
- 売上の約95%は卸売業──メーカー部門の強化を目指す
- ジースピナーは「磁気治療器に関する知見の総結集版」
- Makuake・b8taの活用は販路拡大の“第一歩”
1972年の販売開始から約50年、肩こりや腰痛に悩む人たちに愛され続けてきた家庭用磁気治療器「ピップ エレキバン」(以下、エレキバン)。販売元のピップは応接室に鶴の絵や振り子時計を飾る昭和の雰囲気が残る企業だが、今年は野心あふれる新たな挑戦に臨んだ。これまでに積み上げてきた技術や知見を総結集し、ハイテクな“ガジェット”の販売に乗り出したのだ。
その新製品の名は「ピップ ジースピナー」(以下、ジースピナー)。内蔵のモーターで磁石を高速回転させることにより変動磁場を発生させ、貼り付けた部位のコリを和らげる。わずか15分でのボディーケアを可能にするガジェットだ。
ピップは10月よりクラウドファンディングの「Makuake」でジースピナーを先行販売。11月からは国内外の最新ガジェットを扱う小売店・b8taでの展示を開始するなど、まるでD2Cブランドのようなアプローチを繰り広げている。
ピップがジースピナーを展開する狙いについて、代表取締役社長の松浦由治氏、そしてブランド戦略本部の担当者たちに話を聞いた。
売上の約95%は卸売業──メーカー部門の強化を目指す
ピップのルーツは1908年に大阪府・大阪市で創業した藤本眞次商店にある。医療用品の卸売業者として創業したが、1967年にメーカー部門を立ち上げて今に至る。
「1962年に出版された『流通革命 製品・経路および消費者』(中公新書)で東京大学教授の林周二氏が説いた『問屋無用論』に、当時の経営陣が危機感を抱いたのが、メーカー部門立ち上げのきっかけです。問屋無用論とは、これからの卸売業は付加価値をつけないと成立しなくなるというものです。当時の経営陣は『問屋はもういらなくなってしまう』と不安を感じました。そこで誕生したのがメーカー部門です」
こう説明するのは2018年に代表取締役に就任した松浦氏だ。同氏も就任以来、かつての経営陣と同じようにメーカー部門の拡充に注力している。なぜならピップの売上は今でも約95%を卸売業が占めるからだ。そこで卸売業を進化させつつ、メーカー部門も強化し、両輪で会社を運営することが必要だと同氏は考えた。
ピップはエレキバン以外にも、1999年より女性向け着圧ソックスのブランド「スリムウォーク」を、2019年よりスポーツやeスポーツのブランド「プロ・フィッツ」をそれぞれ展開するなど、新たな顧客層の獲得に注力してきた。そして今年10月に先行販売を開始したジースピナーでは、新たに“ガジェット好き”なアーリーアダプターの獲得に挑む。
ジースピナーは「磁気治療器に関する知見の総結集版」
冒頭でも説明したが、ジースピナーはピップがこれまでに開発した製品の中で最もハイテクだ。ジースピナーは独自開発の専用モーターを搭載し、強力磁石を1分間に6500回転させる。筋肉細胞に直接作用するため、広く深く血行を改善する。使い方は簡単で、電源を入れ、コリが気になる部位に装着するだけ。15分経つと自動で電源がオフになる。

ブランド戦略本部でプロダクト開発を担当する岡本健太氏は「ジースピナーはピップがエレキバンを発売してから積み上げてきた磁気治療器に関する知見の総結集版です」と話す。
開発の際には、肩や腰をはじめ、腕や脚など曲線の多い部位に装着しても同じ回転力を保てるよう、試作を重ね、スペックを追求。どのような角度でも磁石が1分間に6500回転する構造にするため、試行錯誤したという。なお、装着する際には付属のテープを使い、充電には付属のMicro USB Type-Bケーブルを使う。

ピップでは2003年よりジースピナーの原型である「ピップ イーバン」(以下、イーバン)という製品を販売していた。イーバンもジースピナーと同様に、磁石を電池で高速回転させ、コリを和らげるというという製品だった。
イーバンの販売数は著しく良くはなかったため、廃盤となったが、廃盤後も使い続ける根強いファンも多かったという。そこで、「より使いやすい製品を再販売すれば、根強いファンから喜ばれ、新たな顧客層も獲得できるだろう」という考えのもと、廃盤直後からジースピナーの開発に取り掛かったのだという。
Makuake・b8taの活用は販路拡大の“第一歩”
前述のとおり、ピップは10月にクラウドファンディングのMakuakeでジースピナーの先行販売を開始した。値段は早割でも3万5820円と高額だが、12月22日現在、応援購入総額は目標金額の100万円を大幅に上回る960万円に達している。
ブランド戦略本部でマーケティングを担当する木下絵美氏は、ジースピナーをイーバンの根強いファン以外にも届けたいと考えていた。そのため、「ガジェット好きにも使っていただきたいという考えで、Makuakeで先行販売することにしました」と説明する。
b8taでの展示は社長の松浦氏によるアイデアだった。「たまたまネットでb8taに関する記事を読み、『面白いな』と思い、見に行きました。b8taにはアーリーアダプターが集まり、店舗スタッフが彼らに各製品をきちんと説明する。ジースピナーは広く浅く販売する製品ではありません。潜在顧客に深く刺さるようにしないといけない。そこで選んだのがb8taでした」(松浦氏)
ピップがジースピナーをMakuakeで先行販売するのは2021年1月15日まで。今回のMakuakeやb8taでの展開を皮切りに、“メーカー”としてのピップはさまざまな販路を開拓していく方針だという。松浦氏は、卸が扱っていないルートを開拓したり、商品を顧客に直接届けるD2C販売を強化する意向を示した。
「ピップにとって長年の悩みは、メーカーとして開発している製品のほとんどを卸経由で売っているということです。メーカーとして独自性を出したり、本当に強くなるには、自分たちで販路を拡大していかなければなりません。これからは顧客に直接製品を届けるためにECも強化していかなければなりませんし、さまざまなルートで我々の商品を購入していけるようにしていきたい。ジースピナーではエレキバンと同等の売上は難しいと考えます。まだ磁気治療器を試したことのない顧客にリーチするための新たなラインナップという位置付けです」
「さまざまな商品を作っていく中で、『この商品はどういうルートを使ったら一番ふさわしいのか』ということを考えながら、いろいろな販路を使って販売していくのがこれからの販売です。Makuakeとb8taの活用はその“第一歩”だと言えるでしょう 」(松浦氏)