
- 2020年はEC・動画領域と、「個人のエンパワーメント」領域が成長
- 一度はスタートアップが撤退した「動画・ライブ×EC」領域に光明
激動の1年となった2020年。新型コロナウイルスの世界的流行によって、人々の生活様式は大きく変化し、またそれは大企業からスタートアップまで、ビジネスのあり方も大きく変えることになった。
DIAMOND SIGNAL編集部ではベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2020年のふり返り、そして2021年の展望を語ってもらった。今回はEast Venturesの村上雄也氏だ(連載一覧はこちら)。
2020年はEC・動画領域と、「個人のエンパワーメント」領域が成長
来るべき未来に向けて3〜5年、はたまた10年にわたって地道に価値を積み上げてきたスタートアップが飛躍した1年でした。さまざまなワードで括ることはできますが、外野に惑わされずロングタームで来る未来を信じ続け事業を推進してきた事への敬意を覚えるとともに、その重要性を再認識しました。
また、オンライン・ソフトウェアが受け入れられる土壌が急進したことやライフスタイルの変容によって、「残ってない」と言われていたインターネットのホワイトスペースも顕在化しました。その結果、足が長い産業での資本集約的な戦い方だけでなく、小資本であっても良いサービスで勝負する戦い方への可能性も見出せました。
領域としてはやはり「EC・動画」まわりは伸びました。アーリーステージのファンド支援先ではTikTokのMCN「Natee」、EC事業者のパッケージ受発注プラットフォーム「canal」、BASE・Shopifyブランドをアプリ化するノーコードツール「Appify」は目覚ましい成長を遂げました。
コロナ問わない領域では、個人をエンパワーメントする流れは引き続き強いマクロトレンドであり、自動車整備士の出張サービス「Seibii」、フリーランス向け報酬即日払い「先払い(yup)」、インフルエンサープラットフォーム「toridori」は堅調にグロースしました。
一度はスタートアップが撤退した「動画・ライブ×EC」領域に光明
YouTubeやTikTokでアーリーアダプターの個人・SMBが継ぎ接ぎで商売しているなどのユーザー行動を切り出したサービスは、いくつか誕生する余地がありそうです。ここ数年でYouTubeやTikTokにさまざまなジャンルの、意欲を持ったプレーヤーが参入しました。その結果視聴する側も娯楽だけでなく情報収集や学習目的での利用が増え、プラットフォーム内の多様性が広がったことがその背景にあります。
例えば、YouTubeで一流の講師陣たちが無料予備校を開いている「ただよび」は、お金を取って勉強を教えていた塾のこれまでの収益モデルが変わる可能性が漂っています。またTikTokの「#荒野行動」「#モンスト」などのゲーム系ハッシュタグは、動画の総再生数がどれも数十億回超えていて、ゲーム実況とはまた異なるニーズを感じますし、同じくTikTokのハッシュタグ「#購入品紹介」「#コストコ」などは、一般の方がUPしたパッと見”普通”の動画ばかりなのですが、どれも総再生数が1億回前後の生の声であふれ、これがコマースとくっついたりマイクロな広告として機能したらどうなるんだろうかと考えたりします。
こうした流れの中でも特に気になるのは「動画・ライブ×EC」です。数年前にトライした会社の多くは撤退してしまっており、「国内でこの領域は無理なんじゃないか」という雰囲気が漂っていますが、米国では「Popshop Live」(ライブ×EC)、インドでは「SimSim」(ショート動画×EC)を筆頭に、今このタイミングで勃興し始めています。
もともとテレビショッピングの市場サイズが数千億円超えてる事を加味すると、インターネットになったからといえ「映像を見てモノを購入する」消費行動がゼロになるとは思えません。フォーマットに発明は必要ではあるものの、市場自体は存在していると思いますし、動画・ライブが耕された今はもう一度トライするタイミングとして良いのではないかと思っています。
もう一つは欧米で急増している「Pipe」や「Outfund」「Uncapped」などのレベニューシェア型の融資サービスは興味深く見ています。SaaS企業を筆頭に買い切りモデルから利用ベースでの課金へと切り替わっていく中で、経常的に収益が上げられるようになり業績が読みやすくなりました。
そこに負債でなく将来のレベニューシェアを期待して資金を供給することで、保証なし低金利かつ株式の希薄化なく事業の成長にお金を使えます。言わば、ISA型でプログラミングを教えるLambda Schoolの企業版にニュアンスは近いです。このような企業の収益の上げ方が変わったりSaaSが急増したことで、事業者に新しい形で資金を供給する金融サービスやSaaS管理の「Vendr」など金融限らず周辺サービスが生まれる素地が整いつつあるのかなと思います。