
- 化粧品業界に起こっているカオス
- 高級ブランドの競合は「プチプラ」だった
- 他社との差は「購買データ」にあり
メイクをしない人からすると、コスメ事情はブラックボックスだ。「似たような化粧品ばかり使っているように見えて、まったく違いがわからない」「どのくらいお金をかけているものなのか見当もつかない」という人も多いのではないだろうか。コスメECアプリを運営するノインは、コスメ市場を購買データから分析している。その結果見えてきたのは、消費者の複雑な購買行動だった。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)
化粧品の購買構造を変えようとしているスタートアップがある。若年層の女性をターゲットに、コスメECアプリ「NOIN(ノイン)」を運営するノインだ。このECアプリは、あらゆるブランドの化粧品を比較しながら購入できる設計になっている。「Instagram(インスタグラム)」の投稿経由でダウンロード数を伸ばし、現在200万ダウンロードを突破した。
化粧品業界に起こっているカオス
ノインが化粧品ECを開始した理由は、「顧客が、自分に合った化粧品に全然出合えていない」という事実があったからだという。
「コスメは製造原価が安いので、参入障壁が低く、ブランドが星の数ほどあります。百貨店のコスメコーナーを見るだけでわかりますが、比較が非常に難しい。販売部員は自分のブランドしか売れませんから。人によって合う化粧品は異なりますが、ブランドをまたいですべてのリコメンドを受けることはできません」(ノイン代表取締役の渡部賢氏)

コスメブランドが多すぎて、どれが良い化粧品なのかわからない“コスメ迷子”状態の女性が多いのだ。今回ダイヤモンド編集部が、ノインのユーザー789人(15~29歳が中心)に実施した「化粧品購入に関するアンケート」結果からも、コスメの種類の多さと複雑さがわかる。
まずは、「化粧品の使用個数」に関する質問。マスカラや口紅だけでなく、化粧水や美容液などの基礎化粧品も含めて、毎日使う化粧品の種類について尋ねたところ、3分の1が「15~20種類の化粧品を使用」していた。化粧をしない人からすると驚くような数かもしれないが、例えば目の周りの化粧品だけでも、アイライン、アイブロウ、マスカラ、アイシャドウ、アイクリームなど、キリがないほどあるのだ。
「購入のタイミング」に関しても、74%が「使い切るなどにかかわらず、お気に入りのブランドだったら購入する」と答えている。化粧品は使い切ったら購入する“消耗品”ではなく、季節ごとに出る新作をついついそろえる“嗜好品”だということがよくわかる回答だ。特に色がはっきりと出るアイシャドウや口紅は、季節や気分、服の色味に合わせて何種類も持っている人も多い。
高級ブランドの競合は「プチプラ」だった
ブランド数も品目も多く混沌とした市場でも正しい買い物が体験をできるように、ノインは化粧品メーカーに対して顧客の購買データ提供を始めた。化粧品メーカーはこれまで、ブランドごとの顧客情報しか持っていなかった。また、アンケートもブランドごとでしかできなかったため、バイアスのかかったデータしか知ることができなかったのだ。
それを、ノインユーザーの行動から客観的なデータを抽出することで、「シャネルのAという香水を買う顧客は、ディオールのBという香水と比較している傾向がある」など、ブランドを横断した趣向の情報を取ることができる。
「化粧品メーカーのマーケティングは、ずっとブラックボックスになっていました。ばく大な広告費を使って、感覚的に運用していたんです。そこで、私たちがユーザー情報と商品情報、ログデータの掛け合わせをし、『自社の商品がどの商品と比較され、結果的に選ばれた、もしくは選ばれなかったのか』という情報を提供することにしました」(ノイン取締役の千葉久義氏)

ノインのデータを解析していくと、面白い事実が明らかになった。デパートのコスメフロアで売っているようなブランドコスメ(ディオールやサンローラン、RMKなど)の “デパコス(デパートコスメの略称)”と、コンビニやドラッグストアで購入できる格安コスメ(キャンメイクなど)の “プチプラ(プチプライスコスメの略称)”が、横並びで比較検討される傾向にあることがわかったのだ。
実際、今回のアンケートでも「デパコスとプチプラを比較することがあるか」という質問をしたところ、60%が「ある」と回答した。
さらに、お金をかける化粧品と安く済ます化粧品との金額差に関する質問には、「自分の持っている一番高価な化粧品の金額」は「5000~7000円」という回答が29%と一番多く、「一番安価な化粧品の金額」は「1000円以下」の回答が70%を超えた。
「お金をかける化粧品の種類」は、美容液や化粧水、ファンデーションなどの「ベースメイク用化粧品」が88%を占め、「安価で済ます化粧品」はチークやアイブロウなどの「仕上げ用化粧品」が63%を占めていた。
つまり、多くの人は化粧品にかけるお金の使い方に濃淡をつけているのだ。高くても価値があると感じれば購入に至り、逆にプチプラでも代用できると感じれば、ブランドにこだわらずに安く購入する。
「プチプラは、高級ブランドが出す新製品をよく研究していて、近い色味や性能のものを後追いして安く出すんです。そのため、金額に差があっても、意外とプチプラで満足できるケースも多い。アパレル業界と似ていますね。メイクをする若者からすれば当たり前の感覚なのですが、これまで化粧品メーカーは知るすべがなかった。業界的には貴重なデータが取れていると思います」(千葉氏)
他社との差は「購買データ」にあり
アイスタイルが運営するコスメのクチコミサイト「@cosme(アットコスメ)」はコスメ業界の誰しもが知る存在。コスメをさまざまなジャンルに分類し、商品ごとに評価やクチコミを投稿できる老舗サイトだ。アットコスメと比較されることも多いというノインだが、保有するデータは一線を画すものだと主張する。
「私たちが提供するのは、クチコミでなくEC。なので、実際に購買至ったかどうかまでデータで追うことができます。クチコミだけでは購買までの導線は弱く、データで出せるのは閲覧履歴までです」(渡部氏)

また、ノインの立ち位置は、Yahoo!ショッピングや楽天市場などほかのECモールとも異なる。
1つは、「独立したECサイトであること」だ。ECモールでは、複数の出店者が同じ商品を販売して、お互いが購買を競い合っている。そのため、他の出店者に勝つために、同じ商品でも値段や見せ方を変えたものが複数並ぶこともある。ユーザーにとっては見にくい。また、競い合う出店者同士が、お互いの購買データを共有にするのは難しい。
もう1つの強みは、「コスメ領域に特化している」ことだ。ECサイトがデータをオープンにできたとしても、扱っているジャンルはコスメだけではない。ほかのジャンルの購買データも顧客データに紐づいてきてしまう。
「“水をたくさん買っている人が口紅を買っている”というデータが出ても、あまり化粧品メーカーでは生かせないですよね。コスメに特化した購買データを正確に出せる構造にすることは、想像以上に参入障壁が高いと思います」(渡部氏)
現在ノインは、この強みを生活かし、化粧品メーカーにデータを提供している。
「データを追ってみてわかったのですが、商品の売れ行きは、画像やキャッチコピーで大きく変わります。このデータで店頭でのマーケティングや広告費の使い方などが効率的になり、最終的に消費者の不便さを解消することを目指しています」(渡部氏)