プレイド取締役 髙柳慶太郎氏
プレイド取締役 髙柳慶太郎氏
  • 顧客中心主義の時代に高まる“3X”の重要性
  • KARTE事例に見るCX・DX・EXサイクルの循環
  • ウィズ/ポストコロナ時代のCX・DX・EX

2020年12月17日、東証マザーズ市場へ新規上場したプレイド。上場初日は買い気配のまま終了し、翌日付いた初値は公開価格1600円の倍近い3190円となった。市場の高い期待が伺える。

プレイドが提供するのは「CX」、つまり顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)向上のためのクラウドツール「KARTE(カルテ)」だ。

2015年3月にリリースされたKARTEは当初、ウェブサイト来訪者の特徴や行動をリアルタイムに解析して可視化し、ポップアップやチャットなどを通じたコミュニケーションを1人ひとりに合わせて設計できる、いわゆる「ウェブ接客」ツールとして登場した。

その後、ツールのバックグラウンドにある、データ活用による顧客理解や顧客体験づくりに焦点を当て、「CXプラットフォーム」として開発・強化が続いている。

CXの向上はなぜ必要なのか。そのために企業が取り組むべきことは何か。顧客との価値創造を読み解くカギとして、プレイドではCXに「DX」「EX」を加えた“3つのX”に着目する。DXとはデジタルトランスフォーメーション、EXとは従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)を表す略語だ。

この3つのXの視点から、企業が良いCXを実現するための考え方や施策の事例について、プレイド取締役の髙柳慶太郎氏に聞いた。

顧客中心主義の時代に高まる“3X”の重要性

なぜ今、CXの重要性は高まっているのか。髙柳氏は「モノがあふれてコモディティ化した結果、企業の競争優位性がモノの価格やスペックで決まるのではなく、手触りや経験、感覚重視へと移っているからです」と語る。

髙柳氏は、あらゆる事業、産業で顧客中心主義の流れが加速しているとも指摘し、「スマートフォンやSNSの台頭も相まって、選択権はユーザー側へ移っており、この先、その流れはより加速すると思います」と話す。

このトレンドの中でプレイドが着目しているのが、良いCXを実現するためのDX、EXの存在だ。まず従業員体験、EXの大切さについて、髙柳氏は「どんなに味の良いレストランでも、家族とおいしく食事をしているときに厨房の中から怒号が聞こえてきたら、一気に料理がまずくなりますよね」と例え話で説明する。

「CX向上につながるような情緒的な価値は人が生み出すもので、どんな会社や事業でも、消費者との最終的なタッチポイントは人である」という髙柳氏。その“人”、つまり従業員が自分たちのブランド、企業についてより良く伝えたいという感情を持っているかどうか、あるいは顧客のことを最大限に考えてサービス提供できているかどうかが、企業の競争優位性につながると語る。

「働く人が最終的な価値を提供するので、EXとCXには密接な関係ができます。EXというと福利厚生や報酬に光が当たりがちですが、それだけが重要なわけではありません。スターバックスの接客などはよく例に挙がりますが、アルバイトであっても非常にモチベーション高く働いているし、仕事へのプライドも持っている。しかも提供するカップへメッセージを書くといった、ちょっとした余白のようなものもあります。働く人自身が顧客のことを考えて、『顧客体験をもう一歩、良くしよう』というアクションができているということだと思います」(髙柳氏)

ではDXはCXとどのように関連するのか。髙柳氏はまず「顧客とデジタルのタッチポイントがない企業・業界は、もはやなくなってきています。新型コロナウイルスの影響もあって、いわゆるDXは今後も加速すると思います」と述べている。

ただし「大切なのは、誰を向いてやっているDXかということ」と髙柳氏。DX推進は効率化やコスト削減の企業側のメリットの文脈で語られやすいが、デジタル化の恩恵が最後にユーザーへ還元されなければ、独りよがりのDXになってしまうと語る。

「顧客中心主義の時代、DXの恩恵が顧客に行き渡らなければ、表面的な“スベる”DXになってしまいます。誰に向けてのDXなのかをよく考えて、取り組むべきだと思います」(髙柳氏)

その上で、CX・DX・EXのサイクルの中でのDXの重要性について、次のように説明する。

「デジタルが当たり前の時代、それをうまく活用して顧客に良い体験を返していくことはマストです。そこで、デジタル上においても対面でのコミュニケーションと同じように、ユーザー1人ひとりを“個客”としてとらえながらコミュニケーションを取れるような、基盤が必要となります。基盤がなければ、従業員の方も思う存分成果を発揮できません。EX最大化のための下地としても、DXへの取り組みは必要。DXの基盤の上で従業員の方がよいパフォーマンスを出し、最終的にCXへ返っていくという、C・D・Eの流れが大切なのです」(髙柳氏)

CX・DX・EXサイクルの好循環はますます重要になる
CX・DX・EXサイクルの好循環はますます重要になる 画像提供:プレイド

KARTE事例に見るCX・DX・EXサイクルの循環

CX・DX・EXサイクルの好循環を実現した事例にはどのようなものがあるか。KARTEの顧客企業のケースで髙柳氏に説明してもらった。

アプリのデザイン改善への動きが、全組織的なCX向上への動きにつながったと髙柳氏が紹介するのが、三井住友銀行の例だ。

2019年3月に新アプリがリリースされた「三井住友銀行アプリ」。同行では支店や出張所の整理・縮小が進む中で、スマホを24時間顧客の手元にある1つの支店として位置付け、「窓口で受けられる丁寧な接客を、スマホでも実現したい」という考えから、KARTEを導入し、改善を図っている。

