ANOBAKA 長野泰和
  • コロナ禍で“家ナカ需要”系スタートアップが大きく飛躍
  • 実体経済と市場のギャップ注視、C向けスタートアップは攻め時

激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。

DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はシードVCのKVPを今年マネジメント・バイアウト(経営陣による買収)し新たなスタートを切ったANOBAKA(アノバカ)代表取締役の長野泰和氏だ(連載一覧はこちら)。

コロナ禍で“家ナカ需要”系スタートアップが大きく飛躍

4月頃はコロナの影響が未知数だったこともあり、かなり悲観的なシナリオも覚悟していましたが、結果的に見れば歴史的な株高が維持され、スタートアップ投資も加速しました。ANOBAKAとしても2020年は23件の投資実行と、割とアクティブに活動できました。その中で昨年に引き続きD2Cは有望な領域だと重い投資活動していましたが、D2Cの起業家がびっくりするくらい増えた印象を持っています。

盛り上がった領域に関して家ナカ需要系スタートアップは大きく飛躍しました。ANOBAKA投資先の中だと、オンラインヨガのSOELUやお花のサブスクのBloomeeLIFE、玩具のサブスクのトイサブなどはその文脈で大きく伸びていました。コロナ禍で働き方や消費行動が変容していく中で、さらに家ナカ需要の喚起は注視していくべきテーマかなと思っています。SaaS隆盛後のネクストトレンドとしてD2Cは引き続き注目すべきだと思っています。

スタートアップトレンドの話題ではないですが、2020年は恐らくコロナの話題一色でコロナに翻弄された1年という印象を持つと思いますが、実はアメリカの凋落と中国の覇権国家化が決定的になった年として歴史に残ると思っています。

泥仕合の大統領選、白人警官による黒人男性殺害を端に発する凄まじい暴動、コロナの影響を直接的に受けて縮小する経済活動とアメリカのネガティブな側面が白日の下にさらされた一方、コロナの早期克服、香港国家安全法の成立、世界で一人勝ち状態とも言える経済回復などポジティブな側面が多かった中国。そして、その2国間の関係は米中の領事館の閉鎖という歴史的な事件やファーウェイやDJIを中心とした中国企業の米国締め出しなど高レベルの緊張状態に移行しつつあります。

日本のスタートアップシーンではまだこのマクロの動きの影響度は低いですが、政治と経済活動は密接に関連するので今後のスタートアップトレンドも間違いなく何かしらの影響があるはずです。例えば日本のスタートアップへの中国企業への買収の加速であるとか、中国スタートアップの日本進出の加速であるとかは現実的なシナリオとして考えられるので、日本のスタートアップシーンにおける中国の影響の拡大は今後も意識していきたいところです。

実体経済と市場のギャップ注視、C向けスタートアップは攻め時

実体経済と金融市場のギャップを非常に注視してます。

コロナで実体経済が大きく停滞しているのは明らかですが、株価は世界的な金融緩和で異常な盛り上がりになっている。このギャップの揺り戻しが来るのか来ないのか。そして、日本でいえば12月に政府が決議した追加の財政支出の総額が40兆円。これまでの補正予算も加味すると財政の健全化を諦めざるを得ない状況であり、インフレリスクと信用収れん、そして上記ギャップの揺り戻しなど、マクロのリスクの顕在化が近年のスタートアップの活況の冷や水にならないか注目すべきだと考えています。

注目分野としてはNoCode。この分野の盛り上がりは今後さらに加速すると思います。非開発者に対してプログラミング不要のインターフェイスを提供し簡易的なページ作成ができるLowCode、NoCodeサービスは過去もたくさんありました。

直近のNoCode系スタートアップでもその発展系のサービスを展開しているところもありますが、例えばOpenAIが発表したGPT-3のような巨大な言語モデルにプログラムのコードを自動生成させるプロジェクトの精度が高いとテック業界かなり話題になりました。インターフェイスに頼るNoCode系のサービスではなくて、AIによるコードの自動生成がここまで進化しているので、これが実用レベルで普及すると今後労働集約的な開発工数というのは激減する可能性があり大きな注目です。ANOBAKAではWEBエンジニア向けのローコードSaaSであるTsunagu.AIへの投資実行などがありました。

2021年はコンシューマー領域全般をさらに攻めるべきだと思っています。若年層中心にネットとの関わり方は大きく変わっている一方で、国内でこの領域で戦おうとするスタートアップが少なすぎると思っています。DX文脈のビジネスは最重要ではあるし、投資する側も分かりやすいので実際にANOBAKAの投資の5割以上はDXに関わるスタートアップへの投資となってしまっていますが、新たな市場を創出するようなコンシューマーサービスへは気概を持ってやり続ける必要があります。ANOBAKAは投資領域に拘らないでオールジャンルで投資活動していますが、C向けスタートアップは2021年は攻め時な感じがしています。