
2020年9月に発足した菅内閣。矢継ぎ早に様々な政策が打ち出される中、同内閣が“目玉政策”として掲げたのが「デジタル庁」の設置だ。
デジタル庁は行政のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進する新たな行政機関。年内にも基本方針が策定され、2021年1月の通常国会での関連法案の提出を経て2021年9月に発足する予定となっている。行政手続きのデジタル化を進め、「豊かな国民生活と誰一人取り残さない社会」の実現を目指していく。
デジタル庁の設置を主導する平井卓也デジタル改革担当大臣は、デジタル庁長官には民間人を充てる方針を示している。また、デジタル庁はエンジニアなどのIT人材を民間から100人ほど起用し、500人規模の体制でスタートする予定だ。
来年9月のデジタル庁発足に向けてデジタル改革関連法案準備室は12月21日、民間人材の公募を開始することを発表した。今回、募集するのは、各省の情報を一気通貫で検索できる「政府統一ウェブサイト」、政府情報システムのクラウド化に向けた「ガバメントクラウド」や社会の基幹となるデータベースの「ベースレジストリ」といったプロジェクトの構築業務を担当するポジション。公募は2021年1月上旬より開始する予定だ。

採用された人材は2021年4月に開設予定の“デジタル庁準備室”への配属となり、先行して各プロジェクトを進めていく。なお、デジタル庁では今回の募集にあたり、採用サイトをスタートアップのHERPと共同で開設。同社が提供するATS(採用管理)ツール「HERP Hire」を導入したという。
デジタル庁が民間人材を公募した狙い、そしてどんな人材を求めているのか──デジタル庁の創設に向けて準備を進める、内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 デジタル改革関連法案準備室 企画官の津脇慈子氏に話を聞いた。
コロナ禍では届けたいサービスを届けられなかった
──民間人材の公募を開始した狙いを教えてください。
良いサービス、使いやすいサービスをつくり、それを国民の皆様に届けることは、霞ヶ関の人間の考えだけでなく民間人材の考えも必要だと考えたからです。ソフトウェアや基幹システムを作っていく上で、“国民目線”や“専門知識”を兼ね備えた民間人材の参加はとても重要です。
今回、デジタル庁を設置し、社会全体のデジタル化を進める最大の目的は、“行政サービスをより使いやすいものにしていくこと”にあります。コロナ禍では本当に届けたいサービスをしっかりと届けられなかったからです。
例えば、給付対象者1人につき10万円を支給する特別定額給付金に関しては、自治体の窓口でさまざまな混乱が起こりました。「海外ではもっとスムーズにできていたではないか」、「日本も頑張っていたが、もっといろいろできたのではないか」というご指摘もいただきました。
より良いサービスを提供するには、縦割りの構造をなくし、国民目線を取り入れながら進めていく必要があります。デジタルを活用して、届けたいサービスを届けられるようにする。その基盤作りがデジタル庁の役割です。
そして、その役割を果たすためには、デジタルの専門家でありユーザー目線で開発をしている民間人材の採用が重要だと考えました。

──デジタル庁では創設までにどれくらいの人数を採用する予定でしょうか。また、そのうち民間人材はどの程度の割合を占めるのでしょうか。
最終的な人数はまだ決まっていません。ただ、全体で500人規模になる予定で、一定数の民間人材も採用する予定です。今回はデジタル庁の創設前から進めていく“先行プロジェクト”に必要な民間人材を30人ほど採用したいと考えています。
ですが、決して“人数ありき”ではありません。我々と同じ想いを持ち、卓越した技術力のある方々の人数になるので、実際に採用する人数は明確にしていません。
また、4月以降は大々的に採用を進めていき、9月に入庁する全員に向けた募集を開始する予定です。今回採用する人材は週3の非常勤という形で働いてもらうことを想定しています。業務形態は兼業というかたちでも構いませんし、テレワークも可能ですので東京在住以外の人たちにも応募してもらえればと思っています。
募集ポジションを明確化、脱・縦割りを目指す
──とはいえ、エンジニアやIT人材を採用するのはそう簡単ではありません。民間でも各企業が採用に苦労している状況ですが、今回の募集で工夫した点やポジションのやりがいについて教えてください。
今回の募集では、プロジェクトごとにポジションをわかりやすく明記するようにしました。例えば、今まではエンジニアを採用する場合、「CIO補佐官」という役職名があるのですが、どのような仕事をする人であっても同じ「CIO補佐官」という役職名になっていたんです。(編集部注:今回の採用ではプロジェクトマネージャー、クラウドエンジニア、ネットワークエンジニアなど、募集するポジションが明確になっている)
また、これまでは役人中心で面接を実施することが多かったのですが、今回は技術に理解のある方に面接をしていただく“技術面接”も導入する予定です。
今回の募集で採用する方々に参加していただくプロジェクトはどれも、日本全体をデジタル化する上での基盤となる非常に重要なもの。例えば、「政府統一ウェブサイト」の開発がそうです。今は各省のホームページがありますが、それでは必要な情報を即座に見つけることは困難です。
海外では政府関係の情報はひとつのウェブサイトにまとめられていることもあり、欲しい情報が数クリックで見られるような仕組みになっています。デジタル庁ではそのような縦割りではない情報基盤の構築を目指します。
また、民間企業でエンジニアの採用の経験があるリードリクルーターも募集しています。我々のような役人だけではなく、そのような方々にも今後のリクルーティングに参加していただきます。

──スタートアップやIT企業では採用において“ビジョンへの共感”を重視していることが多いです。デジタル庁ではどのように考えていますか。
平井大臣の言う「誰一人取り残さない社会の実現」といったビジョンに共鳴し、「一緒にデジタル庁をけん引していきたい」と考えてくださることが重要です。採用を決定する前には大臣と直接、ディスカッションをしていただきます。
大企業で大きなプロジェクトを経験されてきた人材も重要ですが、“国民の皆様に届ける”という意味では、スタートアップにも優秀な人材が多いと思っています。
特にUI・UXに精通した人たちが多い印象ですので、そういった方々にはぜひ入って欲しいと思っています。同じ想いを持つ多様な方々が集まれば、良いデジタル庁になるのではないでしょうか。民間人材の方々はユーザー目線を持ち、“何が使いづらいのか”を理解しています。役人側も、今までの経緯を踏まえつつ、変わっていかなければならない。皆様と一緒に変わっていくということなのだと思います。