この事例では、デザインを重視して進行したプロジェクトが功を奏して、新規ダウンロード数が増加。このことが行内でもわかりやすい好例と受け止められ、ユーザビリティーやデザインの重要性が再認識された。単なるアプリのデザイン向上にとどまらず、行内でCX重視の気運が高まり、よい影響が現れているという。

また三菱地所の事例では、よりよいCXを実現すべく、全社を対象にしたDX推進を図っている。

三菱地所は、東京・丸の内を中心にオフィスビルや商業施設などを多く有している。同社は街を訪れるユーザーの体験を向上するべく、オンラインとオフラインを横断した共通マーケティング基盤としてKARTEを採用した。

オンラインのサービスと、オフィスや商業施設、住宅など、事業ごと、アセットごとに顧客との接点が散発的になり、来訪者と1人の顧客としての関係を築きにくかったという三菱地所。よいCXを実現するには、オンラインとオフラインをまたいでデータ基盤を整えるDX推進がマストである、と同社ではとらえている。

工業用間接資材を扱う事業者向けネット通販のMonotaRO(モノタロウ)のケースでは、「従業員の能力が拡張されることによって、やりたいことがスムーズにアウトプットできる状態が作れた」と髙柳氏。これが最終的な従業員の満足、EXの向上につながっていると語る。

モノタロウは以前から、データサイエンティストやエンジニアを多く抱えるテックカンパニーでもある。それがKARTEを活用する中で、PDCAの速度が3倍になったそうだ。「来月やりたい」と言っていた案件が「来週やります」というスピード感に変わり、チームの生産性向上にも結び付いている。

また、KARTE活用によって開発依頼が不要になったことで、他部署との調整など、インナーコミュニケーションに取られていた時間を外のユーザーに振り向けて、価値を提供し続けるサイクルが作れたという。「働き方の満足度が上がることで、従業員自身にも、ユーザーにもよい体験がデリバリーされている状態」と髙柳氏は述べている。

髙柳氏は「1人ひとりの個客の声を知ること、個客を深く知ること自体が従業員のモチベーションにつながることは結構多い」とも語る。

プレイドは資本業務提携するEmotionTechと共同で、CXの簡易診断サービス「Simple CX Survey」を提供している。このサービスではNPS(ネット・プロモーター・スコア)を中心とした簡単なアンケートにユーザーが回答することで、サービスの担当者や企業の経営陣が個客の声と向き合うことが可能。定量だけでなく定性面でも情報を得ることで、さらに良い顧客体験の創出につなげられるというものだ。

「個客の声の可視化や“手触り感”のようなものを企業がどれだけ把握できているかということは、サービスの差別化要因につながります」(髙柳氏)

数字に向き合うだけでなく、人へユーザーにどうアプローチできるかという分析は、まだ機械よりも人間が得意とするところだ。KARTEは「データを人のように把握できる」ことを特徴としており、担当者のモチベーションや能力のエンパワーメントを図ることも目指しているという。


ウィズ/ポストコロナ時代のCX・DX・EX

髙柳氏は、ウィズコロナ/ポストコロナ時代のCX・DX・EXについて、以下のように語っている。

「これまで良しとされてきたものが、価値観の変化によって真逆になるということも出てきました。たとえば従来の小売業では店舗において、『密をつくってナンボ』というような、人が来てくれることが良いという状況がありましたが、今は密をつくってはいけない。接触時間についても、丁寧に接客することが重要でしたが、できるだけ短縮していかなければなりません」(髙柳氏)

CX・DX・EXの視点でこの転換がうまくいっている事例として、ランコムの「オンライン美容相談」を髙柳氏は挙げる。

「百貨店の化粧品売り場へ行くと美容部員がいて、コロナ前にはメイクのアドバイスや化粧をしていたかと思いますが、残念ながらそういう接客は難しくなってしまいました。ただ、そうした状況下でも美容部員が持つスキルや接客力、ホスピタリティ、商品知識は企業にとって、魅力的な資産です」(髙柳氏)

そこでランコムは、KARTEを公式オンラインショップに採用。「eBA(eビューティーアドバイザー)」という形でチャットにより、美容部員が化粧品の相談に乗ることができる仕組みを用意した。

eBAの取り組みはまず、コロナ影響下で化粧品のアドバイスが受けられなくなっていた顧客のCX向上につながっていると髙柳氏。さらにリアルのスタッフをデジタルに置き換えることでDXも進み、美容部員の能力を最大限に生かすことを実現した点でEXにもつながっていると説明する。

「これからの時代、企業は自分たちが持っているアセットを見直し、CX・DX・EXのサイクルの中でいかに活用していけるかを考えなければなりません。リアルでできていた何かをデジタルに置き換えるだけではなく、ちゃんとCXにつながるDXなのかどうかを意識して取り組むことが大切です」(髙柳氏)

デジタル化されたときに「人としてとらえる」ことは忘れられがちだ、と髙柳氏はいう。

「デジタルの有効性が上がるということは、同時にユーザーを1人の人としてとらえる重要性も高まってくるということ。そこを忘れず、実店舗に来る顧客もECサイトに来る顧客も同じ顧客であり、1人のユーザーであるということをずらさず、オンライン、オフラインにかかわらず、良い顧客体験を届けられる企業が最終的に生き残っていくのではないでしょうか」(髙柳氏)

髙柳氏は「顧客中心主義への流れは今後も加速する」と延べ、「プレイドとしては上場により、そうした時代の変化をいち早くとらえ、『データによって人の価値を最大化する』というミッションをプロダクトやソリューションで体現していきたい」と語った。