Photo:Vladimir Kazakov/Getty Images
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  • テクノロジーで信用を担保する次世代の金融サービスDeFi
  • 「トークンをもらえる」仕組みが注目を集める
  • 1週間で14億円の利益を得たSushiSwapの設立者
  • DeFiは日本で普及するのか?

みなさんは、DeFiという言葉を聞いたことはあるだろうか? DeFiは「Decentralized Finance」の略で日本語訳では“分散型金融”と言われている。

今年、このDeFiが暗号資産業界に一大ブームを巻き起こした。今回は、DeFiとは一体何なのか、そして何が革新的なのかを解説していく。

テクノロジーで信用を担保する次世代の金融サービスDeFi

DeFiは、ブロックチェーンのネットワーク上に構築される金融エコシステムを指す。

DeFiの大きな特徴のひとつは、取引が全てブロックチェーン上で処理されることである。これまでの暗号資産取引の多くは、取引の利便性やブロックチェーンのネットワークへ支払う手数料を抑えるためサービス提供社が管理するデータベースに記録されるという仕組みであり、ブロックチェーン上で操作されるのは暗号資産の入出金だけであった。そのため、業者の管理するデータベース上の処理は見ることができない。

一方で、DeFiはブロックチェーン上で処理されるため、すべての取引の記録がネット上で公開され、どのような取引が行われるのかは誰でも確認することができる。また、取引の実行や記録はブロックチェーン上で人の手を介さずに行われている。

加えて、DeFiのサービスは、システムの信頼性を高めるためソースコードを公開している。もちろん、誰でも見られると言っても技術的な知識は必要なのだが、これまでの金融サービスと比較しても非常に透明性が高いと言える。

また、DeFiの中でも、「DEX(Decentralized EXchange:分散型暗号資産取引所)」と呼ばれる暗号資産の取引所においては、利用者は自ら管理し、資産を預ける仕組みになっていない。例えば、暗号資産取引所や証券取引サービスを利用する際、取引より先に日本円を入金するなど自らの資産を預けることが一般的だが、DEXでは先に自分の資産を預けることなく、直接ユーザーのウォレットから取引を行う。そのため、事業者が倒産するなどのリスクを軽減していると言われている。

これらの特徴から、DeFiはテクノロジーとサービス設計でうまく信頼を担保していると言える。サービスの信頼を担保するような中央管理者が存在しないという点をテクノロジーとそれをうまく取り入れたサービス設計でカバーしているのだ。

一方で、ブロックチェーンのネットワークへ支払う手数料が高いという点では、やや課題が残っている。ネットワークへ支払う手数料はネットワークの利用が増えれば金額も上がるシステムとなっているため、少々痛い問題だ。

「トークンをもらえる」仕組みが注目を集める

とはいえ、ひとくちにDeFiと言っても、さまざまな種類のサービスが存在する。先ほど少し触れた分散型取引所のDEXや暗号資産を貸し借りするレンディングサービス、保険、決済、ファンドなど多種多様だ。それぞれ特徴的なサービスであるが、代表的な例として「Uniswap」について紹介する。

分散型取引所「DEX」の代表格であるUniswapは、イーサリアムと「ERC20」という規格を持つ暗号資産を売買できる取引所だ。中央集権型取引所のような暗号資産のリスティングという概念はなく ERC20の規格に沿ったコインであれば、どんなものでも取引できる。もちろん、取引してくれる相手がいればの話だが……。

出典:https://uniswap.org/
出典:Uniswap

実は、DEXは昔から存在はしていたがユーザーの利便性の低さから利用の頻度は決して多くなかった。従来のDEXの多くは板形式をとっており、ユーザーの希望価格を一覧にして並べて取引する形式をとっていた。しかしこの形式では流動性が低いと、希望額で売買することは難しかった。これを解決するため、Uniswapでは売り手と買い手が1対1で取引するOTC形式にし、流動性を担保するためのPoolという仕組みを作った。

Poolは利用者が任意のイーサリアムやERC20規格のトークンをUniswapに預け、その分取引手数料としてトークンを貰える仕組みである。

手数料を得るためにPoolが利用され、それにより流動性が上がり、取引の利便性が爆発的に高まった。2018年末のサービス開始からわずか2年足らずで、Uniswapの1日の平均取引量は約2億2000万ドルに達しているとブルームバーグが報じている。

