
- 1000万円を投じてブルーシートの敷設を支援
- “創業20年目のスタートアップ”
- オンラインで職人と出会い、オフラインで交流を深める
- 職人ネットワーク、災害復旧に貢献できるか
台風15号によって被災した千葉県富津市。その災害ボランティアセンターに登録し、屋根のブルーシート張り作業を請け負うスタートアップがいる。その名前はユニオンテック。内装の施工から始まった創業20年目の企業だが、直近に業態転換し、社外から資金調達を行った“創業20年目のスタートアップ”だ。彼らが全社を挙げてボランティアに取り組む理由とは。(編集・ライター 野口直希)
1000万円を投じてブルーシートの敷設を支援
ハウスメーカーや設計事務所、工務店など、建設業の施工主と、仕事を指す職人のマッチングサービス「SUSTINA(サスティナ)」を提供するユニオンテック。同社は今、台⾵15号の被災地である千葉県富津市への復興支援を進めている。9月26日には、富津市の災害ボランティアセンターに登録したことを発表しており、すでに台風により屋根が崩壊した家屋へのブルーシート敷設作業を進めている。
ユニオンテックは、屋根工事の経験を有する社員を現場監督として富津市に派遣しており、これに加えて、SUSTINAを通じて専門技術を持つ職人を現地の工事に手配する。職人の交通費や宿泊費、工事費、資材費など1000万円をユニオンテックが負担する。富津市が受けたブルーシート敷設の依頼は468件(9月25日時点)のうち、100件程度を担当する予定だ。

数回にわたって被災現場の視察をしたユニオンテック代表取締役社長の韓英志氏によれば、現在の千葉県は既に台風の発生からある程度の時間が経っていることもあって交通インフラなどの復旧は進んでいる。一方で。強風の影響で屋根が剥がれたままの家屋はまだまだ多い。特に今回は台風が去った後も悪天候が続いており、家屋の復旧が進んでいない状態だという。
「足場が不安定な屋根上での作業は、専門技術がない方にとっては大変危険です。弊社が培ってきた技術を、役立てることができれば」(韓氏)
台風が千葉県を通過したのは9月9日から10日にかけて。すでにさまざまなメディアで報じられているとおりだが、南房総エリアの多くが被害を受けている。台風の翌週である15日には社内で「全国の職人と繋がりがあるからこそ、できることがあるのではないか」という話が持ち上がり、翌日には一部社員が現場を視察。20日までに支援プランを決定して、25日から社員の現地入りを進めた。
「災害支援には、スピードとクオリティの両立が欠かせません。もちろんまだ安心はできませんが、SUSTINAなどの活動を通じて弊社が築いてきた職人との密なネットワークを生かすことで、支援プランの策定から行動までを短期間でこなせたと思っています」(韓氏)

では、今回現場に派遣された職人はどのように集められたのか。ユニオンテックの発表では「専門技術を有するSUSTINA会員企業の職人の⼿配」と表記されているが、これは今回の派遣にあたって直接SUSTINA上で募集をかけたという意味ではない。
「被災地支援ではスピードだけでなく、信頼できる職人を精査することも大切です。実際、被災地で職人を騙る人物が詐欺行為を行うケースもあり、オンラインプラットフォーム上で募集をかけて集まっただけの知らない人をそのまま現地に派遣するのは、危険だと判断しています」(韓氏)
それではどのように信頼できる職人を集めたのか。その答えは、ユニオンテックという企業の沿革や、事業内容を把握するとわかりやすい。
“創業20年目のスタートアップ”
ユニオンテックの母体となっているのは2000年に設立されたクロス・床等内装仕上げ工事業者の「ユニオン企画有限会社」だ。
その後、設計デザイン事業やショップ・オフィス物件を中心とした制作など着実に事業範囲を拡大し、2016年にSUSTINAの運営を開始。さらに、2018年にリクルートホールディングスでエグゼクティブマネージャーとして海外でのM&Aなどを行なってきた韓氏を迎えた新体制に移行し、個人と職人を結びつけるBtoCの工事マッチングアプリ「CraftBank(クラフトバンク)」を開始した。
2019年2月には、米国のベンチャーキャピタル・DCM Venturesを引受先とする9.7億円の資金調達を実施した。ユニオンテックはいわば第二創業期。創業20年目でありながら、シリーズAラウンドのスタートアップとして活動しているのだ。
オンラインで職人と出会い、オフラインで交流を深める
では、創業20年目のスタートアップ・ユニオンテックのウェブ事業であるサスティナのサービス内容を見ていこう。サスティナでは工事の施工主と職人をオンラインでマッチングするサービスだ。ただし同社は工務店や設計事務所の信頼情報を纏めるデータベースとしての機能にも注力しているという。

すでに1万社以上の工務店や専門工事会社が登録しており、基本的なマッチング機能は無料で使用できる。有料プランに加入すればより詳細な企業情報を登録できるようになる。同社の2018年度におけるSUSTINAの売上は約1.3億円。2019年度の売上見込みは3億円以上になるという。
現場を中心に実作業を展開してきた同社がウェブサービスを始めた理由について韓氏は「建設業界のIT化は非常に遅れており、工務店や職人が自社のホームページを持っていないことすらあります。また、ページを持っていても、保有している職人数や加入している保険といった大事な情報がきちんと掲載されていないことも多い。反社(反社会勢力)との関係性が問題になることも少なくない業界なので、業界関係者の情報を一覧できる場が必要だと考えたんです」と説明する。
ここで改めて、当初の問いに戻ろう。ユニオンテックは、技術力も確かで震災現場に派遣できるくらいに信頼できる職人を、なぜ迅速に集めることができたのか。
実は、ユニオンテックでは業界内でのつながりをより強固にするために、SUSTINAに登録しているユーザー同士でのオフラインイベントを定期的に開催している。そこで信頼できると判断した職人には、ユニオンテックの施工を依頼することもあるのだという。
今回の災害支援では、このメンバーの中から屋根上での仕事を得意とする職人に声をかけている。オンラインがきっかけで出会った職人ではあるが、顔なじみで腕前も確認済みのため、安心して支援を依頼できたわけだ。
「弊社としても実験的な試みでしたが、現時点ではこれまで築いてきたネットワークが実際に活かせることがわかり、手応えを感じています。今後も、サスティナの信頼情報を積極的に拡充していき、受発注の流れをよりスムーズにできれば」(韓氏)
職人ネットワーク、災害復旧に貢献できるか
今回の支援では、もちろんユニオンテックにとって金銭的なメリットはない。それどころか、1000万円の赤字を出すことになる。その中で支援に乗り出したのは、自社が築いてきた職人のネットワークを活用して災害の現場への支援に貢献できないかと考えたからだ。また、今回のように災害現場で職人が活躍することで、職人に憧れる人が増えればいいと期待を寄せる。
「様々な業界を見ていると、かつては国が担っていた役割を民間企業がこなしているケースが増えています。官民の連携が課題となる災害支援ですが、意思決定スピードの速い民間企業だからこそできることはまだまだあるはず。実験段階ですが、そうしたケースの1つになればと思い、支援に踏み切りました。
現場で支援されている職人の方々も、『俺の技術を役立ててやる』とみんなイキイキと活動されています。大義の下で活動する職人の姿を見て、建設業界に興味を持ってくれる人が1人でも増えたら嬉しいです」(韓氏)