版をリリースした。

中嶋氏によれば、当時リファレンスチェックサービスに対して企業側が抱くイメージは「リファレンスチェックを依頼したとして、きちんとした回答が得られるのか?」「そもそもリファレンス自体取得できるのか?」というものが大半だったという。

そうした声があがる中、ROXXはback checkで取得できる情報の量と質を強化した。具体的には、質問の種類を増やすことで採用候補者の経歴や前職での実績、チームの様子などの「過去の実績」を知るだけでなく、採用候補者の特徴が自社のカルチャーに合うか合わないか、入社後にどんなチームであればパフォーマンスを最大限発揮できそうかという、「未来」の可能性を測るようにしていった。

「サービスを開発したばかりの頃は、採用候補者が経歴を詐称していないかどうか、いわゆる『嘘を見抜くためのチェッカーツール』として認知されていました。ただ、それでは採用候補者が“ダメな人”かどうかを見極めるだけのサービスになってしまう。それは自分たちの本意ではありません。採用のミスマッチを防ぐための手段としてリファレンスチェックが普及していくべきだと思っていたので、採用候補者の合否判断だけでなく、その人のことを一歩深く知れる質問設計にこだわっています」

「そのためこの1年は採用人数が多いメガベンチャーや数十億円の資金調達をしている成長フェーズのスタートアップにフォーカスして開発していきました」(中嶋氏)

どういう環境であれば、候補者が生き生きと働けるのか。逆にどういった環境だとパフォーマンスが発揮できなくなるのか──こうした情報を取得できるようにすることで、まずはメルカリやhey、SmartHRなど採用に力を入れるスタートアップを中心に導入が進んでいった。その後、導入企業の事例が増えていくことで「きちんとした内容のリファレンスが取得できる」という認知が広がっていき、今では金融系の大企業もback checkを導入している。

back checkを導入している企業の例
メガベンチャーやスタートアップを中心にback checkが導入されている

「リファレンスを取得できるツールを開発することは決して難しくありません。他の企業も開発しようと思えば開発できるでしょう。ただ、back checkは情報や権限の管理、セキュリティ対策なども力を入れており、大手企業が求める水準をクリアしています。これは一朝一夕で出来るものではないので、サービスの大きな強みになっています」(中嶋氏)

前述のとおり、これまでにもリファレンスチェックサービスは存在しており、今年の10月には人材大手のエン・ジャパンもオンライン型リファレンスチェックサービス「ASHIATO(アシアト)」の提供を開始するなど、競合サービスも複数ある状況だ。この点に関して中嶋氏は「営業力の部分に関しては大手企業が強いかもしれませんが、私たちはプロダクト開発に強みを持っているので、あまり競合のことは考えず、より一層使いやすいサービスにするための開発に注力していければいいと思います」と語る。

採用管理システムとの連携を強化、大手企業の需要に応える

企業の採用フローにリファレンスチェックを定着させることで「継続率に関しては99%記録している」(中嶋氏)というback check。実際、とある導入企業では毎月40、50件ほどのリファレンスチェックを実施しているとのこと。採用のミスマッチを防ぐためのツールとして、必要不可欠な存在になり始めている。

「この1年でサービスを伸ばしていける手応えは掴めました。ただ、年間約300万人が転職している状況から考えると、まだまだ何もできていないに等しい。来年以降はプロダクトとして、さらに進化させることに注力していければと思っています」(中嶋氏)

今後、どのようにサービスを進化させていくのか。中嶋氏によれば、「リファレンスチェックで取得できる情報の範囲を広げていく」「リファレンスチェックが適用できる業界を広げていく」「採用管理サービスとの連携」の3つに注力していくという。

「企業単位だけでなく、部署単位で最適なリファレンスを取得できるような質問の設計もそうですが、今後の成長の不可欠なのは採用管理サービスとの連携です。今までは月5〜10件ほどのリファレンスチェックを実施する企業が多かったのですが、大手企業にも導入が進んだことで年間3000件もリファレンスチェック企業を実施する企業も出てきています」

「そういった企業は1件ずつリファレンスチェックをやっていられないので、採用管理システム(ATS)と連携して、シームレスに採用管理システム上でリファレンスチェックの依頼まで行えるようにしていけたら、と思っています」(中嶋氏)

採用活動においてリファレンスチェックを実施するのは当たり前──ROXXはback checkを通じて、そんな世界の実現を目指していく。

「3年以内に離職する人のうち、約25%が半年以内に辞めているそうなんです。入社して半年以内に辞めてしまうのは明らかな採用のミスマッチ。それは決して能力が高い、低いの問題ではなく、組織との相性や考え方の違いによる部分が大きいと思うので、back checkを通じて、そうした問題を極力なくしていければと思います」(中嶋氏)