今年のDeFiの広がりはこの「トークンをもらえる」という仕組みにより、飛躍的に普及したように思える。いわば一種のマーケティング施策によって急拡大していったかたちだ。

さらにUniswapの普及を受け、それをコピーしたサービスが複数登場し始めた。DeFiのサービスは、冒頭でも少し触れたが、システムの信頼性を高めるためにソースコードを公開しているため、簡単に類似サービスをつくることができてしまう。

その代表格として登場したのがSushiSwapだ。

1週間で14億円の利益を得たSushiSwapの設立者

出典:Sushiswap
出典:Sushiswap

SushiSwapは2020年8月末に登場し、Uniswapそっくりなサービスに加え、UniswapにSushiSwapの指定する通貨をPoolすると「Sushiトークン」という独自のトークンを付与する仕組みのサービスを提供した。

当初は名前のキャッチーさからか、多くの人がSushiトークン欲しさにUniswapにPoolをしたが、世界的にも有名な暗号資産取引所バイナンスなどが取扱いを開始し、「Sushiトークン」ブームはさらに加熱していった。驚くべきは、これがSushiSwapのサービス開始からわずか1週間で起こったことだ。その1週間後、SushiSwapの設立者が自らのSushiトークンを売却し、おおよそ14億円もの利益を得たことが判明。SushiSwapへの熱狂は冷めていくとともにDeFiバブルも落ち着きを見せていった。

普段から、暗号資産業界は本当にスピード感が早いと感じているものの、このスピードでサービスが急拡大していく様子は想定外であり、DeFiがバブル状態であることが見受けられた。

日本暗号資産ビジネス協会がまとめた資料(2021年度税制改正に関する要望書の「暗号資産市場及び実社会における活用の事例」のデータを引用)では、上位10サービスのDEXの月間取引量は、2020年7月が38億ドルだったのに対し2020年9月304億ドルと700%増加しているとしている。

また、マネックスクリプトバンクがまとめた「DeFi Ecosystem Report」によれば、DeFi関連のプロトコルのスマートコントラクトにロックされている暗号資産の合計額(TVL)は10月22日時点で1.2兆円を記録しているという。

TLVはどれだけDeFiのプロトコルに暗号資産が預けられているかを表しており、DeFiが今年の暗号資産業界で一大ブームとなったことが分かるだろう。

出典:マネックスクリプトバンク「DeFi Ecosystem Report」(DeFi pluesのデータから作成)
出典:マネックスクリプトバンク「DeFi Ecosystem Report」(DeFi pluesのデータから作成)

DeFiは日本で普及するのか?

現在は落ち着いた状態となりつつあるDeFiブームだが、その革新的な仕組みが衰えたわけではない。一旦クールダウンし、さらなる進化を遂げていくのではないかと期待している。

一方で、DeFiの日本での普及という面では、まだ先になるのではないかと考えられる。それは、レギュレーションの問題はもちろん少なからずあると考えられるが、DeFiのサービス全般がまだ一般の人たちにとって「難しい」ということが要因である。

まだ暗号資産取引所・販売所が存在しない時代、暗号資産を取引するユーザーは秘密鍵を自分で保管し、黒い画面にコマンドを打ち込んで暗号資産を管理していた。黒い画面にコマンドを打ち込んで管理するというユーザー体験は、多く一般の人たちには難しすぎたが、CoincheckのようなITや金融リテラシーが高くなくても使える取引所・販売所の出現により、ユーザーの学習コストは下がり、利便性は格段に高まった。

このように、DeFiでもユーザーの「難しい」を解決する機能や周辺サービスが出現すれば、広く一般に普及していくのではないかと考えている。

DeFiは、ブロックチェーンを非常にうまく活用したサービスであり、金融の世界を変革する可能性を秘めている。また、すでにDeFiのサービスの中にはDeFiの難しさを解消するための周辺サービスが新たに登場しているが、サービスの仕組み自体の難しさや言語、ユーザーサポートなど、まだまだ「難しい」と感じる部分は多いと考えられる。

確かなことはわからないが、ユーザーの「難しい」を解決する機能や周辺サービスにより、DeFiは日本でも普及が見込めるのではないかと考えている。

2021年はこのような DeFiの周辺領域が広がっていき、DeFiも成長を続けていくのではないか。今年のDeFiのブームを見るとそう遠くない未来に、そのようなサービスが登場してくるのではないかと期待している。